現在は、2021卒が就活に向けて熱心に対応しているところであろう。
年末でもあるので、3年後のトップ就活生の就活状況がどうなっているのか予想してみることにした。
1. 予想に際する前提事項
新卒採用マーケットは、マクロ経済環境によって大きく左右される。この点については、現状位の景況感が継続すると想定する。要するに、消費税増税もあったし、3~4年前程は売り手市場では無いと想定する。他方、リーマンショック後のような厳しい就活状況になるとは考えない。
対象とする学生は、東大、早慶、国立、MARCH関関同立等の、大企業が求めるセグメントを想定する。学歴フィルターで弾かれない層と考えることもできる。
2. 就活市況に大きな影響を与える業界・企業の動向
①総合商社は3~4年前と比べて既に新卒採用者数は減少傾向に
今、就活生の間で、国内系企業の中では最も人気があるのは総合商社であろう。
しかし、新卒採用マーケットが特に良かった3~4年前と比べると、既に総合商社は新卒採用者数を抑制してきているようだ。
例えば、三菱商事(総合職)の場合、2016年度は163人だったのが、わずか3年後の2019年度は123人に減少している。
また、丸紅(総合職)も、2016年度は120人だったのが、2019年度(予)は92人に減少している。
ここから先は、大きく新卒採用者数が大きく減ることは無いだろうが、もともと、大手金融機関と比べて総合商社の新卒採用者数は多くないので、内定を取るのはかなり難しいと覚悟すべきだろう。
②メガバンク、信託銀行、大手証券会社、大手生損保も新卒採用者数は減少傾向に
いわゆる大手金融機関は、東大、早慶等の有力校の学生にとっては極めて重要なマーケットである。何故なら、有力校に占めるシェアが極めて高いからである。
例えば、慶應義塾大学の2018年度上位就職先企業20社(全学部)を見ても、9社が大手金融機関である。(東京海上日動、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行、三菱UFJ信託銀行、大和証券、野村證券、三井住友信託銀行、三井住友海上)
https://career21.jp/2019-08-20-125354
このため、これら大手金融機関が新卒採用者数を減少させると、従来そこに収まっていた有力校の学生は、他に行き先を探さなければならなくなるのだ。
メガバンクの新卒採用者数の減少は既に報道されている通りであるが、業界トップの三菱UFJ銀行を見ると、2015年度は1596人だったのが、わずか3年後の2018年度には950人に減少。収益が低迷し、余剰な店舗と人員が指摘される中、さらに減少していく可能性もある。
他方、野村證券の場合、2016年度は652人で、2018年度は620人でほぼ横ばいである。
しかし、歴史的に見て、この採用者数は多い部類であり、顧客の超高齢化や販売手数料ゼロ化の流れを踏まえると、減ることはあっても増えることはないと予想する方が現実的であろう。
生損保についても、少子高齢化の影響を受ける業態であり、新卒採用者数はやや減少していくのではないだろうか?
③総合系コンサルティングファーム
スキルの習得と、初年度の年収に対する拘りが強い上位校の学生から人気なのが、コンサル業界である。MBBに代表される戦略系ファームは採用人数が極めて少なく、超難関であるのだが、アクセンチュア、アビームコンサルティング、PwCコンサルティングといった総合系ファームは近年大量採用を続けている。
例えば、慶應義塾大学(全学部)の上位就職先企業20社を見ても、アクセンチュアとアビームコンサルティングが入っている。
アビームコンサルティングを見ると、2016年度が139人に対して、2018年度は225人と増加している。
総合系ファームが新卒に限らず中途採用も含め、急激に採用者数を増やしているのはデジタルトランスフォーメーションブームがあるからであり、さすがにそろそろ大量採用トレンドも終了するのではないかという声もある。
コンサルフィーというのは、景況感が悪化すると削られやすい費用なので、今後の景気動向が気になるところである。
商社や大手金融機関が新卒採用者数を抑制する流れの中、総合系ファームまでもが採用者数を減らすと、上位校の学生にはかなりの影響を与えるのではないだろうか?
3. 超優秀者層の行方
①外銀、MBB、国内系証券専門職コース
東大、早慶等の上位層が引き続きこの辺りを目指すというのは変わらないだろう。
スキル習得、若い時の年収、ステータス等の観点から、超上位層がこういった業界・企業を狙うのは良いだろう。
但し、これらの採用枠は拡がらない、いや、むしろ減るのではないだろうか?
