戦コンと商社に落ちて、アビームやアクセンチュアに行くことになった東大生の課題と挽回策

序. 特定の人気企業への集中

日本の場合、残念ながらGAFAMの様な強力なIT系の企業が出現していない。ヤフー、楽天、サイバーエージェントは巨大企業になったかも知れないが、時価総額で比べると、GAFAMの数パーセントレベルでしかない。

また、給与水準で見ても、日本のIT系のメガベンチャーは特に高給というわけではなく、また、既に上場しているのでストックオプションの妙味も無い。

そうなると、東大生(特に文系)にとってはそれほどIT大手は魅力的ではないので、結局、外銀(或いは国内金融専門職)、MBB等の戦コン、商社、電博、三井不動産・三菱地所(いわゆるMMデべ)、日銀・DBJ・JBIC等の政府系金融機関に人気が集中する。

しかし、こういった企業は採用数が少なく、東大生といっても、簡単に内定が採れるわけではないようだ。

1. 就活力に関して、東大生の学生間格差が拡大した?

就活市場における、最難関は外銀と戦コンであろう。戦コンについては、20世紀と比べると採用者数は大幅に増加したようだが、1社あたり数人だったのが数十人になった程度であり、今でも狭き門であることは変わらない。また、外銀についても、リーマンショック以降、特に欧州系は収益面で苦戦しており、こちらも十分に狭き門である。

外銀や戦コンの場合、英語力に加えて、外銀の場合は金融に関する専門知識が、戦コンの場合は筆記試験・フェルミ・ケース対策等、予め就活対策をすることが求められる。

このため、外銀や戦コンを目指す東大生は、早い段階から、YC塾や外資就活アカデミアといった選抜コミュニティに参加をしたり、或いは、アルファアカデミーのような就活塾に通うことによって対策を立てていたりする。

他方、昔からあるように、サークル活動とバイト中心の学生生活を送る学生や、体育会中心の学生もいる。

そうなると、早くから就活準備をしてきた東大生は外銀・戦コンと内定をとりまくるのに対して、これといった準備をしなかった東大生は、外銀・戦コンは当然として、商社や国内金融専門職からも内定を得られないということになる。

2. 東大生の就活格差が拡大した原因について考えてみた

東大の場合、早慶と違って、大学側は就職状況についてほとんど開示をしてくれない。東大新聞が東大生全体についての就活状況を特集しているが、学部別の詳細なデータが無いので実態はつかみにくい。

このため、東大生の就活格差が拡大したことを示す材料は見当たらないが、外銀と戦コンの内定を取りまくる東大生と、商社に全落ちしてメガや国内系金融のオープンからしか内定をもらえない東大生が見られる原因について考えてみる。

①日本の大企業が欲しがる学生のタイプが変化した?

20世紀においては、ESなどなく、学歴が就活において非常に重要であった。しかし、21世紀に入り、ESが求められ、志望動機、ガクチカ、自己PR、GDと準備しなければならないことが増えた。そうなると、学歴だけでは対応できない要素が増えたので、同じ東大生でも十分な準備をしたか否かによって差が付くこととなる。

ただ、それよりも重要なことは、日本の大企業の求める人材のタイプが変化したことではないか?20世紀は、日本企業はグローバル的に見てまだまだ強かった。国の産業競争力は、お金(金融)とテクノロジーで決まるという見方もあるが、20世紀の日本は、電機、自動車、機械という3部門でトップであり、金融機関のプレゼンスも高かった。しかし、バブル崩壊、金融危機、インターネットビジネスの拡大という流れの中、日本の電機業界の国際競争力は弱体化し、インターネットビジネスでは全くGAFAMに適わない。金融機関も国際協力が無く、国内市場が主な収益源である。

そして、少子高齢化に伴う国内市場の縮小は不可避であり、大企業が将来も生存するためには、海外で稼ぐか、新規事業で稼ぐしかない。しかし、長年、国内市場における既存事業に慣れ親しんだ従業員がグローバル人材になったり、新規事業を創造できる人材になることは非常に難しい。外部から中途採用すればいいのだが、横並び重視の日本企業は、一部の社員だけに高給を支払うことはできない。このため、新卒採用ではグローバル人材や新規事業が創造できる人材を強くもとめるようになる。

