【書評】 立花岳志著「起業メンタル大全」 ~「1人起業」の魅力と実行法~

1. 圧倒的なボリュームとリアリティ

著者の立花岳志さんは、著名なブロガーだ。
彼は、2011年4月に起業・独立し、ブログを起点に、著作業、コンサル業、セミナー企画・主催等、様々なビジネスを展開してきている。
(ちなみに彼のブログはこちら)
https://www.ttcbn.net/

本書は、A5判で460頁に及ぶ大著であり、そのボリュームと、かれの実体験に基づいたリアリティに溢れる記述が特徴である。
https://www.jiyu.co.jp/shakaikeizaijinbun/detail.php?eid=03992&series_id=s03

本気で起業・独立を考えている人にはお勧めの1冊である。

2. 「1人起業」の紹介と実践の秘訣

①「1人起業」とは何か?

起業といっても様々な種類がある。
IPOを目指して、分厚いビジネス企画書を書き、銀行やVC等から億単位の資金調達を実施し、オフィスを借り、スタッフを採用し、とにかく規模の拡大を目指すということを想像する人もいるだろう。

しかし、著者の立花さんが得意なのは、その真逆の「1人起業」であり、従業員は自分1人で、外部からの借り入れや資金調達は無く、オフィスも従業員も在庫も持たない、非常にシンプルな起業である。

パソコン1つで自宅をオフィスにビジネスを始めるタイプの身軽な起業である。

②「1人起業」だからといって、ショボいものではない

従業員は自分1人で、自宅でパソコンだけで起業というと、「ただのフリーランスか…」とがっかりする人もいるかも知れないが、全くそうではない。

年収のイメージで言うと、月収200~300万円位を目標に、情報発信を武器に時給労働ではなく、様々なビジネスを展開して収益を得るスタイルである。実際、著者の立花さんは全盛期にはサラリーマン時代の7倍以上の年収を実現し、六本木にセミナールームを有し、自宅は別途麻布十分と鎌倉にあるという、凄い生活をされていた。(このあたりの経緯は彼のブログに詳しく書いてある)。

③理想の形は、生活=趣味=仕事となるスタイルである

「1人起業」は決してショボいものではないということがわかると、興味を持っていただけるだろうか?「1人起業」の魅力は、年収のアップサイドだけではなく、自由な働き方にある。

本書において立花さんが語る理想の「1人起業」は、生活=趣味=仕事となる暮らしぶりだ。
イメージとしては、朝起きて、頭が冴えているうちに、今日することをチェックし、ビジネスアイデアを考える。それが終わると、(彼の場合)鎌倉の海岸をジョギングするが、これは単なる趣味や生活ではなく、それをブログや書籍のコンテンツになるため、仕事でもある。そして、朝食を作って食べるのであるが、これもブログやFacebookのネタになるので、収益や集客に繋がり、仕事であるとも言える。その後、午前中はブログやnoteの執筆や書籍の原稿を書いたり、セミナーのコンテンツを作成したりする。それが終われば、昼食であるが、外食した場合には、それがブログ記事になり、それがきっかけでビジネスに繋がることもある。実際、著者の立花さんがブログで鮨屋を紹介しまくっていたのを鮨屋が見て、コンサル依頼が来たぐらいである。午後は個人コンサルとかセミナーの開催にあてるが、3時位には終了する。その後はフリーで、友人と夕食や飲み二行けば、またそれ自体がビジネスコンテンツにもなる。そして、夜は趣味の読書をしたり、自分自身がセミナーを受講したりする。これが結構重要でインプットをしないと、商売のタネとなるコンテンツが作れないのでこの点は重要である。

非常に羨ましい気がするが、これが「1人起業」の理想的な形だそうだ。

3. 「1人起業」を実行するには?

「1人起業」は在庫もオフィスも従業員も不要であるので、実行することは難しく無いようにも見えるが、しっかりとした収益を上げて売上を順調に拡大していくことことは、それ程簡単には行かない。

成功するためには、きっちりとした準備が必要であるし、センスやスキルも求められるし、何よりもコツコツと継続していかねばならない。

本書では、このあたりのポイントが具体的に記載されている。
そして、書名に「メンタル」という用語がつくだけあって、「1人起業」を実践して行く上での心構えや考え方が、著者自身の経験を踏まえて詳細に記載されている。