特に気になるのが、野村、大和、SMBC日興、みずほ、三菱UFJという、大手証券会社の採用枠とか待遇である。これらの日本の大手証券会社は今でもリテール営業部門が稼ぎ頭であるところ、顧客の超高齢化、投信等の販売規制、株式・投資信託等の販売手数料ゼロ化の方向性を踏まえると、収益的に厳しい状況が見込まれる。
そういった中、IBDやグローバル・マーケッツ職を甘やかすのは、今でも社内的な批判が強く、将来的には別採用は廃止され、昔の様な総合職一本採用になるリスクもある。
②それでもIBD等の金融専門職に拘る上位層はどうするか?
外銀は当然として、外銀志望者が併願する国内系証券のIBDは既に超難化している。
ここから更に新卒採用者枠が削られると、ますますIBDでの職に就くことが難しくなる。
<隠れた最難関、国内系IBDの就活について>
https://career21.jp/2019-10-22-093310
そうなった場合には、業界とか会社の格を落としてでも、職種に拘る他無い。
具体的には、Big4系のFAS、独立系のGCAとかフロンティア・マネジメント、レコフといったニッチなところを検討する就活生は増えるかも知れない。
或いは、IBDではないが、金融プロフェッショナルとしてVC業界(独立系含む)を目指す上位層も増える可能性がある。もっとも、VCの場合は金融スキルというよりは、ベンチャーマネジメントスキルが主かも知れないが、独立系の場合にはアップサイドも期待できるし、将来のキャリアとして優良ベンチャー企業への転身の可能性が拡がるので、悪くない選択肢かも知れない。
<独立性VCの魅力>
https://career21.jp/2018-12-12-081754
③その他の方向性
終身雇用ではなく、あくまでもスキルをつけて、それでキャリア形成をして生きていきたいという上位層は、他にどういった選択肢があるのか?
外資系という切り口では、GAFAを狙うということも考えられるが、文系の非エンジニアの場合、枠は非常に限定されている。
また、P&G、ユニリーバ、日本ロレアル、ネスレといった外資系消費財メーカーのマーケティング職もある。ただし、こちらも5~6人程度の枠に数千人が殺到する極めて狭き門であり、とても上位層の学生を吸収するには足りない席数しかない。
そうなると、プロフェッショナルというと弁護士や公認会計士のような難関資格に切り替えるという方向性もある。
しかし、司法制度改革によって弁護士の魅力は既に低下しており、そもそも、新司法試験を突破すること自体が十分に大変である。金融プロフェッショナルやMBBが難しいからといって簡単に切り替えることができるものではない。もちろん、法律が好きで、かつ、成績も良好なのであれば、挑戦してみればいいだろう。
<年収重視の場合、東大法学部生は外銀と弁護士のどちらが良いか>
https://career21.jp/2018-11-16-141318
他方、東大生の場合には、公認会計士に目を向けるのはアリかも知れない。公認会計士の合格率は約10%と難関であるが、東大生に限ると合格率は30%位はあるとのことである(但し、TACのポジショントークではあるが…)。
東大から公認会計士を目指すのは少数であるので、興味・適性がある人は、調べてみてもいいかも知れない。
<就活と公認会計士試験受験について>
https://career21.jp/2019-07-16-154141
4. 就「職」よりも、就「社」でいいと考える場合
終身雇用が廃止されるとか、45歳以上はリストラされるという報道が流れたところで、すぐにそうなる訳ではないし、状況は業界・企業によって異なるはずだ。
これからは、転職だ、スキルだと言ったところで、外銀とかMBBから内定を取るのは無理ゲーだ。総合系コンサルに妥協して就職しても、毎晩夜遅くまで働いてもメガバンク程度の年収。転職に有利という話だったのだが、総合系ファームにいただけで、30歳で2000万円で雇ってくれる事業会社なんてそうそうない。
このように考えた上で、終身雇用系の大手企業に切り替えるという考えもある。
将来どうするかについては、入社してから考えても間に合うだろう。
その際には、以下の様な業界・企業が対象となるだろう。
①優良メーカー系(高給、ネームバリュー、ワークライフバランスが優れた会社)
このカテゴリーの企業は、実は20世紀から大きくは変わっていない。それだけ安定しているということだろう。
先ずは、食品の人気3社があげられる。
キリン、サントリー、味の素だ。給与水準はメーカーの中では最も高い部類で、30代で1000万円に到達可能だ。もちろん、知名度も高く、イメージも良い。
<文系でも人気の食品メーカー3社について>
https://career21.jp/2019-04-02-135721
これらの企業は文系の採用枠は多くないので、就活上位層が流れて来ると一気に内定を獲るのが難化する可能性はある。
次は、日本最大の時価総額・利益を誇るトヨタである。
今更自動車かとか、自動運転ができたらどうなるといった不安もあるかも知れない。
しかし、20~30年後に、インドネシア、インド、中国といったアジア系の市場が拡大することを考えると、まだまだいけるかも知れない。
<トヨタへの就職について>
https://career21.jp/2019-03-18-064531
それから、ちょっと地味目だが、20世紀から文系の上位層がコンスタントに入社しているのが、旭化成、富士フィルム、旭硝子(AGC)である。富士フィルムなんて、主力のフィルムが無くなってしまったのに、今でも高収益を誇る凄い会社である。
旭化成は、本社が日比谷ミッドタウンというのも魅力である。
<旭化成への就職について>
https://career21.jp/2019-05-23-154442
また、業績的には完全に復活を遂げているソニーなんかも悪くは無いと思う。
配属先とかもネゴできそうなので、興味がある文系の上位層は調べる価値はあるのではないだろうか?
