【書評】「転職と副業のかけ算」:年収5000万のサラリーマンのモデルケース

1. 書店に見当たらなかった本書

こちらmoto著「転職と副業のかけ算」を購入しようと、街の本屋に立ち寄ったが店頭には見当たらなかった。2019年8月9日初版発行と比較的最近の販売開始なので、人気が出なかったのかと思って、八重洲ブックセンターにまでわざわざ足を運んで本書を購入。

しかし、著者であるmotoさんのツイッターを見て知ったのだが、本書は何と最初の1週間で7万部も売れたということである。おそらく、現在第2刷を準備している最中であろう。

本書を買ってから知ったのだが、著者のmotoさんという方、既に転職と副業というテーマにおいて、インフルエンサーになっているようだ。ツイッターのフォロワー数は8万人(2019年11月12日現在)であり、東洋経済オンラインとか新R25といったメディアに登場されているということだ。

結論的に、本書には転職と副業に関するヒントがぎっしりと詰まっており、定価1400円の本なので是非買っておきたい。また、ついでにツイッターのフォロワー登録もしておきたい。

複数のブログ記事が書ける内容であるので、今回は、最初に私自身のサラリーマンの副業に関する考え方を述べ、その後で、本書の著者であるmotoさんの「副業」に関する考え方を紹介したい。

2. 副業が、エリートサラリーマンにとっての現実的な飛躍の方法であると考える理由

まず、ここでは著者ではなく、私自身の「サラリーマンの副業」に対する考え方を述べておきたい。私としては、副業こそがエリートサラリーマンが飛躍できる本命の手法と考えている。

起業、独立、SO(Stock Option)狙いのベンチャー転職など、サラリーマンがアップサイドを狙う手段はいろいろとあるが、最も現実的な手段は副業であろう。

副業での成功を達成した後に、起業、独立、転職というのは有り得るが、最初に副業に取り掛かるのが最も堅実な方法では無いかと考えている。

①サラリーマンの起業は無理ゲー

起業は失敗する確率が高い。これは間違いないだろう。ベンチャー企業の投資のプロであるVCでも、投資における勝率は1割位と踏んでいるのである。

起業で成功すると華々しいので、ハロー効果によって、起業をやってみたくなる場合もあるかも知れないが、冷静なエリートサラリーマンはこのあたりは十分認識されているのではないだろうか?

また、エリートサラリーマンというのは、金融、商社、マスコミ、コンサル等、結構文系が多い。このため、ネットビジネスをやるにはエンジニアを連れてこないといけないわけだが、まずここのハードルが極めて高い。

30歳前後で年収1,000万円位が保証されるエリートサラリーマンは、失うものが多いので、成功確率が低く、かつ、面倒な起業に挑戦しようと人はかなりの少数派であろう。

②サラリーマンのSO(Stock Option)狙いのベンチャー転職も無理ゲー?

自ら起業をするようなリスクを取りたくないし、かといって、年収1000万円よりももっと上を狙いたいというエリートサラリーマンの中には、その中間的なキャリアコースである、SO狙いでベンチャー企業に転職することを考える者もいるだろう。

これだと、自分で会社を起ち上げる必要は無いし、CXOという経営幹部として転職をすることが可能だ。

しかし、このSO狙いでベンチャー転職というのは、結構難しい。
何と言っても、IPOまで辿り着けそうなベンチャー企業を見つけるのは一苦労だ。
Wantedlyには多くのベンチャー企業が掲載されているが、どこの企業に行けばIPOまで辿り付けるのかなんて簡単にわかる筈がない。

それでも、梅木サロンに入会したり、テッククランチ等で情報収集したり、インキュベイトファンド主催のイベントに参加したりして、ある程度、イケそうなベンチャー企業を見つけたとしよう。

しかし、そういったある程度勝ちが見えたようなベンチャー企業は、外銀とか外コンとかの超エリート層も目をつけており、CXOのポジションに就くのは至難の業だ。

また、話題のベンチャー企業というのは既に外部からの二桁億の出資を受けていて、途中参加の幹部社員向けのSOの数は不十分だったりする。

そうすると、仮に転職できたとしても、成功裏にIPOをした場合に得られるお金が減ってしまう。加えて、最近ではIPO前にM&AによるEXITをする。その場合に、SO保有者は恩恵に被ることができるかは契約の内容次第なのだけど、現状ではそこまで対応できていないケースが多いのではないだろうか?

