1. 銀行と総合系コンサルの新卒採用者数が大幅に減少するとどうなる?
5年後の就活状況がどうなるかなんて、その時のマクロ経済環境によって大きくことなるのだが、あまり楽観的に考えないことを前提にすると、銀行と総合系コンサルの新卒採用者数が大幅に減少している可能性がある。
既に銀行は新卒採用者数を抑制するトレンドに入っているようだが、総合系コンサルについては今が丁度ピークであろうか?AIとかデジタル・トランスフォーメーションを追い風としたコンサル特需もそろそろピークアウトするかも知れない。
銀行と総合系コンサルは、東大、慶應、早稲田といったハイスペック就活生の最大級の受け皿となっているのが現状である。
例えば、2019/3卒の慶應義塾大学の全学部生の就職先を見てみると、銀行とコンサルが上位を陣取っている。
(出所:慶応義塾大学公式HPより抜粋)
3位 三菱UFJ銀行 71人
4位 三井住友銀行 70人
5位 みずほ銀行 59人
6位 アクセンチュア 56人
7位 三菱UFJ信託銀行 51人
10位 三井住友信託銀行 45人
12位 アビームコンサルティング 42人
<2019/3卒対象、慶應義塾大学の就職と課題>
https://career21.jp/2019-08-20-125354
東大と早稲田も同様で、メガバンク、大手信託2行、総合系コンサルが上位に位置している。
<東京大学の就活について>
https://career21.jp/2019-08-22-100733
<早稲田大学の就活について>
https://career21.jp/2019-08-23-153551
以上のように、東大、慶應、早稲田共に、銀行、戦略系コンサルへの就職者は上位を占めているので、このあたりの採用者数が削られると、その就活生の行方が気になるところである。
2. 就活における最難関企業が新卒採用枠を拡げる気配はない?
採用数とかランキングで見ると、インパクトは限定的かも知れないが、外銀、外コン(戦略系。要するに、MBBとATカーニー、ローランドベルガー)、国内系証券専門職コースの採用数がどうなるかというのは気になるところである。
何故なら、この業種・職種には、東大、慶應、早稲田の中でも最上位層が押し寄せるからである。
しかし、残念ながら、このあたりの枠が5年後に拡がっているようには思えない。外銀は、欧州系の投資銀行ビジネスは慢性的に厳しい状況にあるし、米系大手の投資銀行も富裕層金融に注力するなど本社でも大変なのに、低成長の日本拠点を増員する気にはなれないからである。
ヘッジファンドを含むバイサイドについては、日本のビジネスは拡がる可能性はあるが、新卒採用は基本やらないので、就活という点においては期待できない。
それから、外銀がダメなら、国内系証券会社の専門職コース、すなわち、IBDとかグローバル・マーケッツという手があるのだが、既に十分に難化している。
また、国内系大手証券会社の場合、どこもリテール営業が稼いでいるので、最初から(大して稼げない)IBDだけ別採用で厚遇することに対する社内的な批判が相当強く、今後別採用は止めようという意見さえでている。従って、国内系証券会社の専門職コースの増員を期待することはできない。
MBBに代表される戦略系コンサルであるが、この業界は業界全部合わせても100人に満たないような非常に限られた市場である。そして、マッキンゼーとBCGについては近年40人位にまで新卒枠を拡げているので、ここから更なる増員は見込みにくい。
それに、MBBは東大理系院卒が有利なので、文系の就活生からすると、もともと枠は非常に限られている。
そうなると、頼みの綱は、総合商社である。
しかし、こちらもあまり当てにできなさそうである。
例えば、三菱商事の新卒採用(総合職)を見ると、3年前までは160人位採用していたのに、2019年度においては、120人強まで急減している。
むしろ、今後、総合商社の採用のカギは第二新卒を含む中途採用になると考えられるので、少々景気が良くなったところで、数年前のメガバンクみたいに、新卒採用を急増させるということは無いだろう。
結局、超ハイスペックの就活生が行きたがる、外銀、外コン(戦略系限定)、国内系証券専門職コース、総合商社ともに、5年後は良くて現状維持であるという厳しい状況となることが見込まれる。
3. それでは、東大、慶應、早稲田の就活生は新たにどこを目指せばいいか?
①大手生保、大手損保
メガバンクの場合、外銀・国内系証券専門職落ちから、就活やる気なく取りあえず銀行にしたという就活生まで、ピンキリであろう。外銀・国内系証券専門職を狙っていた就活生を除くと、メガバンクから溢れると、その向かう先は大手生保か大手損保ではないだろうか?
大手証券会社もあり得るのだが、収益的にどこも非常に厳しい状況にあるので、メガバンクと同様に5年後総合職の採用数は減っているのではないだろうか?
