1. エグゼクティブ・サーチ・ファームとは何か
エグゼクティブ・サーチ・ファームとは、経営幹部の採用に特化した採用活動を行う企業である。普通の転職エージェントとは異なり、採用対象者が経営幹部に限定される。社長を含む取締役、執行役員が対象で、最低でも部長クラス以上である。一般的なエージェントの場合は成功報酬制であるが、エグゼクティブ・サーチ・ファームの場合は、採用の成否に関わらず、予め採用側の企業と契約で定めた報酬が支払われる。
採用側の企業がわざわざコストを掛けてエグゼクティブ・サーチ・ファームを使用する理由は、重要な経営幹部や新規事業のキーパーソンの採用に当たっては、社内からの抜擢が難しく費用をかけても会社の条件に合った人材を見つけ出すニーズがあるからである。
外資系企業の場合、CXOや部長以上の採用は全てエグゼクティブ・サーチ・ファームを使用することを習慣化しているところもある。
著名なエグゼクティブ・サーチ・ファームには、エゴンゼンダー、ラッセル・レイノルズ、コーン・フェリー、スペンサースチュワート、ハイドリック&ストラグルズなどがある。
2. 部長以上がエグゼクティブ・サーチ・ファームを使いたい理由
①候補者が限定され、内定する可能性が高い
採用側企業がエグゼクティブ・サーチ・ファームを使用する場合には、他のエージェントは使用しない場合も多い。一般的には複数のエージェントを使用することの方が多いが、経営幹部の採用になると情報漏れのリスクがあるし、企業が求める人材の条件を事細かにリクエストするためにエグゼクティブ・サーチ・ファームに一本化するのである。
これは、被用者側から見ると、エグゼクティブ・サーチ・ファームからお声が掛かると、そのエグゼクティブ・サーチ・ファーム以外には候補者がいないということなので、自分に内定が出る可能性が高いということになる。
また、エグゼクティブ・サーチ・ファームは企業が求める人材のタイプ(スキル・経験だけでなく性格的なタイプまで)を十分把握しているので、自分が内定をもらえる可能性や当該ポジションとの相性等を事前に理解できるというメリットもある。
さらに、エグゼクティブ・サーチ・ファームの場合は、メンツにかけて、企業が求める人材を見つけることが求められるので、採用プロセスにおいても面接対策や面接官の性格・特徴等までアドバイスしてくれる。
以上の様に、求職者側からすると、エグゼクティブ・サーチ・ファームからお声が掛かると、一般的なエージェントが持ってくる案件よりも内定の確率が高いというメリットがある。
②継続的に良いポジションが紹介される可能性がある
エグゼクティブ・サーチ・ファームから紹介されたポジションについて、最終的に内定に至らなくても、その後も継続的にポジションを紹介されることがある。エグゼクティブ・サーチ・ファームは経営幹部のポジションしか扱わないので、ショボい案件を持って来ることは基本的にない。一般的なエージェントの場合は、本人がDirector/部長クラスであるにも関わらず、VP/課長、ひどい時はアソシエイトクラスの案件を紹介される場合もある。(もちろん、そのようなエージェントは優秀では無いのだが…)
そういった点において、外れ案件を紹介される可能性は低く、その案件は候補者が限定されているので内定できる可能性は高い。
このように、エグゼクティブ・サーチ・ファームとお付き合いが出来ると、良質な転職の機会が増える可能性があるのである。
③コンサルタントのスペックが高い
エグゼクティブ・サーチ・ファームの採用スタッフはリクルーターとかエージェントという言い方をせず、コンサルタントという言い方をする。
こちらのエゴンゼンダーのコンサルタントの略歴を見ていただくとおわかりだろうが、コンサルタントのスペックは非常に高い。元マッキンゼーやPEファンド出身者がごろごろいる。これは、言われた通りの人探しをするのではなく、企業の戦略を理解した上で、それに合致する人材を探すコンサルタント的な人材であることが期待されているからである。このあたりも一般的な転職エージェントとは大きく異なるので、お声がかかると面白い経験が出来ると思われる。
<エゴンゼンダーのコンサルタント>
https://www.egonzehnder.com/jp/consultants
3. エグゼクティブ・サーチ・ファームに関する留意点
①登録型と違って、常時案件を抱えているわけではない
求職者側からすると、いいことばかりのようにも見えるがそういうわけでもない。
何故なら、エグゼクティブ・サーチ・ファームはクライアントである採用側の企業からの依頼を受けてサーチ活動を開始する。一般的な登録型のエージェントとは違って、常に案件を抱えているわけではない。
このため、求職者側が転職したいと思ってエグゼクティブ・サーチ・ファームに連絡をしても、案件が無いことが多い。
要するに、求職側からすると受け身の立場であるので、急ぎで転職したい場合にはあまり力になってもらえない。
②どうすればエグゼクティブ・サーチ・ファームからお声が掛かるか?