<文系のソニーへの就活について>
https://career21.jp/2019-05-14-085748
それから、キーエンスの評価も上がる可能性がある。あれほどの高給でありながら、ワークライフバランスにも優れているし、産業界からの評価も高い。あれをブラックというと、金融リテールはもっとひどいかも。その辺は好き好きだろうが。
②インフラ系の安定企業
新卒採用者数が絞られ、浮かれた雰囲気が消えると、守りの就活になっていく傾向にある。そうなってくると、堅めの事業会社が評価されるようになる。
この場合、知られた話であるが、以下の様なインフラ系の企業の人気は底堅くなるだろう。
・通信キャリア(NTT、ドコモ、ソフトバンク、KDDI)
・JR東日本、JR東海、JR西日本
・東京ガス、大阪ガス
・大手私鉄(東急、阪神阪急)
JRは東大生にもそれなりの人気があるようだが、給与水準では、それ程魅力は無い。純粋に鉄道が好きというのであればアリかも知れない。
この中では、おすすめなのが、KDDIと東京ガスである。
給与水準が相対的に高いし、安定している。KDDIについては、昔はKDDというのはその名の通り国際電話に特化したそれなりのエリート企業であったのである。合併を重ね、変わったところはあるだろうが、40代で年収1500~1600万位の社員と会ったことがある。
一応、ネット関連の新規事業にも熱心であるので、ドコモもそうだが、転職力が無いこともない。
東京ガスについては、東京では他に優良企業が数多くあるので目立たない存在であるが、高給でまったりした雰囲気の会社である。
<東京ガス、大阪ガスへの就活について>
https://career21.jp/2019-05-24-125017
これらの企業であれば、上位層の学生からすると、内定を獲るのは必ずしも難しくはないだろう。
5. お勧めの企業と考え方
それでは、外銀、MBB、国内系証券専門職コース、総合商社が今以上に狭き門になるかも知れない状況下、どういったところがお勧めかについて私自身の考えを述べたい。
プロフェッショナルスキルが習得できる高給の会社は内定が採れない。だからといって、終身雇用に賭けるというのは、リスクがあるし、面白くないのではと考える。
そこで、転職力を有するスキルを習得することが期待でき、相応の給与水準とワークライフバランスを享受することができ、そして、上位校の学生であれば十分に内定を獲り得る企業について考えてみた。
弱みは、外銀、MBBのようなステータス性は無いことと、若い時の年収水準が安くは無いがそれほど高くはないという点である。
他方、キープしたいのは、将来の転職力とアップサイド(年収2000万円以上)を狙える点である。
切り口としては、将来のCXOを目指せるような専門性について、「人、物、カネ、情報」の観点から考えてみた。
①人に関するスキルの習得を目指す
採用、教育、配属、人事事務に関するスキルを習得し、将来は人事部門のスペシャリストとしてキャリアアップを図るプランである。
上位校の学生からすると、リクルートの一択で良いと思う。PERSOLとかPASONAとか、ベンチャー系もあるが、リクルート以外は給与水準が落ちるし、リクルート以上にネームヴァリューとかスキルが付くわけでも無いので、素直にリクルートで良いだろう。
リクルートは2/3位はメディアビジネスの方で稼いでいるのだが、ここでは敢えて、人系の方である。AI時代だからこそ、今後ますます企業にとってカギとなるのはヒトである。ここの専門性を押さえておくと、業種を問わず、転職先に困らない。
また、HRテックという流れもあるので、ベンチャー起業関係でワンチャンスあるかも知れない。
東大・京大生からすると、面白みに欠けるかも知れないが、メガバンクや生損保に行くぐらいであれば、リクルートの方が魅力は無いだろうか?給与水準は大して変わらないし、既にリクルートは時価総額で日本で10番目の会社であり(2019.12.26時点)、しかも、2桁成長中の会社であるのだ。
<東大・京大生のためのリクルート再考>
②カネ系のプロフェッショナルを目指す
将来のCFOを目指すキャリアである。
単なる経理部長とは異なり、M&A、IR、経営戦略上の提言をすることができる能力と専門性を有するCFOは引く手数多であり、60歳を過ぎても転職先に困らない。
