序. 就活における企業選びの前段階の自己分析
就活というのは就業経験が無い学生が行うものである。就業経験が無いにも関わらず志望業界や企業を選択するのは難しい。やりがいとか適性を重視したくても、実際にやってみないとわからない。
そうした中で上場企業だけで3500社以上、業種だけでも30以上(東証33業種の場合)ある中から、せいぜい20-30社までES提出企業を絞り込むのは大変だ。
企業選びの判断を間違うと入社後に後悔したり、それ以前に、就活準備が非効率になり内定を取りにくくなるおそれもある。
このため、就活の最初の段階として、自己分析を行い、自分の企業選びの価値観や適性を明確にする行動が推奨されている。
しかし、どういった基準や流れで自己分析を行うべきかについては決まった方法があるわけではなく、自分の頭で考えていても望ましい自己分析の結果を得られるとは限らない。
そこで、以下、企業選びの前提となる自己分析について、一定の判断軸や分析の流れをまとめてみた。OB訪問等において、こういった事項を話し合い、本音ベースでの自分の求める価値観、キャリアプラン、企業選択の軸等を決定すればいいだろう。
1. 希望の年収水準の確認
(1)30代でどれ位の年収があれば満足できそうか?
自己分析を行うに際しては、客観的な項目⇒主観的な項目という流れで進めるのが良い。最初に主観的な項目をもってくると、そこで行き詰ってしまう可能性があるからだ。
客観的な基準の際たるものは「年収」軸だ。日本においては、お金や年収の話をすることは奨励されないカルチャーであるが、自己分析は本音ベースで行わないと意味がない。多くの人達は年収を重視するし、実際、就職人気ランキング上位の企業は大抵は高収入だ。
ただ、初任給とか、入社2-3年目の早い段階の年収だけで判断すべきではない。一通りの社会人経験をして、何らかのキャリアが形成されたと期待される30代の年収水準を想像して、中長期的に考えて行きたい。
その際、自分の希望する30代の年収水準は以下のどれに該当するのか考えてみたい。希望年収が高ければ高い程、それが実現可能な業種・職種は限定され、絞り込みやすくなる。
⇒1億円超
⇒数千万以上
⇒1000万以上
⇒700-800万
⇒特に年収は重視しない
例えば、30代で年収1億円超を希望するとなると、サラリーマンだと外資系でもほぼ不可能だ。外銀IBD、外資系PEファンド、ヘッジファンド等においては可能性が無くはないが、それでも確率は低い。1億円超に拘るのであれば、起業し自らが経営者になる途を模索すればいいだろう。
希望年収が数千万円希望となると、日本企業のサラリーマンであればほぼ不可能だ。可能性があるとすればキーエンスぐらいか。また、M&A仲介の様な歩合制セールス職で成功すれば可能性はあるだろう。基本的な方向性としては、外資系金融、戦略コンサル、IT企業といったところだろう。
年収1000万円以上でOKということであれば、可能性は一気に拡がる。総合商社、大手金融機関、大手マスコミ、財閥系デベロッパー、高給メーカー等、安定した国内系の人気企業が広く候補になる。
年収700-800万円でOKとなると、さらに対象業種・企業は拡がる。その場合、年収だけでなく、WLB(ワーク・ライフ・バランス)をも踏まえた企業選びが可能になるだろう。また、副業が今後拡がっていくことを想定すると、年収水準が600万円位でも実現可能になるかも知れない。
このように、30代での希望年収が固まると、自ずと対象企業は絞り込まれて行くのである。
(2)年収と生活感のイメージはあるか?