従来は、上記の大手エグゼクティブ・サーチ・ファームとお付き合いをするには、自ら動いても無駄で、お声が掛かるのを待つしかなかった。
しかし、時代は変わり、今では自らエグゼクティブ・サーチ・ファームに登録することが可能となった。例えば、エゴンゼンダーのこちらのサイトを見て欲しい。求職者側が自ら登録できるようになっている。
<エゴンゼンダーのHPより>
https://www.egonzehnder.com/jp/contact
もっとも、登録しても連絡が来るとは限らない。部長以上は対象となるが、在籍中の業界・企業・ポジション・経験/スキル・学歴をシビアに見られて、現在または将来の候補者になり得ると判断された場合に限り連絡をもらえる。そこは、一般的なエージェントとの違いである。
それ以外の4社もHPから登録できるようになっているので、とりあえず登録してみることをお勧めする。
③「自称」エグゼクティブ・サーチ・ファームに注意
上記の外資系5社以外にもエグゼクティブ・サーチ・ファームは存在するし、規模が小さくても優良なファームはあるだろう。
しかし、転職エージェントの中には自称(エグゼクティブ)サーチ・ファームを名乗っているが、実態は普通の登録型のエージェントもあるので要注意である。そういう自称エグゼクティブ・サーチ・ファームからお声が掛かったとしても、案件は複数のエージェントが動いている出回り案件である場合がある。
この点、エグゼクティブ・サーチ・ファームと登録型エージェントは免許や看板が別なわけではないので、見分けるのが難しいところもある。そういった場合は、「exclusiveな案件ですか?」と確認すればいいのだが、本当のことを答えてくれるとは限らない…
4. 金融機関とエグゼクティブ・サーチ・ファーム
私はずっと金融業界にいるので、金融機関におけるポイントをいくつか紹介したい。
①ヘッジファンド案件
ヘッジファンドは非常に小規模な組織であるので、採用は一般的なエージェントを使わないケースも多い。また、外資系の場合、採用の最終的な意思決定権者が海外にいる場合には、日本のローカルなエージェントは使いづらい。
このため、ヘッジファンドに転職を希望する際には、ラッセル・レイノルズやハイドリック&ストラグルズに登録しておくと、案件が紹介される可能性がある。
<ラッセル・レイノルズ>
https://www.russellreynolds.com/ja/%E3%81%8A%E5%95%8F%E3%81%84%E5%90%88%E3%82%8F%E3%81%9B
<ハイドリック&ストラグルズ>
https://www.heidrick.co.jp/index.html
②起ち上げ案件
外資系企業が日本進出を図りたい場合、当然であるが、その時点では日本に拠点は無い。そういった場合、外資系の求人企業は海外のエグゼクティブ・サーチ・ファームに依頼し、そのエグゼクティブ・サーチ・ファームの日本の拠点経由で採用活動を行うことが多い。拠点長及び経営幹部から採用し始めなければならないし、戦略的に非常に重要な拠点づくりの採用活動なので、コストを掛けてもいい人材を採りたいのは当然であろう。
金融機関の場合、運用会社(アセマネ)やヘッジファンドは今でも新規に日本市場への進出を目論んでいるところはある。このため、外資系アセマネの立ち上げに興味がある場合、エグゼクティブ・サーチ・ファームに登録しておくとチャンスが巡って来る可能性がある。
③部長以上案件
外資系金融の場合、部長以上は全てエグゼクティブ・サーチ・ファームのみ使用することとしている企業がある。そういった場合、目を付けている企業のポジションがあっても、エグゼクティブ・サーチ・ファームに登録していないと、知らない間に採用活動が終了している場合がある。
そういうチャンスを逃さないためにも、外資系金融で部長以上のポジションに就いている人は、エグゼクティブ・サーチ・ファームに登録しておくことをお勧めする。
以上の様に、エグゼクティブ・サーチ・ファームに登録し、お声が掛かれば良いことも多い。そのためには、それなりの企業の部長職以上に就くことが前提なので、若手サラリーマンはこれも一つの目標としてもいいかも知れない。