序. 第二新卒は非常に大切なキャリアチェンジのチャンス
就活で第一志望の企業に入社できる人はほとんどいないだろう。
実際、就活で苦労してやっと内定を取り、最終的に選択した会社でも、3年以内に3割が辞めるという。
このため、昔とは違って、今では第二新卒という巨大な採用市場が出来ている。
第二新卒市場は、新卒採用と中途採用との中間的な位置付けにあり、業務経験やスキルが無くても、学歴と最初の企業名(就職偏差値)が良ければ、ポテンシャル採用してもらえるチャンスがある。これは、最初の就職で失敗したと気づき、キャリアチェンジを考える若手にとしては逃してはいけないチャンスである。
しかし、第二新卒市場はポテンシャル採用なので、あまり企業の色が付いていない若手に限定される。せいぜい職歴3年、25歳位がタイムリミットであろうか。このため、時間的猶予があまりないため、焦って本来転職すべきではない企業に行かないよう、留意が必要である。また、転職エージェントは自分のビジネス上、必ずしもベストなアドバイスをしてくれる訳ではない。
そこで、第二新卒での転職を考える前に、本当にその転職が正しいのか、他に選択肢が無いのかを再考すべきである。
1. 有職か無職か?
実は転職するか否かの判断をする前に、一旦無職になってキャリアを再構築するという選択肢もある。
①難関資格への挑戦
その典型的なものが、難関資格取得への挑戦だ。わざわざ会社を辞めて無職になってまで挑戦するとすれば、弁護士(法科大学院/予備試験)か公認会計士位だろうか。理系であれば、医学部再挑戦が考えられる。
ただ、この選択肢は非常にリスクが高いので要注意である。予備校のパンフレットでは、合格できた人にのみ焦点を当てているが、圧倒的に多くの人が不合格になる事実を直視しなければならない。難関資格に挑戦して、結局合格できないと最悪である。従って、リスクが高すぎるこの途はあまりお勧めできない。挑戦するにしても、在職中に頑張って準備を始め、合格できる目処がついてから辞めるのが賢明であろう。
②私費留学
ここで考えられるのは、私費MBAであろう。
確かに、米国のトップMBAに私費留学できると、その後は、外銀、外資アセマネ/HF、MBB、GAFAMといった非常に明るい将来が期待できる。ある意味、最強のキャリアチェンジの手段かも知れない。ただ、この場合の最大の問題点は、費用である。2年間で2千万円を超える留学費用を奨学金と学資ローンで賄うのは非常に勇気と行動力が要る。ただ、実家が裕福であるていど援助してもらえるなら、それに頼るという選択肢もある。
ただ、注意しないといけないのは国内MBAである。
費用も安く国内で取得できるという魅力はあるが、英語は身に付かないし、トップクラスの外資系企業や商社に就職するのは非常に難しい。このあたりは、卒業後にどれくらいの企業に就職を期待するか次第であるので、とりあえず大手(上場企業)に就職できればOKという希望であれば、悪くないかも知れない。
2. 今の会社に残るか、転職するかの再確認
上記の、無職になって資格挑戦や私費MBAを考える人は少数派だろうが、多くの若手社員が再考すべきはこの点である。今の会社が不満だから、辞めるために「とりあえず」転職を考えるということは無いだろうか?転職自体は問題無いのだが、転職した会社に満足できないと悲惨である。短期で転職を繰り返す(レジュメが「汚れる」という表現をすることもある)と、転職条件は厳しくなっていく。採用側企業としても、短期で転職を繰り返す人は協調性が無いとか、堪え性が無いと判断するからだ。そうなると、キャリアは負のスパイラルに陥っていく。そういう事態を避けるためにも、以下の点をよく考えるべきである。
①転職の「軸」の再考(就活との違い)
就活と転職の「軸」は異なる。
就活の場合、企業偏差値と待遇を中心に、人気企業から順に応募していくパターンが大半だろう。
しかし、転職の場合は事情が大きく異なる。
