序. 年収チャンネルとアビームコンサルティングのゲストの登場回
人気ビジネス系のYouTube番組「年収チャンネル」に、元アビームコンサルティングのゲストが登場した。2021年8月17日と8月18日の放送回である。
<年収チャンネル:アビームコンサルティング前編>
https://www.youtube.com/watch?v=yM_ZFnTou3E&t=0s
<年収チャンネル:アビームコンサルティング後編>
https://career21.jp/2020-03-11-130858/
アビームコンサルティング(以下「アビーム」とする)は、総合コンサルの大手であり、DXブームを受けて新卒・中途共に積極的な採用を続けている。「コンサル」という響きと高めの初任給、転職能力の高さを期待して、高学歴の学生の間でも人気は高い。
このため、今回の動画は参考になると思われる。
1. アビームの仕事内容について
アビームは総合コンサルの代表的な企業であり、早慶、有力国立大学から大量採用に成功している。「コンサル」と言っても、実態は戦略コンサルではなくITコンサルに近いということはかなり学生の間でも浸透してきていると思われるが、動画を見てみると新しい発見も多い。
動画はそれぞれ7-8分程度の短いものなので、実際に見ていただければいいのだが、まとめると以下のようになる。
①実態はSIerに近い?
アビームの業務内容の大半はITコンサル系の割合が大半である。戦略系の仕事もあるが、比率的には1割にも満たない程度である。
普通のIT系の受託会社との違いは、受託会社は仕事の完成を目的とする請負契約であるのに対して、アビームの場合はプロジェクトに要した人数と時間を基準として代金が支払われる準委任型の契約である。受託会社とは契約形態が異なるのである。
それでは、NTTデータのような大手SIerとの違いは何かということも気になるところであるが、NTTデータはコンサル領域にも業務範囲を拡大しており、その違いは相対化してきている。もっとも、アビームの場合は、マネージャーが仕事完成だけではなく、「クライアントにとって何が望ましいか」という視点を持っているので、コンサル的なサービスも付与できるという違いはあるようだ。
②新卒とIT系のスキルについて
アビームの仕事の大半はITコンサル系であるので、当然、コード、プログラミングを掛ける社員は多い。半分以上の社員がコードを書けるようだ。また、社内でのプログラミング研修などもあり、そちら関係のスキルが全くできないままだと肩身が狭くなるかも知れない。
何故なら、プログラミング周りが弱いにも関わらず、PM(プロダクト・マネージャー)の役割を担うと、それ以外の強み・専門性が期待される。しかし、若手の段階では、マネージャーが持つようなIT以外の知識・経験・ソフトスキルを有していないので、評価されにくい。
他方、プログラミング周りが強いと、プロジェクトにおいてリーダーシップを発揮しやすく、高評価にもつながり易い。
従って、アビームに行くのであれば、プログラミング系のスキルも習得してITにどっぷり浸かるという覚悟を持った方がよいそうだ。
③プロジェクトの割り振りについて
アビームの場合も、他の総合コンサルと同様、コンピテンシーとインダストリーという2軸の切り分けがある。コンピテンシーというのは、テクノロジー、M&Aといったスキル・専門分野による軸であり、インダストリーは、自動車、金融、小売りといった業界別の軸である。
新入社員の場合は、希望は一応聞いてもらえるものの、まだ強みが無い段階なので、空きプロジェクトに回されるというのが実情である。そして、たまたま金融機関系のプロジェクトが多ければ、そのまま金融グループという流れもある。
④憧れの戦略(ストラテジー)部門に行くには?
総合コンサルの実態はITコンサルで、戦略部門で仕事を出来るのはごく一部というのはわかっていても、やはり、戦略部門を希望する社員は多い。
アビームの場合、新卒採用の時点では、戦略部門を別採用しておらず、入口は同じである。ただ、残念なのは、戦略コンサル企業で経験を積んだ人が中途採用でやってきて、その戦略部門のポジションをかっさらってしまうことである。
もちろん、社内異動で戦略部門に異動することも可能であるが、それは、プロジェクトで高評価を受けて、マネージャーから推してもらうことが必要ということである。
なお、新卒段階では戦略部門は別採用ではないものの、頭が良いというオーラを出している一部の社員も存在するようで、そういった社員は戦略部門に回されるケースもあるようだ。
⑤クライアント常駐型の働き方の問題点
アビームの働き方は、クライアント常駐型が大半だという。そうなると、社内の人脈を形成するのが難しい。コロナの状況下、リモート勤務の割合が増えると、なおさら難しくなる。そうなると、マネージャーから高評価をしてもらうことも難しくなってしまうので、社内活動に積極的に参加するなどして、意図的に社内ネットワークを構築していくことが重要だという。
この点は、総合コンサル志望者は認識しておいた方がいいだろう。クライアント常駐、プロジェクト単位でのチームの入れ替え、リモート勤務というのが重なると、社内的な人脈構築がかなり厳しくなってしまう。
⑥アベイラブル期間(待機期間)を見ると社内での評価がわかる?
