監査、FAS、独立?公認会計士のキャリアプランについて考える。

1. 多種多様なキャリアの選択肢を有する公認会計士

公認会計士資格があると、多様な将来のキャリアプランが拡がっていく。
本来業務である監査業務を極めて行き、パートナー、代表パートナー、そして理事と監査法人内での出世を目指して行くのは王道かも知れない。

或いは、FASでM&Aのスペシャリストを目指して、国内系証券のIBD、外銀IBD、PEファンドを目指して行くキャリアも存在する。

また、Big4の場合には、傘下に経営コンサルティングを行うエンティティもあるので、コンサルを目指すという選択肢もある。

事業会社の経理部門に転職する途もあるし、ストック・オプションをもらってベンチャーCFOの可能性もある。

もちろん、マイペースに、他人から指示をされることなく、独立・起業を目指すというのも面白いかも知れない。

このような書き方をすると、TACや大原の公認会計士試験の煽り広告のように見えてしまうが、公認会計士に多様なキャリアプランが存在するのは事実である。

2. 最大の留意点は年齢の壁

上記のように公認会計士にはキャリアにおける多くの選択肢があるのだが、あれもこれも選択することができるわけではない。

というのは、年齢の壁があるからである。自ら独立したり、起業をするというのであれば年齢制限は無いが、誰かに雇われる立場で仕事をするのであれば、未経験で転職するには必ず年齢制限というものがある。

これは、公認会計士だけの話ではなく、全ての業界・職種における共通事項であるが、全くの未経験の業務に転職するのであれば20代のうちである。ある程度の業務経験・土地感はあってもベストフィットでない職種の場合には、35歳位までが転職時の年齢の目安となる。

ベンチャー企業の場合には、周りが若いので、他の業界よりも年齢にシビアな場合もある。

このため、合格時の年齢にもよるが、一旦興味本位だけで軽い気持ちで転職して失敗すると、資格があるので次の転職先は見つかったとしても、キャリアダウンに繋がり勿体ない結果となってしまう。

特に、ベンチャー企業に転職して失敗した場合には、「リスクを取って良く挑戦した!」と評価してくれる企業など皆無であって、「レジュメが汚れる」だけである。(もっとも、これは公認会計士だけではなく、金融キャリアの若手にも見られるミスであるが…)

以上より、公認会計士のキャリア上の選択肢は多くても、しっかりしたキャリアプランを練らないと、将来後悔したり、大切なキャリア上の機会を失ったりすることになりかねない。

3. まずは、目的を明確にしたい

どの仕事が面白いとか、遣り甲斐があるかとか、自分にフィットしているとかは、実際にやってみないとわからなかったり、その時の景況感や同僚達によって大きく左右される。

従って、まずは、希望年収という客観的数値的なものを軸として考えてみるとよい。

①年収重視のキャリアを選択したい場合

ここでいう年収重視にもいろいろなレベルがあるが、少なくとも、監査法人で働き続けるよりも高額の年収を得ることができるキャリアを選択するということである。

例えば、外銀IBDをゴールとすれば、VP以上になれれば、30代で3000~5000万円、MDになれれば1億円以上も可能である。そのためには、FAS経由で国内系証券IBDを経て、或いは、直接外銀IBDへの転職を狙うこととなる。

また、ベンチャー企業CFOでストック・オプションをもらって、IPOが成功した暁には1億以上を手にすることも可能であろう。ベンチャーというと、雇われるのではなく、自ら起業してEXITして数億を稼ぐという方法もある。

そこまで上は狙わないが、そこそこ年収が多くて安定的な途を希望するのであれば、外資系金融の経理(ファイナンス職)、或いは外資系事業会社の経理職を狙うというのでも良いだろう。

②監査法人で出世を目指す

転職とかは面倒で、お金はそこそこでも、監査法人での出世を目指したいという考え方もある。監査法人は上が詰まり気味で、シニア・マネージャーとかパートナーにはなりにくくなったとは言われるが、途中で転職したり、独立したりして同期が減っていくので長くいれば出世の可能性はある。

パートナーで1500万円以上、さらに、シニア・パートナーになると2000万円を超えるので、出世をすれば年俸も付いてくる。

③自由を追求し、独立開業を目指す

なお、ここでいう独立とは、ベンチャー起業のようなリスクの高いものではなく、税理士業務とか監査、コンサル業務を軸に、本来の伝統的な公認会計士の職域で独立を目指す途を言う。

これは、お金とか出世よりも、誰からも雇われず、自分の好きなようにやりたいという自由を追求するキャリアである。これは、外銀には出来ない士業特有の強みでもある。

4. 年収重視の場合のキャリアプランについて

上記のうち、②の監査法人での出世コースを目指すキャリアと、③の税務・監査といった公認会計士の典型的な業務で独立開業を目指すキャリアについては、私の専門外なので、ここでは、上記①の他業種への転職を想定したキャリアプランについて検討する。

