【書評】亀井卓也著「5Gビジネス」。IBDや商社志望の就活生にお勧め。

序. 今、何故「5Gビジネス」か?

5Gという言葉があちこちで見られるようになっている。就活生に限らず、転職活動中の者も、5Gというキーワードについては基本的なことを把握しておいた方が良いだろう。

その理由としては、第1に、AIやデジタル・トランスフォーメーションというのがビジネス界における不可避の流れとなってしまっており、好き嫌いに関わらず、既に商社や金融機関もこれらに関する戦略や施策を公表している。したがって、自分の部門や職種に直接関係なくても、ある程度のことがビジネスマンにおける教養として求められている。

第2の理由として、エリートと考えられている総合商社や大手金融機関の人間は、一般的に、AI、デジタル・トランスフォーメーションとか5Gといった広義のIT系の情報に疎いからである。商社や金融においては、直接収益を産まないIT部門は端っこの部署であるし、残念ながらGAFAのような巨大IT企業が望めない日本においては、ビジネス的に注力している業界は重厚長大、自動車、製薬、素材、インフラ、流通、金融といったオールドエコノミーである。したがって、反対にこの分野に詳しい人は少ないから、十分理解しておけば評価されやすいということが言える。

以上の様な事情から、日経文庫から出ている亀井卓也氏の「5Gビジネス」は僅か250Pで5Gビジネスについて簡潔にまとめられたわかりやすい本なので、お勧めである。

1. 5G時代の概要

①そもそも5Gとは何か?

5Gとは、「5th Generation」つまり「第5世代移動通信システム」のことである。5Gに至るまでに、1G、2G、3G、4G、というプロセスを辿ってきたのである。

②5Gまでの歴史

5Gを理解するためには、1~4Gまでの変遷を確認した方が手っ取り早いかも知れない。

1Gとは、1979~1980年に当時の日本電信電話公社が導入した携帯電話のサービスである。これは、ラジオのように、音声を電波に乗る信号に変換して伝送する「アナログ方式」であった。

2Gはデジタル方式による移動通信システムで、1990年代がこの2Gの時代であった。

デジタル方式によって、携帯電話は音声だけではなく、メールを始めとしたデータ通信が可能な端末となったのである。

3Gというのは、世界共通のデジタル方式で、これによって通信の高速大容量化が可能になった。高機能が付加された、いわゆるガラケーの時代である。

そして、2008年にソフトバンクから「iphone 3G」が発売され、爆発的な人気となった。

スマホは3G時代の末期に登場したのである。

そして、2012年には4Gが登場し、完全にスマホ全盛の時代となったのである。

2. 5Gビジネスにおける基本的な考え方

①通信事業者からセンターB事業者の時代へ:B2B2Xモデル

実は、4Gから5Gへの変化において最も重要な点は技術変化ではなく、ビジネスモデルの変化であると言われている。

4Gまでの時代においては、そのビジネスの主役は通信事業者であり、個人へのサービス(B to C)も、企業へのサービス(B to C)も、いずれもサービス提供の主役は通信事業者であった。

ところが、5Gの時代になると、通信事業者が企業に通信インフラを提供するが、その企業がエンドユーザーになるのではないということである。

例えば、自動運転の場合、通信事業者が通信インフラを提供するのは自動車会社等であるが、その自動運転を享受するのは自動車のユーザーということである。

従って、5Gビジネスの発展・拡大については、センターB事業者と言われる事業会社の頑張りに依拠することになるわけである。センターB事業者が有用なサービスをエンドユーザー向けに提供することが出来れば、最終的に通信事業者も恩恵を被るという仕組みになる。そして、通信事業者は、センターB事業者が成功するようにサポートすることがモチベーションとなるのである。

この点のビジネスモデルが従来とは全く異なる点が、5Gビジネスの特徴と言える。

②5Gビジネスの基本となるアーキテクチャー

5Gビジネスを支える基本的なアーキテクチャーは、「センサー」、「クラウド」、「アクチュエータ」で構成されている。

センサーが取得した情報を5Gが吸い上げて、インターネットの裏側にあるクラウド(AI含む)で解析をし、その解析結果を再び5Gがフィードバックを行い、アクチュエータ(電気信号を自動車や工場の機械等の物理的な運動に変換する装置)を駆動させるというプロセスである。

自動運転の場合には、自動車に搭載した複数のセンサー(カメラ)が取得した情報を、5Gがクラウドに送信し、瞬時にクラウドで情報解析が行われ、その解析結果を再び5Gがアクチュエータ(自動車に組み込まれている)に伝えて反応をさせるという流れとなる。

③XaaS型のサブスクリプションサービスへ

センターB事業者がエンドユーザー向けにサービスを提供する手法として提唱されているのがXaaS型のサブスクリプションサービスである。

XaaSというのは、Mobility as a Serviceの略語のMaaSや、Software as a Serviceの略語であるSaaSと同種の表現である。

