50代のサラリーマンの雇用問題と解決策

1. 遂に日経ビジネスも特集した50代のサラリーマンの雇用問題

経団連の終身雇用廃止宣言とか、年金2000万円とか、サラリーマンの雇用に関連する将来の問題点がクローズアップされてきているが、50代のサラリーマンの雇用問題は特に難問である。50代のサラリーマンの雇用問題が何故深刻化というと、それは以下の理由による。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00067/101500043/

①大企業における50代の比率が格段に高まる

過去にも、3度ほど50代の雇用問題が存在したが、それらは全て一時的な早期退職/リストラで対応できたという。何故なら、それらは全てマクロ経済的な循環の問題であって、オイルショック不況、バブル崩壊、リーマンショックの時は、その後の人材需要の高まりによって何とかなったという。

しかし、今回の50代の雇用の問題は、一過性のマクロ経済の循環に起因する問題ではなく、構造的な問題になるという。

というのは、大企業における50代のシェアが異常に高まる(高まっている)からだ。
例えば、日経ビジネスで紹介されていたソニーは、1988-1992年入社の社員が多く、50歳以上の社員が何と3割以上を占めるという。

また、驚きなのは、KDDIで、現在は50代のシェアは3割だが、10年後には何と5割になるという。

こういった事情はバブル期の大量採用とか、団塊ジュニアの採用とか、人口ピラミッドに起因する問題であるので、他の日本企業についても同様にあてはまる。

あまり仕事をせず、高い給料をもらっている50代の比率が増えると、企業としては持たなくなってしまう。

②一方で、少子化に伴う深刻な人手不足の存在

50代は余っている一方、少子化によって、本当に必要な人材は明らかに足りない。
それは、東京都の最低賃金が1000円を超え、小売りとか外食のアルバイトが見つからないことが問題になっていることから、一定の専門スキルを伴う若手社員となると尚更見つからないことは容易に想像できるであろう。

必要とされない年代が余り、必要とされる年代が人手不足という、極めてバランスの悪い状況に陥っている。そして、少子化の流れは今後も解決しないので、50代が20~30代の仕事をカバーできるようにならないと、企業としてはとてもやっていけない。

③AI/デジタル・トランスフォーメーションの進展による人材の余剰化

AI/デジタル・トランスフォーメーションが進展すると、スキルが求められないポジションは減っていくばかりである。

機械に代替されないようなスキルを身に着けるには、最新のテクノロジーに対応でき、高いモチベーションと体力を持って働くことが求められる。

そうなると、一般的に最新テクノロジーに疎く、体力・気力も加齢によって落ち気味な50代はなおさら余剰化していくリスクがある。

2. 大企業が50代の雇用問題を解決することが難しい理由

以上のように、50代問題を放置すると、将来大変マズイ状況に陥るのは明らかなので、大企業としては今のうちに手を打ちたいところである。

大企業としては、50代の人達が、20~30代の人達と同水準のコスパで良く働いてくれるようになることがゴールであるが、それを実現するには以下の様な理由で相当困難である。

①役職定年の存在

ほとんど全ての大企業は、役職定年制度を採用しているだろう。
役職定年とは、一定の年齢になるとラインの管理職から外れ、それを口実に年収を2割程下げられる制度である。

20世紀から存在する制度なのだが、その運用が年々エグくなっていくようで、役職定年の年齢が昔は57歳だったのが、いつの間にか55歳位が多くなってきた。ひどいところでは、52歳が役職定年という会社もある。これだと、50代は要らないといっているようだし、残り8年間何をするのか非常に気がかりだ。

役職定年制度が存在すると、その年齢に達したら働かなくていいと言っているなものなので、モチベーションが沸くはずもない。

他方、既に出来上がった制度であるので、これをベースに様々な人事制度とか給与体系が出来上がっているので、簡単に取っ払うわけにも行かないのが難しいところである。

②50代のスキル、ノウハウ不足

日本の大企業は、年功序列とローテンション制度によって支えられてきたのであり、今の50代のサラリーマンには確固たるスキルやノウハウを身に着けていない人が多い。

それに、一般的に年をとれば、頭は固くなるし、テクノロジー等の新しいものへの吸収が悪くなる。このため、プログラミング人材が不足しているからと言って、50代のオジサン達にプログラミングを教えるわけには行かない。

また、グローバル化、インバウンドの進展と言っても、今更英語とか中国語をマスターしてはもらえない。

それでいて、年功序列という意識はあるので、とにかく扱いにくい。人手が足りないので、単純な仕事でも手伝ってもらえたら助かるのだが、プライドが高くフットワークも重いので、難しい仕事は出来な癖に、単純な仕事は率先してやってもらえない。