何が違うかというと、転職の場合は「職種」と「勤務地」が特定されているケースが大半だ。要するに、就活時にある「配属ガチャ」は問題とならない。もちろん、転職後に社内異動することは考えられるが、転職時においては職種と勤務地が選べる。これは非常に大きい。このため、就活時においては余りなかった、企業名・給与水準⇔職種・勤務地を考慮しての選択が可能だ。就活時においては、職種や勤務地はそもそも選択できないケースが大半なので、やりたくない職種や希望しない勤務地リスクを負いながら、とりあえず企業偏差値や待遇に優れた企業を選択せざるを得ないのである。
しかし、第二新卒による転職では、職種と勤務地を選べるので、自分が本当に求めるものは、「年収」「企業ブランド」といった見た目重視なのか、それとも「職種」「勤務地」といった自分自身の満足度重視なのか、改めてよく検討する必要がある。
②『成長』という名のウソの再評価~客観化・数値化
何故か『成長』という言葉に惹かれる学生や若手ビジネスマンは多い。
しかし、この『成長』という言葉にはウソが多く、悪用されているケースも多い。『成長』というのは極めて主観的な概念であって、人によってその内容、意味するものは異なる。もちろん、一般的には『成長』というのは悪いものではないが、ビジネスの世界では「客観化」「数値化」できなければ評価してもらえない。例えば、上場企業の経営者が「今期は売上・利益ともに大幅減となり株価も大幅下落しましたが、わが社は質の高い世の中のためになる仕事を実現でき、この点で大いに『成長』できたので満足しています」と言っても、全く評価されないだろう。
個人のビジネスマンの場合も同様であって、自分は『成長』できたつもりであっても、年収やタイトルが上がらないと、外部からは評価してもらえず、その後の転職価値の向上につながらない。そうなると、自分自身の『成長』に対する満足度も下がっていくことになってしまう。
結局、『成長』目的の転職というのは検討不十分で、『成長』を客観化・数値化して考える必要がある。具体的には、転職することによる市場価値の向上、年収やタイトルが具体的どれくらい向上するかを予想する必要がある。
また、この年収やタイトルに関する具体的な目標数値を持たないと、転職時における交渉も上手くいかない。採用側が考える『成長』と、自分自身の考える『成長』とが一致するとは限らないからだ。
③社内異動の可能性の再検討
大企業、特に金融機関の場合、部門・職種によって市場価値が大きく異なる場合がある。
例えば、銀行や証券の場合、リテール部門と市場部門とでは市場価値が異なる。このため、転職する際に、企業のランクを下げることによって、自分の希望する職種を実現しようという場合もあろう。ただ、ベストは、今の会社で希望の部門・職種に異動することなので、本当に不可能かどうかよく確認した方が良い。なるべく、むやみに転職カードを切らない方が望ましいからだ。
3. 転職する業種と職種の再考
今の会社に残る理由は無いことが確認できると、次はどういった業種・職種を選択するか、十分検討する必要がある。
①金融機関への転職
金融機関への転職の場合、リテール部門から、IBD、市場部門、機関投資家営業、アセマネあたりへの職種を狙うケースが多いのではないだろうか?このような転職は競争率が高く、一定のスペックが求められるだろう。英語力、証券アナリスト、USCPA等によるスペック上げや、面接で聞かれる業務に関する専門知識の習得を事前にしておくことが必要である。
ポジション自体はそれなりにあると思われるので、複数のエージェント、リクルート、パソナ、DODA、JACに加え、アンテロープ、コトラ等の金融に強いエージェントに広く登録をしておきたい。
②総合コンサルへの転職
今、もっとも熱心に第二新卒採用を展開している業界は、この総合コンサルではないだろうか?アクセンチュア、アビーム、ベイカレント、Big 4系等、業種や業務経験を問わず、非常に積極的に採用活動をしている。
大手金融機関(特にリテール部門)や商社のような安定高収入の業界からも、総合コンサルへの転身を考える人は少なくないだろう。
その際に考えなければいけないのは、転職後にその会社で「勝てるか」否かであろう。
