序. 定年後に向けた準備は40代から必要?
人生100年時代ということがよく言われるようになった。実際に、寿命が現在の80歳位から100歳位になるとも思えないが、年金制度(いわゆる年金2000万円問題)等を考慮すると、70歳位まで働き続けることも想定した方がいいだろう。
しかし、60歳を過ぎると、年収1000万円以上のエリートサラリーマンでも良い働き口を見つけることは非常に難しい。多くの元大企業のホワイトカラー系の管理職が希望する、事務系の管理職のポジションなどまず見つからない。ほとんどの場合は、現業系の職種であると言う。
もちろん、定年後に良い仕事が見つからなかっとしても、大企業のサラリーマンの場合は、退職金制度や企業年金制度が充実しているためお金で困るわけではない。ただ、仕事、肩書、同僚を定年によって一気に失い、自分の居場所がなくなってしまうことがより深刻な問題だと言う。この点については、ベストセラーになった楠木新氏の「定年後」や「定年準備」においても言及されている。
<楠木新著「定年準備」の書評>
https://career21.jp/2019-04-25-185241/
エリートサラリーマンが定年後も充実した生活を送ろうと考えると、40代くらいから将来のことを考えて徐々に準備をしていく必要があるだろう。以下では、40代のエリートサラリーマンが採りうる選択肢について1つ1つ見ていきたい。
1. 社内で出世をする
最もオーソドックスで理想的なシナリオはこれである。大企業の場合、年功序列で徐々に年収が上がって行くことが多く、外資系企業と異なり、タイトルが1ランク上がると大きく跳ねることはない。
しかし、役員になると話は別で、年収が一気に増えることが多く、退職時にも高額の退職金が支給されるだろう。そして、そこから更に、子会社の役員等に就任するチャンスもあり、サラリーマン人生は定年を過ぎても継続できる。もちろん、世間体も良い。
ただ、大手企業の場合、役員まで出世ができるのは同期の中でもごく一部だ。割合としては1割もないだろう。役員昇格には運の要素も強く、頑張ったからといって実現できるとは限らない。
このため、役員昇格の可能性が残されている場合には、役員目指して仕事を頑張れば良いのだが、そうでない場合は、以下のような現実的な選択肢を検討する必要があるだろう。
2. 定年まで働き続けることができるように頑張る
現実的には、この選択肢を採る(採らざるを得ない?)大手企業のサラリーマンが多いだろう。57歳または55歳の段階で「役職定年」を迎え、年収が2割削られ、タイトルを剥奪されるという辛い目にあって、「辞めたい」と思いつつも、下手に年収が大幅に下がる転職をするぐらいなら、割り切って最後まで会社に残った方がマシというパターンだ。
但し、今後は大企業と言えども、この選択肢が採れるとは限らない。特に、2020年初頭に生じたコロナウイルスの経済活動に与える影響は深刻で、影響度の大きい業種においてはリストラが不可避となり、早期退職を選択せざるを得ない場合もあるだろう。経団連も終身雇用制度を維持するのはもう無理だと宣言をしているので、現在40代のエリートサラリーマンも定年までは働けない場合のシミュレーションを考える必要があるだろう。
以下で述べるような、転職先が十分にあるサラリーマンは別として、そうでない場合には、副業やフリーランスの途も検討し始めた方が良いだろう。また、会社に残る場合でも、少しでも長く在籍できそうな、或いは、転職や副業のスキルが付きそうな部署への異動も狙った方がいいだろう。
3. 定年までに転職をする
①外資系企業への転職
金融機関の場合、40代で初めて外資系金融機関に転職することは、かなり難しい。そもそも、外資系投資銀行の場合、平均年齢が低く、成功してもしなくても、40代半ば位がリタイアの目安とも言われる。したがって、40代で外資系投資銀行に転職できるのは極めてレアケースだと思われる。