大手証券会社の30代社員曰く、「50代以上が全員いなくなったとしても、ちっとも困らない。」。大手金融機関の若手に聞くとわかるが、50代で本当に残って欲しいと思われる人は5%もいないのではないだろうか?そう思われるような人というのは、税務、IT、法律といった高度な専門スキルを持っているか、営業力がありクライアントから絶大な信頼を持たれている例外的なケースである。

③管理職のポジションには限りがある

仮に、上記①②の問題点をクリアできたとしよう。
役職定年を撤廃し、ある程度のスキルがあって仕事ができる50代のみが残ったと想定する。

しかし、そうした場合においても管理職のポジションは数に限りがある。
同じくらいの実力や貢献度であれば、30~40代の方をそのポジションに就けたくないだろうか?人間誰でも若い方を好むし、会社での残りの期間の長さとかを考えると、若い人を優先したいところである。そうしないと、若くて優秀な人達が会社から去ってしまう恐れもある。

とは言え、管理職のポジションは若手優先ということが明白だと、結局50代の人達のモチベーションは上がらないままである。このあたりの調整が難しい。

3. 50代の雇用問題の解決策…ジョブ型への転換

2019年10月14日号の日経ビジネスにおいては、成功事例として、カゴメのジョブ型への転換のケースが紹介されていた。

ジョブ型というのは、日本の従来型の人事制度であるメンバーシップ型の対義語であり、「人」ではなく「仕事」に対して報酬を支払うという考え方である。

〇〇部長、××課長といったポジション(ジョブ)によって年収額が決定され、年齢に関係なく、ポジションに応じて年収額が決定されるのである。

したがって、30代でも50代でも××課長だと年収1000万円が支払われ、同部署の課長代理だと年収800万円が支払われるということになる。

そうなると、30代の方が50代の社員よりも給料も役職も上ということが普通に発生することとなる。

このジョブ型という制度は大手メーカーの間では流行っているようなのだが、年功序列制度とセットになっており、形式的な導入に過ぎず、蓋を開けてみると、従来の年功序列と大して変わらない運用がされている会社が多いという。

カゴメの様なケースはレアケースであり、外部から採用した、何のしがらみもない人事担当執行役員だからこそ実行できたという見方もできる。

4. 何故、ジョブ型への完全な転換が難しいのか?

①社内の抵抗勢力の存在

理論的には、年功序列を排して、実力主義を徹底すべきだということは理解できるが、既に年功序列制度に飼い慣らされ、特段のスキルを有していない40代後半以上の管理職が多数実在している。

そうなると、突然、年功序列を排して実力主義にしますと言われても、とても、若手と競争して勝てる自信は無く、年収が下げられることになるリスクが高い制度を受け入れられる訳が無い。

このため、完全なるジョブ型の導入には反対する勢力が強く、落としどころとして、形ばかりのジョブ型が導入されることとなってしまう。

②既存の50代の受け皿が無い

仮に、抵抗勢力を排して、完全なるジョブ型を導入することになったとしても、管理職が剥奪されそうな50代(或いは40代)の人達が現に会社にいる訳である。

日本企業の場合、大リストラを敢行するのは難しいので、既存の高齢管理職社員には相応の対応をして、ソフトランディングを図る必要がある。

しかし、銀行は別として、証券会社とか保険会社の場合は、50代を受け入れる子会社の数は限られている。また、銀行の様に融資先に押し込んで出向してもらうという選択肢も余りない。

そう考えると、ドラスティックに一気にジョブ型に以降することは現実的に難しいのである。

まとめ

ほとんど全ての大企業は50代の雇用問題について認識はしている。
また、年功序列を排して、実力主義に移行するのが解決するのが答えであることもわかっているのだが、副作用が大きいし、現行の経営者も自分自身が悪者にされたくないので、怖くて実行できない。

オーナー系企業であれば、オーナー経営者の鶴の一声で、思い切った雇用制度の改革を実行できるのであるが、サラリーマン経営者の場合にはそこまで踏み込めないのである。

この点は非常に難しい問題で、今後、どんどん問題が顕在化していくだろう。

これは会社にとって頭の痛い問題なのだが、50代のサラリーマンにとってもそれ以上にヤバイ問題である。一旦会社から追い出されてしまうと、市場価値よりも高い給料をもらっていることが大半なので、年収が著しく下がってしまうからである。

50代のサラリーマンの対応策については、別の機会で考えてみたい。

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