総合コンサルの場合、プロジェクト単位で仕事が進められるので、プロジェクトが終わるとアベイラブル期間という待機期間がある。これは、他の業界ではあまり見られない特徴である。
社内での評価が高い優秀な社員は、プロジェクトが終了する前に、次のプロジェクトのお声が掛かるので、アベイラブル期間は無いという。他方、専門スキルが弱かったり、社内評価が低い社員にはお声が掛かりにくい。
アベイラブル期間中に、アサイン担当に次の仕事を回してくれと頼むことはできるが、それでも案件が回してもらえないと、延々とアベイラブル期間が継続することになる。このようにして、社員の二極化が顕著になっていく。
⑦国内系コンサルは意外にクビにならない?
社内の評価が低くアベイラブル期間が続けば、厳しいコンサルの世界なので、すぐクビにされそうである。しかし、アビームは国内系なので、外資系よりは優しく、すぐにクビにすることは無いそうである。
もっとも、最低評価が何期か連続で続けば肩叩きをされるようであるが、反対にそれまでは高給をもらい続けることができるわけである。リモート勤務でアベイラブルが続くと、本当に何もしないで給料をもらえるという状態になるという。
もちろん、こういったことは望ましいことではないが、次を考えるにあたっての十分な猶予期間になるので、社員にとって有難いことである。
2. アビームの給与・年収について
動画の後編において、アビームの年収の話がされている。
アビームの初任給はアナリストという位置づけで約550万円である。新卒の給与を上げたらしく、結構な高給である。
その次の職位はコンサルタントになり、年収は約600~700万円程度となる。年齢的には20代後半のイメージである。
コンサルタントの次はシニアコンサルタントであり、年齢的には30~33歳位である。年収は750~900万円だが残業を頑張ると大台の1000万円に到達する。
シニアコンサルタントの上がマネージャーであり、ここからは管理職である。年収レンジは1100~1500万円位で、大手金融機関並みの水準だろうか。
マネージャーの上はシニアマネージャーとなり、年収レンジは1500~2000万円である。こうなると、大手の部長クラスである。もちろん、シニアマネージャーまで到達できるのはごく一部ということだ。
3. 「とりあえずコンサル」という考えは止めた方がいい?
早慶又は旧帝等の有力校の学生にとって、MBBの様な戦略コンサルは憧れであろうが、内定を取るのは非常に難しい。YC塾や外資就活アカデミアのような選抜コミュニティに加入したり、アルファアドバイザーズの様な就活塾で準備をしないと、なかなか内定は取れない。
また、MBBよりは多少入り易いかも知れないが、総合商社や国内金融IBDもなかなか内定を取るのは大変だ。
だからといって、配属ガチャで地方に飛ばされたり、スキルが付く仕事に就けないという理由から、大手金融機関のオープンコースには抵抗がある。
しかし、自ら起業を目指せるようなスキルや自信は無い。
そういった学生にとって、総合コンサルは有力な選択肢となる。コンサルといっても戦略ではなくITコンサルの仕事がメインとわかっていても、コンサルという響きは良く、年収も高いし、何よりも東京で働くことができる。そして、数年後に合わないと思えば、転職すればいいからである。
このため、「とりあえずコンサル」ということで、総合コンサルを志望する就活生は少なくないようだ。
もっとも、このアビームの動画を見ると、総合コンサルはIT色が非常に濃く、プログラミングが出来ないと社内で評価されることは容易ではないことがうかがわれる。ITの世界にどっぷり浸かる覚悟が無いと、入社するのはリスキーである。
また、嫌になれば転職と言っても、高度なITスキルが無ければ、外資IT、商社、大手金融に転職することは難しい。もちろん、そこそこの大手の事業会社には転職可能だろうが、それなら最初からそういった事業会社に就職した方が良かったことになる。日本の大企業の場合、新卒の方が中途採用組よりも優遇される場合が多いからである。
もちろん、ITスキルを有していたり、ITに強い関心がある場合には、悪くない就職先であろう。しかし、そうでなければ、「とりあえずコンサル」が正解とは言えない場合も多いだろうから、自分の適性を見極めてよく考えた方がいいだろう。