1. 注目される「日立の全社員ジョブ型移行」のニュース
2022年1月10日の「日立製作所、全社員ジョブ型に」の記事が注目されている。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC263I70W1A221C2000000/
日本は長年、ゼネラリスト志向の強いメンバーシップ型であったため、欧米流のジョブ型に移行すると、サラリーマンの働き方に多大な影響を与える可能性があるからだ。
2. 実施、ジョブ型は拡がるのか?
このニュースについては、いろいろな見方がある。
経団連企業の日立が始めるのだから、他の経団連企業も追随し、その後、他の大企業も導入し一般化するという見方。
他方、数十年前の成果型報酬制度と同様で、人事面における変革を外向けにアピールするためのポーズに過ぎないという見方もある。
確かに、解雇に関する法令上の規制や、世間の評価があるので、直ちに大きな変化は生じないかも知れない。
しかし、日立がわざわざジョブ型を導入した背景としては、2020年に当時の中西経団連会長(日立の会長)が終身雇用廃止宣言をしたこととつながりがあるはずだ。将来の少子高齢化や、現状の日本企業の国際競争力低下を考えると、年功序列・終身雇用型の日本の雇用制度の変革は不可避ではないか。今回のジョブ型導入はそれに向けて一歩前進ということではないだろうか。
メンバーシップ型と異なり、ジョブ型だと各自のやるべき仕事内容が具体化・明確化される。そうなると、やるべき仕事ができていない従業員は、パフォーマンスの低さが可視化され、異動、ボーナスの評価減、降格等をされ易くなるということだ。
働かない中高年社員を抱えている大企業は多いだろうから、ジョブ型の導入ニーズは十分あるだろう。
このため、すぐにでは無いだろうが、ジョブ型の導入は徐々に大企業にも拡がり、徐々に日本の雇用制度も変化していくのではないだろうか。
3. ジョブ型と各年代における影響
①ミドル・シニア層
40~50代のミドル・シニア層が、ジョブ型に起因するリストラのターゲットになるのではないかという見方がある。
しかし、この層は実はそれほど影響を受けないのではないだろうか。
その理由は、上述の通り、日本の大企業の変化の遅さと解雇規制が簡単には変化しないと考えられるからである。
経団連は政治力を有するものの、政治家も解雇規制の緩和を進めるわけには行かないだろう。
結局、すぐにこの層がリストラの対象になることは基本無く、アラフィフのミドル・シニア層は実は逃げ切ることができるのではないだろうか。
もっとも、リストラはされないにしても、ジョブ型の導入で人事評価・達成度合いが明確化されると、ボーナスにも反映されやすくなる。今までは、パフォーマンスの差はそれほどボーナスには反映されなかったのであるが、徐々に格差は拡がるだろう。
この点、日本の一流企業は年収に占めるボーナスの割合が比較的高い。例えば、年間のボーナス金額が給料の4か月分であれば、年収に占める比率は25%にも及ぶ。そうなると、解雇はされなくても、ボーナスをゼロにするとMAX25%の年収カットが可能ということになる。
②アラサーの管理職の一歩手前の層
思うに、今回のジョブ型導入の影響を最も受けるのはこの層ではないか。
30歳前後の筆頭平社員から主任・係長クラスだ。
この世代は、ほとんどの場合、終身雇用・新卒一括採用の下、配属先や職種が限定されない総合職ということで採用されている。
このため、自分のスキルや市場価値をそれほど意識することなく、現在に至っている場合が多く、いきなりジョブ型と言われても対応が難しい。
だからといって、年齢的には第二新卒的なポテンシャル採用の対象外なので、今更スキルを求めて転職という訳にも行かない。
そうなると、特にスキルが付かないまま年をとっていくと、10年後にはリストラ予備軍にも成りかねない。
したがって、メンバーシップ型・ゼネラリスト型のアラサー社員は、今からでも将来の市場価値を上げるべく、スキル磨きを意識した行動を採るべきだろう。
③25歳以下の若手社員
現在、約3割のサラリーマンが新卒入社後3年以内に退職するという。
そのため、第二新卒市場が確立され、25歳以下であれば未経験でも転職しやすい状況にある。
就活時点では、特にやりたい仕事が見つからないまま現在の会社に入社したというパターンは多いだろう。それでも、数年間働いてみると、自分に何が向いているか、どういう仕事をやりたいかが見えて来るはずだ。
そうなると、将来ジョブ型雇用が主流になったことを想定して、スキル重視で転職することも検討すべきだろう。また、アップサイドを望むのであれば、私費留学に向けた準備をするのもいいだろう。
4. 就活生への影響
崩れそうで崩れない、「新卒一括採用・年功序列・終身雇用」制度が長期的にどう変化するかは、予測が難しい。
しかし、最近の電通、博報堂、TBS、パナソニック、富士通、オリンパス、LIXIL、ホンダ等のトップ企業の中高年社員を対象としたリストラの報道を見ると、楽観的に考えない方がいいのではないだろうか。
特に、少子高齢化で国内市場が縮小化することは不可避であるので、現在の社員が享受できている厚遇がずっと続くと考えない方がいいだろう。
そうすると、まだまだ新卒採用においてはジョブ型を意識した部門別・配属型採用は少ないかも知れないが、この段階からもある程度市場価値やスキルも企業選びの一要素とした方がいいと考えられる。
この点、金融業界はジョブ型がかなり進んでいる業界である。
IBD、グローバル・マーケッツ、リサーチ、IT等は最初から別採用の金融機関も多く、オープンコースでリテール部門配属になると途中での社内異動は難しいのが現状である。現時点では、外資金融とは異なり、ジョブが違ってもそれほど大きな年収差になることはない。しかし、将来的には徐々に拡大して行く可能性がある。
そうなると、単なる企業の格だけではなく、職種も考慮に入れた企業選びが求められる。例えば、みずほ銀行の総合職オープンと、新生銀行のストラクチャードファイナンス確約コースとどちらを選ぶか?これは難しいが、非常に重要な選択となる。現時点ではなく、30歳時点での市場価値を予想して判断することが求められるからだ。
ジョブ型が拡がると、就活時点においても専門知識の比重が高まるなど、評価基準も当然変化するはずだ。
このため、日立のジョブ型の導入がどのように波及していくのか非常に注目される。