希望年収を考えるに際しては、生活感も合わせてイメージしてみたい。学生時代は、家賃を除くと一ヵ月あたり5~10数万円位で生活をしているのではないか。すると、1000万とか2000万と言われても、今の収入より遥かに多いので、ピンと来ない可能性がある。
累進税制は厳しく、年収1000万とか、更に年収数千万円でも思ったような生活は出来ないかも知れない。例えば、年収3000万円でもフェラーリ&六本木ヒルズの様なタワマン暮らしは難しい。また、年収1000万円ではベンツ&世田谷/目黒の暮らしは楽ではない。このあたり、自分のイメージする理想の生活を想像しながら具体的に考えてみればいいだろう。
⇒フェラーリ&港区タワマン
⇒ベンツ&世田谷/目黒/文京/郊外
⇒特にイメージは無い
2. キャリア観の確認(漠然としたもので良い)
年収と同様に重要なのがキャリア観だ。例えば、同じ年収1000万円希望の場合でも、終身雇用を想定しているのか、転職を重なることで実現しようとしているのかで企業選択の幅は大きく違ってくる。終身雇用を希望するのであれば就活段階で給与水準の良い業界・企業を選択せざるを得ない。他方、転職によって30代で年収1000万円を実現すれば良いと考えるのであれば、最初の就職先は市場価値が高まるようなスキルの習得可能性を重視することになる。
また、転職前提の場合でも、最終的には独立・起業を求めているのか、それとも、プロ経営者を最終的に目指すのかによって企業選択は異なって来る。プロ経営者は終身雇用型の企業を最初に選択しても可能性はあるので、キャリアの最終形も考えておきたい。
更に、外資系企業に興味があるか否かで、企業選びだけではなく、終活プロセスが異なって来る。一般的に外資系企業は採用が早く、3年生の時に実施されるので準備を早く始めるしかない。また、将来外資系に転職することを想定するのであれば、留学や英語対応を早めに行っておくことが求められる。
それ以外にも、ゼネラリスト志向かスペシャリスト志向か、また、転勤はOKか否か、海外赴任を希望するかといった点も企業選びの重要な軸となる。もっとも、日本の大企業の場合は転勤リスクがあるので、ずっと東京から離れたくないという強い希望がある場合には選択肢が限られてしまう点にも留意すべきだ。
<キャリア観を考えるにあたってのチェックポイント>
①終身雇用か転職か?
②プロ経営者志向か独立・起業志向か?
③外資系に興味はあるか?
④ゼネラリストかスペシャリストか?
⑤居住地の志向
⇒海外駐在したい
⇒ずっと東京にいたい
⇒転勤OK
3. やりたい、適した仕事の方向性
ある程度、希望年収、生活イメージ、キャリア観が何となくつかめてきたら、次は業種や職種を見て行く流れとなる。
「何をやりたいかわからない」という声をよく聞くが、その場合は先ず、営業をやりたいかやりたくないか、営業向きかそうでないかについて考えてみれば良い。もちろん、自分のイメージと実際の適性がこの段階で一致するとは限らないが、将来変更しても構わない。とりあえず方向性を決めて見ないと先に進まない。
次に、職種についても大雑把に何がやりたいか、何が適正かを考えてみたい。その際、将来CXOになるとすればどれが向いてそうかを想像すればよい。文系の場合だと、経理財務系(CFO)、人事労務管理系(CHRO)、マーケティング系(CMO)、法務コンプライアンス系(CCO)、戦略企画系(CSO)のうち、どれを目指したいかを検討したい。
そこから先は、ある程度漠然としていてもいいので、志望業界について考えたい。金融に興味があるか無いか、IT業界に興味があるか無いか、メーカーに興味があるか無いか?将来変更してもいいという前提であれば、ある程度、答えることができるのではないだろうか。
<やりたい、適した仕事の方向性を判断する上でのチェックポイント>
①営業か非営業か?
②CXOを目指す場合、どの分野が向いていそうか?
⇒COO、CFO、CHRO、CMO、CCO、CTO、CSO…
③金融には興味があるか?
④IT業界に興味はあるか?
⑤メーカーに興味はあるか?