当初、経理部員からスタートして、そのまま上を目指して行くキャリアプランである。経理部門は、企業の大小、国内系外資系、業種を問わず必要な部門であり、転職がし易い仕事である。
課題は、日本の大企業の場合、配属先の部署を確約してくれるところが少ないことである。この点については、募集要項でチェックをしなければならないのだが、ソニー、JT、NTTコミュニケーションズ、ベンチャー系大手は可能性があるし、部署別採用じゃなくても事実上対応してくれる企業もあるはずなので、このあたりは粘り強くネゴして行きたい。
なお、CFOを目指すキャリアではないが、広い意味でカネ系というと、金融プロフェッショナルもこのカテゴリーになる。
外銀や国内系専門職に入社するのは無理だが、相場や投資に興味がある学生の取っては、運用会社がお勧めである。金融機関の子会社であったり、年俸水準が不満足だったり、外資系に若いうちに転職できるかわからないといった理由から、消極的な学生も結構いるようだ。しかし、外資系が新卒採用をしないからこそ、その妙味が知れ渡っていない、穴場の業界と捉えることもできるので、金融プロフェッショナルに興味がある学生は検討の価値はあるだろう。
<外資系運用会社の魅力>
https://www.onecareer.jp/articles/2162
③大手のネット/IT系企業
「人、物、カネ、情報」ということで、広義の「情報」、ネット/IT系企業である。
具体的には、ヤフー、楽天、サイバーエージェントがお勧めである。
東大・京大の就活生からすると、特にプレミアム感を感じない企業名かも知れない。
採用人数がそれなりに多く稀少性に欠け、また、給与水準が大手金融機関や商社、大手マスコミと比べて特に高くないからである。
しかし、これら3社はGAFAと比較されると気の毒であるが、列記とした日本を代表するトップのネット系企業であり、2000年頃の第1次インターネットブームから約20年間、日本のネット業界を牽引してきたのだ。
途中、グリー、mixi、DeNA、コロプラ、クックパッド、LINE、ZOZO、メルカリという、いい線まで行ったネット系企業もあるが、結局今でもトップの座にいるのはこの3社である。
確かに、これら3社の給与水準自体は高くは無いかも知れないが、GAFA、Twitter等の外資系IT企業や、コンサル、国内系事業会社に転職する人は少なくない。また、独立・起業によって成功を収めている人もいる。
20代の給与水準を気にするのではなく、少し長い目で見て、生涯賃金の最大化を図ればいいのではないだろうか?
また、こういった企業でweb系のスキルを磨くと、ネットで月に数十万円位稼ぐことは可能であろう。一般サラリーマンがネットを副業として月に10万円以上稼ぐことは至難の業だと思われるが、スキルのあるものからすると今でも可能であろう。
また、こういった企業は、メガバンク、証券、生損保と違って、配属部署の指定も可能である。これも他の国内系大手には無い魅力だ。
文系学生にとってプロフェッショナルを狙える領域は、金融、コンサルだけではない。webビジネスへの関心が高い就活生は、検討したいところだ。
④総合商社
ファーストキャリアとしての総合商社は魅力が高い。
スキルが全然付かないとの批判もあるが、第二新卒として国内系金融に転職できる可能性はあるし、MBA留学を経ると外銀とか外コンへの転職も可能である。
また、海外勤務によってグローバル経験を得ることができるし、その間の年収レベルは非常に高い。
上位校の学生にとっても、総合商社は難関であり、全落ちするケースも珍しくない。上述した通り、新卒採用者数が減少傾向にあるので、特に人気の5大商社しか受けないのはリスクが高く、今後は、双日・豊田通商あたりの難易度が高まる可能性もある。
最後に
3年位先という期間だと、外銀とかMBBにとって代わるような魅力のある業界・企業は突然現れないであろう。
外銀、外コンばかりを追いかけ消耗している上位校の学生をよく見かけるが、もう少し長い目で見てはどうだろうか?
IT系は数少ない、今後も成長余地のあるセクターであるし、当初は給料が高くなくても、外資系、独立・起業によって年収を高めるためのスキルとか人脈を得られる機会はあるだろう。また、副業の緩和が叫ばれる中、転職しなくても副業でそれなりに稼ぎ、上手く行きそうであれば独立するという戦略もある。
ヤフー、楽天、サイバーエージェントには、まだ、文系の最優秀層はまだ来ていないだろうから、今のうちがチャンスかも知れない。