1. 就活メディアのESのテンプレートを参考にしなければならないのか?
現在、就活においては多くの場合、ESの提出が求められる。ESの記載内容は企業によって異なるものの、志望動機、自己PR、ガクチカといった定番の項目がある。
これらのESについては、過去の内定者又はES通過者のESが、サンプルとして業種・企業毎に整理されている。
志望企業にESを提出する場合、必ずしも、過去のESをテンプレートして作成しなければならないということはない。しかし、実際は、就活メディアに掲載されているESとその解説記事に基づき記載されたESは多くなっている。
テンプレートに沿ったESを作成・提出する合理性は確かにある。他の大勢のそれと似たり寄ったりになるので、大きく差を付けられるリスクが減る。
また、現在の就活においては数十通くらいの大量のESを提出せざるを得ないこともあり、全てのESについてテンプレートと離れた独自のものをゼロから生み出すことには多大な時間と労力を要することになる。このため、効率化の観点から、テンプレート化されたESを参考にせざるを得ないという側面もあるだろう。
2. 就活メディアのESのテンプレートの問題点
①そもそも、採用者である企業は就活メディアのESの記載法を奨励している訳ではない
現実的には、数多くの就活生が就活メディアのESの記載例や記載法を活用していると思われるが、実は、採用者である企業はそのやり方を推奨している訳ではない。実際、過去のES通過事例や内定者のESを見ても、クオリティが高いとは到底思えないものも混在している。
それは当然で、ESは学歴フィルターとして使用されているという側面がある。また、語学、資格、体育会といったスペック面も判断材料とされる。このため、志望動機、自己PR、ガクチカ等の記載内容の質は低くても、学歴やスペックが高いため、通過したというケースは存在するだろう。また、その反対に、志望動機やガクチカは優れていても、学歴・スペックで優位性を欠くために、ES落ちとなったケースもあるだろう。
このため、就活メディアに掲載されているESやその記載法は、品質が保証されているとは限らない。
②似たり寄ったりになり、差別化が難しい
これは、ESのテンプレートを参考にすることのメリットの裏返しであるのだが、多数の就活生のESから大きく劣後しない代わりに、大きく優位に立つことも難しいことを意味する。
ESの記載内容で差が付かなくなると、あとは、学歴・スペックでの勝負ということになる。そうなると、高学歴・ハイスペックな就活生は良いが、学歴・スペックで劣後する就活生は逆転が難しくなることを意味する。
従って、学歴・スペックで不利な立場にある就活生は、ESのテンプレートから離れて、オリジナルな内容で勝負した方が戦略的である。
③中途採用では何の役にも立たない
学生は目先の就活に精一杯で、就職後の中途採用のことまで考える余裕がないかも知れない。しかし、せっかく入社した会社も3年以内に3割が辞める時代である。さらに、経団連の終身雇用終焉コメントや、コロナの様に何が起こるかわからない現代においては、数十年先まで安泰の会社を探すのは不可能に近い。ある程度転職することを前提としたキャリアプランが求められるだろう。
そうなると、建前論で固められた志望動機の作成方法や、ESテンプレートの「型」にはまった自己PRなどは、中途採用におけるレジュメの作成や面接での対応においては何の役にも立たない。いや、むしろ有害と言えるだろう。
終活と異なり、中途採用における転職ノウハウについては誰も教えてくれないし、就活のようなコンテンツは非常に少ない。このため、就活の段階から、自分自身の頭で考えた志望動機や自己PRを創造できないと、転職時において苦労するだろう。思考停止して、ESのテンプレートにひたすら当てはめることが習慣化すると危険である。
3. 銀行(メガバンク)のオープンコースのESについて考えてみた
上記の様な問題意識から、就活メディアのESのテンプレートには沿わない、志望動機、自己PR、ガクチカについて、銀行(メガバンク)のオープンコースを想定して考えてみた。
なお、ESでも面接でも、志望動機、自己PR、ガクチカの一貫性・論理性が非常に重要なので、このうちのどれか一つを他で見たテンプレートやサンプルから引っ張って来るというのは避けるべきことである。
志望動機というのは、自分が「将来」やりたいことである。そして、自己PRというのは、自分が「過去」にやってきたことである。従って、「過去」と「将来」の方向性は一致すべきであるので、志望動機と自己PRとの間には一貫性が無いと説得力が無いのである。
ガクチカというのは、自己PRのうちの大学生時代をクローズアップしたものであるが、「現在」やっていることという見方も可能である。従って、過去(自己PR)⇒現在(ガクチカ)⇒志望動機(将来)という繋がりが求められる。
以上の様な論理や時系列の流れを考えた上で、ESを考えて見るといいだろう。
①メガバンクのオープンコースの志望動機の例
<志望動機 例文400字>
「私の志望動機は銀行の「変革」にあります。少子高齢化に伴う国内市場の縮小やIT/AI技術の進展によって、店舗と人員の余剰化がネガティブに報道されていますが、それは本当でしょうか?
