序. 就活における志望動機とは?
①ESや面接で必ず問われる志望動機
就活において志望動機は、ES・面接で必ず問われる項目である。採用側からすると、志望動機を聞けば、就活生の知識・能力、フィット感、志望順位の高低を知ることが出来る。表面的で無個性な志望動機しか語れないと、企業分析能力、モチベーション、入社する可能性等の低さが伝わり内定が遠くなる。
他方、当該企業だけでなく業界全体や関連する業界までも深く研究し、自分のやりたい仕事を具体的にイメージしていることが伝われば、能力の高さややる気が感じられ、高い評価をされるだろう。
②志望動機と自己PR、ガクチカとの関係
就活のESや面接において、志望動機と同様に、必ず問われる項目として、自己PRとガクチカがある。これらはバラバラの項目ではなく、説得力のある志望動機を考えるにあたっては、自己PR・ガクチカと一貫性のある志望動機を考える必要がある。
志望動機というのは自分が「将来」やりたいことである。そして、自己PRというのは自分が「過去(現在も含む)」にやってきたことである。ガクチカというのは、「過去(現在も含む)」のうち、大学入学後にやってきたことであり、現在進行形のものも含まれる。
以上を前提とすると、自分が過去から現在までやってきたことと、自分が将来やりたいこととの間に共通点、共通の価値観が求められることとなる。そうすると、一貫性が認められ、志望動機に説得力が生じることとなる。
例えば、今まで全く自分がやってこなかったし、興味も持たなかったと思われることを、入社後にやりたいと言っても説得力が無い。過去に海外在住経験が無く、英語も全然勉強していないのに、「将来グローバルで活躍したい」と言っても評価されないだろう。
反対に、中小企業経営者の家庭で育ち、大学時代に起業体験があれば、「入社後は新規事業に参画したい」という志望動機は伝わりやすい。
これは、業界に関係なく普遍的な志望動機に関する考え方だと思われる。
1. 生保・損保の志望動機
①ホンネは給与水準の高さ、安定性というのが多いのだろうが…
大手の生保・損保は昔も今も就活生にとって人気が高い。もっとも、仕事の大半は(一部の少数の運用職の除くと)保険商品の販売関連なので、その仕事に憧れるというよりは、給与水準の高さや安定性、ステータス性がホンネの志望動機なのであろう。
特に、業界トップの東京海上日動火災と日本生命は給与水準が非常に高く、基本的に終身雇用であり、退職金や企業年金等を含めた福利厚生も非常に充実している。また、金融業界におけるプレゼンスも高く、人気が高いのは理解できる。
とは言え、そういった待遇面の良さを志望動機とするわけにはいかないので、改めて就活用の志望動機を考える必要がある。
②多くの学生はIR資料の読み込みが不十分?
説得力があり、採用担当者から評価される志望動機を考えるにあたっては、就活生向けのパンフレットや新卒サイトだけでは不十分である。何故なら、そういったコンテンツは就活向けに美化したものなので、実態を反映したものではないからである。
そこで、企業のIR資料を十分に読み込む必要がある。生保の場合、第一生命、T&D以外の大手は非上場であるが、中期経営計画は作成・開示がされている。
<東京海上日動火災の中期経営計画>
https://www.tokiomarinehd.com/company/management/plan/
<日本生命の中期経営計画>
https://www.nissay.co.jp/news/2020/pdf/20210319b.pdf
実は、この中期経営計画は志望動機を考えるにあたって、ネタの宝庫であるのだが、早慶や有力国立大学の学生でも十分に読み込めている学生は非常に少ない。
ということは、反対に、この中期経営格を熟読して正確な理解をすることが出来れば、他の学生に志望動機において差をつけることが出来るということである。
これらを読むと、東京海上日動火災も日本生命もどちらも保険会社のトップ企業であるが、将来の経営戦略においてかなりの差があることがうかがえる。(例えば、海外、M&A、デジタル等、東京海上日動火災の方が、より具体的な施策に言及している。)
③何でもかんでも「社会貢献性」とまとめるのは感心できないが…
就活生のESの志望動機で業種を問わず、非常によく見られるのが、「社会貢献性」とまとめることである。
銀行であれば「コロナの状況下、中小企業に融資を行い支える社会貢献性」、証券会社であれば「年金2000万円問題に対応すべく、個人投資家に投資教育や投資商品を提供できる社会貢献性」、アセマネであれば「ESG投資を通じた社会貢献性」といった具合である。
何が問題かというと、まともな大企業であれば何らかの社会貢献に繋がる活動をしているはずなので、その業界・企業を志望する理由にはならないからである。また、特に深い企業研究をしなくても誰でも書けるので差別化できないという問題点もある。
このあたり、中期経営計画やその他のIR情報を熟読して、もう少し深くて差別化可能な志望動機を意識すべきだろう。
2. 損害保険:東京海上日動火災の志望動機を考える
①損害保険の一般的な志望動機
損保業界の志望動機にはいろいろな切り口があるだろうが、とりあえず「リスク」に正面から着眼すればいいのではないだろうか。最近では、地震や台風等の自然災害の脅威が高まっている。また、サイバーセキュリティの様な人的リスクの脅威も高まって来ている。
