1. 金融機関からベンチャー企業に転職する人もいる
金融機関というと、安全志向に見え、ベンチャー企業にリスクを取って転職したがらないように見えるかも知れない。
しかし、2000年前後の第1次インターネットバブル期以降、ベンチャー業界が盛り上がる毎に、金融機関からベンチャー企業に転職する人達はいる。
特に、2015~2016年頃のアベノミクス下の好況期に、フィンテックがもてはやされた。
金融機関の社員は基本的にIT関係やSNS運営には弱く、ネット系ベンチャーで活躍できるようなスキルが無いことが多い。
しかし、フィンテックの場合、特に金融免許が必要とされる企業においては、金融機関の業務経験者が必要である。そうでないと、証券会社をやるにせよ、運用会社をやるにせよ、仮想通貨交換業をやるにせよ、免許(登録)が認められないからだ。
2. 金融機関で働く人達の特徴
①安定的で高給である
金融機関の場合、一般的に安定高給である。
メガバンク、大手生損保、大手証券会社の場合、30歳で約1000万円に到達する。
その後の伸びは鈍化するものの、管理職になれば年収は1400~1500万レベルまで増える。
②規制業種に慣れている
金融機関は規制業種であり、金融庁の監督の下、厳格な内部管理態勢が求められている。
また、決まった業務しか行えないので、自社も同業他社も仕事内容は基本的に変わらない。
③黒字が当然の環境にいる
金融機関の場合は免許(登録)業種であり、財務的な健全性が重視される。
決まった事業をやるので、基本的に黒字が前提の環境にあり、赤字というのは一大事である。
④相場・経済環境に敏感である?
上記①から③を見ると、金融機関というのは、安定・高給で、同業他社と同じ仕事を継続して行い、厳格な管理態勢が求められる企業である。
ある意味、ベンチャーとは真逆の社会であり、金融機関からベンチャーに転職しても上手く行かないのではないかと思われる。
しかし、金融機関の人間は、金利・株価・為替という金融市場やマクロ経済環境・企業業績に非常に敏感である。それらによって、金融機関の業績が大きく左右されるからである。
このため、投資的な感覚で、いいタイミングでベンチャー企業に転職してストック・オプションで一儲けして、ダメになると金融機関に戻ればいい。こういったマインドを持っているタイプの人もいるかも知れない。
そういう人にとってはベンチャーで勝負する意味があるのかも知れない。
3. フィンテックベンチャーで転職先のポジションが増えたが…
5-6年前のアベノミクス下の好況期に、日本でもフィンテックブームが生じた。
仮想通貨、決済系、個人投資家向け投資サービス(ロボアドバイザー他)等において、非常に多くのフィンテックベンチャーが注目された。
また、VCに加え、ソフトバンク、ドコモ、メルカリ、KDDI、LINE等の巨大なITやネット系企業も参入したので、数十億円クラスの出資を受けたフィンテックベンチャーが何社も登場した。
このため、他のベンチャー以上の好条件を提示されるケースもあり、外資や国内系金融機関から、それなりの金融マンがフィンテックベンチャーに転職した。
4. ところが、ベンチャーで儲けるのは簡単ではない…
一般的に、ベンチャー企業に転職し、ストック・オプションで儲けることは容易ではない。
そもそも、IPOまで到達できるベンチャーはほんの一握りだからだ。また、仮に結果的にIPOまで到達できたとしても、予想以上に時間がかかることも少なくない。そうなると、IPOまで我慢できずに、辞めてしまうケースもある。
さらに、付与されたストック・オプションが十分でないと、IPO出来ても利益は数千万円に留まる場合もある。金融機関との年収の差額を考えると、ベンチャーで稼ぐことのハードルは高い。
フィンテックベンチャーも当初は騒がれたものの、期待された様な結果になっていないと言えよう。ロボアドバイザーのウェルスナビは上場できたものの、他のロボアドバイザーや、決済系、仮想通貨関連等、苦戦しているのではないだろうか?
そうなると、少なくとも経済的にはフィンテックへの転職は失敗ということになる。
5. 損切りの早さも金融機関の強み
フィンテックベンチャーへの転職で失敗しても、金融機関の場合は、再び金融機関に戻るという選択肢がある。これは大きい。
また、金融機関の社員の場合、企業財務やマクロ経済に敏感だからか、早めに見切りをつけることができる。
私の知っているケースでは、金融機関からベンチャーに転職し、1年以内に諦めて金融機関に復活しているケースが大半である。
その場合は、金融機関を辞めた時の年収に届かないこともあるが、傷は比較的小さくて済む。この点は、金融マンの強みと言えるだろう。
6. 金融機関からベンチャー企業に転職する際の留意点
まず、考えなければならないのは、そもそもベンチャー企業に転職してもIPOまで到達できる可能性は低いということである。それを前提に、付与されるストック・オプションの中味を吟味することである。金融機関の社員はこの点は十分認識しているように見えるが、自分のことについては妙に楽観的に考えるケースがあるので留意が必要である。
次に考えなければならないのは、ベンチャー企業に転職した場合に、ストック・オプション以外に得られる価値があるかということである。言い換えると、得られるスキルは何かということである。ベンチャー企業のCFOに就いたところで、外資系や国内系のトップ企業に転職することは難しい。
一旦ベンチャーの世界に入ると、CXOとか執行役員の肩書をもらったところで、次に行く先もベンチャーである。その場合のキャリアプランが描けているか留意が必要だ。
また、ベンチャーで働けば起業・独立しやすいという安易な発想は持たない方がいい。特にプログラミングやSEO等のウェブ系のスキルを持たない文系社員の場合、稼げるプロダクト・スキルを持ち合わせていないことが多い。本気で独立する気があるのであれば、その事業や独立に要する期間や費用まで練った上でベンチャーに転職すべきである。
そして、非常に重要なのが年齢である。
金融機関の場合、比較的転職マーケットはある業界なのだが、年齢が転職時における重要なファクターとなる。30代半ば位までなら何とかなるかも知れないが、40歳を過ぎて、ベンチャーで失敗した状態(レジュメが汚れた状況)で復帰するのは簡単ではない。
年齢が高いと失う年収も大きいので、特にベンチャー企業への転職は留意が必要である。
最後に 将来におけるキャリアの不安にどう対処するか?
一部の専門性を有する人材を除いて、金融機関の場合も、将来のキャリアについて不安を感じることはあるだろう。特にリテール部門においては、少子高齢化の影響を受け、既に店舗は削減され、オンライン化の進展は必至である。
そうなると、10年後、20年後は現在のようなレベルの年収を確保できるのか、不安になっても不思議ではない。
ただ、だからといって、ベンチャー企業に行けば何らかのスキルが付くわけではない。
副業・兼業が緩和されていくだろうから、焦らず、本職をキープしつつ、そちらの方も検討していくのが堅い方法では無いだろうか?