それに、SOというのは現金が手元に入って来るまでの期間が長い。行使できるのが2年以降というのは、2年経てば現金が入って来ることを意味しない。仮にIPOまで至ったとしても、それが入社してから3年後、4年後だとなかなか待ちきれるものではない。

以上のように、SOで成功するというのは結構しんどい道程である。

③副業にはリスクが無い

何と言っても、サラリーマンがアップサイドを狙う場合に、もっともお勧めなのが副業というのは、リスクが無いからだ。

エリートサラリーマンの場合は、安定した年収、退職金・年金、ステータスと失うものが多いので、上記のような独立・起業、ベンチャー転職のカードを切るのは躊躇するものである。

他方、副業の場合には失うものが無い。
以下、本書の著者であるmotoさんの副業に関する考え方を紹介する。

3. 本書の著者であるmotoさんの副業に関する考え方

著者のmotoさんは2019年11月時点で32歳だが、本業の年収が1,000万円で、副業は何と年収4,000万円である。サラリーマンをしながら、副業でそれ程の金額を稼ぐ方法とはどういったものだろうか?

①motoさんが考える、サラリーマンが可能な副業について

大学卒業以降、ずっと外資系や大企業勤務のサラリーマンが、副業で稼ごうと言われても、何をやればいいか全くわからないであろう。

この点、著者のmotoさんは、サラリーマンが可能な副業として以下の4つをあげている。

コンテンツ配信
転売
イベント運営
投資

このうち、サラリーマンが限られた時間と手元資金で副業をやるには、労働集約性が低く、かつ、資金がかからない副業を選ぶべきだと述べている。

この点、転売というのは「せどり」という言い方をする場合もあるが、転売は市場調査や物流(梱包、配送、保管)に時間が取られ、また、仕入れにおいて一定の資金を要することになる。このため、あまりお勧めしないということだ。

イベントと投資については、特に詳細なコメントをしていないが、労力或いは資金を要する者なので、こちらもお勧めではない。

結局、サラリーマンに副業として、お勧めなのは、コンテンツ配信ということになる。

②コンテンツ配信というのは具体的に何か?

著者のmotoさんが、実際に副業だけで年収4,000万円を達成したのは、このコンテンツ配信ビジネスである。

コンテンツ配信というのは、ブログ、SNS等を活用した、アフィリエイト、noteを活用したコンテンツ課金がメインである。

③サラリーマンとしての本業や過去経験をコンテンツ配信する

コンテンツ配信によって、収益化できるというのはわかったとしよう。
それでは、サラリーマンが収益化できるようなコンテンツを配信できるかどうかが気になるところである。

この点、motoさんは、サラリーマンがブログやコンテンツ配信で稼ぐには、「本業で自分が苦労して得た知見」を発信するのが近道と説く。

サラリーマンは本業で様々な苦労に悩み、解決策を求めている人達である。そこで、過去の自分の経験や知見を基に、その解決策を提供することはビジネスに繋がるということだ。

具体的には、著者のmotoさんは、新入社員の自分のテレアポ営業の経験を活かして、「新規アポの獲得術」をnoteで配信したところ、公開から12時間で約100万円もの売上が生じたという。自分が苦労して得た経験を余すことなくコンテンツにしたことが評価されたのだという。

④発信する「テーマ」は「リクルート」を参考にする

なるほど、サラリーマンの場合も、自分自身が苦労して獲得した知見をコンテンツ化すると、それに対する需要はあるということはわかった。

それでは、具体的にどういったテーマのコンテンツを配信するのが良いのか気になるところである。

この点、motoさんはリクルートが事業展開している領域を攻めろという。

ゼクシィ(恋愛、結婚)
リクナビ(就職、転職)
SUUMO(賃貸・住宅購入)
カーセンサー(車)

これらの領域は、人生における重要な意思決定シーンであるために、情報収集する人が多いのである。そして、リクルートの場合は、マッチングで稼ぎ、時価総額6兆円にもなっているのである。(なお、motoさんは過去にリクルートで勤務していたので、この手の事情は詳しい。)

