1. 経営職に就きたい某総合コンサルのシニアマネージャー
金融とコンサルに強い、特化型の某エージェントと話していた際、質問された。
「外資系、いや、国内系でも、アセマネ業界で総合コンサルのシニアマネージャーに対する人材ニーズはありますか?」
私は、「外資でも国内系でも、アセマネの場合、証券会社と異なり、膨大なリテール顧客情報とかトレーディングシステムを構築する必要が無いので、総合コンサルの社員をインハウスで抱える必要性はあまり高く無いのではないでしょうか?もちろん、小規模でもIT部門はあるので、ポジションはあるのでしょうが、ニーズがあるとすれば金融機関の現職のITスタッフでしょう。総合コンサルの場合、仮にニーズがあるとしても、若手のポテンシャル的な採用じゃないでしょうか?」と答えた。
某エージェントは、「やっぱりそうですか。総合コンサルのシニアマネージャークラスで、事業会社或いは金融機関で経営職に就きたいという人がちらほらいるものでして。アセマネだと小規模な組織なので、ひょっとしたらIT系のシニアなポジションの可能性はあるかなと思いましたが、わざわざ総合コンサルの人を採る必要性はそれほど高くはないですよね。」と反応した。
某エージェントは、総合コンサルのシニアマネージャーが経営職として転身できる業界を幅広く調べているようだった。
2. そもそも何故、総合コンサルのシニアマネージャーが事業会社の経営職等に就きたいのか?
これにはいろいろな理由があるようだ。
まず、ネガティブな理由として、パートナー(MD)のポジションが詰まり気味で、このまま同じ会社にいても昇格によるアップサイドは狙いにくいし、同じくらいのレベルの同業他社に昇格を前提としてのポジションを探すのも容易ではない。このため、消去法的な意味で、業界外に活路を見出そうとしているということだ。もちろん、総合コンサルのシニアマネージャーとしてのプライドがあるので、事業者においては経営職(執行役員とか本部長クラス)を求めている。
次に、こちらは前向きな理由であるが、長年コンサルをやっていると、「当事者」としての立場で経営をやってみたいと考えることがあるそうだ。今までコンサルとして培ってきた経験や専門スキルを事業会社(或いは金融機関)で活かしたい。そのために、経営職のポジションで経営に当事者として関わっていきたいということだ。
また、中にはコンサル疲れで、事業会社に転身したいという人もいるとのことだ。
3. 事業会社の経営職のポジションは見付かるのか?
それでは、一般的に、総合コンサルのシニアマネージャーであれば、事業会社の経営職のポジションに転身することは可能なのか?
この点については、そういったポジションはあるようだ。
やはり、IT/DXに対する需要は根強く、事業会社でITに強い人材に対するニーズはある。
ただ、問題は、その「事業会社」のレベル感と待遇だ。
トヨタ、ソニー、キャノン、東京エレクトロン、富士フィルム、サントリーといった、トップクラスの事業会社の経営職ポジションがあれば、喜んで行くのだろうが、そのクラスのポジションに就くのは非常に難しい。
実際、多いのは、上場しているとか、地元の有力企業といった、「大手」には属するが、「超大手」とは言えないところである。
そうなると、オファーされる年俸水準も転職における問題となる。
そういった、一応大手の事業会社の場合、部長クラスとか、その上の本部長クラスでも年俸水準は、せいぜい1200~1300万、良くて、1400~1500万である。
一般的には悪く無いかも知れないが、総合コンサルのシニアマネージャーとなると、年収2千万円クラスである。転職すると、年収の大幅ダウンとなってしまう。
また、そもそもそういった企業に転職したとしても、カルチャーや同僚と馴染めるのかどうかというのも気になる点である。
4. それでは、事業会社の経営職に就きたいシニアマネージャーはどうするべきか?
これは、私の考えであるが、一応大手の事業会社の経営職ポジションには、少なくとも現時点で転職すべきではないだろう。それでは、どうすればいいかと言うと、以下の様な選択肢がある。
第一は、今いる会社で出来るだけ長く、追い出されそうになるまで頑張ることである。
ひょっとしたら、運良くパートナーになれるかも知れないし、生涯賃金の点でもステータスの点でも手堅い選択だからである。
日本の大手企業は、まだまだ年功序列なので、経営職であれば40代よりも50代の方が良い。従って、50歳まで総合コンサルで働けるのであれば、働いた方がいい。そうすることによって、生涯賃金も業務経験も最大化でき、ヤバくなったタイミングで事業会社の経営職ポジションを探しても、今より条件的に不利になるわけではない。
第二は、可能であれば、タイミングを見て同業他社で同じくらいのポジションで横滑りを狙うことである。これは、今の会社で働き続けるとの、同業他社で働き続けるのとどちらが長く働けるかを比較した上で判断すべきであるが、ポイントとしては第一の理由と同じで、総合コンサルをギリギリまで長く続けた方が、生涯賃金的にもキャリア的にも有利であるという考えである。
第三は、同業他社のティアを落として、1ランク上のポジションで転職することである。例えば、大和証券の課長が岡三証券の部長として転職するとか、三井物産の課長が兼松の部長として転職するようなケースである。ただ、この場合、年収水準が維持できない(2割位のダウン?)リスクもあるし、一旦ティアを落としてしまうと、そこからティアを上げる転職は年齢的にも非常に厳しくなるので、そこは要注意である。この選択肢はお勧めという訳ではなく、上の2つのパターンが難しそうな場合に、ダイレクトで事業会社の経営職を探すよりも、そのつなぎとして、ティアを落とした同業他社に転職するというイメージである。その方が、事業内容も業務内容もカルチャーも全く異なる事業会社に転身するよりも、ワンクッションおけるというメリットがある。
実際、年収の大幅ダウンを前提とした、一応大手企業の経営職ポジションに転職したいという総合コンサルのマネージャークラスは多くないという。
5. 最後に
新卒でも中途でも大量採用をしている総合コンサルに対する注目度は高い。
しかし、伝統的な日本の大企業とは異なり、終身雇用ではない。
このため、遅かれ早かれ、この手の問題に直面することになる。総合コンサルへの就職や転職を考えるのであれば、次の一手までも十分に考えておく必要がある。「とりあえぜうコンサル」という考えでは、入社してから慌てることにもなりかねない。