金融志望の就活生が高給メーカーに鞍替えすることについて考えてみた

1. 高給安定の大手金融機関も先行き不安?

5年以上前は、有力大学(特に文系の)の就職先ランキングのトップはメガバンクであった。しかし、IT化の進展に伴い店舗数は減少し、新卒採用者数も大幅に減少した。

また、大手生損保は、メガバンクほど採用者数を減らしてはいないが、こちらも少子高齢化とIT化の影響を受けるので、先行きはいろいろと不安である。
(この件についてはこちらのブログ記事もご参照下さい)
https://career21.jp/2019-07-25-164727/

実際、最近では、メガバンク、大手証券、大手生損保より若干(2割程度?)給与水準は下がるものの、大手金融機関の様なリテール営業の無い、大手のリースやカード会社が人気のようである。

そこで、大手金融機関の志望者が、金融から離れて、高給メーカーに鞍替えすることの是非が気になるところである(もちろん、鞍替えでなくて、併願もあり。)

2. 高給メーカーに鞍替えすることのメリット

①そもそも、高給メーカーにはどういった企業があるか?

IBD、GM、アセマネといった金融専門職ではなく、漠然と大手金融機関の総合職オープンコースを志望する就活生は、年収が就活の軸の1つになっていると思われる。

そうすると、大手でも一般的なメーカーの場合には、年収水準は大手金融機関の半分位だったりもする。そこで、年収を軸とする場合、こういった給与水準が一般的なメーカーは大手金融機関志望者の対象となりにくい。

そこで、「高給」メーカーが鞍替えの対象となり得るのであるが、もちろん「高給」といっても大手金融機関よりは劣る。したがって、ターゲットとなる高給メーカーは、大手金融機関の7-8割位の給与水準のメーカーと考えていいだろう。高給メーカーの例としては、網羅性は無いが、一般的にこういった会社が想起される。

AGC、富士フィルム、キリン、サントリー、味の素、出光興産、旭化成、キーエンス、三菱ケミカル、三菱ガス化学、ファナック、トヨタ、日本製鉄、武田薬品、東京エレクトロン、任天堂…

②高給メーカーに行くメリット

それでは、年収を2~3割下げて、あえて大手金融から高給メーカーに鞍替えするメリットは何だろうか?

まず、20年以上の先を見据えると、ジリ貧の国内市場中心の大手金融(特にリテール部門)よりも、国際競争で海外勢と戦って揉まれている優良メーカーの方が強いのじゃないかという期待感だ。

もちろん、メーカーには、外部環境の変化によってプロダクト自体が無くなったり、陳腐化するリスクがあるので、このあたりは何とも言えない。ただ、大手金融機関の中でも、海外や新規事業で全く稼げない企業は、少子高齢化とDX/IT化の流れは不可避なので、リテール部門は厳しいことが見込まれる。そうであれば、長年競争力を維持できているメーカーの方が強いという見方もできるであろう。

また、大手金融機関はコース別採用に伴い、国内リテールから海外駐在を狙うことは難しくなってきている。もちろん、国際メーカーであれば海外に赴任できるという保証はないが、大手金融機関よりはチャンスがあると言えるのではないか?せっかく、国際メーカーに就職するのであれば、長期的なスキルやビジネス経験のために、海外勤務を目指してみたいものである。

第二に、金融は規制業種であるのに対して、メーカーは規制業種ではないということである。もちろん、メーカーも各業界毎の規制は受けるが、業務内容やプロダクトは各社毎に大きな違いがある。例えば、損保ジャパンと三井住友海上の違いと、トヨタとホンダ、味の素とサントリーの違いをイメージすればいいだろう。

この点については、どちらがいいという訳でもないが、各企業毎に個性があり、プロダクトの差異も大きいという世界を好むのであれば、金融よりもメーカーを選択する理由となり得る。

第三に、メーカーの方が、金融と比べて、マウントを取りあう空虚な競争が不要な環境で働けるのではないかということである。もちろん、メーカーの中でも業界内や社内における序列は当然あるだろう。しかし、ある意味、金融ほど、業界や社内における序列が激しいところは無いのではないなかろうか。

もちろん、これは主観的な切り口なので、絶対的なものではないが、OB訪問等で金融機関と比較をすると何となく感じることができるかも知れない。

3. 高給メーカーに鞍替えすることのデメリット

①そもそも高給メーカーの方が内定を取りにくい?

東大、早慶等の有力校の文系学部においては、何故か、金融>メーカーという雰囲気がある。その理由としては、一般的に金融の方が給与水準が高いということと、メーカーは理系が主役ということだろうか。

ただ、内定の取り易さという観点においては、大手金融機関の総合職のオープンコースよりも、高給メーカーの方が難しいと思われる。理由は単純で、採用者数が大手金融機関のオープンの方が遥かに多いからだ。もちろん、ニトリとか富士通の様に文系の学生を大量採用してくれる会社もあるが、上記の高給メーカーに絞ると、文系学生の枠は少ない。

また、難易度の話は置いておいても、メーカーは上述の通り規制業種では無いので、同じ業界においても業務内容は異なるし、業界が異なればもっと違いは大きい。したがって、複数の業界に跨って、高給メーカーを複数受けると、業界企業研究や面接対策等の負担が大きくなってしまう。

②僻地工場勤務のリスクがある

金融機関も専門職や一部のエリート以外は、転勤リスクがあるだろう。
しかし、金融機関の場合、地方に転勤と言っても、ほとんどは県庁所在地かそれに準じた県内の大都市である。

他方、メーカーでは工場があるので、県庁所在地まで車か電車で1時間、中には、最寄りのコンビニまで車で30分というところもある。

僻地勤務も、自然が好きで、お金を貯めたい(出費を抑えやすい)という人にとっては悪くない場合もあるが、中にはどうしても嫌だという人はいるだろう。

従って、高給メーカーへの鞍替えを検討するにあたっては、僻地勤務でも自分は大丈夫かどうかについて十分考える必要があろう。

③金融>メーカーの呪縛から逃れられるか?

高給メーカーでも、今のところ大手金融機関には劣るし、特に有力校の文系学生の間では、今でも、金融>メーカーというヒエラルキーが存在するので、その点について納得できるかどうかも要検討だ。

もちろん、これは内定後の空虚な学内マウント合戦なので、どうでもいい話であるが、そのあたりも踏まえて、納得した上で就職をしたいものだ。

4. 最終的には、仕事の面白さを感じられるかどうか

私としては、大手金融機関のオープン総合職(大抵はリテール)よりも、高給メーカーを勧めるわけではない。しかし、少子高齢化とIT化(取引のオンライン化)を考えると、思考停止して、とりあえず大手金融なら何でもいいという発想はリスクが高いと思う。もちろん、大手金融機関が20年後に潰れるとは思わないが、現状の給与水準を維持できなくなるリスクは十分あると考えている。

もちろん、安泰では無いのは高給メーカーも同じである。
従って、高給メーカーに鞍替え(併願でもよい)するポイントしては、そのメーカーの仕事やプロダクトに興味を持てるかどうかだと思う。

全くクルマに興味が無い学生がトヨタに行くのと、クルマが大好きな学生がトヨタに行くのとでは、満足感は全然違うだろう。待遇だけを見て業界・企業選びをするのであれば、とりあえず大手金融という発想とあまり変わらない。

ただ、興味を持てるプロダクトのある高給メーカーがあれば、金融志望者も検討する価値はあるのではないだろうか?

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