大手生保の30代社員のフィンテック転職について考える

1. 大手生保の社員もキャリアチェンジを考えたくなる?

大手生保というと、高給安定であるが、汎用的な転職スキルが習得しにくいので、終身雇用を前提にキャリアを考えるのが基本となる。

しかし、少子高齢化で国内リテール市場の縮小が不可避である中、20年後も現在の給与水準が維持される保証は無い。また、大手生保に十数年勤務し、リテールと本社部門(企画系)を経験すると、生保の業務が一通り見渡せてしまったので、次は他の仕事もやってみたくなったりもする。

そして、少し前の話になるかも知れないが、フィンテックが盛り上がり、フィンテック系企業という転職の新たな選択肢も出て来た。

そこで、少し前のフィンテックブームの際にそれなりに見られた、大手生保からのフィンテック転職の着眼点について、ケース仕立てにして考えてみたい。

2. 割とみられるケース ~大手生保の30代社員の場合~

K君は早稲田卒で、大手生保に入社したミドサー社員である。
生保でありがちなパターンだが、最初はリテール店に配属され、その後、本社の企画部門に異動となった。まだ課長に昇格はしていないので、年収は1200万円である。

K君は、リテール店でそれなりの好評価であったため、30歳を過ぎた段階で、本社の企画部門に配属となった。給与水準、業務内容、WLBについては概ね満足しているものの、これから20年、リテール店勤務がメインのキャリアを考えると少し不安になると同時に、何か新しいことに挑戦したいという気持ちも生じてきた。

そこで、K君はとりあえずキャリアチェンジの選択肢を把握するため、リクルート、doda、エン・ジャパン等の大手エージェント、また、フィンテックベンチャー様に、アンテロープとwantedlyにも登録した。

3. エージェントから紹介のあったフィンテックベンチャー企業

K君はミドサーという年齢であるため、ベンチャー転職ということを考えると、決して若くは無い。しかし、フィンテックの場合は金融業界・金融業務に関する知識と経験が重視されるため、それなりの案件が紹介された。

エージェントとしては、リクルートとアンテロープが有用であり、相応のポジションが紹介された。リクルートは大手企業中心のイメージもあるが、とにかく会社が大きいため、大型資金調達に成功できたフィンテック系の案件もそれなりに持っている。また、アンテロープは金融専門職特化型のイメージがあるが、ピンポイントでそれなりのベンチャー案件も取り扱っている。

紹介されたベンチャー案件は、決済系、運用系(仮想通貨系含む)、インシュアテック系の3パターンであったが、まずは、当時は注目された運用系のフィンテック企業がK君は気になった。

運用系のフィンテック系企業とは面接でそれなりに話が盛り上がり、マーケティング/営業企画系のポジションでオファーをもらうことができた。しかし、K君は投資も運用会社の経験も無いので、オファー金額は700万円にとどまった。ストックオプションは無い。

K君はそれでも、創業者やメンバーの明るいシナリオに惹かれたため、年収大幅ダウンを受け入れて転職を考えたが、嫁ブロックにより、先へは進まなかった。

そこで、もう1つの有力候補であったインシュアテック系のベンチャー企業との面接を進めることとした。運用系とは異なり、K君は保険業務にも保険商品にも詳しく、また、企画業務の経験もあった。そして、保険業界からインシュアテックベンチャーを目指す人は必ずしも多くは無かったので、K君は経営陣から高評価を受け、オファーに至った。

今回は、部長(CXOの1ランク下)で年収920万円に若干のストックオプションも付く。フィンテックとは言え、年収1000万円のオファーが出るのは幹部クラスに限られるので、悪くは無いオファー内容であった。

4. K君がオファーを断った2つの理由

K君はかなり悩んだが、嫁に相談する前に、自分自身で考えた結果、お断りすることとした。
その理由は2つある。

1つは、長期的な視点に基づく年収減の不安である。
現状の年収が1200万円に対し、インシュアテックベンチャーのオファーは920万。加えて、上手く上場できればストックオプションで数千万円位を手にするかも知れない。しかし、50歳から先を考えると、不安にならざるを得なかった。今の大手生保だと、将来は今の水準よりも年収が下がったとしても、50歳から定年まで千数百万円位をもらい続ける可能性が高い。他方、ベンチャー企業に転職すると、20年後も同じ会社で働き続けているということは想像しがたい。そうなると、転職を何度も繰り返すのであるが、50歳以上で採用してくれるベンチャーがあるとは思えない。それと、ベンチャーで長く働いたところで、自ら起業できる自信は無い。加えて、退職金と企業年金の有無は非常に大きい。このように、現実的な観点からいろいろ考えてみると、ベンチャー転職には不安が多い。

2つ目の理由は、スキルの問題である。
K君のポジションがCFO系であれば、ベンチャーの中では業界の垣根を超えることも可能だ。しかし、K君のポジションは保険の企画系なので、CFO、CHROには繋がらないし、証券/運用/決済系のベンチャーとも汎用性が無い。要するに、保険×企画という専門性はそれほど競争力が無いのではないかという疑問だ。結局、同じ会社で出世を目指すことぐらいしか魅力的なキャリアプランが描けないというのであれば、わざわざリスクを取って転職をする意味が無いということである。

5. まとめ:ベンチャー転職での勝ちパターンは限られる

生涯賃金やスキルの習得という観点から、K君がベンチャー転職よりも、今いる大手生保を選択したというのは妥当な判断であろう。ベンチャー転職に、漠然としたやりがいや成長を求める人は少なくないが、冷静に考えると、意外と得られるスキルというものは特に無かったりもする。

結局、わざわざ大企業からベンチャー転職で成功するには、CXO路線を目指すか、近い将来独立をする見込みがあるようなケースに限定される。

一旦、ベンチャー転職してしまうと、簡単には元に戻れないので、十分に吟味した方がいい。

なお、ベンチャー転職での勝ちパターンに興味がある方は、有料コンテンツですが、こちらもご参照ください。
https://note.com/takatsu2019/n/n50ad8f5e9e5d

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