実際、コンサバなメガバンクでも、グローバル職や新規事業関連職について別採用を用意するなど、新たなタイプの人材獲得に向けた策を講じている。

そうなると、東大という学歴だけでは、グローバル対応能力は新規事業創造能力が担保されるわけではないので、そういった資質を有する東大生とそうでない東大生との間には格差が生じることになる。

②司法試験(弁護士)と官僚の人気低下

20世紀においては、東大法学部生のトップ層は法曹を目指した。当時の司法試験合格者数は500人(途中700人に)と非常に少なかったが、21世紀の司法制度改革以降、司法試験の合格者数は急激に増加した。このため、弁護士数が急増することにより、待遇が悪化し、弁護士の人気は低下している。

また、東大文系の優秀層で官僚を目指す者も少なくなかったが、給与水準の低さや長い労働時間という待遇の悪さから、こちらの人気も継続的に低下してきている。

そうなると、従来なら法曹や官僚を目指していたような優秀層が、外銀や戦コン等に流れてくるので、最難関の民間企業の競争は激化する。こうして、熱心な就活対策をする東大生とそうでない東大生との格差が拡がることになるのかも知れない。

③首都圏の有名中高一貫校出身者と地方公立高校出身者との情報格差?

就職先と出身高校に関するデータが有るわけではないので、これも仮説に過ぎないが、同じ東大生であっても、首都圏の有名中高一貫校出身者と地方の公立高校出身者との間には情報格差がある可能性がある。

例えば、慶應の場合、附属校出身の上位層が就活で最強と言われている。学力的には、厳しい大学入試を勝ち抜いた外部生の方が高そうであるが、就活で求められる情報収集能力やソフトスキルについては、内部生の方が長けているのが理由とされる。

同じことが、東大にも当てはまる可能性はある。都内の中高一貫校出身者は、就活に関する情報を共有したり、経済的にも留学等の対策を立てやすいと考えられるからである。

3. 東大生がアビームやアクセンチュアに行くと何が問題か?

最初に明確にしたい点であるが、東大生がアビームやアクセンチュアといった総合コンサルに行きたくて行ったのであれば何の問題も無い。ITコンサルの様な業務が好きだとか、出世してパートナーになればMBB以上の高収入も可能なので、そういった戦略的な狙いで入社する場合もあるだろう。

ただ、多くの場合は、MBBの様な戦コンや商社を希望しながら内定が取れず、とりあえずアビームやアクセンチュアに行ったものと思料される。このため、以下では特に希望することなく就職したケースを前提として考えていきたい。

①外銀、戦コン、商社等に行った同級生との比較

総合コンサル、特にアクセンチュアは初任給が高いし、待遇自体は悪くない。しかし、人間はどうしても周りと比べてしまう。特に東大生の場合、同級生が外銀、戦コン、商社、政府系金融機関、電通・博報堂、MMデべ等に就職しているので、就職偏差値が上位の同級生を見ると、気になってしまう。

②ITコンの業務内容に興味が持てるか?

アビームやアクセンチュアの様な総合コンサルの場合、「コンサル」と言っても、その事態はITコンサル、ITサービスプロバイダーであることはよく知られている。東大生の場合には、そういった事情は十分わかっているだろうから、戦略コンサル業務に参画できるという様な期待は持っていないだろう。しかし、プログラミングも出来ない文系の場合、ITコンサルの業務内容に興味が持てないと、そこから抜けられないので非常に厳しい。

③東大だからといって社内で優遇されるわけではない

メガバンクや重厚長大系企業においては、東大出身者は強い。今でも、配属先や昇進において東大卒であることは大いにプラスに働くはずだ。

しかし、アビームやアクセンチュアの場合には、特に東大卒であることが有利とは限らない。そこは、仕事が出来るかや、上司から気に入られるかどうかが重要な、実力主義的な世界である。このため、東大から敢えて行くべきだったか疑問に感じる可能性もあろう。

④仕事がハードでキャリアチェンジの準備がしにくい

アクセンチュアの場合、昔と比べてかなりホワイト化したと言われる。しかし、まだまだハードワークであることには違いない。アサインされるプロジェクトにもよるが、毎晩12時が1週間続くことも珍しくはない。それに、プロジェクトにアサインされなくなってしまうと、昇格の途が断たれてしまい、若くても窓際族のような立場に追いやられる。

そうなると、キャリアチェンジの為の転職活動や、私費MBA留学の準備などが難しくなってしまうという問題が生じる。

⑤汎用的な転職スキルが付くとは限らない:思ったほどは転職力が高くない?

