1. 10年以上前なら、比較にならなかったと思われるが…
文系、特に有力校の場合、商社、金融、コンサル>メーカーという風潮がある。
ソニーはメーカーの中ではトップクラスの人気企業であるが、金融の世界において東京海上日動は圧倒的な業界トップ企業であり、給与水準も非常に高い。このため、10年以上前なら、この両社の比較は問題にならず、ほとんどの人が東京海上日動火災を選択したのではないだろうか?(或いは、本人がソニーに魅力を感じたとしても、両親は東京海上日動火災を推したのではないか?)
2. しかし、現在では、これで悩む学生がいても不思議では無いのではないか?
しかし、昔と比べて事情は変化してきている。
10年前は東京海上日動火災の圧勝だったかも知れないが、今では、もう少しいい勝負になるのではないか?
その理由としては、まず、マクロ経済環境や業界の将来性に対する見方の変化があげられる。
日本の場合、少子高齢化が不可避であり、また、ネット取引の進展による収益性の低下が国内保険ビジネスにネガティブな影響を与えることが予想される。もちろん、東京海上日動火災はそれを見越した上で、グローバルな保険ビジネスを展開し拡大しようとしているところである。しかし、まだまだ国内ビジネスの割合が高いし、会社としてグローバル化を進めていても、総合職採用の場合、海外要員に選ばれるかどうかはわからない。
これに対して、ソニーは歴史的にグローバル企業であり、市場は海外であるので、少子高齢化による影響は金融機関と比べて小さい。
また、10年以上前と比べて、転職志向・スキル重視の学生が増えていると思われる。
この点、ソニーは比較的早い段階でコース別採用を実施しており、文系でも当初より職種を選択できる点は、スキルや転職力の点で非常に大きい。
もっとも、東京海上日動火災も比較的前からSPECと呼ばれるコース別採用を用意してはいるが、非常に狭き門であり、5大商社並の難易度では無いだろうか?(なお、SPECで内定を取ることが出来れば、あえてソニーを選ぶメリットが薄れるので、その場合は、東京海上日動火災を選択すればいいと思う。このため、本記事のテーマは東京海上日動火災の「総合職」としている。)
さらに、この10年間で両社の給与差はある程度は縮まっているという点も指摘できる。
東京海上日動火災というと、日本全体でも最高水準の高給企業であったが、関係者に聞いてみると、微妙に給与水準は下がって来ているようだ。昔は、40代だと2000万円以上は当然という雰囲気だったが、今では、1600~1800万位が多いのではないかということだ。
他方、ソニーの方は好業績の継続によって、給与水準は上昇傾向にある。
例えば、今だと、入社5-6年目の20代後半で年収700万円位に到達可能で、30歳時点で800万円位が期待できる。もっとも、1000万円到達は30代半ば位であり、また、年功序列の横並びではない点には留意が必要である。しかし、課長以上に昇格すると、40代で1200-1300万円位の可能性はあるし、海外勤務によるアップサイドの可能性を考えると、以前と比べて、東京海上日動火災との年収差はある程度縮まっているものと思われる。
3. どういう基準で企業選びをすれば良いか?
