MBA・海外駐在経験有の商社・金融マンでも50代になると転職できない理由

1. 「45歳定年制」に限らず、40~50代サラリーマンには難しい問題が…

サントリー新浪社長の「45歳定年制」発言は、大炎上となってしまったが、それ以外にも同席した経済同友会メンバーからは興味深いコメントがなされている。

<日テレnews24 「45歳定年発言」そこにいた経営者たちは>
https://www.news24.jp/articles/2021/09/18/06941691.html

ロッテホールディングスの玉塚元一社長は、「優秀な商社マンでも転職先苦労」ということで、このようなコメントをされている。(上のリンク参照)

「転職相談をよく受けるんです。大手商社や金融の50代半ばから後半。MBA持っていて、海外駐在経験あり。英語もしゃべれる。ヘッドハンターを紹介するが、なかなか転職先が決まらない。これ喫緊のテーマです。」

サントリー新浪社長の「45歳定年制」発言に関連して、商社・金融で海外駐在経験やMBAまで保有していると、何の問題も無く転職出来そうである。

しかし、玉塚社長によると、50代になると、それだけハイスペックで十分な経験があっても、転職には非常に苦労としているということである。

「45歳」と50代とでは、転職のし易さは異なると思うので、以下では50代のエリートサラリーマンの転職問題に絞って考えたい。

2. 超エリートでも50代になると超えられない年齢の壁

①そもそも、誰でも年寄りよりも、若い人と一緒に働きたい?

商社や大手金融の超エリートサラリーマンでも、50歳を過ぎると社内の出世競争はもう結果が見えてきている。更に、50代半ばになると役職定年になり、タイトルは剥奪され、年収も2割ほど減らされる。

こうなると名実ともに窓際になってしまうが、海外駐在経験、MBA、社内タイトル、豊富な業務経験があり、まだまだやる気がある50代サラリーマンはこのまま終わりたくないと考えるだろう。

その場合、転職カードを切る他は無いが、いざ転職エージェントに登録・相談してみると、自分の市場価値の低さ・ニーズの低さに愕然とするだろう。自分は20~30代以上にスキルと経験を持っているのに、「年齢だけを理由に」書面落ちとなるのは納得が行かないと考える50代は多いだろう。

しかし、それは現実である。「高齢である」というだけで十分採用されない理由になるのである。年功序列制度はまだまだ根強く、年上の部下を持ちたくないという人は多い。

柔軟性が低く、プライドが高く、簡単な仕事を頼みにくいと思われる。また、少子高齢化社会で組織の活性化を図りたい企業が多い中、高齢者はその流れに逆行する。少々能力・スキルが劣っていても、若い人達と一緒に働きたいという経営者は少なくない。

実際、「50代という年齢だけを理由に書面落ちにするのはけしからん!」と思っている人達も、超優秀・ハイスペックな60~70歳を採用したいと思わないだろう。結局、それと同じなのである。

それが正しいとか正しくないかは別にして、「50代の人とは一緒に働きたくない。能力や経験値が劣っていても、20~30代を採りたい。」という現実を直視するべきである。

②50代になると、IT周りのスキルが弱い?

50代になると、問題は年齢だけとは限らない。今求められるIT周りのスキルが弱いと思われている可能性もある。ここでいうIT周りのスキルとは、プログラミングだけではない。ブログ、YouTube、SNS全般の情報発信や、それを利用したマーケティング術も広く含む。

商社や金融の様な堅い企業の場合、今までは副業規制やSNS情報発信規制があるので、やむを得ないところはあるが、このあたりの最新情報や手法に弱みがあるのは否めないだろう。

副業や情報発信が規制されれば、頑張ってキャッチアップしておきたいところだが、転職には間に合わないかも知れない。そうなると、他の強みをアピールする他ないことになる。

3. 転職における50代の年齢の壁を突破できる2パターンの人達

①稼ぐ能力のある人

稼ぐ能力のある人とは、歩合営業系で稼ぐことができる人や、営業や事業組織を率いて稼ぐことができる人である。

企業の目的は稼ぐことにあるので、たとえ50代でも稼いでくれるのであれば、最終的には年齢は関係ない。

従って、M&A仲介、外資系生保、証券会社のIFAの様に、中小企業オーナー等の個人営業に強ければ、年齢に関係なく活躍することができる(もっとも、こういう歩合営業職は心身ともにハードであるので、現実的には年を取ると厳しい)。