本書は非常にボリュームがあるので、その中の一部に過ぎないが、「1人起業」のポイントとして、以下のようなことが述べられている。

①ビジネスプランのポイント

「1人起業」も起業である。フリーランスで時間切売り型のスタイルとは異なり、自らが経営者としてビジネスプランを練る必要がある。

自分が「好き」なことを仕事にしないとわざわざ独立する意味は無いが、「好き」だけでは不十分であり、好き×得意×稼げるという3つが必要だという。

例えば、料理が好きだとしよう。しかし、料理が好きでもレパートリーが寂しかったり、見栄えや味が悪いと話にはならない。従って、「得意」であることも必要だ。ただ、料理が得意であっても、まだ不十分である。何故なら、それを収益化しないとビジネスにならないからである。そのためには、InstagramとかYouTubeで情報発信をコツコツ継続して、多くのフォロワーを獲得することが求められるだろう。

著者は、これを、好きなことと収益化との「ブリッジ」を称している。
起業しようと思えば、この点を予め詰めておく必要がある。

②副業で実践

これは現実的なアドバイスなのだが、「1人起業」で成功するには猪突猛進型が好ましい訳ではない。著者は、独立をする前にある程度副業で実践すべきだと説く。生きていくためにはお金が必要であるが、自分が企図したビジネスを実行しても、なかなかすぐには稼げない。そうすると、生活費の捻出のために、アルバイトをしたり、時間切売り型の案件に走ってしまい、本来自分がやりたかった好きな仕事が出来なくなってしまう。また、心の余裕が無いと、良いアイデアは浮かんで来ない。このような事態を避けるためにも、予め、副業で実践すべきということだ。

③情報発信

「1人起業」で売上を立てるには、自分自身のプロダクトを持ち、それを集客して販売しなければならない。ここでカギとなるのが「集客」である。最高のプロダクトを持っていたとしても、それが誰かに伝わらないと売上にはつながらない。

店舗やセールス部隊を持たない「1人起業」の場合には、情報発信をして、フォロワーを集め、自分自身のプロダクトの購買予備軍を育てておく必要がある。

著者の立花さんは、ブログ、note、Twitter、フェイスブック、Instagram、YouTubeと幅広く情報発信を行うべきだと説く。この具体的なコツについては本書で取り上げられている。

④収益化のポイント

本書では、収益化のポイントとして、(1)自動化と(2)レバレッジを指摘している。
1人しかいないので、対面型のコンサルだけでは、時間と労働力の点で限界がある。この点、アフィリエイト、noteの販売といった、(1)のいわば自動化された収益源が必要となる。また、対面コンサルだけではなく、zoomを用いて一度に複数の人の受講が可能なセミナーを実施したり、過去の動画を販売するというレバレッジも効かせる必要がある。

⑤自己投資と事業投資

当然に思えるかも知れないが、サラリーマンが苦手なのは自己投資と事業投資だ。
何故なら、サラリーマンの場合、経費は会社が支払ってくれる癖がついているので、将来収益化が不確かなものに先行投資することには億劫である。

自己投資は本を買ったり、セミナーに出席したり、有料コンテンツを買ったり、コンサルを受けることであるが、このインプットが自らのプロダクト、コンテンツの質を左右するので、サラリーマン時代以上の水準が求められる。ここをケチる人には「1人起業」は向いていないかも知れない。

それから、事業投資はサラリーマン時代には経験できないものである。
「1人起業」の場合、経費はそれほど掛からないとはいえ、IT面を改善しようとすると、数十万円位の費用がかかる場合もある。また、セミナーのためにはセミナールームを借りるという選択肢もあるが、その場合には、数百万円の支出が必要となる。ただ、ビジネスを大きくするためには、予めお金を使わない局面が必ずあるので、そこで思い切って投資ができかできないかが成否を分けることになる。

⑥起業・独立のタイミングとお金について

起業・独立するには十分な準備とお金がある方が望ましいのは当然である。
この点、著者は上記とは若干矛盾する点もあるかも知れないが、人によっては、「これが起業・独立するタイミングだ」と思えば、その時点で独立するのもアリだという。

著者の場合は、2011年4月に独立した当初はブログからの収益は月に2万円しかなかったが、それを10倍、20倍にすることは可能だという「自信」があったので独立に踏み切った。自信とやる気があれば、結果は後から付いてくるという考え方もある。

この点、本書での著者の独立の経緯は興味深い

最後に

「1人起業」は夢があるし、サラリーマンには「定年」があるので、定年後を見据えると、より多くの人が「1人起業」を真剣に考えてもいいのかも知れない。

本書はとにかくボリュームがあり、筆者の経験に裏打ちされたリアリティに溢れているので、起業・独立に興味があるサラリーマンは年齢に関係なく是非読んでみて欲しい。

既存の起業ノウハウ本とは全く違った切り口で書かれているのではないかと思う。

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