「シン・サラリーマン」(サラタメ著)を読了したので、紹介する。
https://books.rakuten.co.jp/rb/16915230/
著者のサラタメさんは、登録者が60万人以上のサラリーマンYouTuber。「サラリーマンのタメに」というコンセプトで情報発信をしているのが名前の由来だそうだ。
サラタメさんは大学卒業、2012年に東証上場企業に入社し、「中の上」くらいの安定的な生活が出来ればいいと考えていた。しかし、配属ガチャで外れクジを引き、ブラックな職場に配属され、パワハラ上司に怒鳴られながら毎晩終電という生活。これではヤバいと考え、WLBのみを転職軸に、ホワイト企業に転職成功。あまりにも閑を持て余し、ありとあらゆる副業に手を出し、その結果、ビジネス系YouTuberとして大成功。この副業としてのYouTuber実績を手土産に、新R25に転職し、現在はサラリーマンと副業の2足の草鞋で、年収は大企業の役員クラスを稼ぐという。
まだ32歳(2022年時点)ながら、いろいろな経験をして、成功を収めたサラタメさんが、現代の理想のサラリーマン像を提案したのが本書である。
1. 本書の特徴:サラリーマンに必要なのはリーマン力×副業力×マネー力
本書の外形的な特徴な、真っ赤な表紙で、とにかく分厚い(600頁)ことである。
ただ、単なるマニュアル的な情報を詰め込んだというよりは、現代の理想のサラリーマン像を提言したところが非常にユニークだと思われる。
新しい、理想的なサラリーマン像としては、motoさん著の「転職と副業のかけ算」がベストセラーになったが、本書はそれを一歩進めた形である。
https://books.rakuten.co.jp/rb/15985693/
motoさんの「転職と副業のかけ算」では、これからのサラリーマンは本業だけではなく副業というもう一つの収入源を持つ生き方を提案した。
本書も本業と副業の2つの財布を持つことの有用性を主張しているが、それに加え、マネー力、PL面だけではなく、BS面についても着目している。確かに、本業と副業で高収入を実現できたとしても、マイホームとか投資で失敗してしまうと理想的なサラリーマン生活が送れなくなってしまうので、本書ではサラリーマンのマネー力についても多くの情報提供をしている点は、参考になるだろう。
2. サラリーマンに必要な武器、「リーマン力」とは?
本書で言う「リーマン力」とは、①仕事術と②転職術の2つで構成されている。
著者は、これからはずっと同じ会社で一生働くというのは難しく、出世よりも転職術の方を重視すべきと提言しているが、だからと言って、仕事は適当にやれとは言っていない。むしろ、サラリーマンとしての仕事術を「転職」や「副業」にフル活用していくことが成功に繋がるということで、きっちりとした仕事術の習得法について本書で具体的に紹介している。
具体的には、人間関係の対処の仕方、思考法、報連相、営業・交渉術、定時退社術がわかりやすく紹介されている。
もう1つのリーマン力を構成する「転職術」については、準備⇒応募⇒内定後という時系列で、各段階における考え方や対応術について紹介している。非常に基本的な情報なのだが、転職は就活と違って基本的な情報は非常に少ない。転職エージェントの公開情報はネットに溢れているがポジショントーク満載なので鵜呑みに出来ない。したがって、転職初心者にとっては参考になるのではないだろうか。
もっとも、著者のサラタメさんの転職経験は、キャリアアップ・年俸アップという目的ではなく、WLBの改善を軸に実行したものであるので、本業の年収増を狙う人にとっては当てはまらないところがあるので、この点は留意が必要である。
3. 副業力とは?
