外銀の併願先?国内系証券会社IBDへの就活、年収、転職について考える

1. 国内系証券会社IBDとは?

国内系証券会社のIBDとは、文字通り、日系証券会社の投資銀行部門(IBD: Investment Banking Division)を意味する。

具体的には、野村、大和、SMBC日興、三菱UFJモルガン・スタンレー、みずほという、国内系証券会社大手5社の投資銀行部門のことである。

就活生における国内系証券会社IBDの序列としては、

野村>SMBC日興>?>みずほ

という理解が一般的なようだ。投資銀行業界の中の人達からすると、歴史的には、野村の次は大和であるはずなのだが、三井住友の傘下に入ったこともあるのか、野村の次はSMBC日興というのが定説のようだ。また、SMBC日興証券の場合、IBDコースで特定専門職コースになると一般の総合職社員よりも給与水準が高いというのも人気の理由だ。三菱UFJモルガン・スタンレー証券については、グループとしてのMUFGは国内系金融の中では最大であるが、昔から証券会社の存在感は薄い。中核となっている旧国際証券は準大手証券だったし、三菱グループに属していた旧日興証券は紆余曲折を経て、SMBCグループになってしまったというのが原因だろうか。

2. 国内系証券会社IBDに入社するのが、何故難しいのか?

外銀・外コンが最難関であることは間違いなさそうであるが、その次に難しいのは、総合商社ではなく、国内系証券会社IBDであるとトップ就活生の間では考えられている。

その理由としては、以下のものが挙げられる。

第1に、最難関の外銀のIBDの志願者がほぼ全員国内系証券会社IBDも併願することである。外銀IBDのビジネスはグローバルにおいて、好調なわけでも無く、特に欧州系は全般的に投資銀行ビジネスに足を引っ張られている。

このため、新卒採用をする外銀は米系大手のUBS位に限定されるし、また、1社あたりの採用枠も増えていない。具体的には、IBDということに限定すると、ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、メリルリンチ、JPモルガン、シティグループ、UBSあたりであり、これら全て合計しても新卒採用枠は100名に満たないくらいである。

そこに、東大、京大、一橋、慶應、早稲田、上智、ICU等の上位の就活生が集中するので、外銀IBDは全落ちする就活生の方が多く、国内系証券IBDも併願せざるを得ない状況にある。

第2に、国内系証券会社IBDも採用枠が非常に少ないということである。各国内系大手証券会社は、リテール営業を主とする総合職枠は各社数百人と大量採用をするが、IBDに限ると、各社せいぜい20人程度しか採用しない。

そうなると、業界全部合わせても100人程度の枠しかない。
外銀IBDと国内系証券IBDとを全部合わせても、100+100で200名程度しかない。

そこに、早慶以上のレベルの大学の中の、上位1~2割が集中するので、数千人中、200人位しか通らないので、難しいはずである。

それに比べると、難関と言われる総合証券大手5社の場合、三菱商事だけで総合職百数十人採用するので、国内系証券会社IBD>5大商社というのは理解できる。(少なくとも難易度という点においては)

3. そこまでしても、国内系証券会社IBDに行く意味はあるのか?

①IBDで確固たるスキルを習得できるというのは大きい

他業界の年配のビジネスマンから見ると、そこまでしてまで国内系証券会社IBDを受ける意味があるのかという疑問を持つ人も少なくないだろう。

何故なら、歴史的にみて、20世紀においては、証券会社は格下の業界であり、商社は勿論、メガバンク、大手損保、マスコミあたりと比べると格下の業界であったからだ。

しかし、21世紀になり、東大をはじめとするトップ就活生の意識も変化し、転職価値(スキルの習得)という点に主眼を置くようになったのである。

国内系証券会社IBDに行くと、業務内容は外銀IBDと基本的に同様であり、投資銀行ビジネスのプロフェッショナル・スキルを習得することができる。

また、給与面では劣るものの、日本国内に限ると外銀よりも国内系大手の方が良好な案件にも恵まれ、スキルの習得という観点からは却って有利という見方もある。

②国内系IBDの給与水準は決して悪くはない

そして、給与面については、国内系大手5社の中でもそれなりの格差はあるが、全体的に高給であり、他の国内系企業と比べても、トップクラスの水準にある。基本的に30歳では1000万円の大台に到達可能だし、40歳で管理職になると年収1500万円以上も可能であろう。

また、野村やSMBC日興、或いは、みずほ証券でいわゆる「プロ職」に就くと30代で年収2000万円以上のケースもあるという。

もちろん、外銀には到底敵わない年収水準かも知れないが、年功序列や安定性を考慮すると、決して悪くないと思われる。

③外銀IBDに転職は可能か?