①IBDを目指すキャリアプラン

IBDの最高峰というと、外銀IBDである。経験者であることを前提とすると、ある意味、新卒で入るよりも可能性はあるかと思われる。その場合、監査業務ではなくFASでM&A業務の経験を積んで、外銀IBDのアソシエイト・ポジションで転職を狙うこととなる。
当然、英語力は必須なので、非帰国子女の公認会計士はここが辛いところである。

外銀IBDであれば、20代のアソシエイトでもベースとボーナスを合わせて年収は優に2000万円は行くだろう。もちろん、仕事はFASより遥かにハードである。

現在やっている業務がFASではなく監査業務であるとか、英語は自信が無いという場合には、国内系証券会社のIBDを狙うと良い。国内系であれば、英語が出来た方が望ましいが、MUSTではない。

また、国内系の場合にはポテンシャル面を重視するので、現業がFASではなく監査業務であってもIBDで採用してもらえる可能性はある。公認会計士という資格の強みは、外銀よりも国内系金融機関の方が発揮しやすい。

国内系証券会社のIBDでも、野村、SMBC日興(プロ職)の場合には、30代で2000万円位は可能なので、ワークライフバランスやリスク度合いを考慮して、そのまま国内系に残るというのもアリである。もちろん、自信が付けば、20代のうちに外銀IBDに挑戦するのもいいし、有名案件を国内系で十分にこなして管理職に昇格してから、VP以上で外銀を狙うというのでも良い。

国内系、外資系を問わず、IBDで十分なキャリアを積めば、ポストIBDということで、PEファンドという選択肢も生じ、これも面白いキャリアである。

<PEファンドへの年収、転職について>
https://career21.jp/2019-02-07-113544

②外資系金融での経理(ファイナンス)を目指す場合

激務のIBDはなく、もう少しミドルリスク・ミドルリターン型で年収を追求したいという場合には、外資系金融機関の経理(ファイナンス)職を狙うという手もある。

外資系金融の場合、外銀と外資系運用会社(バイサイド)とでは年収レンジに差がある。一般的には、外銀の方がバイサイドよりも高給である。

外銀のファイナンスの場合には、VPであれば2000万円は越える。SVPとかDirectorだと3,000万円には到達する。但し、バックオフィスの場合にはSVP/Director以上のポジションは限定されているので、そこまで昇格するのはハードルが高い。

<外資系金融のバックオフィスの年収>
https://career21.jp/2018-10-24-081421

同じ外資系と言っても、非金融の事業会社となると、年俸的には大きく下がってしまう。
例えば、外資系製薬会社の経理のマネージャークラスだと、年収1200~1300万円、ディレクタークラスで年収1600~1800万円位であるので、監査法人と比較して特別多い訳ではない。

③ストック・オプション狙いでベンチャー企業に転職するケース

いわゆるベンチャーCFO、或いは、それに準じたポジションを狙うケースである。
ベンチャー企業といってもピンキリで、狙うのであれば上場前のメルカリの様に勝ちが見えているようなところを選ばなければならない。

しかし、そのようなポジションは人気なので、元外銀IBDのハイスペックな候補者に取られてしまう可能性がある。

かといって、何の変哲もないベンチャー企業をWantedlyで見つけ出してCFO職に就いても大抵の場合、失敗する。失敗するといっても倒産することは少なく、細々と受託開発等で生きながらえるliving deadの状況に陥るベンチャー企業が多い。

ストック・オプションに惹かれて転職した者の立場からすると、成功裏にIPOを達成する以外は全て失敗(IPO前のEXITでもストック・オプションを行使できる場合は別だが)ということになってしまう。

VCが吟味した上で投資を行っているベンチャー企業でも9割方は上手く行かないので、安易にストック・オプション狙いでベンチャーに行くべきではない。まさに、冒頭で述べたような状況に陥り、勿体ないキャリアとなってしまう。

従って、ベンチャー企業に行くのは将来自分が起業・独立するための勉強のためと割り切っていくような場合以外は、あまりお勧めできない。

ベンチャー企業の転職については、成功した者の勝ち方が凄いので、ハロー効果によって揺さぶられてしまう。そこは、冷静に見極めたいところだ。

最後に

公認会計士に限らず、転職を阻む最大の壁が「年齢」である。
職務経験を問わない第二新卒としての転職が可能なのは25歳まで、職務経験有りで転職しやすいのは30歳までというのが目安である。

30歳を過ぎて、管理職以上で転職する場合には十分な職務経験とスキルが試される。そして、同じ位の経験・能力であれば、若い方を優先することもある。

従って、あれこれお試しする訳には行かないので、行き当たりばったりではなく、十分に練られたキャリアプランを考えることが重要だ。

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