私はその逆だと考えています。IT/AIやスマホ端末の進化によって、店舗数は3割どころか9割削減も可能だと思います。同時にIT費用の削減を進めると大幅なコストカットによる収益性の向上が期待されます。
また、日本の富裕層市場は長期的に拡大し続けることが予想され、従来では収益化が難しかった富裕層向け金融ビジネスが成立すると期待されます。実際、米国では富裕層市場に対するオルタナ商品の導入が検討されており、グローバル超低金利の環境下、利ザヤの厚いオルタナ系の拡販は非常に魅力があります。
「変革」という観点では、財閥系の様なしがらみが無く、また、傘下に巨大な運用会社を有し多様なプロダクトの確保が期待される御行で是非挑戦したいと考えています。」
この志望動機はメガバンクのリテール営業の「変革」にフォーカスした。メガバンクの実店舗やATMの削減、IT/AI化はネガティブなトーンで報道されているが、そこを敢えてポジティブに捉えることとした。
そして、富裕層ビジネスやグループの資産運用能力の強化というテーマは、中期経営計画を参考にした。中期経営計画は志望動機を考える上でのネタの宝庫であるし、会社が世界中に公表している重点事項なので、これを利用しない手は無いだろう。
なお、このESはみずほ銀行を想定して書いてみた。金融機関の場合は、商社ほどは「何故当社」のウエイトが高くないかも知れないが、頻出質問である。それに対応できるよう、メガバンクの中で何故当社かという点も準備しておく必要がある。業界2位、3位の場合、説明が難しいかも知れないが、チャレンジャー的なポジションを魅力と考えることも可能である。みずほ銀行を想定した本ケースでは、非財閥系の自由さを志望動機として説明することとした。面接で聞かれた場合には、このESに沿って答えればいいだろう。
②メガバンクのオープンコースの自己PRの例
<自己PR 例文400字>
「私は、体育会の幹部や学園祭の委員として周りをグイグイ引っ張るタイプではありません。しかし、「居酒屋バイトで売上を増やした」とか「サークルの副代表として組織を運営した」という、ありふれた方法で満足するタイプでもありません。
私は幼い時から好奇心が強く、新しいもの、まだ周りが始めていないものを経験したがりました。そして、英語、プログラミング、SNS、仮想通貨というものに、同級生達よりも早いタイミングで興味を持って始めてみました。
大学に入学すると、IT/Aiの急速な技術革新に伴い、フィンテックによって金融機関が大きく変容されるという情報に触れ、また、海外で運用されている様々な商品に個人も投資が可能なことを知りました。そして、変革期の金融で働きたいと考え、英語、IT、投資の勉強を開始しました。
目立たないタイプかも知れませんが、「変革」プロセスにある業界においては、新しい発想を提供できるタイプだと自負しています。」
志望動機は「将来」のことなので、自己PRでは自分が実際に「過去」にやったことに言及することとなる。その際、なるべく幼少の時まで遡ったり、親族からの影響に係るエピソードを交えると、説得力が深まる。ただ、ESの400字を想定すると、幼少時代や家族のエピソードから書くスペースは無いので、ここでは特に言及しなかった。面接を想定して、このあたりのエピソードを用意しておくと良いだろう。
ここでは一捻りしてあって、あえて自分は典型的なリーダータイプではない点を述べている。これは、就活ではあまりにも多くの学生がリーダーになりたがるので、あえてそこを衝いて、自分の個性を強調しようとした戦略である。競争率が高いと印象に残らないと話にならないので、何らかの工夫をすることで自分の個性をアピールしたいところだ。