Motoさんの「転職と副業のかけ算」という本はベストセラーになったが、注目されているのは転職術の方であって、副業については余り十分な情報が無いのが残念な点である。「副業はやるべきだ」という情報はネットに溢れているが、非常に再現性が低い情報が多い。
というのは、10年前はブログで簡単に月間数万PVを実現して、アフィリエイトで月数万稼ぐのは十分可能だったかも知れないが、Googleアップデイト以降、ブログで稼ぐのは至難の業になっている。また、チャンネル登録者やフォロワーが数万人以上のYouTuberやインスタグラマーが稼げていても、インフルエンサーになれるのはほんの一握りであって、一般的なサラリーマンには非常にハードルが高い。
この点、本書ではその問題点を踏まえた上で、インフルエンサーにならなくても稼げる、「ディレクター型」副業を紹介している。ディレクター型とは、「専門スキル」を軸にしたモデルで、例えば、副業ライターとしてライティングスキルを磨いて、ライターとしてのスキルや評価を高め、最終的には複数のライターを使って監督する立場になるという収益モデルである。コツコツと自分の専門スキルを磨くことが向いている、職人気質のサラリーマンにはマッチした方法であろう。
本書では、ディレクターになるまでのステップは、①お手伝い⇒②職人⇒③ディレクターの3段階が必要だが、多くの人は、インフルエンサー型よりもこちらが向いているということである。これだと、たとえ少額であっても比較的早い段階から副業収入を手にすることが出来るというメリットがある。
具体的には、クラウドワークスとかランサーズの2つに登録して、気になる案件があれば自分から提案分を送って仕事を取るのがお勧めという。
本書は、具体的な副業での稼ぎ方について他の書籍よりも踏み込んで書いているので、興味がある方は一読することをお勧めします。
4. マネー力
マネー力というと、いかにも運用で儲ける方法のような気もするが、本書ではもっと広くマネー力を捉えている。マイホームを持つべきか否か、サラリーマンの保険入り過ぎ問題、そして子供の教育費についてもマネー力のカバー領域である。この点は、著者自身のサラリーマンとしての実体験に踏まえたもので、リアリティがある。ちなみに、著者はマイホームは持つべきではないと断言しているのが興味深い。
そして、サラリーマンが苦手な税金についても、リテラシーを高めることを提言している。著者は副業を個人事業主としてやっているので、税金についても詳しいのである。
そして、投資については、教科書的な国際分散投資をインデックスファンドを使って積立で行うことを推奨している。反対に、FXとかデイトレード、新築ワンルーム投資については非常にネガティブである。
このあたりは、賛否両論あるかも知れないが、多くのサラリーマンはリスク投資で勝負するよりも、積立投資を継続的に実行する方が適していると思われるので、私はこの点については著者に賛同できる。
投資については、怪しい情報がネット上に溢れているので、サラリーマンは先ず本業と副業に集中し、一攫千金を狙わずに、コツコツと積立投資で蓄財していくことが現実的であろう。
5. 私自身の感想
本書は非常に分厚いのが特徴だが、決してマニュアル本ではない。
私として、最も興味深かったのが、サラリーマンとしての理想像を戦略的に考えていることである。
世の中、仕事術、転職術、副業ノウハウ、運用術と、パーツ毎に取り上げたコンテンツは多いが、サラリーマンにとっての理想的な全体像、組み合わせについて言及した書籍は少ないのではないだろうか?
本書では、理想のサラリーマン像を、リーマン力(仕事術と転職術)、副業力、マネー力としているが、筆者の場合は、年収については副業>本業、資産については住宅や余計な投資を行わない比較的小さなバランスシートを指向するタイプであろう。
しかし、商社、金融、コンサル、外資等のある程度高収入が期待できるサラリーマンの場合には、如何に本業収入を極大化し、副業は補完的・保険的な役割に留め、一等地にマイホームを持つなど大きめのバランスシートを指向する方が適合しているかも知れない。
この点は、各自の価値観や適性にもよるので、いろいろなタイプの理想のサラリーマン像を考え、自分に最もマッチした組み合わせを模索すべきであろう。
なお、本書の巻末では、読書家である著者が業厳選30冊のビジネス書の紹介をしている。
特に、将来の選択肢が豊富な若手のサラリーマンにはお勧めの一冊である。