1. 就職偏差値的には商社の方が上のはずだったのだが…
必ずしも好ましいことではないのだが、ハイスぺのトップ就活生は、就職偏差値(就職難易度)の高い順に就職先を決めることが少なくない。最難関は外銀若しくは戦コン(MBB)であり、ここの内定を目指す。しかし、これらの内定が取れなかった場合には、国内最難関の5大商社。そして、それがダメなら、国内証券IBD(若しくはGM)といった具合である。また、5大商社と国内証券IBDとの間に、MMデべ(三井不動産、三菱地所)や電通・博報堂・キー局が位置する場合もある。
このため、5大商社と国内証券IBDと両方内定した場合には、就職偏差値を基準に最終的に5大商社を選択する学生が結構いるのである。
2. しかし、商社に入社後にスキルが気になる人達がいる…
5大商社は、非常に安定しており、給与水準、世間的な評価共に高い。
そして、入社2年目で700万円以上、入社3-4年目で約1000万円と、昇給ペースも早く、モテ度も高いと言われている。さらに、海外駐在をすると、実質年収は更に跳ね上がるという魅力もある。
このように、傍から見ると、商社に入社できれば何の不満も無さそうに見えるが、商社マンにも悩みはある。それは、「スキル」が付かないことだ。もちろん、国内・国外、社内・社外の関係者を多数巻き込んで、スケールの大きな仕事を勧めるプロジェクト・マネジメント力といったスキルは得られるのであるが、それは商社の外でも使える汎用性があるものではない。転職市場における「市場価値」が高まらないということだろうか。
だからと言って、商社入社から数年経過後に、第二新卒で外銀や戦コンに転職するのは難しく、キャリアチェンジのために私費MBAを選択するのもハードルが高い。
そこで、現実的な選択肢として、国内系証券IBDへの転職を考える若手商社マンはいるようだ。
3. 未経験でも、国内系証券IBDへの転職の可能性はある
5大商社とは言え、IBD業務の経験は無い。中途採用では業務経験が最重視されるので、5大商社から国内系証券IBDへの転職が可能なのかが気になるところであるが、某エージェントによると、十分可能性はあるとのこと。第二新卒市場(25歳以下)に限らず、27-28歳位でも採用実績はあるという。その背景としては、国内系証券IBD側の退職した若手の補充ニーズということである。国内系証券IBDも中途採用については難しい立場にあり、給与的に、外銀IBDの人材を引き抜くことは給与水準的に無理である。もちろん、外銀疲れの若手がWLBを求めて、国内系証券IBDに転職することはあるが、国内系のシニアバンカーの中には、必ずしも外銀出身者が好きではない人達も一定数いる。そういった場合には、5大商社の語学力や行動力といった潜在能力の高さを評価して、未経験であるが、5大商社の若手を採りたいというニーズもあるようだ。そこには、外資出身者よりも国内系企業出身者の方が定着率が良いという期待もあるようだ。
4. 5大商社マンが国内系証券IBDに転職すると悩みは消えるか?
5大商社であれば、業務経験は無くとも、国内系証券IBDへの転職の可能性はあるようだ(但し27-28歳位まで)。
そうすると、転職のきっかけとなった「スキルが付かない」という悩みは解決できそうだ。
国内系証券IBDで5年以上の実務経験を積めば、何らかのIBD関連のスキルが習得出来、例えば、国内系証券IBDの同業他社や、国内系PEファンド、FASといったところには転職が可能だろう。また、お勧めはしないが、ベンチャーに転職する際も、商社の時とは異なり、CFOとしての選択肢も生じるだろう。国内系証券IBDの在籍経験と、それによって習得したスキルによって、バンカーとしての市場価値が形成されるのである。この点は、明確な市場価値が形成されない商社マンとは大きな違いであり、この転職によって当初の目的は果たせることができると思われる。
しかし、この転職によって5大商社マンの悩みが「終局的に」解決できるかは何とも言えない。何故なら、このキャリアは、ある意味中途半端なものであり、アップサイドを取るのは難しいからだ。
20代後半からIBD業務に就いて、一通り仕事を経験した頃には30歳を過ぎている。その頃、新卒外銀組はVPになっている。もちろん、国内系証券IBDで業務経験を積めば、そこから外銀IBDへの転職は可能だが、そこで競争して勝つのは非常に大変である。
また、国内系証券会社は生え抜き重視のカルチャーがあり、新卒IBDの中には、ピカピカのエリート君が存在する。そうすると、社内で出世を目指すと言っても、中途採用組では限度がある。
このように、本当のトップバンカーになるのは難しく、プライドが高い元5大商社組がそれで満足できるかどうかが気になるところである。
もちろん、外銀に転職しなくても、国内系証券IBDで一番出世を果たせなくても、商社に準じた高給を安定的に享受できるのであるから、それは贅沢な悩みであろう。結局、本人がどこまで納得できるかという主観的な問題に過ぎないのだが、ここをしっかりしておかないと、一か八かのベンチャーCFO転職で勝負をする等の、キャリア的に非常にリスクの高い選択をすることにも繋がりかねない。30代で転職に失敗すると、そこからのリカバリーは非常に難しくなってしまう。
5. 就活時における就活の「軸」の重要性
過去に遡ることは出来ないのであるが、このキャリアにおける問題点を考えると、就活時の選択を挙げざるを得ない。
スキルを重視するのであれば、就職偏差値によって商社を選択するのではなく、国内系証券IBDを選択すべきである。勿論、そこから外銀を目指すのであれば、国内系証券IBDの中でトップのバンカーになるべく頑張るしかない。国内系証券IBDでトップになることが出来れば、外銀に転職しなくても、社内で出世してMDになればかなりの収入を得ることが可能だ。
また、就活偏差値で5大商社を選択する場合には、そのデメリットも十分認識しておくことである。商社じゃスキルが付かないとか、起業センスが得られないといったことは、わかっているはずである。それが十分に認識できていると、海外駐在でグローバル経験を積んだ上で、お金をコツコツ貯めてセミFIREを目指すとか、或いは、長期的視点で副業を磨いていくとか、商社ならではの勝ち方も選択できるはずだ。
或いは、どうしても外銀とか戦コンで活躍する夢が捨てきれないのであれば、中途半端に国内系証券や総合コンサルに転職するのではなく、多大なコストと労力が掛かるが、私費で米国トップMBAを目指すべきである。今後数十年という長いキャリアを考えると、そちらを選択した方が後悔しないのではないだろうか?
もちろん、就活生の時点でキャリアの観点からの最適な選択をするのは難しいが、入社後にキャリアチェンジを試みる際には、先を見据えた上での戦略的な判断をすべきである。