法科大学院か民間企業か?法学部生が就活にあたって留意したいこと

1. 弁護士を目指すべきか否か?昔からある法学部生特有の悩み

司法制度改革に伴う弁護士の魅力低下に伴い、昔と比べると、法学部生の弁護士に対する憧れは減ったかも知れない。

とは言え、まだまだ弁護士というと最高位の資格であり、渉外弁護士事務所に就職すると初任給は軽く1000万円を突破する。

法学部に入れば、弁護士への途を志す学生は今でも多いだろう。

しかし、旧試験の時と比べると、合格し易くなったとはいえ、新司法試験も十分に難関だ。
学部生の間に予備試験に合格することは至難の業だし、法科大学院に進学となるとお金も時間もかかる。

こういった不安から、当初は弁護士を目指してみるも、途中で民間企業への就職に転換する法学部生は少なくないだろう。

2. 法学部生が民間企業就職への転換に際して留意すべき点

①就活のスタート時期が遅れること

入学早々に、弁護士への途を断念し、早めに民間企業に転換するのであれば問題は無いかも知れない。しかし、民間企業への転換時期が遅くなればなるほど、就活の準備が遅れがちである。特に3年生になってから、民間企業への就活に転換すると、いろいろな準備ができなくなってしまう。外銀、外コン、商社といった人気企業の場合には、事前対策に時間を要するものがあるため、出遅れは致命傷になりかねない。

②情報収集がしにくい

トップ校の法学部(法律学科)であれば、弁護士を目指す学生の比率が高い。
そうなると、クラスとかゼミの友達が就活に興味が無い場合も多く、民間企業就職に向けての情報が不足しがちである。

現在の就活は、とにかく人気業種・人気企業に集中しがちで、20世紀のように有名大学の法学部だと何とかなるという訳にはいかない。就活は情報戦でもあるからだ。

従って、一旦民間企業への就活に転換すると決めた場合には、他学部或いは他校の友人と連絡を取るなど、情報戦で出遅れないように留意する必要がある。

③英語、会計、ITと法律は結び付きにくい?

就活とか転職で、普遍的に重宝されるスキルは何かというと、「英語、会計、IT」ではないだろうか?

しかし、残念ながら、予備試験や法科大学院向けの法律科目の勉強を熱心にしていたところで、これらの技能は身に付かない。

むしろ、商学部や経済学部と比較しても、英語・会計・ITには疎くなりがちである。
特に、英語については、TOEIC800点は少なくとも期待されるところ、英語は詰込みが難しい科目である。短期留学でも何でもいいので、間に合わなければ、対応中と言える実績を作りたいところだ。

文系の場合は、IT、すなわちプログラミングスキルは要求されない。
他方、会計知識については、そういうわけには行かない。最低限の会計の素養が無いと、まともな企業分析ができないからである。

予備試験の勉強と比べると楽なものなので、証券アナリスト1次試験(CMA)とか簿記2級とか、間に合うのであれば、会計の基礎知識を習得しておくことが望まれる。

3. 法律に関する知識を就活の武器にできないか?

①所詮は弁護士、法科大学院組には敵わない?

ある程度、法律に関する勉強はしてきたので、法律知識については他の学部生や、全く法律の勉強をしていない法学部生には勝てる自信がある。せっかくなので、法律知識を自己PR、ガクチカの軸として、就活を優位に進めることはできないかと期待する法学部生もいるだろう。

しかし、残念ながら、それは難しいだろう。
何故なら、法律力をアピールすれば、「じゃあ、何で弁護士を目指さないの?」と言われるとどうしようもないからだ。「予備試験や法科大学院は大変なので止めたからです。」という訳には行かず、説明に窮するところである。

また、司法制度改革により、弁護士数が急増し、民間企業に社内弁護士として参入してくる人も増えてきている。そうなると、法律力では弁護士には敵わないので、それほど競争力を有する自己PR材料にはならないだろう。

②企業法関係はアピールが難しい?

法律をある程度一生懸命勉強したと言っても、憲法、刑法、行政法、訴訟法という公法系は民間企業での使用頻度は低そうである。

そうなると、商法、金商法、知的財産法あたりをアピールしたいところであるが、このあたりはなかなか難しい。実務経験無しだと、深い理解も難しく、下手に勉強しましたアピールをすると、却ってボロが出てしまうリスクもある。

4. それでも、法務系に拘りたい場合には?

結局、弁護士志望から民間企業就活に切り替えるのであれば、きっぱりと法律への執着を捨てて、英語、会計等を磨いて、十分に情報を収集した上で、就活に挑みたいものである。

しかし、それでも法律への未練が断ち切れない場合には、法務部門を狙うということになる。
日本の大企業は全般的に、部署別採用というのを行わないであるが、敢えて狙うとすれば、以下の様な選択肢がある。

①IT系ベンチャー企業の知的財産部門

ここでいうITとは、大手のネット系企業であり、ヤフー、楽天、サイバーエージェント、メルカリあたりを言う。

こういったところは、法務のスペシャリストに対するニーズはコンスタントにあるし、日本の伝統的大手企業と違って、新卒時の配属におけるフレキシビリティが高いからである。

敢えて進めないのは、メーカー系の知的財産部門である。キャノン、ソニー、武田薬品あたりは知的財産を重視しているものの、特許法関係については技術が理解できないと食い込めない。

他方、ネット系IT企業の場合は、プログラミングとか著作権がメインになるので、技術がわからなくても活躍できる余地があるからである。

もちろん、上場前のベンチャー企業においても、知的財産対応をメインとする法務スペシャリストのニーズはあるようだが、労働条件、その後のキャリアを考えると、ベンチャーの世界に詳しくない法学部生がファーストキャリアとして選択するのはリスクが高く、あまりお勧めできない。

②商社

人気の商社であるが、法務部門は伝統的にしっかりとしており、外資金融と違って、コーポレート部門のステータスもそれなりである。

また、法務部門でなくとも、近接しているリスク管理とかコンプライアンス部門という手もある。

しかし、商社の場合は配属先を確約した採用は行わないので、法務系を志望することはできても配属が保証されるわけではない。また、お決まりの「その部門に配属されなかったらどうする?」的な質問へ準備をしておく必要がある。

最後に

以上のように、民間企業における法務部門に絞るというのは難しい。
また、社内的にも、経理部長から社長という会社はあっても、法務部長から社長という会社は聞いたことが無い。

人、物、カネ、情報という言葉はあるが、法務は直接これらに該当しにくい。

従って、法律のプロフェッショナルとして生きて行きたいという場合には、面倒だが弁護士(或いは弁理士、司法書士等)を目指すのがストレートで良い。

途中まで予備試験等の勉強をしていたのであれば、勉強癖は着いているのだろうから、会計系に切り替えて財部部門を狙う方が良いのではないか?

それまで法律の勉強しかしていないのであれば、先ずは、正しい情報集をした上でキャリア設計をすることが求められる。

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