あるいは、営業部隊や事業部門を率いて利益を生み出す強固なリーダーシップがあるのであれば、50代であっても企業は欲しがるだろう。

ここで気を付けないといけないのは、商社や大手金融の大企業向けを顧客とする法人セールスの人達だ。本人達は、過去の大企業との取引で莫大な収益を上げた実績に胸を張りたいかも知れないが、それは企業の看板に頼っていただけではないか?厳しい言い方をすると、「そこにたまたま居た」だけであって、会社の看板が無くなると、当該法人企業からは全く相手にされない。

冒頭のロッテの玉塚社長が述べておられる「MBAを持っていて、海外駐在経験あり。」のエリートの人達はここに落とし穴がある。そういった人達はリテール営業、泥臭い営業をさせられることが無いので、会社の看板が無くなると顧客開拓力は無いのである。採用側企業の経営者や部門長達はそういったことをわかっているので、肩書・学歴・英語力の見栄えが良くても、それが「稼ぐ能力」とは別物とわかっているのである。だから、ハイスペックな50代のサラリーマンは転職に苦労するのである。

また、真の「稼ぐ能力」を備えているのであれば、50代で本体や子会社の役員で十分活躍できるので、わざわざ転職に活路を見出す必要は無いという見方もできる。

②スペシャリスト

営業で稼げなくても、真のスペシャリストであれば50代でも活躍することは可能だ。財務経理、人事、法務知財といった分野でのスペシャリストであれば、50代でも外資系で活躍している人達はいる。また、外資系であれば縦割りなので、経理や法務の部長職に就くと拠点長よりも年齢が上でも特に問題がなかったりする。

ベンチャー企業の場合、経営者が20~30代と特に若いこともあり、高齢のサラリーマンは非常に転職がしにくいのであるが、フィンテック企業の様な専門性が求められるところでは年齢に関係なく採用されるチャンスはある。

従って、文系の場合でもスペシャリストであれば、外資系とかベンチャー企業に転職のチャンスはあるだろう。

しかし、ここでの問題は日本の大企業のジョブローテーション人事である。金融の場合は特に、何十年もずっと同じ職種というケースは少ない。

この点、商社のコーポレート部門にいる人の方が可能性はあるかも知れない。一貫して財務畑、人事畑、法務畑であれば、スペシャリストとして転職できる可能性はある。ただ、弱みは「商社」という業種が他に無いことで、転職対象企業と同じ業界にいる人と比べると不利である点は否めない。

ただ、複数の転職エージェントに登録し、外資やベンチャー企業も視野に入れて探すと、可能性はあるだろう。

4. 転職が難しい50代の商社・金融エリートがやるべきこと

①最後まで今の会社にいることを前提で考える

上述の通り、50代の商社・大手金融エリートが自分の納得のいく転職をすることは難しい。商社や大手金融のエリート社員の場合、年収は1500~2000万円レベルである。これは、事業会社だと執行役員・事業部長クラスの年収なので、国内系他業種への転身は非常に厳しい。

外資系企業の場合であれば、年収の問題は無い。しかし、既に外資系企業にいる人達がその業界の中での転職であれば可能であるが、50歳を過ぎて外資系企業に初参入というのは、容易ではない。商社や大手金融機関の取締役であれば、また話は別であるが、担当部長・次長クラスの場合、そういった天下り的な転職は難しい。

それでは、ベンチャー企業はどうかというと、CXO、執行役員クラスの経営幹部でも年収1000万円に行くか行かないかである。ストックオプションというのは当てにならない。

今の会社では面白くは無いかも知れないが、下手に無理やり転職をしても、年収もステータスも下がるし、やりがいが有るとは限らない。

そうだとすれば、最後まで今の会社に残り、生涯賃金を最大化し、その間に定年後のビジネスを磨いた方が良いということになる。

50代は退職金、企業年金等の算定において重要な期間でもあるので、下手に転職すると結構な金額をロスすることになってしまう。定年後に何をやるにしても、軍資金は十分にあった方がいいので、ここは焦らず次への投資を行った方が良い。

