1. コロナショックによる急激な景況感の悪化と高まるリストラの不安
運用会社というのは、証券会社とは異なり、ストックビジネスである。
運用資産(AUM:Asset Under Management)がある限り、新規案件がゼロでも、運用資産に運用報酬料率を乗じた運用報酬を手にすることができる。
このため、相対的に雇用の安定性は高い業界であると言える。
しかし、そうは言っても、所詮は外資系である。国内系の大手金融機関の様に、終身雇用は保証してくれない。
実際、リーマンショックの時は、当時の従業員の3割以上がリストラされたケースもある。(もっとも、5%位しかリストラされなかった会社も存在したが…)
いずれにせよ、現状の様な状況が続くと、現在既に外資系運用会社にいる者も、将来的に外資系運用会社への転職を目論む者も、雇用の確保と、最悪リストラされた場合の割増退職金(パッケージ)が気になるところである。
2. 外資系運用会社のリストラと割増退職金(パッケージ)について
自己都合による退職ではなく、リストラや解雇など、会社都合による退職の場合には、割増退職金が支払われる。退職金以外にも、付帯的な経済的利益が上乗せされる場合があるので、「パッケージ」という言い方をする場合もある。
外資系運用会社の場合には、小規模な運用会社も少なく無いので、そもそも退職金制度というのが無い会社もあるが、このリストラ等に伴う割増退職金というのは、一般的な退職金とは別に支払われるものである。
<一般的な外資系金融機関の退職金について>
https://career21.jp/2019-04-03-151029
割増退職金については、個別的な要素もあり、粘り勝ちで多めの退職金を手にすることができる人もいるようであるが、一般的な目安があると思われる。
割増退職金は、その本社の国籍によってトレンドがあるようで、一般的には、
欧州(フランス等の大陸系)>英国>米国といった順で手厚くなっているようだ。
①親会社が米国系企業の場合
米国は、日本や欧州と比べると、企業側の立場からすると最も解雇がし易い国と考えられ、その分、割増退職金も相対的に少ないと言われている。
過去には、基本給の2~3ヵ月分という話も聞いたことがあるが、日本の法制度上は6か月分位は必要とされ、ゴネるか弁護士を立てたりすると、基本給の6か月分はもらえるはずである。
外資系運用会社の中間管理職のボリュームゾーンである、VPの場合だと、基本給(ベースサラリー)は1500~2000万円程度と推察される。
この場合は、750~1000万円が割増退職金の目安となる。
②親会社が英国系企業の場合
運用会社の場合、英国系企業は結構多い。
英国系の場合は、欧州ということもあり、一般的に米国系よりは手厚いようだ。
ある大手米国系企業の日本法人の場合は、直接の親会社が英国法人であるため、リーマンショックの時の割増退職金は基本給の1年分であったということを聞いたことがある。
基本給が1500~2000万円とすると、割増退職金は、1500~2000万円ということになる。
③親会社が欧州系(大陸系)の場合
一般的に、親会社が欧州の大陸系(フランス、ドイツ、オランダ他)の場合が、割増退職金が最も手厚いと聞く。フランス、ドイツなどは、日本と同様、解雇が厳しいため、会社都合による退職の場合は、その分多くの金額が支払われるということだ。
私の元同僚が、某フランス系大手の運用会社が合併した際に、吸収される側の会社にいたため、会社都合による退職を経験した。その際の、割増退職金の額は、何と基本給の2~3年分であったという。
もっとも、一般的にフランス系の場合は、基本給は米英系と比べると低めであるのだが、それにしてもかなりの金額である。これは、当時の業界でも有名な話で、妙な話であるが、合併によって解雇された人達は羨ましがられていた。
3. 外資系運用会社のリストラについて留意したいこと
割増退職金が基本給の1年分以上支払われる場合には、それが羨ましく見える場合もある。
しかし、それは、次の仕事が見つかる場合が前提である。
マクロ経済環境が平常時であれば、割増退職金をもらってから、次の仕事を探しても余裕というケースもあるだろう。
しかし、リーマンショックの時や、今回のコロナショックの様に、業界全体が大ダメージを受けている時は、次の仕事はそう簡単に見つからない。
したがって、働き続けることができるのであれば、少々厳しい立場になっても、粘れるものなら粘って会社に残ることが得策だ。
何故ならば、一旦退職して無職になってしまうと、仮に次の転職先が見つかった場合でも、買い叩かれがちだ。
外資系の場合、一旦入社すれば、その後に基本給を上げるのは昇格でもない限りかなり困難である。このため、入口で基本給が相場よりもかなり低い水準で入社してしまうと、元の水準に復活するのに3年以上要することにもなりかねない。
また、ボーナスのギャランティについても、営業職で歩合の計算が明確であれば別かも知れないが、最初の金額が低いと、やはりその後も引っ張られがちだ。
そうなると、1500~2000万円の割増退職金をもらえたからといって、3年もすれば、その経済的な効果は消え去ってしまうことになる。
特に、職歴無しの浪人期間が1年以上続くと、感が鈍るということで、次の仕事を探す上でかなり不利になってしまう。
従って、今回のコロナショックの場合には、安易にパッケージに飛びつくことは控えて、残れるものなら残るのが得策だろう。