そのリスクを相互扶助の精神とテクノロジーによって解消/低減するサービスを提供する保険ビジネスに妙味を感じると言っても不自然ではないだろう。
そうすると、「銀行/証券でも良くない?」というありがちな突っ込みをされても平気だろう。損保ビジネス特有の業務内容に魅力を感じていることが明らかに伝わるからだ。
これに、前述したように、過去の自分の経験や思いから、リスクと対峙することに繋がるエピソードを関連させれば、より説得力は深まるはずだ。
②東京海上日動火災の志望動機
上記①だけでは志望動機として完成しない。「何故損保?」に対しては答えられるが、「何故当社?」に対する理由も用意する必要がある。
この点、業界トップの東京海上日動火災の場合は、あまり突っ込まれないかも知れないが、「業界トップだからです」というのは感心できない。
そこは、中期経営計画を読み込んで、東京海上日動火災の戦略の特徴を掴んだ上で、自分の過去や現在の経験におけるエピソードと方向性が同じであることを伝えていく必要があるだろう。
「デジタル」「自動運転」「海外事業」「国内営業」とキーワードはいろいろあるが、自分の体験や特技に関連するものから攻めたい。語学や海外経験に自信があり、グローバル・リーダーシップがアピール可能であれば「海外事業」に従事したいという流れにすれば良い。Web・SNS、起業経験のガクチカがあれば、「デジタル」「新規事業」「インシュアテック」という方向性を軸に志望動機を構築すれば良い。いずれにしても、自分の個性や特技との関連性をよく考えることが重要だ。
3. 生命保険:日本生命の志望動機を考える
①生命保険の一般的な志望動機
生命保険に限らず、銀行、証券、損保等の日本の金融機関の将来の見通しは厳しい。何故なら、既に影響は出始めているが、少子高齢化に伴い国内市場の縮小は不可避なので、国内市場がメインの国内金融機関は難しい状況にある。
このため、国内金融機関は海外で稼ぐか、新規事業(或いは新規の商品)で稼ぐ他無いのである。
特に、将来も明るい収益機会を見出しにくい生保の場合、気の利いた志望動機を考えるのは難しい。そこは、開き直って、逆バリ的な発想で攻めるしかないだろう。
例えば、(1)コロナの状況下、得意の対面ビジネスが制限され、超低金利による運用難という逆風だからこそ、(2)否応なくオンライン化が進展し、隙間商品の開発や新たな販売チャネルの開拓が求められ、(3)DX化の進展、インシュアテック、多様なプロダクトという業務改革にチャレンジできる機会がある、というイメージだろうか。
②日本生命の志望動機
日本生命の場合、こちらも業界トップ企業なので「何故当社?」的な突っ込みはあまり無いかも知れない。しかし、プライドの高い会社であるので、「メガではなく、野村證券ではなく、東京海上日動でもなく、何故日生?」というところを説明できるようにしておいた方がいいだろう(ESでは書かなくても、面接を想定して)。
中期経営計画を見ても、これといった目新しい施策は見当たらない。「国内保険市場の深耕」「グループ事業の強化・多角化」「運用力強化・事業費効率化」といったものは、当たり前のことである。この点、東京海上日動火災の方が海外展開、テクノロジー、M&Aといった打ち手が明確なのは、上場・非上場というガバナンスの違いなのであろうか?
結局、生保一般の「変革のチャンス」というのをキーワードに、経営資源に優れる日生は2位以下を大きく引き離すチャンスだというシナリオが無難だろうか。
4. 東京海上日動火災や日本生命は、将来も現在のような高給を維持できるのか?
ここは、就活向けのES・面接における志望動機からは離れるが、ホンネの志望動機には密接に関連するところである。それは、20年後、30年後も東京海上日動火災や日本生命は現在のような高給を維持できるかということである。
就活向けの志望動機は別として、生保や損保の営業が面白いから、給料は減っても問題ないという就活生はいないのではないか。この手は、給料が半分になっても志望者は大して減らないとも言われる、電通やキー局との違いである。給料が減ると、就職する意味も減るのである。
何が起こるかわからない現代社会において、数十年後も両社が高給を維持できるかは誰もわからないだろう。ただ、業界の中の人に話を聞いても、今の様な高給を維持することは難しいと言う人が大半なのは悲しい話である。(もっとも、それは生保・損保に限らず、銀行、証券も同じであるが)。
しかし、既に両社ともに、給与水準は微妙に10年前よりも下がってきているようである。このまま行くと、以下のブログ記事における年収水準もリライトしなければならないだろう。
<東京海上日動火災の年収、就活>
https://career21.jp/2019-03-22-064501/
<日本生命の年収、就活>
https://career21.jp/2019-03-23-072129/
もっとも、給与水準の低下は急に起こる訳ではない。このため、将来に向けていろいろな準備をする猶予はある。いずれにしても、20年、30年先も高収入を維持するためには、副業で稼げることを目指したり、海外経験をしたり、DX/新規事業に参画したりすることによって市場価値を高めることが不可欠だろう。
両社ともに非常にコンサバで年功序列色が強いので、総合コンサルのように仕事ができないとすぐに淘汰されるというようなリスクは無い。このため、ファーストキャリアとして選択するのは悪くはないが、終身雇用を前提とするのはリスクが高く、今後は市場価値・転職価値を意識したキャリアプランを用意すべきであろう。