慶應義塾大学理工学部及び理工学研究科の就職と進路

1. 慶應義塾大学理工学部の概要

慶應義塾大学理工学部は定員932名である。理工学部は、「学門」別入学制度を導入しており、入試の際にはこの学問別に募集がなされる仕組みである。

理系学部だけあって、男女比率は8:2とかなり男子生徒の比率が高くなっている。

また、キャンパスは1~2年次は日吉キャンパスで他学部と一緒であるが、3~4年次は矢上キャンパスという、日吉駅から徒歩15分位のキャンパスとなる。他学部の様に、三田キャンパスではないところが特徴である。

https://passnavi.evidus.com/search_univ/2370/department.html?department=030

2. 慶應義塾大学理工学部(学士過程)の就職について

①学部卒と院卒とでは大きく就職先の方向性が異なる。

慶應義塾大学理工学部の場合、学部卒業生の約70%が大学院に進学する。そして、大学院に進学する学部生のほとんどは、同じく慶應義塾大学の大学院理工学研究科に進学している。

このように、多数の卒業生が大学院に進学するのは東大、京大、東工大の様な有力な国立大学の理系学部と同様であるが、学部卒と院卒とでは就職先にかなりの違いがある。

従って、ここでは、学部卒の就職先と、修士課程卒の就職先とを別々に検討することとする。

②学部卒業生の就職先

慶應義塾大学は就職状況について、その公式HPで詳細な開示をしてくれている。
https://www.students.keio.ac.jp/com/career/service/date.html

2018年度の卒業生については、上述の通り、約7割が大学院に進学するので、就職するのは3割のみである。このため、就職者数は221名とかなり少なく、稀少性は高いと言えよう。

就職者数トップ10(就職者数3名以上)については、以下の通りである。

理工学部(学士過程)就職者数221人
会社名 人数
1 新日鉄住金ソリューションズ 7
2 三井住友銀行 6
2 日本航空 6
4 アクセンチュア 4
4 みずほ銀行 4
4 三菱UFJ信託銀行 4
4 東京都 4
8 NTTデータ 3
8 ソフトバンク 3
8 プロクター&ギャンブル 3
8 三井住友海上火災 3
8 三井物産 3
8 大和証券 3
8 東京海上日動火災 3
8 日本放送協会 3

(出所:慶応義塾大学HP 「2018年度 上位就職先企業(3名以上上位20社))

③理工学部(学士過程)卒業生の就職先の特徴 ~ほぼ完全な文系就職~

理工学部(学士過程)卒業生の就職先の特徴は、ほとんど理系と思えない様な、ほぼ完全な文系就職ではないだろうか?

上位の就職先の顔ぶれを見ると、学部名が無いと、文系学部と思っても不思議ではない。
1位の新日鉄住金ソリューションズは文系っぽくはないが、メガバンク、東京海上、大和証券、三菱UFJ信託銀行という金融機関に、日本航空、日本放送協会、P&G、三井物産と文系の人気企業がズラリと並ぶ。

また、アクセンチュアも4位にランクしている。

221名という就職者数が少ないことや、理系というとDX、AIブームの環境下、テクノロジーに強い者というイメージがあり、引く手数多なことから、就職の良さがうかがえる。

3. 慶應義塾大学理工学研究科(修士課程)の就職先

①理工学研究科(院卒)の就職状況について

理工学部の学部卒業生の就職者数は、わずか221名であるのに対して、修士課程卒の就職者数は約3倍の675人となっている。その上位就職先は以下のようになっている。

理工学研究科(修士課程) 就職者数675人
会社名 人数
1 ソニー 31
2 キャノン 23
3 日立製作所 17
4 野村総合研究所 14
5 NTTデータ 13
5 東京ガス 13
5 富士通 13
8 日本IBM 12
9 アクセンチュア 11
10 ヤフー 10
10 日本放送協会 10
12 AGC 9
12 パナソニック 9
14 ソフトバンク 8
14 日産自動車 8
16 NTTコミュニケーションズ 7
16 トヨタ自動車 7
16 ブリヂストン 7
16 村田製作所 7
16 本田技研工業 7

(出所:慶応義塾大学HP 「2018年度 上位就職先企業(3名以上上位20社))

②理工学研究科の就職先企業の特徴について

理工学部の学部卒が文系就職の傾向が強いことに対して、理工学研究科の院卒の就職先は対照的に典型的な理系就職となっている。ソニー、日立、富士通、日本IBMといった電機メーカーから、トヨタ、日産、ホンダという自動車メーカー、そして、村田製作所、キャノンと日本を代表する製造業で占められている。

アクセンチュア、NTTデータ、ソフトバンク、日本放送協会は、理工学部(学士過程)と共通しているが、学部卒と院卒とでは配属先が異なる可能性もある。

いずれにせよ、理工学研究科の主な就職先はトップクラスの製造業がメインであり、極めて良好な就職状況だと言えるだろう。

③東京工業大学の修士課程の就職状況との比較

理工学研究科の就職状況が極めて良好である点は確認できたのだが、気になるのはライバル校との比較である。

この点、東京工業大学の修士課程の就職状況と比較してみたところ、両研究科の主な就職先はかなり類似している。このため、国立理系のトップ校である東京工業大学と比較しても、特に劣る点はないと言えるのではないだろうか。

違いがあるとすれば、三菱重工と新日鉄住金については、若干東京工業大学の方が存在感があるように思われた程度である。

<東京工業大学の就職と課題について>
https://career21.jp/2019-01-27-094225

4. 慶應義塾大学理工学部の就職における課題

上述の通り、理工学部の学部卒の場合は文系就職、院卒の場合は理系就職という方向感の違いがあるものの、いずれも極めて良好で、就職状況については特に課題は無いと言えるのではないだろうか?

課題があるとすれば、就職してからの評価かも知れない。
理系においては、今でも、国立>私立のイメージがあるため、理工学部の研究能力や評価を引き上げることが大学としての課題となるだろう。

この点、理系の場合は文系よりも授業料の格差が大きいし、また、大半が修士課程に進学することを考えると、このあたりの弱点をどうカバーするかが課題となるだろう。

また、これは理工学部に限らず、大学全体に共通する問題であるが、起業家やニュービジネスをどう支えていくかが重要な課題となろう。

そして、これは特に院卒の場合の課題であるが、将来自分の就職した業界が衰退した場合に、どのような対応ができるかを意識した方がいいだろう。日本の少子高齢化による国内市場の縮小化は不可避であり、それを解決するためには、海外で稼ぐか、ニュービジネスで稼ぐ必要がある。それは個人レベルでも課題となり、将来業界が衰退した場合であっても、生存できる適応能力が必要となるだろう。

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