⑥その他(コンサル、不動産、マスコミ…)
4. 大雑把な各業界の話
金融、IT、メーカーといった大雑把な括りで関心のある業界について順位付けができると、次は更に各業界の中のサブセクターを見て行けば良い。
同じ業界でも、例えば金融だと、専門職かリテール営業かという切り口がある。また、専門職においては、IBD、市場部門、資産運用(アセマネ)、ベンチャー投資(VC)といった様に細分される。
また、大企業かベンチャーかといった視点もある。もちろん、どちらか一方を選択しないといけないわけではなく、併願も可能であるが対策が異なるので早めに検討しておきたい。
なお、法学部生の場合には、法科大学院や予備試験という弁護士を目指すルートもある。民間企業をいろいろ検討した結果、どこもピンと来なかったという場合もあるだろう。但し、旧司法試験と比較すると優しくなったと言われる司法試験がであるが、それでも、法科大学院を卒業しても3割程度しか合格できない難関試験であることに変わりはない。弁護士ルートを考える場合には慎重に判断すべきであるが、弁護士は今でもステータスは高く、まだまだビジネスチャンスもあるのではないかと思われる。
<各業界における方向性について>
①金融専門職(IBD、GM、アセマネ、VC等)
②金融リテール
③戦略コンサルと総合系コンサル
④IT系(GAFAM等外資、楽天、ヤフー、CA、メガベン、通信他)
⑤商社
⑥ベンチャー
⑦弁護士(法学部生向け)
5. 各業界の難易度と就活準備
ある程度、志望業界が絞れたら、次は就活準備を始める必要がある。志望先が決まっても、内定を取れないと意味がないからだ。そのため、志望業界が大雑把に把握できると、難易度を踏まえた上で現実的に内定の可能性があるところを抽出する必要がある。もちろん、内定確率は低いが憧れの業界、ある程度内定可能性のある本命の業界、少なくともこれぐらいは内定が出るだろうと見込まれる滑り止め的な業界と、ポートフォリオを組めばよい。もちろん、途中で修正は可能であるので、ある程度具体的な企業イメージや可能性について考えておきたい。
また、難関企業の場合は、当然入念な就活対策が求められる。外資系企業やグローバル企業を目指すのであれば、英語対策は必須である。金融系であれば証券アナリスト、USCPA等の取得が望ましい。IT系であれば起業体験やネット系のスキルを磨くことも有用であろう。
上記の資格やスキルとは別に、ES・面接対策、プレゼンテーション能力といった一般的な就活テクニックも重要である。外資系企業や商社のような難関企業においては、就活塾を利用した方が効率的な場合もある。すぐに必要という訳では無いが、こういった対策も念頭に置いておくべきだろう。
<就活対策として求められるスキルの例>
①英語(留学)
②財務会計(簿記2級、証券アナリスト(CMA)、USCPA)
③ビジネス経験
⇒ネット起業、SNS
⇒ベンチャーインターン
④学業ガクチカ
⑤就活テクニック
⇒面接、プレゼン
⇒ES、GD
⑥就活塾の話
⑦留学の話(就職後の話)
まとめ
業界や企業選びは非常に重要だ。しかし、そのために自己分析をしろと言われても、適切な自己分析をするのは簡単ではない。
ただ、よくわからないからといって先延ばしにすると、就活対策開始が遅れ、不利になるだけだ。就活も競争なので早く始めれば始めるほど有利だからだ。
そこで、上記の様に、年収、生活感、キャリア観を基に大雑把に業界選定を行い、そこから徐々に志望業種や職種を絞り込んで行けば良い。その際には、内定を取るために求められるスキルや難易度を加味する必要がある。
志望業種や職種を決めたところで、途中で気が変わるかも知れないし、現実に直面して志望先を変更することもあるかも知れない。しかし、それは問題ではない。社会人になってからも、業界や職種を変えることはあるし、その際には可能性を踏まえて必要な対策を取ればいいだけだ。
とにかく、志望先を決めて行動をしないと始まらないので、適切な自己分析を実行した上でとにかく決めて行動し始めるのがお勧めだ。