1. 丸紅が遂に商社の「配属ガチャ」の呪縛を解いた?
商社というと、就活生の間で、国内系企業人気ナンバー1の業界である。
外銀やMBBの内定者の中にも、商社を併願する者が少なくない程である。
ところが、商社の弱みとして、配属先が内定時には確約されないため、配属先は入社してみないとわからない。当然、自分が希望していた部署とは全く異なるところに配属されるリスクがあり、その後、部署異動をすることは容易ではない。
このため、商社の「配属ガチャ」問題とも言われ、それを理由に商社を敬遠し、金融機関の部署別採用コースを選択するトップ就活生も存在した。
しかし、2021卒を対象に、遂に丸紅が配属部署確約型のコースを導入したのだ。
<ONE CAREERの丸紅の配属部署先決めに関する記事>
https://www.onecareer.jp/articles/2295
2. 丸紅の配属部署先決めのコース、「Career Vision」採用とは?
丸紅の配属部署先決め型のコースを、「Career Vision」 採用というようだ。
キャッチフレーズも、「自分のやりたいことへの就職を実現する」とズバリ、ポイントを明示している。
もっとも、留意点としては、新卒だけではなく、いわゆる第二新卒も対象にしていることだ。
「業務経験5年程度まで」の既卒の社会人経験者も対象となっていることだ。
このため、第二新卒で優秀な人材が多数応募すると、新卒向けのこの枠は減るかも知れないという不安もある。
また、新卒については、配属部署が確約されない従来型の総合職(オープン採用)コースとは併願できるので、これは証券会社とは異なる点である。
商社の場合は、金融機関のリテールとホールセール程の配属格差は無いので、併願すればいいのではないだろうか。
<丸紅の「Career Vision」採用について>
https://www.marubeni-careervision.com/
3. 募集の対象となっている部署について
①営業、コーポレートを問わず、多くの部署が対象になっている。
今回の丸紅のCareer Vision採用については、募集の範囲は全部署が対象ではないものの、極めて多くの部署が対象になっており、選択肢は多い。
また、営業とコーポレート部門の双方が対象になっているのも特色である。
〇営業グループ
<ライフスタイル本部>
・ブランドマーケティング部
・機能繊維部
<情報・不動産本部>
・不動産開発事業部
・不動産投資事業部
・保険事業部
<フォレストプロダクツ本部>
・パルプ部
<食料本部>
・食品原料部フードサイエンスチーム
・畜産部
<アグリ事業本部>
・アグリインプット事業部
<化学品本部>
・化学品第一部
・化学品第二部
<電力本部>
・海外電力プロジェクト第二部
<金属本部>
<航空・船舶本部>
・船舶部/船舶プロジェクト推進室
<建機・自動車・産機本部>
・自動車部
<次世代事業開発本部>
・ヘルスケア・メディカル事業部
〇コーポレートスタッフグループ
・経理部
・営業経理部
・人事部
・総務部
・リスクマネジメント部
②今回募集の対象となっていない主な部署について
営業グループで、今回のCareer Vision採用の募集対象となっていない部門で主なところは、エネルギー、プラント、金融・リース事業あたりであろうか。
いずれも、伝統的に丸紅に競争力があり、かなりの収益を稼いでいる部門なので意外感はあるが、とりあえず、若手の人材は間に合っているということだろうか。
また、コーポレート部門だと、法務部門とIT部門が対象外となっている。
いずれも、バックオフィスの中では、汎用性が高く転職力も低くない職種かと思われるが、こちらも、新卒での配属先確約部署にはならないようだ。
4. どの部門に応募すべきなのか?
