30代のリテール銀行員が富裕層金融(PB)で年収2000万円を狙うには?

1. リテール金融ビジネスの将来の課題

①顧客の高齢化の問題

リテールビジネスについては、銀行に限らず、証券、生保、損保ともに将来は楽観視できない。日本の少子高齢化は不可避であり、国内市場は縮小しそうだからだ。

既に金融資産の多くは60歳以上に集中しているので、金融機関のリテール顧客は高齢化している。顧客の年齢が75歳、80歳という年齢に達した場合、一定のリスクの高い金融商品の販売が規制されることになる(詳しくは以下の資料をご参照下さい。)。
https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/abstract/affiliate/kinpo/kinpo2014_2_5.pdf

そうなると、高齢化が進むにつれ、徐々に銀行や証券会社の顧客層が縮小していくことになる。

②ネット証券の脅威

銀行や証券会社にとって、少子高齢化と共に、もう1つ頭の痛い問題がある。それは、ネット金融の脅威である。個人向けの株式取引については、1998年に松井証券が本格的なオンライン取引を開始して以降、対面取引と比べて圧倒的に低いネット証券の手数料によって、今では個人の株式取引ではほとんど利益を出せなくなってしまった。

このため、銀行や証券会社における主たる収益源は投資信託ビジネスである。投資信託は株と違って、営業社員が勧誘をしないと買ってもらえない商品である。投資信託については、ネット証券のシェアはまだまだ低い状況にあるので、現状では銀行や証券会社は投資信託ビジネスに注力している。

しかし、ITやAIが進化し、実店舗の削減によってオンライン取引の比率が高まると、将来は投資信託ビジネスにおけるネット証券のシェアが高まるかも知れない。そうなると、対面取引中心の銀行や証券会社にとっては脅威である。

このように、銀行や証券会社のリテールビジネスの将来には不安がある。

2. 30歳を過ぎると、なかなか部門/職種転換が難しい…

以上の様に、銀行や証券会社のリテールビジネスについては、将来不安があるものの、だからといって、30歳を過ぎると部門/職種転換が難しい。

外資系金融機関への転職だけでなく、国内系証券会社のIBD・グローバルマーケッツや、国内系運用会社(アセマネ)への転職も業務経験が無いと非常に難しい。

もちろん、転職が無理だからと言って、企業金融部門や資産運用関連の部門への異動も期待できない。

そうなると、国内のリテール部門での仕事に活路を見出す他は無いということになる。

3. 金融機関のリテール部門におけるカギは富裕層金融ビジネス?

顧客基盤の縮小、ネット証券の脅威、一般的な手数料率の低下という方向性を考えると、金融機関のリテールビジネスの将来には不安があるものの、期待できる分野もある。それは、富裕層金融と呼ばれるビジネスである。

富裕層金融というのは、プライベート・バンキングビジネスよりも顧客層はより広いイメージである。プライベート・バンクというと最低でも保有金融資産額5億円以上が想定されるが、富裕層金融の場合はもう少し低い印象だ。

日本の場合、保有金融資産額5億円以上の世帯数は増加しているが、欧米やアジアと比べるとまだまだこのあたりの層は多くない。他方、金融資産額が1億円以上というレベルになるとかなり世帯数は拡がることになる。外資系のプライベート・バンクとは異なり、大手の銀行や証券会社が着目しているのはこのセグメントである。

2020年の12月に野村総合研究所が公表した資料によると、2019年における金融資産5億円以上保有の世帯数は8.7万世帯(保有資産規模97兆円)である。これに対して、保有金融資産1億円以上5億円未満の世帯数は124万世帯(保有資産規模236兆円)となっている。いずれの世帯も2年前の2017年の調査時よりも増加している。
https://www.nri.com/jp/news/newsrelease/lst/2020/cc/1221_1

これらの約132.7万世帯の保有資産総額333兆円がターゲットとなるのである。

4. 富裕層金融ビジネスの難しさ

対象となる世帯数が100万超、対象資産規模330兆と聞くと、いかにも有望で儲かりそうなビジネスに見えるが、実はそれほど簡単ではない。金融機関が富裕層ビジネスに注目し始めたのは、1996年の金融ビッグバンから2000年の第1次インターネットブームの頃からである。

その時には、外資系のプライベート・バンクが日本に進出してきたが、ほとんど失敗に終わっている。唯一、成功したと思われたのがシティプライベートバンキングであるが、コンプライアンス上の問題があり、行政処分の結果、2004年に閉鎖することになってしまった。

その後も、いくつもの外資系のプライベート・バンクが日本への進出を試みたが、いずれも上手く行かず、現在日本でそれなりの規模のプライベート・バンキングビジネスを展開している主な外資系はUBSとクレディスイス位ではないだろうか。

プライベート・バンキングビジネスは、先進国でも途上国でも、日本以外では伸びているビジネスなので、何故日本では上手く行かないのかは不思議である。

もっとも単純な理由としては、富裕層の規模がまだまだ大きくないということである。例えば、保有金融資産5億円というのはかなりの富裕層なのであるが、プライベートバンカーに言わせると「5000万円のファンド1本で終わり」なのである。要するに、保有資産が5億円といってもリスク資産に全部投資をするわけにはいかない。また、そういった富裕層には他の金融機関もアプローチをしてきているので、リスク資産に関する取引を1つのプライベート・バンクとだけ取引してくれるものではない。そうすると、せいぜい保有金融資産の1割程度しか投資してもらえないということである。

このため、保有金融資産5億円の顧客を開拓するだけでも十分簡単ではないのに、ビジネス的な効率性・採算性ということを考えると、保有金融資産が50億とか100億以上の層をターゲットにしないといけないということになる。すると、ターゲットは上場企業のオーナー経営者に限定されることになってしまう。

また、過去に富裕層ビジネスに掛かる行政処分や不祥事があったことから、プライベート・バンキングビジネスに対するコンプライアンス・チェックや取引審査は非常に厳しくなっている。このため、顧客開拓コストが一般のリテール取引と比べて非常に高く、顧客数を増やして数で勝負するということは難しくなっている。

5. 外資系金融機関のプライベート・バンク部門で年収2000万円を目指すには?