①ソニーが向いている人
以下の様なタイプの人は、ソニーが向いていると思われる。
・グローバル志向の強い人
・スキル重視/転職想定の人
・アップサイドを狙いたい人
まず、グローバル志向の強い人は、当然ソニーの方がチャンスは大きいだろう。
東京海上日動火災もグローバルビジネスを拡大しつつあるが、SPECのGlobal Business以外の普通の総合職の場合、海外勤務の希望が叶う可能性は決して高くはない。
次に、スキル重視/転職想定の場合には、ソニーのコース別採用は魅力的であろう。
文系でも選択可能な、ファイナンス系、人事系、法務/知的財産系、営業/マーケティング系の職に就くと、ソニーのネームバリューと相俟って、外資系ITや外資系メーカーへの転職チャンスは十分にあるだろう。他方、損保においては、外資系金融や国内金融専門職への転身は非常に難しいだろう。(転職力重視であれば、傘下の東京海上AMを選ぶべきだろう。)
アップサイドを狙いたい場合はソニーと言うと、意外な感じがするかも知れないが、外資系企業の場合、管理職と非管理職の年収水準の差は非常に大きい。そして、営業系の職種の場合は、歩合的な要素も強いので成果次第で年収2千万円以上も可能である(特に外資系IT企業の場合)。また、外資系ITの中でも、GAFAMにそれなりのポジションで転職できると、かなりの高給が期待できる。もっとも、こういった外資系企業の場合は、終身雇用の世界では無いので、当然転職にはリスクを伴うので、この点には留意が必要である。
②東京海上日動火災が向いている人
東京海上日動火災が向いている人は、ある意味、上記のソニーが向いている人の反対である。
・海外勤務に興味は無く地方勤務が平気な人
・スキルや転職に拘りが無く、終身雇用を想定している人
・アップサイドよりも安定性重視
有力校の学生でも、海外勤務は面倒で興味が無いというタイプの人はいくらでもいるだろう。そして、東京海上日動火災の場合、海外勤務を希望しなければ海外勤務になることはまず無いだろうから、この点は問題は無い。
ただ、地方勤務が全く平気という人はどれくらいいるだろうか?しかも、地方勤務でも1つの都市に長く居住できるならまだしも、大手金融リテールの場合は、3~5年位のサイクルで、全国を転々とする可能性がある。それでも全然平気というタイプであれば、東京海上日動火災は非常に向いているだろう。会社都合の転勤の場合には、家賃補助等の対応をしてもらえるし、地方勤務でも給与水準は基本的に東京勤務と同じである。したがって、かなり余裕のある生活が期待できる。こつこつ副業や運用をやって、セミFIREを狙うには最高の環境かも知れない。
また、優秀であっても、ゼネラリスト志向であり、特定のスキルとか転職には拘りが無いというタイプはいるだろう。日本でも、20年後、30年後は終身雇用が保証されるかわからないのであるが、さすがに東京海上日動火災クラスになると、何とかなりそうな気もする。もちろん、給与水準が今よりも減るリスクはあるが、それでも、外資系の様にバッサリ切られるリスクは低いだろう(おそらく…)。
損保の場合、外資金融>国内金融という風潮は無いので(東京海上日動火災の方がアリアンツよりも高給だろうし)、業界内ステータスという点において、終身雇用狙いで東京海上日動火災狙いというのは悪くないかも知れない。
まとめ:大事なのは、自分自身の「軸」を十分に考えること
「そもそも、グローバル&スキル重視のソニーのコース別採用と、給与水準&就職偏差値重視のマリンの総合職で迷う人なんているんですか?業界もメーカーと金融だし…」というツッコミはあるだろう。
しかし、このソニーと東京海上日動火災のケースは、「職種(及び勤務地)は確保できるが給与水準(就職偏差値)の劣る企業」と「給与水準(就職偏差値)では勝るが配属ガチャの企業」との比較ということである。
従って、メガバンクの総合職とその子会社であるアセマネとの比較や、総合コンサルと大手金融機関の総合職との比較においても、あてはまる。
大事なことは、自分自身の「軸」をしっかり見極めることで、給与やステータスを取るか、給与やステータスでは劣るが自分のやりたい職種(或いは勤務地)のどちらを重視するかということである。
この判断を、就業経験が無く、また、親や友達の意見にも左右されがちな学生の時に行うというのが辛いところである。
しかし、少なくとも言えるのは、一旦入社してしまうと、ソニー⇒東京海上日動火災、また、東京海上日動火災⇒ソニーへの転職は非常に難しいということである。
早い段階から、自分自身が何を本当に重視したいのか、十分見極めておきたい。