1. 40歳を過ぎるとサラリーマンのキャリア・チェンジは難しくなる
新入社員の約3割は3年以内に新卒で入った会社を辞めてしまうそうだ。いい意味で、昔と比べて転職市場の流動性は高まったのかも知れない。大企業もベンチャー企業も、就活戦線を勝ち抜いた能力があり、最低限の社会人としてのマナーも叩き込まれた25歳位までの若手サラリーマンに対するニーズは非常に強い。
他方、20世紀と比べると、中途採用市場は拡大したのであろうが、年齢が高まるにつれ、転職することは難しくなる。これは、日本の大企業が終身雇用を維持しているため、40歳以上の管理職の社員を切ることができないからだ。社内に、40代、50代の社員が大量に滞留しているから、外部から優秀な管理職社員を採用して組織の活性化を図りたくても、ポジションを作れない以上、中途採用をすることが出来ない。
昔から日本企業の中では積極的に中途採用を実施している金融業界でも、35歳以上の管理職での転職が難しいのはこのためである。
ただでさえ、求人ポジションが限定される40歳以上のサラリーマンは、未経験の業界や職種に転職することは非常に難しい。
2. MBAは未経験の業種・職種に就くことを可能にする手段なのだが…
キャリア・チェンジの有力な手段として、MBAがある。欧米においては、有力なMBAを取得すると、未経験の業種や職種に就くことも可能である。例えば、商社に勤務していた者が、IBD、PEファンド、アセット・マネジメントといった金融業界に転職することや、金融機関に勤務していたものが戦コンやGAFAMに転職することも十分可能である。
もっとも、MBAの場合、年齢的に20代後半から30代前半位が主流である。ミッドキャリアMBAやEMBAというコースもあるが、それでもキャリア・チェンジの手段として有効に機能するのは、せいぜい40歳位までではないだろうか。
また、35歳を過ぎると、結婚して家庭があったり、管理職になって年収が1000万円を超えていたりする。そうなると、会社を辞めたり、休職して、海外留学をするというのは非常に採りにくい選択肢となる。
3. 国内MBAは海外MBAと比べると、非常に取得しやすいが…
①全日制のMBAと夜間のMBA
日本においては欧米のように、MBAをキャリア・チェンジの手段として使われる歴史は無かった。しかし、今では非常に多くの有力校がMBAコースを設けている。
国内MBAの場合、主として平日の昼間に授業が行われる全日制のコースと、平日の夜間と土日に授業が行われる夜間のコースとがある。前者をフルタイムMBAと言うのに対して、後者をパートタイムMBAという言い方をする場合もある。
全日制の場合は、会社を辞めるか或いは休職しないと通えないので、若手のサラリーマンが利用するケースが多い。他方、夜間の場合には、仕事を続けながら通学することが可能なので、30歳以上の中堅サラリーマンの割合が相対的に高くなっている。
また、全日制の場合は、学生が無職であることを想定しているため、大学側も就職の世話までしてくれることが多い。他方、夜間の場合は、必ずしも就職或いは転職を前提としていないので、大学側の就職・転職サポートが不十分な場合が多い。
②国内MBAに行くことの目的は何か?
日本の場合、MBAの歴史は短く、企業からの評価が必ずしも高いとは限らない。現在働いている会社で出世(社内評価)においてプラスに働くわけではないし、転職市場における選択肢が拡がるとも限らない。
それでは、何の目的で国内MBAに行く人が多いのであろうか?
