1. 日本のベンチャー企業が伸びないのは、採用戦略に原因あり?
日本からはGAFAのようなIT系のメガベンチャーが生まれないし、経済規模に比して、ユニコーンの数が少ないことが問題視されている。
これについては様々な原因があるのだろうが、そのうちの1つとして、ベンチャー企業の採用戦略が指摘できると思われる。
2. 優秀な人材を採るのは簡単。高い給料を用意すればいいだけ?
日本のベンチャー企業はどこも口を揃えて、「うちは最高に優秀な人材を求めている」「優秀な人材採用のためには苦労を厭わない」といったことを言う。
本気でそう思うのであれば、極めて簡単な話で、高い給料を用意すればいいだけの話である。高い給料を支払える金銭的な余裕が無いのであれば、ストック・オプションを大判振るいするしかないだろう。
日本のベンチャー企業が伸びない理由として、あまりにもケチ過ぎることが指摘できると思う。年収500万円、SO無しの条件で優秀な若者が集まるわけがない。理念に共感できれば薄給激務でもOKというのは創業メンバー位である。#ベンチャー #給料 #年収 #就活
— 外資系金融キャリア研究所 (@hedgefund30m) October 17, 2019
こういうことを言うと、「人は給料のみをもとめて働くわけではない」「ベンチャー企業はお金ではなく、理念や志に共感して働くものだ」といった反論が来ることであろう。
しかし、東大、京大の就職ランキングを見ると、上位は見事なまでに外銀、外コン、総合商社、大手マスコミ、大手デベロッパーで占められ、給料が安い会社など1社も無い。
また、ブラック企業と蔑まれ、優秀な就活生など採用できるわけも無かった、外食産業のくら寿司が、初任給1000万円のエリートグローバル候補生を募集したところ、10人の枠に対して早慶レベルの学生からの応募が途中段階で170人に達しているという。
<くら寿司の初任給1000万円とキャリアプラン>
https://career21.jp/2019-06-03-094906
競争力のある給与やストック・オプションを用意しない(する気が無い?)ベンチャー企業は、この点、どう考えているのだろうか?
3. 確かに、モチベーションには、金銭的動機以外に、社会的動機と自己実現同期が存在するが…
HRM(人的資源管理:Human Resources Management)の教科書的には、人が働くことのモチベーションとしては、金銭的動機、社会的動機、自己実現動機が存在するとされている。
人が働くモチベーションは金銭的動機以外に、社会的動機と自己実現動機が存在するから、こちら側を充実させれば優秀な人材も採用可能だという考え方もあるだろう。
しかし、社会的動機というのは、「一定の価値観を共有できる集団の中で社会生活を営み、その中で注目や評価を受けたり、権力を得たい」という欲求である。
どのような価値観の同僚がいるかもよくわからないし、果たして、出世したり評価されるという組織が出来ているのかも不明確なベンチャー企業において、優秀な人材を社会的動機で誘引することは容易ではない。
また、自己実現動機というのは、「自己を成長させたい、社会的使命感を満たしたい」という欲求から生じるものである。
この点は、ベンチャー企業の方が成長しやすい環境にあるのかも知れない。しかし、それは、他のベンチャー企業にも共通してあてはまる点であって、特に自社の場合においては、成長や社会的使命感を満たすことができることを説得できるかどうかはわからない。
そもそも、ベンチャー企業の場合には、上場企業と比べると著しく開示資料が少ないので、具体的にどのようなビジネスモデルに立脚して、どの分野でどれくらいの収益を上げているのか、或いは投資をしていくのかといったことが良くわからない。
「AIで世の中を変える」的なスローガンを掲げているが、実態は受託開発をやっているに過ぎない会社は少なくないが、本当に優秀な人材は、単なるイメージだけではダマされないのではないだろうか?
4. たった100万円でも余分に給与を出せると全然違ってくる?
社会的動機や自己実現動機はお金が無くてもアピールできるというのは誤りである。
主観的、抽象的なスローガンだけで優秀な人材を引き付けることは、ある意味、高い給与を提示して惹きつけることよりも難しいかも知れない。
そうであれば、実は(相対的に)高い給与(ストック・オプションも含む)を提示する方が簡単ではないか?
ベンチャー企業が新卒を欲しいとは限らないが、新卒の場合だと、初任給で600万円も出せれば全く違って来る。良くも悪くも、就活生というのは目先の給与水準を思っている以上に気にするものだし、就活生の高給というのはそれ程高い水準ではない。
くら寿司のように1000万円は用意できなくても、600万円も用意できれば、かなり高給を出してくれる会社と見てくれる。
現に、アクセンチュアとかPwCコンサルティングといった総合系コンサルティング・ファームの人気が高いのは、初任給の水準が他の国内系企業よりも高いということもあるようだ(といっても、残業代諸手当含めても500万円台後半程度である)。
ベンチャー企業からすると、600万円も出せないというのかも知れないが、それでは、目標採用人数を絞ればいいだけの話ではないか?
別にベンチャー企業であれば、最初から、経理だとか法務とか全て自前で持つ必要は無い。
コア人材だけ競争力のある給与を用意して、それ以外は可及的にアウトソースすればいいだけの話では無いだろうか?
このあたり、幅広く漫然と中スペックの人材を採ろうとするのではなく、メリハリを付けた採用計画を戦略的に考慮すべきでは無いだろうか?
5. 採用方法において工夫をしているか?
日本のベンチャー企業は採用について真剣に考え直した方がいい。何も考えずにWantedlyだけで募集を掛けるだけであれば、競合企業よりも優秀な人材を採用できないことに気づかないのだろうか?#ベンチャー #採用 #給料 #ウォンテッドリー
— 外資系金融キャリア研究所 (@hedgefund30m) October 17, 2019
ベンチャー企業が自前のプロダクトについて、競合と比して何の変哲も無いものを何も考えずに提供するということは有り得ないだろう。
しかし、ベンチャー企業の多くは、「優秀な人材を採るには苦労を厭わない」と謳いつつも、採用については漫然と何も考えないで、Wantedly頼みの採用方法しか行っていないところが如何に多いことか。
転職エージェントを使うお金が無い?
それは理解できるが、その代わりにどのような採用における工夫をやっているのか?
ベンチャー企業は経営資源に乏しいので、大企業の様に採用にはお金を掛けられてないというのであれば、知恵を使う他無い。
もっとも、メルカリはアーリーステージの段階から、非常に熱心な採用活動を行っていたことで知られている。
創業メンバーのリファーラル採用頼みでは、創業メンバーと似たり寄ったりの人材が集まるだけである。本気で勝とうというのであれば、ラッセルレイノルズとかエゴンゼンダーを使ってみるぐらいの意欲が望まれる。
最後に
日本の場合、お金、お金というのは嫌がられる社会であるのだが、それは建て前であって、他より高給を用意すると、明らかに人は集まる。
高級を用意できないにも関わらず、優秀な人材を本気で採用したいと思うのであれば、相当な工夫が必要なはずである。しかし、それを実行しているベンチャー企業はどれくらいあるのだろうか?Wantedly頼みの採用しかできないベンチャー企業に、採用「戦略」というものはあるのだろうか?