他方、平均年齢が高めの外資系運用会社の場合には、50代半ば位まで働くことは十分可能である。このため、40歳を過ぎてから国内系から外資系に転職する人達も見られる。しかし、外資系と国内系とではカルチャーが大きく異なるので、能力・スキルが高い場合でもフィットしないことがある。このため、40歳を過ぎて初めて外資系金融に転職をする場合には慎重に考えた方が良い。目先の年収が倍になったとしても、数年で辞めてしまった場合には、何の意味も無い。最近は、日本の金融機関も出戻りは歓迎しないようなので、元の会社に戻れる保証はどこにもない。
事業会社の場合は、金融機関と比べると管理職になる年齢が遅めであり、40代の社員が管理職ポストで初めて外資系企業に転職するケースは普通にあるだろう。ただ、この場合も、外資系企業と国内系企業のカルチャーの違いや、外資系の場合は終身雇用が保証されていないのは金融機関と同じであるので、リスクを踏まえた上で生涯賃金について吟味する必要があろう。
②国内系大手企業への転職
国内系大手企業で年収1000万円以上のエリートサラリーマンが、40歳を過ぎてから、他の国内系企業に経営職や管理職として転職するケースはあるだろう。日本の大手企業の場合、同業者間で、管理職の引き抜き合戦をすることは余り多くはない。したがって、国内系大手企業の管理職が、大手と言っても格下の企業や新興系の企業からお声がかかることが多いかも知れない。
国内系の企業への転職であれば、外資系企業への転職と異なり、年収が大きく増えないかも知れない。また、既上場企業の場合には、ベンチャー企業のCXOポジションでの転職とは異なり、ストックオプションの妙味は無いのではないか。
そうなると、転職の妙味はタイトルが上がることや、企業或いは当該事業部門が自分の転職後に成長した場合には、そのメリットを享受できるということになるのだろうか?
いずれにせよ、リスクはあるわけだし、大企業で40歳を過ぎて転職すると手厚い退職金や企業年金を得られなくなってしまうこともある。結局、外資系に転職する場合と同様に、今の会社に居続ける場合の生涯賃金や昇格可能性を考慮した上で、慎重な判断が必要となろう。この点は、20代での転職とは異なり、大企業の40代のエリートサラリーマンが転職に失敗すると失うものが大きいからである。
③ベンチャー企業への転職
ベンチャー企業にもいろいろあるが、ここでは狭義のベンチャー企業、要するに未上場で経営が安定しないベンチャー企業を指すものとする。したがって、ヤフー、楽天、サイバーエージェント、メルカリのような、いわゆる「メガベンチャー」は含まない。
最近では、商社やメガバンクの20代の若手社員が特に具体的な勝算も無く、ベンチャー企業に転職して失敗するケースが見られるが、40代のサラリーマンの場合、こういった話はあまり聞かない。
ベンチャー企業では、創業社長や役員が20代から30代前半と非常に若い場合が多い。また、経営的にも発展段階にあるので、高給をはずめるような財政状態にないことが大半である。そうなると、年収1000万円以上の40代のエリートサラリーマンが満足できるような給与を提示することは難しいし、また、仮に高給を提示できるのであれば同世代の若手の大手サラリーマンを採りたいものである。
従って、現実的には、40代のエリートサラリーマンがベンチャー企業への転職で悩むケースは少ないかも知れない。
ただ、年齢関係なくITエンジニアや、フィンテックにおける金融専門職については、40代でも需要はある。こういった場合、オファーされるポジションはCXOクラスが多いのであろうが、年収は1000万円上限であることが多い。そうなると、ストックオプションをどう評価するかということになる。IPOの確度が高そうな場合には、アップサイドが狙える魅力はあるのだろうが、ベンチャー企業の成功率は低い。
従って、ストックオプションに惹かれてベンチャー企業の転職を考える際には、失敗した場合には、どこに転職できるか?元の業界や職場に復帰することは可能か?また、最低限、ベンチャーに在籍することによって得られるスキルや経験は何かについて、十分に事前に詰めておく必要があるだろう。