外銀IBDの場合は、難関を突破してやっと新卒入社できたとしても、競争や仕事が非常に厳しく、3年以内に約2/3以上の者が辞めるという。そうなると、当然補充が必要で、中途採用も広く実施している。MBA卒を対象としたアソシエイトのポジションもあるが、非MBAの国内証券IBDからの中途採用も可能である。ただ、その場合はディスカウントを行われた上での入社になることに留意する必要がある。例えば、経験4-5年以上であり、新卒であればアソシエイトの年次であっても、アナリスト2年目扱い等で採用されるということだ。もっとも、それでも年収は軽く1000万円を超えるので国内系IBDの時よりも増えることになる。外銀IBDへの転職に成功したとしても、その後はハードな生活が待っていることは覚悟する必要があるだろう。

以上より、国内系証券IBDには様々な魅力がある。就活においては、年収、ステータス、安定性に非常に優れた総合商社の人気は高いが、スキルが付かないという弱みがある。この点、IBDに関するスペシャリストとなれる国内系証券IBDは、年収、安定性をも加味すると非常に魅力的だと考えられるだろう。

4. それでは、国内系証券IBDに落ちた場合にはどこに行くのか?

早慶以上のトップ就活生のうち、上位1~2割が、遅くても大学2年生位からガチで対策を立てた数千人が集結し、外銀と国内系合わせて200名位しか採用されないのである。

数千人位は、溢れてしまうこととなる。
そういった場合、どこに流れるのかということが気になるところである。

1つの選択肢は、ブティック系IBDファーム(GCA、フロンティア・マネジメント)とか、FASといったところで、あくまでもM&A業務にこだわるパターンである。

もっとも、こういったところは採用数が少なく、GCA等は同様に難関であるので、とても吸収できない。

<GCAへの就活>
https://career21.jp/2019-03-29-153019

<FASとは?>
https://career21.jp/2019-03-08-110102

<ONE CAREER:M&Aのプロ、FASとは何か?>

https://www.onecareer.jp/articles/2243

IBD関連全落ち組の中でも、優秀層は総合商社に流れるパターンもある。
IBDという職種よりも、企業偏差値・就職難易度への拘りが強いタイプである。
もっとも、ファーストキャリアとしては悪い選択肢では無いと思う。

<総合商社の魅力を再考する>

https://career21.jp/2019-11-29-105012/

もちろん、総合商社も十分に難関であるし、また、あくまでも「金融」という業種に拘りたい就活生もいる。そういった場合に、メガバンクに結果的に行くケースが多いそうである。

外銀や国内系IBDから、残念ながら内定をもらえなかった優秀層のマジョリティは、結局メガバンクに行くことになるという。

5. 結局、就活で外資/国内系IBDを狙う戦略は、正解なのか?

大抵の企業には余裕で内定をもらえるようなトップ就活生が、必死で対応策を立てて、外銀と国内系証券会社のIBDを受けられるだけ受けたところで、全落ちしてしまう可能性の方が高い。

そこまでしてでも、“IBD”という職種に拘る必要が果たしてあるのだろうかと考えてしまうが、確固たる金融におけるプロフェッショナル・スキルを得ることができることを考えると、その点は否定し難い。

問題があるとすれば、同じ労力をかけて、他により良い選択肢が無いかということだ。

1つの解としては、同じ金融プロフェッショナルとしてのキャリアを歩むという意味で、運用会社(バイサイド)を狙うという手がある。外資系運用会社のほとんどは新卒採用を行っていないので、就活生の間ではほとんど浸透していない。

また、国内系運用会社は大手金融機関の子会社である場合がほとんどであり、どうしても、親銀行、親証券、親生損保と比較すると、「格下」の業界・会社というイメージをぬぐえない。

しかし、運用職或いは機関投資家営業職の場合だと、外資系に転職すると、30代で年収2000~3000万円位は余裕で狙うことができる。
英語ができるという前提であるが、国内系運用会社の場合は、銀行や証券会社と違って、いわゆる「リテール営業」というハズレ部門に配属されるリスクは無い。