5G時代においては、それを一歩進める形で、ソフトウェアだけではなく、PaaS(Platform as a Service)とか、IaaS(Infra-structure as a Service)など、情報システムの構成要素は全てサービス化され、自社で試算を持つ必要がなくなってくると考えられる。

このような考え方を情報システム以外にも拡張し、あらゆるものがサービスとして提供される方式をXaaSという。

その例としては、建機メーカーであるコマツの建設機械・鉱山機械の遠隔制御サービスがあげられる。従来は、重機・建機という機会を販売した時点で完結していたビジネスが、遠隔建設サービスとか遠隔採掘サービスを提供することによって、安定的・継続的な収益を得ることが可能となるのである。

このように、5Gビジネスは機械や物ではなく、その利用価値、サービスが取引の客体となる画期的な変化を支えるインフラとなるのである。

3. 5Gが変える生活

5Gは、実は、従来の様に端末自体に大きな影響を与えるものではない。

B to Cというよりも、むしろ、B to Bにインパクトを与える新規格なのである。その意味で、5Gの登場によって直ちに我々の日常生活が劇的に変化する訳ではないが、現在では、以下の様なものが期待されている。

①スマートフォンの革新

既にサムソンが公表しているが、折り畳み型のスマートフォンの登場がその1つである。折り畳み式の携帯端末は過去も存在したが、5Gにおける折り畳み式ではディスプレイは1つである。高画質という5Gの特徴を活かすために、大きなディスプレイはマッチしている。

②エンターテインメントに新たな体験をもたらす

何時の時代も、テクノロジーが進むと、エンターテインメントもその影響を受ける。

既に4Gの時代においても浸透しているのであるが、動画サービスというのはますます進展する。

個人のSNSの世界においても、YouTubeとかはますます普及するのであろうし、いろいろな角度のカメラを選択してスポーツ観戦を楽しむことができるマルチアングルサービスも享受できるようになるだろう。また、HMDと呼ばれるゴーグルの普及にもよるがAR/VRがゲームを始め、エンターテインメントに使われるようになるだろう。

③コネクテッドカーへの革新

5G時代の本命中の本命と言われているのが、自動運転サービスである。これは自動車業界のみならず、自動車保険を取り扱う保険業界にも多大なる影響を与える大きな変化である。既に、保険業界では、自動運転社会を想定した上で、様々な新型保険等について検討を行っているところである。

④医療・介護現場での変化

医療と介護も、自動運転と並んで、5Gで期待される分野である。

その典型が、遠隔診療である。患者と遠隔地にいる医師とを5Gがつなぎ、高精細な画質によって医師は患者の表情、顔色、症状箇所を判断したり、電子カルテやレントゲン写真を電子化して現地と共有できるなど、医師不足や移動が困難な高齢者の通院を解決できる有用なツールとして期待されている。

また、介護の世界においては、ロボティクスで支援することが期待され、パワーアシストスーツや、それを更に一歩進めた介護ロボットの活躍が期待されている。

4. 5Gが産業・業界に与えるインパクト

商社や金融を志望する就活生としては、押さえておくべきはこのB to Cに係る分野であろう。本書の第3章の「ビジネスをどう変えるのか」において、50Pほどでわかりやすく記載されているので、ここをとりあえず読み込むというのもあるだろう。2~3回、繰り返してこの章を読むと、他の人に口頭で説明できる位にはなるだろう。

概要掴んでおくのは、全体観で、エリクソンが公開しているレポート「The Industry Impact of 5G」によると、主要の10産業において、5Gがもたらすデジタル・トランスフォーメーションの市場規模が2026年に1.3兆米ドルに至るという規模感である。

産業別の構成比率を見ると、その特徴がよくわかる。

エネルギー・ユーティリティ産業(電力、ガス、水道等) 19%

製造業 18%

パブリック・セーフティ産業(警備・防犯) 13%

ヘルスケア 12%

公共交通 10%

メディア・エンターテインメント 9%

自動車産業 8%

金融サービス 6%

小売り 4%

農業 1%

4Gまでの通信インフラにおいては、変化の影響を受けるのが、メディア、金融、小売り、自動車という極めて消費者寄りの分野だったので、非常にわかりやすいインパクトであったのだが、5Gにおいては製造プロセスとかエネルギー、社会インフラが主役となるので、地味目で退屈に思えるかも知れない。

最後に

5Gによって変わるのは、B2B2Xというビジネス・モデルであったり、エネルギー、製造業、警備、公共交通という社会インフラ的な変化が主眼となる。

極めて広範囲に亘る変化であるので、全体的なビジネスアイデアを考え出すのは難しい。

また、製造業における製造プロセスの効率化という分野においては、非技術系の文系人材が入って行きにくい世界である。

このため、商社や金融志望の就活生とか転職希望者からすると、あくまでも教養レベルでしか使えない話題なのかも知れないが、周りに詳しくない人間が多いので、テクノロジーに強いと勘違いしてもらえるのは嬉しいことである。

とりあえず、入門編ということで、わずか860円(税別)でどこの書店にでも売っているので、一読するのをおすすめする。

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