東大生に限らず、アビーム、アクセンチュアといった総合コンサルが就活生の間で人気なのは、「コンサル」という響きがカッコいいのと、汎用的な転職スキルが付くと考えられているからである。

今は、IT/DXブームであり、そのトップ企業であるアクセンチュアに就職すれば、その後は有力企業への転職も有利なはず。そう考える学生は少なくないだろう。だからこそ、「とりあえずコンサル」という切り口から、総合コンサルへの就職を考える学生は珍しくない。

しかし、幅広い業界に転職できるということと、就活時点でのトップ企業にキャリアアップ転職が出来るというのは別の話である。

例えば、アクセンチュアで数年働いたからといって、外銀や戦コンへの転職はほぼ無理である。そもそも、業務内容が異なるからである。同様に、国内証券IBD、メガ、商社も難しい。プログラミング周りのITスキルがあれば別だが、アクセンチュアに数年いただけで、金融機関のIT部門が求めるような専門スキルが付くわけではないし、ポテンシャル重視ということであればMBBの様な戦コン出身者に負けてしまう。また、GAFAMの様な外資系ITに転職するのが容易でない点も、同様である。

そうなると、同じITコンサル業界への転職を除くと、総合コンサルの若手が転職可能な先は、大手の事業会社ということになる。そういった企業であれば、新卒段階でアクセンチュアやアビームに入社できるレベルの学生を採用できないので、中途で総合コンサルの若手を採用するメリットが十分にあるからである。それだと、転職してもWLBこそ向上するかも知れないが、年収を維持できるような転職は難しい。

4. アビーム、アクセンチュアへの入社後に採るべき挽回策

①社内で出世を目指す

これは厳密に挽回策とは言わないが、ITコンサルの業務が肌に合い、社内でも良い評価をもらえるのであれば、社内で出世を目指せばよい。アクセンチュアの場合、早ければ6年目でマネージャーに昇格でき、そうなると年収は軽く1000万円を超える。そして、さらに1ランク上のシニア・マネージャーに昇格すると、年収は1500万円を超え商社やトップ金融機関以上も可能となる。パートナーになると、稼いだ金額次第だが、年収7,000~8,000万円レベルの人もいる。

もちろん、競争は厳しいかも知れないが、せっかく入ったのであれば、とりあえず頑張って出世を目指すというのが王道である。

また、アクセンチュアでマネージャー以上になると、転職可能性も拡がり、事業会社に幹部として転職するという選択肢も生じるので、ここまで来ると別の世界が見えるはずである。

②同業他社への転職をする

アクセンチュアやアビームの様な総合コンサルから、給与水準を下げない転職は容易でないと前述したが、それは他業種へ転職するケースである。給与水準を下げないという点を重視すれば、同業他社への転職を図るのが最も堅い方法である。

要するに、アクセンチュアやアビームから、デロイト、PwC、KPMG、トーマツといったBig4系コンサルやベイカレントあたりに転職をすることである。

コロナウイルスの問題が2020年に生じて、2020年8月時点でもまだまだ収束の目途は立たない状況にあるが、DXビジネスについてはまだまだ好調の様である。総合コンサル各社は今でも人材を求め続けており、若手から管理職層まで、同業他社に転職することはそれほど難しくなさそうだ。その場合、年収は現状よりもアップできるケースが多いようなので、条件的には悪くない。

もちろん、同業他社への転職をするということは、ある程度ITコンサルの業務がフィットすることが前提である。業務内容や働きぶりが合わないと感じたのであれば、抜本的な解決策にはならない。また、異なる業界へのキャリアチェンジや私費MBA留学を目指しているのであれば、遠回りになってしまうことを留意する必要がある。

③第二新卒カードを駆使して、安定高給型の大手企業への転職を図る

アクセンチュアやアビームに数年経験を積んだ位では、金融専門職や商社の様な就活時における難関企業に転職することは難しいと述べた。しかし、これは一般的な話であり、東大カードがまだ有効な第二新卒カードを駆使して、しっかりとした転職準備をすれば、可能性はある。

