1. 30歳で本当にFIREを達成した人のお話
FIREとは、Financially Independence and Retirement Earlyの略語で、経済的自由を達成した上で、早期リタイアをするという意味である。アメリカ発祥の概念で、これに関する書籍やコンテンツは既に日本でも数多く存在している。
この本は、日本のケースで、著者が30歳で金融資産約7000万円、月平均の配当収入20万円超を実現し、セミリタイアを達成したノウハウを紹介したものである。
https://www.amazon.co.jp/dp/B08BFMB6GF/ref=dp-kindle-redirect?_encoding=UTF8&btkr=1
2. FIREなど非現実的な様に思えるが…
著者は「三菱サラリーマン」ということであるが、具体的な企業名は明かしていない。
三菱商事だという噂もあるが、その真偽は不明である。
本書によると、著者は慶應義塾大学経済学部で北京大学に留学経験があり、中国語も堪能なエリートである。
著者によると、FIREは一見、非現実的に見えると、著者の方法は再現性が高いと述べている。確かに、その手法は、「毎月の給料の8割とボーナス全額を、米国や日本の高配当株等に回す」というシンプルなものである。
もっとも、手法はシンプルだし、銘柄当てに依存しない方法ということで、真似をしてみることは可能だろう。ただ、問題はどの程度まで出来るのかということである。
一般的な20代のサラリーマンが投資に回せる資金はせいぜい月に数万円位であろう。
ところが、それでは、到底配当生活が可能となる金融資産を積み上げることは出来ない。
従って、成功のカギは、極端な節約生活を継続することのストイックさと継続力じゃないかと私には感じられた。
3. 著者が編み出した節約のための技術
本書の第2章において、著者の節約の秘訣が語られている。
筆者は「節約」という言葉はケチ臭い響きがあるので、「支出の最適化」という言葉に拘って使っているようだが、一般人にとっては「節約」にしか見えないので、こちらの表現を使った方がしっくりきそうである。
著者が、ゲーム感覚で編み出した支出の削減の方法として、以下の15の方法を取り上げている。
①ペットボトル飲料を買わず、水筒持参
②たばこを買わず、たばこ株を買え
③飲み物は白湯でOK
④デートは、公園で手作り弁当ピクニック
⑤書籍は図書館利用(新刊は予約)
⑥会社の飲み会は必要最低限
⑦株主優待を活用すべし
⑧散髪はセルフカットか、1000円カット
⑨携帯は格安SIM
⑩プールやジムは公共施設を活用
⑪コンビニでの買い物は避けよ
⑫買い物カートは使わない
⑬支払いは現金ではなくクレカで
⑭保険には入らない
⑮階段は資源
上記は一般的な節約方法として知られたものも含まれているが、ユニークなものもあるので、若干補足する。
②でたばこを吸わないのは当然として、「たばこ株を買え」ということの意味は、一般的にたばこ株は配当利回りが高いからである。
⑬の支払いは現金ではなくクレカでというのは、クレジットカードのポイント狙いである。節約方法としては、無駄な買い物を避けるためにクレカは持つなという意見もあるが、衝動買いをしない自信があれば、ポイントを貯めるメリットが大きいという著者の主張である。ちなみに、著者はJAL Global Clubのカードを使用しているということだ。
⑭保険には入らないというのは、日本は社会保険制度が充実しているので、生命保険や医療保険は不要という考えだそうだ。
⑮の階段は資源というのは、健康増進のために、エレベーターでは階段を使うべしということである。⑩のジムやプールは公共施設をと被るところがあるが、ここでは費用の問題だけではなく、日常的に健康を意識した行動を採るべきだという考えである。
この章の節約方法について残念なのは、著者が具体的に、上記の方法でいくらぐらいを節約できたのかという具体的な金額の記載が無いことである。また、④のデートは公園で手作り弁当ピクニックというのも、著者が実践したのかどうかは謎である。本人は良くても、それで納得してくれる彼女が見つかるかどうかはよくわからない。
4. 投資の手法について
本書の第3章「お金自動発生マシンを組み立てよう」において、投資の手法や投資対象について詳しい説明がなされている。
ここでのポイントは、定期的(具体的には給料日やボーナスの支給日)に、高配当銘柄中心に低コストのネット証券を通じて投資を継続するということである。
著者は、働きながら蓄財していくことを前提としているので、デイトレーダーの様に日中、相場に張り付いているような投資スタイルではない。キャピタルゲインよりも、インカムゲインである配当に注目した投資手法である。
具体的な投資対象としては、米国株や米国ETFを取り上げている。
その中でも、増配をし続ける米国企業がお気に入りのようだ。
著者によると、個別株投資に対する拘りがあるわけではなく、投資可能な資金や個別株抽出が手間だと考える人は、米国ETFが馴染みやすいと紹介している。
5. 資産形成は目的ではなく手段
最終章は「資産形成は目的ではなく手段」ということで、「自由な生き方(FIRE)が日本でもできることを証明したかった」と述べている。
著者は30歳で月に20万円超の配当収入を確保した時点で、三菱系の会社は退職している。「セミリタイア」と書いているので、全くの無職・無収入ではないと思われるが、現在の仕事や配当収入以外の収入等については不明である。
実はこの点については、もう少し知りたいところである。
何故なら、月々20万円程度では、十分余裕のある暮らしは難しいと思われるし、まだ30代であれば、サラリーマンは辞めるにせよ、何らかのフリーでストレスなく稼げる方法はあるはずである。
このため、配当収入を補完するためには、どういう仕事があって、どれくらいの収入が期待できるのかという点についても知りたいところである。
6. 感想
日本でFIREを実現するのは難しい。著者はサラリーマンと言っても明らかに高給ということだし、給料の8割とボーナス全額を投資に振り向けるのは普通は無理である。
しかし、別に若くして会社を辞めてセミリタイアしなければならないという理由はない。
FIREには届かない金額でも安定した配当収入があれば、それは素晴らしいことである。
従って、本書はサラリーマンの蓄財方法という意味では十分に参考になる。
なるべく多くの金額を、毎月、高配当株やETFの投資に振り向け、それを継続する。そうすると、どんどん金融資産も配当収入も増えて行く。
このシンプルな勝ちパターンは、非常に魅力があるし、サラリーマンであれば収入が安定しているので実践が可能である。
FIREという難しいゴールではなく、100万円、300万円、500万円、1000万円という目標を設定して、月々数万円、ボーナスで数十万円の投資を実践していけばいいのではないだろうか。