メガバンク、25歳のリテール営業マンのキャリアプランについて

1. 難化したメガバンクだが、終身雇用を前提にはしたくない?

アベノミクスの好況期には、大量採用をしていたメガバンクも、コロナ以降、新卒採用者数は激減した。人数的には最盛期の三分の一以下になったようだ。

背景としては、大量採用の反動減に加え、IT化・店舗削減に伴うリテール関連人員に対する需要減といったところが考えられる。

採用者数が減った分、メガバンクの内定は難化し、優秀な内定者が集まったはずなのだが、その若手銀行員達は必ずしも最後まで(といっても50歳過ぎで出向はあるが)メガバンクで働きたいとは考えていないようだ。

それでは、若手のメガバンカー達には、どういったキャリアプランが考えられるのだろうか?ここでは、早慶・旧帝クラスの入行3年目、25歳でリテール部門に配属されたケースを想定して考えてみたい。

2. メガバンクのリテールからのキャリア、3パターン

メガバンクの若手のキャリアとしては、そのまま、リテール部門で頑張って出世を目指すという選択肢もある。それ以外のキャリアとしては、大雑把に以下の3パターンが考えられる。

①グローバルなキャリアを目指す

日本の少子高齢化問題は不可避なので、国内市場は縮小が見込まれる。
そこで、既にメガバンクの経営陣は将来海外で稼げる様になるために、海外ビジネスを拡大している。

そこで、このグローバル強化戦略の波に乗って、海外勤務や国際関係部門への異動を狙うという手がある。海外勤務と言うと、商社の手厚い海外駐在が有名だが、実は大手金融機関の海外キャリアも悪くない。行き先は先進国とか、東南アジア系が中心で、海外勤務の場合は家賃や諸経費は全て会社持ちで、海外勤務手当も付く。このため、20代後半でも実質年収は2千万円位になる。更に、一旦海外ルートに乗ると、その後も海外畑を歩める可能性が高いので、リテール部門で転勤を繰り返すキャリアよりも将来有望という見方もできる。

或いは、結構、ウルトラC的なキャリアに見えるかも知れないが、帰国子女等で英語が得意であれば、一気に外資系金融の営業部門に転職するという選択肢もある。対象は、外銀のGM部門の機関投資家セールス職とか、外資系アセマネの営業職だ。多くは無いかも知れないが、可能性は無くもない。

グローバルなキャリアを目指すのは、将来的に悪くない狙いだと思う。
ただ、問題は行内異動はそれほど簡単ではないということだ。何故なら、新卒採用時点でグローバル要員を別採用しているので、そこに途中から入り込む余地は以前と比べ相対的に少なくなっている。また、今後の流れとして、メガバンクも中途採用を強化しようとしている。そうなると、リテール部門から抜け出すのはますます難しくなってしまう。

英語が非常に得意であれば、そもそもメガのオープンに応募しなかったかも知れないが、入行後に海外勤務をアピールできるに足る英語力(例えばTOEIC900以上)を習得するのも楽ではない。

ただ、将来に備えて英語力を強化しつつ、異動を狙うというのは悪くない。
英語力があれば、行内異動が無理だったとしても、転職の幅が拡がるからだ。

②国内金融専門職を目指す

このキャリアを希望する若手のメガバンク行員は結構いそうである。
具体的には、グループ内の証券子会社やアセマネ子会社への異動を希望したり、それが無理そうなら、国内系証券IBDやGM、或いは国内系アセマネのリテール(個人向け投資信託)部門への転職を考えるケースだ。

メガバンクは難化したが、メガバンクのリテール部門が第一志望であった内定者が多いとは限らない。特に、早慶以上となると、総合商社、国内金融専門職コース等の内定が取れなくてメガバンクを選択した内定者は結構いるだろう。そういった人達が、入行後に異動や転職によってリベンジを狙うパターンだ。

この狙いは、もちろん悪くは無いのであるが、こちらも先ほどのグローバルキャリアへの転身と同様に容易ではない。メガバンクの市場部門、系列の証券会社はコース別採用をしているので、そこにリテール部門から途中で入り込む椅子の数は多くは無い。このため、英語力やCMA等でアピールが必要なことに加え、行内での高評価も要求される。

とりあえず、英語力強化や専門知識の学習をして挑戦してみる価値はあるが、ダメだった場合には、FASへの転身を図るという手もある。USCPAあたりを取得すると、転職のチャンスはあるはずだ。