2021年9月時点で、日本で一定規模のプライベート・バンキングビジネスを展開している外資系金融機関は、UBSとクレディスイスというスイス勢くらいになってしまった。ただ、こういった外資系企業で順調に預かり資産を増やして生き残ることができれば、年収2000万円以上を実現することは当然可能である。

元シティプライベートバンクの人の話によると、当時のプライベート・バンカーの年収水準はマネージャークラスで2000万円程度、その1ランク上のシニア・マネージャークラスで3000万円というのが1つの目安であった模様だ。プライベート・バンキングビジネスは顧客との長期的な信頼関係を重視するビジネスなので、イメージとは異なるかも知れないが、極端な歩合制ではなく年功的な要素もあり、比較的変動は穏やかであったということである。

<プライベート・バンカーの年収について>
https://career21.jp/2019-03-19-134155/

現時点でも、UBSやクレディスイスのプライベート・バンカーの年収は、そこそこ軌道に乗って2000~3000万円、トップクラスでも5000~6000万円という水準のようだ。欧州系
の場合は、米国系の様な歩合型ではないので、ある程度安定はしているがアップサイドは限定的である。

<年収チャンネル:プライベート・バンカー>
https://www.youtube.com/watch?v=2bR5c1IcnV0

但し、UBSもクレディスイスも外資系なので、国内系と比べると厳しい。所定の業績を達成できない場合は、解雇されてしまうリスクがある。このため、リスクを考慮すると、この年収水準では特別魅力があるというわけでは無さそうである。

プライベート・バンカーの場合、外資系企業の数が非常に少ないので、他に転職で行くところが無いというのが問題である。ただ、国内系の金融機関も富裕層金融部門を強化してきているので、国内系金融機関に転職するという選択肢はあるだろう。(その代わり、その場合には、国内系金融機関並みの給与水準となる。)

6. 将来的には国内系金融機関の富裕層金融ビジネスでも年収2000万円のチャンスは?

①外資系プライベート・バンクと国内系金融機関が目指す富裕層金融は異なる?

以上の通り、日本でのプライベート・バンキングビジネスは難しいため、今でも営業を続けている外資系金融は非常に少なくなった。このため、国内系金融機関のリテール部門で頑張って、将来外資系のプライベート・バンクで稼ぐという夢は持ちにくいかも知れない。

しかし、国内系の銀行や証券会社が目指す富裕層金融は外資系のそれとは異なるはずだ。保有金融資産が数十億円というごく限られたターゲットではなく、金融資産1億円位からがターゲットとなり得るだろう。このあたりの顧客層は国内系金融機関が得意とするところである。

また、外資系と比べて、国内系金融機関のミドル・バックその他のサポート体制は厚く、より多くの顧客を持つことは可能だ。

②外部環境的にはポジティブな要素もある?

上記の野村総合研究所のデータの通り、日本の富裕層は徐々に増えつつある。IPOまで行かなくとも、起業家がM&Aによって数億円位の金融資産を手にするケースは今後も増え続けていくのではないだろうか。

また、後継者難によって中小企業のM&Aも好調である。創業オーナーが売却して手にした資産は相続されていく。

従って、富裕層自体のパイは将来拡がっていくことが期待される。

さらに、グローバルな低金利による運用難は今後も継続していく可能性がある。そうなると、オルタナティブ・プロダクトに対するニーズが拡がり、富裕層金融においては提供できる商品の幅が拡がる可能性もある。

以上の様に、長期的に見ると、富裕層ビジネスにおける外部環境は決して悪くないという見方も可能だ。

③国内系金融機関の社員間給与差は拡大する?

三菱UFJ銀行が、専門性の高いスキルを保有している学生については、新卒の段階から高給が支払われる新制度を用意した。その対象となる職種にウェルスマネジメントが含まれていることが注目される。

https://www.saiyo.bk.mufg.jp/recruit/info.html

新卒でも別扱いをしてもらえるということは、入行後、ウェルスマネジメント(富裕層金融)業務において成果を上げれば、それに応じた処遇が期待される。三菱UFJ銀行は全体的な給与水準は高いので、それ以上の給与が支払われるならば年収2000万円も夢ではないだろう。

富裕層金融については、メガバンク、大手証券会社も重視しているので、着実に顧客基盤を拡げていくと国内系金融への転職によって年収アップを実現することも可能となるだろう。

従って、10年後、20年後というスパンで見ると、国内系金融機関でも富裕層金融において高収入を実現することも可能になるかも知れない。

ただ、そのためには商品を単品で売ることだけではなく、ポートフォリオでの運用という考え方が必要となる。また、対象顧客層としても、若手のIT系の経営者がターゲットとなるので、ITビジネスの知見や人脈も求められる。

このように、いろいろとやるべきことは多いかも知れないが、富裕層ビジネスというのはリテール部門の銀行員や証券マンにとって魅力があるビジネスではないだろうか。

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