具体的には、メガバンク、大手生損保、大手証券、アセマネといった大手金融機関、ドコモ、ソフトバンク、KDDIといった通信キャリア、或いは、リクルートあたりだろう。

商社、MMデべ、電通・博報堂等については、そもそも中途採用の人数が少なく、競争率が高くかなり難しい。

大手金融機関、通信キャリア、リクルートあたりであれば国内系の大手エージェントやビズリーチに登録をして、事前に、レジュメや面接対策をすれば十分可能性はあるだろう。

ただ、通信キャリア系になると年俸水準は総合コンサルよりも低いという点に留意が必要だ。

④IT系メガベンチャーへの転職

アクセンチュアやアビームの様な総合コンサルから、IT系のメガベンチャーへの転職を図るという選択肢もある。もっとも、この場合は上記③と比較すると、安定性や年俸水準において劣る場合が多い。

結局、後述するような独立・フリーランスや起業を目指すことを想定して、何らかの明確なスキル取得を目的とした場合に採るべき方策だ。

例えば、webコンサル系でフリーランスを目指すのであればサイバーエージェント、オプト、セプティーニあたりへの転職を狙うとか、EC関係で独立を図るなら楽天やメルカリ等の関連部署を狙うというパターンである。

そうでないと、ITベンチャー自体の給与水準は高くないし、終身雇用が保証されている世界でもないので、あえて転職する妙味に欠けるからだ。

⑤ベンチャー企業への転職

ここでいうベンチャー企業とは、未上場の狭義のベンチャー企業を指す。アクセンチュアからベンチャー企業への転職をする若手もいるが、あまりお勧めできない。ストックオプションももらえない場合には、なおさらお勧めできない。

何故なら、ベンチャー企業の成功確率は低く、転職したところでこれといったスキルや業務経験が詰める訳ではないからだ。また、大企業も外資系企業もベンチャーでのキャリアはあまり評価してくれない。むしろ、「レジュメが汚れる」リスクがあると考えた方が無難だろう。

以上のように、給料等の待遇は悪いし、これといったスキルもつかず、大企業に復帰するための箔もつかないと考えられるので、「何となくベンチャー企業」への転職は気を付けた方がいい。

例外があるとすれば、独立・起業をするために有用な経験をできることが明確な場合だ。ただ、本当に独立・起業をやる気があるのであれば、敢えてベンチャーを挟む意味はなく、先送りにするような気持があるのであれば、転職を思いとどまった方が良いだろう。

⑥独立・起業を目指す

東大生がアクセンチュアやアビーム入社する時点では、独立や起業をする明確な意図を持っているケースは少数かも知れない。しかし、総合コンサルに入社後、プログラミングが得意な同僚と仕事をする機会には恵まれるであろうから、途中で独立・起業のビジネスアイデアを持つ場合もあるだろう。

起業と言っても必ずしもIPOを狙う必要はなく、こじんまりとしたビジネスで安定的な収益を狙うのでも悪くない。

必ずしもマジョリティではないかも知れないが、独立・起業での成功というのは1つの勝ちパターンである。この分野への関心が高ければ、入社後はアンテナを高く張り、情報収集、人脈形成、スキル獲得に注力すべきである。

⑦私費MBA留学を狙う

大技かも知れないが、確実にキャリアチェンジを狙う方策はこれである。私費MBAとなると、かなりの学費が必要になるのであるが、学費ローンや奨学金制度もいろいろある。また、香港、シンガポール、欧州の場合には1年制のMBAコースも多く、その場合、費用負担を抑えることもできる。

有力なMBAを取得すると、戦コン、外資系金融、GAFAM等の外資ITへのキャリアアップやキャリアチェンジが可能となる。

幸い、総合コンサルの場合、若い時の給与水準が比較的高く、労働時間が長いので、比較的貯金をしやすい環境にあるとも言える。

外資系企業或いは海外で働きたいという意向がある場合には、この選択肢も視野に入れると良いだろう。

最後に

「とりあえずコンサル」というが、総合コンサルの場合、入社後はハードワークであり、次のキャリアをじっくり考えたり、英語や資格取得に充てる時間が取れないなど、意外に次を考えにくい。

そうであれば、東大生の場合は、配属等で優遇されやすいメガバンクや大手金融機関にとりあえず入社した方が次を考えやすいとも言える。

就活については、希望した企業に入れる学生の方が少数であるため、最初の企業が不本意な先であってもそれは仕方がない。ただ、より重要なのは2社目以降のキャリアなので、ここではじっくり納得いくまで考えて、相応の準備をした上で行動すべきだろう。

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