③メガバンクのガクチカの例
<ガクチカ 例文400字>
「私は大学入学後、変革期にある金融機関に興味を持ち、卒業後は金融機関で働きたいと思う様になりました。このため、大学生活においては、将来金融機関で活躍ができるための能力取得に重点を置きました。
まず、学業におきましては、金融機関で働く上での基礎となる財務会計系を中心に学習し、会計系のゼミに所属させていただくとともに、簿記2級を取得いたしました。これによって、企業HPのIR情報から中期経営計画や四半期報告資料から基礎的な企業情報や戦略を読み解くことができるようになりました。
また、私は金融商品、特に海外で運用されているプロダクトに関心があったため、売れ筋のグローバル株式とグローバル債券の投資信託に少額投資を行いました。少額でも投資をすると相場環境に対する関心度が非常に高くなったことが収穫だったと思います。
現在は、グローバル化の流れに対応できるために、語学学校に通い英語力の強化に注力しています。」
「ガクチカ」と言うと、就活メディアでは「大きなガクチカを書ける人は1%しかいない。従って、ガクチカは大きさではなく深さだ。」という旨のコメントが多く無いだろうか?それが原因かどうかはよくわからないが、ガクチカというと、バイトで売上アップや、サークルで弱体スポーツチームを強化した的なお馴染みのものがテンプレート化されている。
しかし、「ガクチカは大きさより深さだ」という事実は、採用者である企業が承認したわけでも何でもない。企業はガクチカの評価基準については何ら公表・開示していないはずだ。まず、この点に留意する必要がある。
そして、「大きなガクチカは1%程度しかない」からといって、安心できない。何故なら、商社、金融専門職、消費財系の人気メーカーの場合、形式的な競争率は100倍を超える。また、ESが通過したとしても、そこから内定までの実質的な倍率は数十倍にもなる。従って、1%の大きいガクチカを狙えるものなら狙うべきではないか?
そこで、ここでは、就活との関連性を重視した就活ガクチカにしてみた。学業、資格、少額証券投資、英語と個々のものは必ずしも大きくはないが、その全てを金融機関への就職という方向に合わせることによって、ガクチカを強化したつもりである。
もちろん、就活においては学歴・スペック・プレゼン能力といったところと、ES等のコンテンツの質を総合評価して判断されるのであるが、難関企業になればなるほど、ガクチカもテンプレート通りではなく、エッジを効かせることができるよう一工夫すべきではないだろうか?
最後に
ESを就活メディアのテンプレートに従って書くものだという考え方は問題だと思う。テンプレートの枠内で書いた作文では差別化することが難しい。それに、テンプレートに当てはめることばかりをやっていると、自分の頭で考えるという習慣が薄れてしまう。少子高齢化で国内市場の縮小が不可避なため、企業はグローバルで稼げたり、新しく創造的なビジネスで稼げる人材を強く求めている。したがって、テンプレートを参考にするなら良いが、もっと幅広い多様な観点からの思考がESにおいても求められているはずだ。
さらに、こういった紋切り型のES作成能力は、中途採用では通用しない。新入社員の3割が3年以内に辞める現在においては、中途採用でも通用するスキルを磨きたいものだ。
テンプレート通りのESは、滑り止めや練習用の企業では使えるかも知れないが、本命企業においてはテンプレートから離れて自分の頭で考えたいものだ。前例の無いものを作成するのは不安があるかも知れないが、それは、OB訪問等で検証してもらえば良いだろう。