総合コンサルの場合、給与や市場価値は非常に良いが、ただ、それは勝ち抜けた場合である。総合コンサルは年功序列とはほど遠く、社内で評価されないと昇格はできないし、継続的に低評価がつくと肩叩きをされてしまう。
ハードワーク、論理的思考、プレゼン能力、ITの基礎知識等、新卒組とは差が付けられているので、かなりの自信と覚悟が必要だろう。
総合コンサルに数年在籍しただけでは、その後に事業会社に好条件で転職できるほど甘くはない。有名大学の場合、先輩や同期でこの業界で働いている人は見付けやすいだろうから、事前に話を聞くことがお勧めだ。
③リクルート
今でこそ、若手の転職市場でのプレゼンスは総合コンサルに押され気味であるが、かつては、大企業からのキャリアチェンジというと、リクルートが定番であった。
リクルートの場合、人材事業とメディア事業との2つがあり、自分が目指したい方向性に応じて選択できる。
人材部門でも、メディア部門でもネームバリューもあり、スキルの習得も可能だが、総合コンサルほどでは無いにせよ、結構仕事はハードである。営業職は予算達成が厳しく求められるようだ。
大手金融機関からの転職を考えるにあたっては、総合コンサルだけではなく、リクルートも検討する価値はあるだろう。
④大手IT
大手ITといってもいろいろある。ドコモ、KDDI、ソフトバンクの様な通信キャリア、ヤフー、楽天、LINE、サイバーエージェント、DeNA、メルカリ等のメガベンチャー等は積極的に中途採用を実施している。
ITは将来性があるし、スキルの習得も可能なので悪くはない選択肢だと思われるが、大手金融機関や商社からの転職の場合、最大の課題は年収水準であろう。もちろん、年収を犠牲にしても、やりたい仕事やスキルを重視するという考えはあり得るが、時間が経つにつれ、年俸に対する不満は高まる可能性もある。何故なら、大手金融や商社は年功序列によってどんどん年収が増えていくので、将来かなりの差が開く可能性があるからだ。
ただ、こういった大手ITは副業がOKなところも多いので、それによって補充することも可能だ。副業である程度の収入を確保できる自信や、将来独立も視野に入れているような場合は、悪くない転職先かも知れない。
⑤メーカーへの転職
文系の場合、大手金融や商社から、第二新卒でメーカーへの転職を希望する人はそれほど多くないかも知れない。また、第二新卒で大量採用をするメーカーもあまり思い浮かばないが、金融からだと経理やIR部門なら可能性があるかも知れない。
まずはポジション探しから始まるので、複数の大手の転職エージェントに登録して、なるべく幅広く求人企業を探すべきだろう。
⑥ベンチャーへの転職
好待遇の大手企業に就職できたものの、年功序列や、配属ガチャに嫌気が差し、ベンチャーへの転職を検討する若手は一定数いるようだ。
しかし、前述した様に、『成長』目当てでベンチャー転職を考えるのは非常にリスクが高い。将来、市場価値、年収、タイトルが上がらなければ、少なくとも客観的には『成長』したことにはならない。大手からベンチャーに転職しても、後悔するケースは少なくない。
もちろん、ベンチャーで市場価値を高めることが可能な場合もあるが、それについては、私のnote記事を参照していただきたい。
<ベンチャー転職での勝ちパターン>
https://note.com/takatsu2019/n/n2d19ac30a3db
4. 副業と運用は後回し
第二新卒での転職を考える場合、副業や運用による副収入の可能性は後回しにした方がいい。すでに副業や運用でかなりの実績があれば別だが、副業で稼げる収入は月数万円で10万円稼げるケースは稀だ。また、運用についても、そもそも元手が必要でそれを貯めることが先決だ。
他方、定年まで働くことを想定すると、本業における生涯賃金は数億円位の差が開く可能性がある。従って、若手ビジネスマンの場合、まずは本業中心にキャリアを考えるべきである。
また、本業が充実すると様々なスキル(ソフトスキルも含む)を習得でき、それが副業にも繋がってくる。
このため、第二新卒での転職の軸は、本業中心に検討すべきである。