③中小企業営業のプロを目指す

上記①②のコースには憧れるが難しい、それでも、アップサイドを目指したいというのであれば、リテール部門の中で中小企業営業を頑張って、その道のプロを目指すという手もある。

例えば、M&A仲介での商社を目指すという途がある。
メガバンクの行員であれば、M&A仲介会社に転職するのは難しくない。そして、M&A仲介で実績を出せば、年収2千万、3千万、さらにその上も実現できる可能性はある。

あるいは、外資系生命保険やソニー生命の歩合系営業(いわゆるプルゴリ系)を目指すという手もある。こちらのコースでも上手く行けば、年収数千万円が可能である。

ただ、上記に限らず、歩合系営業職は非常に大変である。
毎年、結果を出し続けなければならないというのは簡単なことではない。
特に、生涯賃金という長いスパンで見ると、歩合系営業職でメガバンクの生涯賃金を上回るのは一部の人達である。

突出して営業が得意であれば話は別だが、多少営業が得意で行内で良い評価をもらっているという程度では成功が約束されるわけではない世界である。このため、このキャリアを目指すのであれば良く考えた方がいいだろう。

3. 富裕層金融のプロを目指す

上記2以外で、新たなキャリアを開拓するのであれば、行内で富裕層金融のプロを目指すという手もある。少子高齢化で従来のリテール顧客層は減少が見込まれ、また、マス層はネット系金融と手数料競争をしても到底勝ち目がない。そうなると、残るは富裕層金融ということになる。実際、メガバンクに限らず、大手証券会社も富裕層金融は戦略的に強化しようと考えている。

確かに、富裕層基盤の拡大はというのはグローバルでの潮流であるし、専門スキルの習得も可能なので、富裕層金融のプロを目指すというのは悪くないかも知れない。

ただ、気になるのは、他の国々とは異なり、日本では富裕層金融は歴史的に上手く行っていないからである。20世紀末期の金融ビッグバンを機に、当時の世界の名だたる外資系金融機関が日本の富裕層市場(プライベートバンキング業務)に参入しようとしたが、どこも失敗に終わっている。クレディスイスがUBSに吸収されたので、今では、日本で富裕層金融ビジネスを展開している大手外資系金融機関はUBSくらいではないだろうか?

その理由としては、いろいろ考えられるが、最大の理由は日本の富裕層の規模感であろう。日本は富裕層の数自体は多いのだが、その1世帯当たりが有する金融資産の額が海外の富裕層と比べると非常に少ない。このため、提供できる商品や販売額の面で、効率的にビジネスを展開するのが難しいからであろう。

もちろん、10年後、20年後には事情は大きく異なる可能性もある。
しかし、現段階では不透明なところも多く、可能であれば、上記のグローバル金融キャリアや国内金融専門職系のキャリアを目指す方が手堅いだろう。

4. ベンチャー企業への転身

グローバルキャリアも国内系金融専門職も難しい。
富裕層金融もあまり興味が持てない。

そういった場合、ベンチャー企業への転身が気になる若手行員もいるだろう。
しかし、これは最もお勧めできないキャリアである。ベンチャー企業での勝ちパターンは非常に限られている。

25歳を過ぎてベンチャーに転職し、「やっぱり違った」と思っても、メガバンクに引き返すことはできない。また、ベンチャーで大した専門スキルが身に付かず、レジュメが汚れた状態では、他の大手事業会社への転職も難しい。

「CXO候補」とか「幹部候補」と言った言葉に惹かれるかも知れないが、苦し紛れのベンチャーキャリアは避けた方がいいだろう。

そのあたりについて興味があれば、こちらのnote記事をご参照下さい。
https://note.com/takatsu2019/n/n2d19ac30a3db

5. まとめ

20年後も、30年後もメガバンクが無くなるということはないだろう。
しかし、特にリテール部門の場合、今と同じ給与水準が維持できるとは限らない。
基本給を下げるのは難しいが、大手金融機関の場合、ボーナスの割合が結構高いので、ボーナスは比較的下げやすいし、ボーナスプールは変わらなくても社員間の配分が異なるかも知れない。

昔とは違って、メガバンクに入れば安泰というわけではない。
若いうちの何らかの強みを持たなければ、歳をとってからではキャリアの選択肢が限られてしまう。

上記の様なキャリアの中から自分に合った選択肢を模索し、それに応じた準備をすることが望ましい。

また、上とは切り口が異なるが、長期的に副業のために情報発信術を磨いておくという手もある。このあたりは、やるかやらないかで将来大きな差が付くので、始めるのは早い段階で試して欲しい。

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