そして、外銀・国内系IBDをガチで狙っていたようなハイスペック層は、希望すればフロント部門に配属される可能性が高い。

そういうことを考えると、最後に残された穴場と言うことで、運用業界(バイサイド)を狙うという手が残されている。

<運用会社の種類、年収、将来性について>
https://career21.jp/2019-01-09-072810

それ以外に大きな可能性があるとすれば、やはりIT/ネット関連ビジネスに入って行くことだろう。別に、IPOを目指すような起業をしなくても、M&Aで億単位のEXITを狙うとか、個人ネットビジネスで月に数百万円を稼ぐことはトップ就活生であれあば十分に可能性がある。

もっともこの点については、確立された成功パターンがあるわけではないので、なかなか浸透しにくい。

また、大手ネット系企業にとりあえず新卒で就職して、ノウハウや経験を身に着けるという狙いも面白いのだが、最大の問題点はその手の大手ネット企業は給料が安いという点である。今の若い人達は、初任給や若い時の年収水準に対する拘りが結構強いようだ。

敢えて金融プロフェッショナルを外した成功キャリアの可能性について、また改めて検討したい。

最後に、あまり明るい話ではないが、日本国内におけるIBDビジネスの将来は必ずしも明るい訳ではない。その点については、こちらの過去記事をご参照ください。

<それでも就活生はIBDを目指すか?>
https://career21.jp/2019-07-12-144603

※2021年5月17日追記

この元記事を書いたのは2019年10月22日と、約1年半ほど前なのだが、2020年初頭に発生したコロナウイルスの問題によって世界は一変してしまった。2021年5月時点においても、まだまだコロナの収束は読めない状況にある。

就活の状況については、21卒については何とか当初に予定された採用計画が実行された模様であるが、22卒以降についてはまだまだ不透明である。コロナ下の株高によって、金融業界はコロナの影響を比較的受けていない業種ではあるが、少子高齢化に伴う国内市場の縮小の方向性等、長期的に見てIBDコースの採用者数が増加すると楽観視することは難しいだろう。

そこで、こういった事態を念頭において、IBD志望者としては以下の2点について留意するべきではないかと考えられる。

①国内系運用会社の難化?

国内系運用会社は外資系に転職するまで5年位はかかるということや、親金融機関からすると子会社の位置付けなので、ハイスぺ就活生からすると優先順位は高くなかったようだ。

しかし、コロナ問題が生じる前から、東大や早慶の就活生の話を聞くと、国内系運用会社も既に難化傾向にあるということであった。国内系運用会社の場合、野村AM等の最大手でも20人程度、一般的な大手でも5~10人位の採用枠なので、ハイスぺ就活生が少し外銀/国内IBDから流れると一気に難化する可能性がある。

コロナ問題によって、外銀/国内IBDに加え、総合商社やメガバンク等の採用者数が減ると、なおさら国内系運用会社は難化する可能性がある。

そこで、国内系運用会社を併願するにあたっては、運用会社自体の対策を十分に行う必要があるだろう。証券会社と運用会社は似た様に見えて、業務内容やカルチャーが大きく異なる面があるので、OB訪問によってアセマネ業界のことを十分聞いておく必要があるだろう。

②IBDを志望する理由を再考する

IBDという職種に拘る場合には、外資或いは国内系のIBDに最初から配属されることが望ましい。総合職コースで入社して、最初に配属された部署で評価を上げて社内異動を狙うという手もあるが、現実的にそれは難しい。

かといって、金融機関以外の事業会社の財務部門や経営企画から中途採用(第二新卒)を狙うという手もなくはないが、以前の様な好況期でない限り、可能性は決して高くはない。

そう考えると、狭き門と知りつつも挑戦する他は無い。

もっとも、本当にIBDじゃないとダメなのかどうかについては、再考してみる必要がある。単に多額の年収が欲しいとか、企業財務に関するプロフェッショナルになりたいというのであれば他にも選択肢があるからだ。

再考の上、単に十分な年収が得られたらいいというのであれば、外銀/国内系証券のマーケット部門や国内系運用会社も選択肢となる。また、ITベンチャー企業から外資ITとか起業を狙うという途もある。或いは、一旦総合商社に就職して、MBA経由で再挑戦するという途もある。

いずれにしても行き当たりばったりだと上手く行かないので、早いうちから就職活動の準備を行い、キャリアについて向き合う必要があるだろう。

 

 

 

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