②定年後にやりたいことに繋がれば、ベンチャーも悪くない

大企業からベンチャー企業への転職は、年収が大幅に下がることが多く、頼みの綱のストックオプションも不発に終わることの方が多い。だからといって、成長とかやりがいという抽象的な報酬で報われるものでもない。従って、ベンチャー企業への転職はあまりおすすめではない。

しかし、ある意味、大企業でも50代半ばを過ぎて、ほぼ回収できたのであればベンチャー企業への転職も悪くない場合がある。何故なら、それぐらいの年齢になると給料、退職金、企業年金、タイトル、経験と、大企業からいただくものは既にほぼ回収済みで、ベンチャーに転職しても失うものが限定的だからである。

大企業をリタイア後にやりたいことが明確に決まっており、そのためにプラスになるのであれば、ベンチャー企業に短期間在籍するメリットもある。

最大のメリットは職務経験・スキルで、例えば、リタイア後に教育事業をやるのであれば教育系ベンチャー、webコンサル業的なものを目指しているのであれば関連するベンチャーに行ってスキルや人脈を積むことが可能だ。

また、ベンチャー企業はお金やストックオプションは貴重なので、思ったようにもらえないかも知れない。しかし、肩書はタダなので、ストックオプション等の経済的条件を求めない代わりに、「執行役員」といったタイトルをもらうことは可能だ。そうすると、リタイア後にやりたい事業と方向性があえば、箔付けとして利用することができる。(もちろん、当該ベンチャー企業がその界隈である程度のネームバリューがあることが前提だが)

あるいは、副業として自分の事業が稼働し始めているのであれば、転職ではなく受託という形でベンチャー企業に部分的に雇用してもらうという選択肢もある。そうすれば、不要なん場合には、いつでも切れる形なので、ベンチャー側も採用しやすい。

50代半ばを過ぎると、逆にベンチャーという選択肢も生じるのだが、何となくベンチャーというのだけは避けるべきであり、自分のリタイア後との関連性を考えて戦略的に行動したい。

③副業・兼業何でも良いが、自ら稼ぐ途を模索してみる

今まで転職をしたことが無いエリートサラリーマンが、50代にもなって転職しようとしても上手く行かないことが多い。

従って、原則的には今の会社に最後までいることを考えつつ、副業・兼業を磨いて定年後に備えるのが最も堅いやり方だ。役職定年を迎えたのに、活躍しようとジタバタしても仕方がない。むしろ、周りはそれほど期待しないわけだから、思う存分、副業・兼業につぎ込めば良い。

しかし、今まで自ら稼ぐという意識が無かったから悩んでいるということなので、どうやって副業・兼業で稼げばいいかわからない人が大半だろう。

起業といった大げさなものではなく、個人ビジネスで稼ぐには2パターンしかない。
1つは物販系。モノを売って稼ぐということだ。メルカリやヤフオクで物を売るのが苦にならなければ、徐々に拡大していき、仕入れを行うようになると、これは立派なは物販である。それをECサイトに展開させて行けば良い。海外駐在経験で、いろいろ海外の面白いものを知っているのであれば、そこにビジネスチャンスがある。

もう1つは、コンサル・コンテンツ系だ。自分が得意なものを教える、情報発信するという稼ぎ方だ。海外駐在経験があって英語が得意なのであれば、ビジネス英語を教えるということが出来る。不正調査・フォレンジック系のスキルがあるのであれば、そういった面に特化してコンサルを行うという方法もある。

ただ、物販にしても、コンサル・コンテンツ系ビジネスにしても、ビジネスを拡大するにはブログやSNSによる拡散が必要だ。エリートサラリーマンの場合、プレゼンや文章を書くことは得意なはずだし、コツコツ続けることも苦にならないだろう。定年までは十分な時間があるので、焦らず続けていくことが重要だ。

ただ、それにはコツがいるので、情報収集が必要になる。また、個人コンサルを利用しても良い。この点、エリートサラリーマンは資金的な余裕があるので、ある程度は自己投資に資金を振り向けたい。

ハイスペックなエリートサラリーマンでも50代での転職は難しい。
ただ、生涯賃金、退職金、企業年金、ビジネス経験と、大企業から得られるメリットをほぼ回収できているという強みもある。

人生100年時代、70歳まで働くことが当たり前になることを考えると、定年までの期間はリタイア後に稼げるために準備をした方が良いかも知れない。焦って動いても良いことは無いので、緻密に計算をした上で慎重な判断が期待される。

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