その目的として考えられるのは、「学歴アップ」「学位の取得」という、学歴に関するステータス的なものであろう。
国内MBAの場合は、欧米の有力MBAとは異なり必ずしもキャリアアップに繋がる訳ではない。しかし、だからこそ、国内MBAに優秀なサラリーマンが殺到するわけではないので、国内の場合は有力校であっても入学することはそれほど難しい訳ではない。例えば、早慶クラスであってもせいぜい競争率は2倍程度であることが多く、それ未満の学校については実質全入に近いところもある。
早慶の場合、学部で入学することは付属・推薦経由でも一般入試でも非常に難関だが、MBAコースを利用すると、わずか2年で正式な早慶の学歴を取得することができるのである。日本の場合も、学歴に対する拘りが強い人は少なくないので、これは非常に大きなメリットと感じる人はいるだろう。
さらに、MBA(経営学修士)という学位もつくので、学歴強化という観点からのメリットは大きい。
③国内MBAはキャリア・チェンジに有用なのか?(特に夜間の場合)
国内MBAに行くメリットとして、学歴向上(いわゆる「院ロンダ」)や学位の取得(MBA(経営学修士))があることは理解できる。
それでは、キャリア・チェンジとしてのメリットは有るのだろうか?
この点については、全日制と夜間について分けて考える必要がある。前述の通り、全日制については、無職の学生を想定しているので、ある程度、大学側が就職・転職のサポートをせざるを得ない。そうでないと、優秀な生徒を確保することが出来ない。
全日制の就職状況については、部分的ではあるが、各校がHP等において開示をしている。
<慶應ビジネススクールと就職>
http://www.kbs.keio.ac.jp/graduate/mba/career.html
<早稲田ビジネススクールと就職>
https://www.waseda.jp/fcom/wbs/applicants/career
<一橋大学ビジネススクールと就職に関するブログ記事>
https://career21.jp/2019-03-26-170920/
これを見ると、人気企業への就職は十分可能なように見える。もっとも、外銀、戦コン、商社のような学部生でもなかなか入社することが難しい超難関企業への就職は難しいかも知れない。
どうせ行くのであれば、ネームヴァリューの面や、就職力の面で、上記3校がお勧めであるが、一橋は国立なので授業料が非常に安い。このため、国内MBAの中では例外的に非常に入学しにくいということについては留意が必要である。
ただ、問題は夜間MBAの方である。こちらは、仕事を持っている学生が働きながら通学することを想定しているので、大学側は転職のサポートをしてくれる訳ではない。というか、普通に通学して卒業するだけでは、キャリア・チェンジは難しい。もちろん、ある程度の転職の機会も付与されるが、限定的であり、自らエージェントに登録して積極的な転職活動をしないと転職は難しいと考えた方がいいだろう。
それに、国内MBAの場合、学位を取得できたとしても、それが特に転職における市場価値にプラスに働くわけでもない。
④夜間MBAのキャリア・チェンジにおけるメリット
夜間MBAの場合、大学側の手厚い転職サポートが有るわけでもないし、学位を取得したところでそれが転職における市場価値を高めてくれるわけでもない。
しかし、夜間MBAのキャリア・チェンジにおけるメリットが無いわけではない。
最大のメリットは、人脈、ネットワークが出来るということであろう。国内MBAの場合は、学部とは違って、少人数で議論をしたり、共同作業をしたり、授業後に飲みに行ったりと、強固な繋がりが生まれやすい。また、OB会も開かれ、直接面識が無くても縦のつながりも強い。
従って、大学側の転職サポートが無くても、MBAのコネを使って転職活動や、起業・独立に向けた活動を支援してもらえるというメリットはある。
その点、卒業生の人数が多い(2021年7月時点で5000人超)グロービスMBAは、ネットワークという点では強みがあるかも知れない。
<グロービスMBA>
https://mba.globis.ac.jp/feature/support/
また、夜間MBAコースのカリキュラムにおいて、自分の業務とは直接関係の無い分野についても学習することはできるし、他業界の学生と接することによって幅広い業界の知識を入手することも可能となる。
以上のようなメリットが、MBA取得に要する費用と労力に見合ったものかどうかは、その人次第だろうが、40歳以上のサラリーマンにとっては、何もしないよりは自らの市場価値を上げるのには有用ではないか?
40代のサラリーマンがキャリア・チェンジをすることは非常に難しいので、ニーズに合うのであれば、こういった国内MBA(特に夜間コース)を利用するのも1つの方策であろう。