④起業・独立(フリーランス)
国内系企業で40歳まで働き続けた場合、転職することは結構ハードルが高い。起業・独立など猶更難しいだろう。別にIPOを狙うような大げさな起業でなくとも、大手企業のサラリーマンの場合は、給与以外にお金を稼いだ経験がある人は少数派だろう。そもそも、昔はネットそのものが無かった訳で、web系のスキルを持たない40代以上の人が多い。また、日本の大企業の場合は、実名を出してのSNS運営も規制しているところも多く、集客ツールとしてのSNS運営に長けたエリートサラリーマンは少ないだろう。
そうなると、起業・独立の意欲やアイデアなど、到底沸かないであろう。
しかし、50代後半や定年後を見据えた、少額稼げればOKという起業・独立なら可能性は十分にある。年金の足しに、月に10万~20万稼ぐ方法ならいくらでもあるだろう。語学が得意な人は塾をやったり、営業力に自信があれば販売代行的なビジネスを展開することもできるだろう。コロナウイルスの問題が生じたために、リモートのツールが普及したので、ZOOMを使ったコンサル的なビジネスであれば、固定費がかからないので少額を稼ぐための元手は掛からない。
もちろん、こういった小さなビジネスもすぐに企画・実行することはできないので、40代のうちから準備を始めておくべきだろう。
そのための準備としては、後述の副業をいろいろと試せばいいのではないだろうか。
4. 副業について
ネット・SNSの世界では、「副業で稼げる」旨の怪しげなコンテンツが溢れている。しかし、現実的には副業で稼ぐことはそれほど簡単ではない。
昔は、ブログも副業の代表格であり、普通のサラリーマンも少し頑張ればアフィリエイトで月に数万営程度稼ぐことは十分可能であったようだが、2019年頃のGoogleアップデイトによって、個人がブログで稼ぐことは難しくなった。
SNSのセンスがある人は、Twitterやインスタグラムを副業の種にすることも可能だろうが、そもそもTwitterはブログやYouTubeのようなGoogleアドセンスの様な収益方法が無いので、フォロワーを増やしたところで収益化できるわけではない。
Instagramの場合、フォロワーが1万人になれば月に50~100万円位十分に稼げるという景気の良い話も耳にするが、40代の年収1000万円以上のサラリーマンと言えども、果たしてInstagramでフォロワー1万人をどうやって達成するのか?
結局、そうなると、意外に単純作業的なもので稼ぐのが現実的かも知れない。例えば、クラウドワークスやランサーズで、ライティング、動画編集のような、専門的スキルが不要な作業の仕事から始めるのが現実的だ。
もちろん、こういった単純作業的な副業は発展性、アップサイドが期待できないかも知れないが、自分の適性を探すためには有用な体験となろう。特に、何十年も給与所得以外に稼いだ経験が無いサラリーマンにとっては、その意味は小さくない。40代の場合、定年までまだまだ時間はあるので、本業以外で稼げる手段を模索していくのは悪くない体験となるだろう。
最後に
大手企業勤務で年収1000万円以上のエリートサラリーマンは、今までは、安泰だったのかも知れない。終身雇用で定年まで高年収が保証されるとともに、手厚い退職金・企業年金制度が用意されていたからである。
しかし、終身雇用制度は将来も維持されるとは限らないし、コロナウイルスの影響でダメージを受けた業界は高給の窓際社員を雇い続ける体力はない。
そうなると、結果的に最後まで会社に働き続ける場合でも、途中で転職をする場合でも、40代のうちにしっかりと準備をしておかないと、その時になって慌てて動いても失敗するリスクが生じてしまう。
まだ焦る必要はないだろうが、40代のエリートサラリーマンもいろいろな選択肢を検討することが求められる時代になったのではないだろうか。