①先ずは、各部門の収益状況を把握することが必要
せっかく、部門別の応募ができるのであるから、応募する部署については戦略的に慎重に考えたい。
今回のCareer Vision採用では、応募できるのは1ポジションだけなので、面白そうなところを片っ端から応募するわけには行かない。
就活生の場合だと、就業経験が無いので仕方がないところもあるのだが、部署名だけを見て、
カッコ良さそうなところや新規事業的なネーミングの部署に目がいくおそれがある。
それだと、仮に採用されたとしても、思っていた仕事内容と異なることになりかねないし、そもそもそういった浅い志望動機だと内定をもらえない可能性が高い。
自分がどの部署を応募するかを考えるにあたっては、前提として、丸紅の各部署の収益状況を把握しておくことが先決だ。
すなわち、名称が面白そうでも、稼げる部署じゃないと社内での発言権は少ないし、昇格できないおそれもある。また、戦略的な新規事業の場合、結局収益を計上できなかったり、トップが交代した場合には、お取り壊しになってしまう場合もある。そうなってしまうと、サラリーマンとしては悲惨である。
また、自分自身のキャリアプランとして、将来転職とか独立起業を考えているのか、それとも、基本的に丸紅の中で偉くなっていくことを考えているかによって、判断軸は異なるはずである。
<丸紅 第3四半期決算 IR資料>
https://ssl4.eir-parts.net/doc/8002/ir_material_for_fiscal_ym1/76374/00.pdf
②転職・起業はあまり考えておらず、丸紅の中で出世を目論む場合
この場合は、丸紅の伝統的な収益部門を軸に、その中から自分がやってみたい部署を選択するというのが1つの方法である。
丸紅の得意とするところは、アグリ、インフラ、輸送機とも言われており、上記リンク先のIR資料を見ての通り、収益金額は高くなっている。
例えば、今回募集中の部署だと、食料本部とかアグリ事業本部、電力本部、航空・船舶本部、建機・自動車・産機本部が該当する。
また、丸紅は非資源型の商社であるものの、金属は存在感が大きいビジネスであるので、金属本部、或いは、情報・不動産本部なども収益的に存在感は高いと言えよう。
他方、カッコ良かったり、耳障りが良さそうな、ライフスタイル、次世代事業開発本部は収益における存在感が低いので、この点は留意する必要があるだろう。
③転職力や起業を軸に考える場合
起業を軸に考える場合には、自分が将来手掛けたい事業に関連する部署を選択すればいいだろう。
難しいのは、転職力を軸に応募部署を選択するケースである。
「商社では専門性がつかない」ということがよく言われるが、「専門性」と、「転職力」(或いは「市場価値」)というのは別物である。
例えば、丸紅の場合で見ると、アグリ、プラント、自動車といった部門は収益性が高いし、それらのビジネスに関する専門性は修得できるはずである。しかし、こういったビジネスを対象としていて、丸紅と同等以上の給与を支払うことができる業界というのは特に見当たらない。
他方、不動産投資事業とか金融・リース事業というのは、丸紅のプレゼンスは必ずしも高いわけではない。しかし、不動産とか金融業界というのは総じて年収水準が高く、かつ、外資系企業も数多く存在する。このため、スキルの専門性や競争力がそれ程高くなかったとしても、「転職力」は低くなかったりする。
このあたりをどう考えるかということである。
例えば、将来MBA留学を視野に入れている場合には、不動産投資事業部とか、投資事業も絡む海外電力プロジェクト第二部といったところは悪くないのだろう。
④コーポレート部門の場合
コーポレート部門では、汎用性が高く、転職し易いところというと、経理部とか人事部であろう。もっとも、年をとるに連れて、異なる業種の経理や人事に転職することは難しくなるだろう。やはり、同じ経理や人事と言っても、金融は金融、ITはITと、同じ業界からの転職組が有利になるのは当然だ。
もっとも、商社の場合は、金融機関よりもバックオフィス(コーポレート)部門のステータスは低くないようなので、長く会社にいるのも悪くない選択肢だと言える。
5. 丸紅の新卒に対する配属先確約コースの他社、他業種への影響
日本のほとんどの大企業は、文系の場合、ほとんどが配属先は未確定である。
例外は、大手証券会社のIBDやグローバルマーケッツの別採用だろう。
金融機関の場合は、配属先の違いが最も大きい業種と考えられ、みずほ証券のIBDの方が、野村證券の総合職よりも内定を取るのは難しいだろう。
商社の場合、証券会社程の部門間格差は存在しないかも知れないが、「配属ガチャ」を回避できるかできないかの差は十分大きいと考えられる。
このため、丸紅の配属先確約コースに内定すれば、三菱商事を蹴って丸紅に就職ということが起こっても不思議ではない。
そうなると、三菱商事や三井物産も黙って見ている訳にも行かないだろう。
また、反対に5大商社の枠外の双日、豊田通商こそ、配属先確約コースを作れば、5大商社内定組を引っ張ることも可能になるかも知れない。
その結果、いずれ、商社は全て配属先確約コース有りになるかも知れない。
また、大手企業の人事の採用担当者は、丸紅のCareer Visionを気にしているはずなので、他業界においても、類似の制度を採用するところが出て来るのではないか?
日本企業は横並び意識が強いし、人事部門は概して官僚的で上の目を気にしているので、同業他社が採用すると、一気に業界全体に拡がる可能性がある。そうなると、新卒一括採用、年功序列、終身雇用、メンバーシップ型を特徴とする日本の雇用制度も、経団連の終身雇用廃止宣言と相俟って、一気に変革が進んで行くかも知れない。
丸紅は、2019年に柿木氏が社長に就任して以来、副業を商社で真っ先に解禁したり、中途採用も積極化するなど、本気で人事制度改革を進めているようで、非常に注目される。