もちろん、大手生損保も少子高齢化で国内市場はシュリンクするし、自動運転関連で収益源の自動車保険が不安だったりと、決して楽ではない。しかし、当面はまだ大丈夫そうなので、こちらに流れる就活生はいそうである。
要するに、リテールでもいいから、給与水準が高く、安定している(従来はそうだった)と思われる大手金融がいいということである。
②メガベンチャー
既上場の、ヤフー、楽天、LINE、サイバーエージェント、DeNA、グリー、Mixi、メルカリ、ZOZOといったあたりである。
高収入とスキルの習得を重視するハイスペック就活生が、5年後に、このあたりを狙うようになる可能性はある。
その根拠は、新卒採用条件の一律化の崩壊だ。
くら寿司の新卒年収1000万が話題になったが、就活ルールが廃止され、終身雇用制度が崩れて行くとすると、新卒採用の方法・内容も変化していく。
従来は、新卒の場合、初任給の金額は同じであったが、5年後には変容している可能性はある。東大とか慶応のハイスペック就活生がベンチャーを嫌う理由は、「給料が安い」ことである。
しかし、就活生の段階ではそれ程高額を求めている訳でもなく、初任給で600万円あたりを提示できれば大きく変わるはずである。初任給の金額が同じである必要が無ければ、特定の学生にだけ相対的に高い給料を用意すればいいだけなので、企業における人件費の負担増はコントロールできる。
したがって、人事制度、給与体系についてフレキシブルに対応が可能な大手ベンチャー系企業からすると、メガバンクとか総合系コンサルが採用を減らすのはチャンスかも知れない。
③ベンチャー企業
優秀な就活生が、このセグメントに流れるのが日本の産業界の立場からは望ましいのかも知れないが、現実的には厳しいだろう。
わざわざ、他に選択肢の多いトップ就活生があえてファーストキャリアとしてベンチャー企業を選択するメリットがあまり無いからだ。
大手からベンチャーに行くのは難しくないが、ベンチャーから大手に行くのは難しいと、20世紀の頃から言われてきたが、この考え方は基本的に変わっていないだろう。
また、自らベンチャーを起業するというのと、他人が作ったベンチャー企業に就職をするというのは別次元の話なので、わざわざ、新卒でベンチャー企業に誘導するのはお勧めできない。
ベンチャー企業に行った方が市場価値が高まるという意見もある。
それは、一人で多くのことをカバーせざるを得ないからとか、自分自身が意思決定者として責任を持った行動が要求されるからといった理由によるのだろうが、必ずしも、大企業に行った場合と比べて市場価値が高まるわけではないだろう。
結局、それは、ベンチャー企業が属するセクターが成長するかどうかとか、経営者や同僚に優秀な人達がいるかといった要素によって、結果は大きく変わるからであり、就活生の段階でその善し悪しを判断するのは難しいからである。
それでも、ストック・オプションでも付与されればまだ楽しみはあるが、薄給激務でストック・オプションすらもらえないのでは、リスク・リターン的に合わないだろう。
本当に、ベンチャー企業に行くことを考えるのであれば、その前に自ら起業することを検討すれば良い。学生のうちにできることは限られるが、ネットを利用したビジネスでも構わないし、ちょっとでも結果が出れば、就活でアピールできるだろう。
とりあえず、有給の長期インターン或いはバイトをベンチャー企業でやるのが無難であろう。
④事業会社の部門別・職種別採用
実は、高学歴のハイスぺ就活生の新たな行き先はここじゃないのかなと予想している。
特に、メーカーは伸びしろが大きいように思われる。
メーカーは、文系の場合、部門別とか職種別の採用は行っていないし、初任給は一律で横並びだ。それに、年収が上昇するスピードは、金融とかコンサルと比べて非常に遅い。
年収とかスキルを重視する、今の就活生が、年俸もスキルも期待できないような会社をファーストキャリアとして選択する訳が無い。
しかし、ソニーの初任給730万円とかNECの初任給1000万円の話が出てきたように、初任給の一律性については変わって行く可能性がある。
また、初任給に違いを設けるのは、既存の社員の給与体系との絡みで難しいところもあるかも知れないが、部門と職種を確約した新卒採用は実行可能性がある。
従って、メーカーの中でも、高給の会社が部門別・職種別採用を実施すれば、それに乗っかるトップ就活生も増えるだろう。さらに、初任給で差をつけることができれば尚人気が出るだろう。
金融機関とかコンサルが新卒採用数を抑制すると、それはメーカーにとってチャンスなので、新卒採用の柔軟性が期待される。
日本企業の場合、横並び意識が非常に強いので、業界トップ企業が実施すれば一気に変わる可能性がある。
最後に
起業独立だ、フリーランスだといっても、それを実行できる学生はほんの一部であろう。
東大、慶應、早稲田の優秀層であっても、5年位のスパンで見ると、まだまだファーストキャリアは大手企業に就職するのが大多数であろう。
みんなが入りたがるような、高給でスキルが習得できるポジションは非常に限られているので、東大、慶應、早稲田の優秀層でも内定を取れない就活生の方が多い。
それは、既存の日本企業の立場からすると、大きなチャンスなので、それまでに硬直的な従来型の人事制度・採用制度にメスを入れ、日本の産業界を活性化できるような枠組みを作ってもらいたいものだ。