実際、motoさんの知人で副業で成功している人達は、この分野を攻めている人達が多いという。

特にコンテンツ発信したい分野が決まっていないのであれば、これらのテーマから選択してみてはどうだろうか。

⑤副業と本業との時間の使い方

Motoさんは、本業のサラリーマン(広告系ベンチャーの営業部長)としての年収が1,000万円、副業のコンテンツ配信からの年収が4,000万円である。

年収に占める副業のシェアは8割なので、副業への時間の掛け方も8割位かと思いきや、motoさんが副業に使う時間は3割程度で、7割は本業に使うという。

これは何故かというと、motoさんの考え方としては、本業あっての副業だからである。
副業としてのコンテンツ配信は、本業であるサラリーマンとしての体験に基づくものであるので、ここを疎かにすると副業のコンテンツ価値を維持できないという考え方である。

本書のタイトル、「転職と副業のかけ算」というのも正にこの点であり、転職と副業との間に相乗効果があるからこそ、成功すれば、スパイラル的に両者ともに上昇していくというのがポイントなのである。

また、motoさんは手堅い考え方の持ち主で、副業で今稼げているからと言って、それがいつまでも継続できるとは限らないと考えている。やはり、長期的に稼ぎ続けることができるのは本業としてのスキルであり、安定的な収入の柱の確保という点では本業に重点を置いているのである。

以上より、副業が軌道に乗り始めたとしても、本業を疎かにしないという前提で副業を育てていくべきだというのが本書のメッセージなのである。

4. 個人がネットビジネスで収益化を図る場合の留意点

①Google コアアルゴリズムアップデートの影響

まだ、コンテンツ配信を始めていない人にとっては何のことかわからないかも知れない。
SEOアップデートという言われ方もするが、要するに、Googleが検索アルゴリズムのベースとなる部分を大きく見直してその内容を更新することをいう。

Googleコアアルゴリズムアップデートは年に数回実施されており、2019年は1月、6月、9月に実施されている。

最近の流れとして、個人のWebコンテンツの検索順位が上がりにくくなっていると言われている。このため、特にアフィリエイトをメインの収益源とする個人ネットビジネスの経営者にとっては、収益が一気に半減する等、大変厳しい状況にあるという。

もちろん、副業として始める者にとっては、そこまでシビアな問題では無いかも知れないが、今後、個人は(少なくとも)アフィリエイトでは稼ぎにくくなると言われている点は認識しておいた方がいいだろう。

もちろん、5G時代が到来し、Web以外に、動画その他の収益源が拡がる可能性はあり、広義での個人のコンテンツ配信の将来が暗いとは限らない。

②副業の3つのメリット

著者のmotoさんは、サラリーマンが副業を始めるメリットとして、以下の3つの点をあげている。

第1は、「個のブランド化」を可能にするということだ。副業を通じて自分の情報を発信し、それがある程度評価されると、「〇〇をやってきた○○です」と、会社名に頼らなくても、自分自身のブランドを構築することが可能になり、それは自分への自信にも繋がるということである。

第2は、収入チャンネルの増加による経済基盤の確保である。
これは、motoさんのように多額の金額を副業で稼ぐことは難しくても、月に10万円程度でも稼ぐようになると、会社の業績変動に伴うボーナス減等の年収減を緩和することができる。また、精神的な余裕にもなる。

第3は、本業における市場価値の向上である。
これは、副業での収入があることによって、本業でも大きなチャレンジができるようになるということである。上司の顔を気にし過ぎたり、周囲の状況に無理やり合わせながら働いたりという余計なことを考える気苦労が減るということである。

そして、その結果、よりリスクテイクを本業でできるようになり、飛躍していくきっかけを掴みやすくなるという。

もちろん、それ位のレベルに達するには、副業で相応の成果を出していることが条件となろうが、もし、その域に達することができたならば、サラリーマンとしての本業での悩みはかなり軽減できるのではなかろうか。

最後に

エリートサラリーマンの場合、年収1,000万円というのは、30歳くらいになればほぼ自動的に達成されるレベルである。しかし、そこから、1500万、2000万と年収を上げて行くのは急に難易度は高くなる。特に年収2000万円の壁は厚い。

そこで、エリートサラリーマンが大きなリスクを取らずに、会社にいることを前提としてアップサイドを狙える有力なツールが副業なのではないかと考えられる。

今のところ、副業を認めている一流企業はまだまだ少ないが、日本は横並びの社会であるので、浸透し始めると一気に多くの企業が追随するであろう。

したがって、これからは副業で如何に稼ぐことができるかが、成功するサラリーマンの条件になっていくことが考えられ、今後この分野からは目が離せないのではないだろうか。

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