オーストラリアの農場バイトで月収50万?日本人の海外出稼ぎと日本企業の給与水準について

1. NHKのクローズアップ現代の気になる特集

NHKのクローズアップ現代で、“安いニッポンから海外出稼ぎへ” ~稼げる国を目指す若者たち~、という特集がされていた。

その中でも印象に残ったのは、オーストラリアの地方都市にある農場で、20人もの日本人の若者がアルバイトをしているという。驚きなのが賃金水準で、実働6時間くらいの労働時間で、月収や約50万円になるという。元自衛官、元教師、元不動産業、元介護職、元美容師等、日本ではフリーターとかではなく、きっちりと働いていた人達が、この農場バイトのためにはるばるオーストラリアまで渡航したことが注目される。

このクローズアップ現代だけでなく、昨年の秋には日テレのバンキシャでも、オーストラリアのバイトで稼ぐ若者について報道がなされ、出稼ぎ日本人の話題が注目されつつあるようだ。

(クローズアップ現代の放映内容に興味がある方はこちらをご覧ください)
https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4746/

2. 海外への出稼ぎバイトの問題点

実働6時間で月収50万円というと、悪くないかも知れないが、正規雇用でないため、退職金や企業年金は無い。また、スキルが習得できるわけではないので、長期的な収入アップが期待しにくい点が問題である。今は円安だが、将来円高になると、収入は低下する。見かけの月収は高くても、海外はその分、物価も高いのであまり意味は無いのではないか?

このような疑問点が生じるだろう。

しかし、このオーストラリアの農場バイトのケースでは、外食を避けて自炊することによって支出を抑え、月に20万円を貯金している。また、今は英語力は高くないが、現地にいる間に英語力を磨く。実働時間が少ない利点を活かして、空き時間を副業磨きに当てている。

さすがに、日本でも真面目に働いていただけあって、リスクや問題点を意識した上で、相応の対応ができているようである。

3. 日本の相対的な低賃金の問題点

海外のアルバイト生活で月収50万円というと、日本と比較すると、倍くらいであろうか?
かなり魅力的な話かも知れないが、ただ、わざわざ海外に働きに行くことができるのは一部の者に限られるだろう。従って、海外の高収入アルバイト生活に惹かれて、ただでさえ少子化で減少した若者が海外に大量流出してしまうという事態にはならないだろう。

他方、気になったのは専門職の海外との年収格差である。
特に顕著なのがITエンジニアで、日本の一流大学の大学院卒でも、富士通やNECだと初任給は400-500万位であろう。他方、海外の一流企業であれば、その3倍以上のケースも珍しくない。

また、金融機関の専門職についても、海外との年収格差は大きい。
メガバンクや大手証券会社の場合、30歳で1000万円に到達し、他の業界と比べてかなりの高収入とされている。しかし、米国の金融専門職においては年収20万ドル(約2600万円)以下はジュニアスタッフの年収水準とされている。

こういった専門職の場合は、いざとなれば海外で働ける語学力を有する割合は高いだろうし、海外に流出する人数がそれほど多くなくても、その質的なインパクトは小さくないだろう。

日本でも金融機関においては、就活時点において、優秀層は外資系金融機関に流れる傾向があるようだ。

ところが、理系の優秀層においては、文系とは事情が異なるようだ。
確かに、一部の理系は、好待遇を求めて、戦コン、外銀、商社、金融等に流れているようだが、東大、京大、東工大の就職者情報を見ると、上位は今でも日本の製造業で占められている。

理系の優秀層が高年収を求めて就活や転職すれば、それは十分可能だと思われるが、まだまだ多くの人が国内系大手企業を選択しているように思われる。このため、海外企業との年俸格差の割には、海外(或いは外資系企業)への大量人材流出が問題となっていないのかも知れない。

しかし、この傾向が何時まで続くかはわからない。
理系の優秀層の国外脱出が本格化すれば、少子高齢化と相まって、日本企業の競争力はますます低下することが懸念される。

4. 三井住友銀行も16年ぶりに初任給を引き上げたが…

海外と比べた、日本の給与水準の低さが問題視される中、三井住友銀行が16年振りに初任給を5万円引き上げ、23年4月入行者の初任給は20万5千円から、25万5千円になる。

また、ユニクロ、任天堂、バンダイ等においても初任給引き上げの動きが見られる。

しかし、これは政府の賃上げプレッシャーの下、アリバイ工作的なイメージで実施した様に見え、日本のトップ企業が本気で給与体系を見直すようにも思えない。

ダイキン、東芝、日立等の大手電機メーカーの初任給上げの水準は、僅か1万円に過ぎない。しかも、既存社員の賃上げについては、具体的な話は見えてこない。仮に固定給のテーブルをいじったところで、上の役職になるにつれボーナスの比率が高くなるので、ボーナスで調整されると年収水準自体は増えない。

こういうニュースを見ていると、とても楽観的にはなれず、年収増については、各個人が対応するしか無いように思える。今、40歳以上の層は、退職金、企業年金等も含め、何とか逃げ切りができるかも知れない。しかし、本当に大変なのは、現在20代の若手やこれから社会人になる学生達では無いだろうか?

自ら副業で稼いで、マネーリテラシーを磨いて貯金(金融資産)を増やす努力をしていかないと、10年後、20年後、いざとなった時に慌ててもどうすることもできない。

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