1. 外銀IBDは60歳まで働ける仕事ではないので、ポスト外銀IBDを考えておく必要あり
外銀IBDというのと、就活における最高峰であり、新卒で年収1000万円スタート、そして、20代のうちに年収2000万円に到達できる憧れのポジションであろう。
しかし、競争が厳しいし、極端なハードワークで知られており、60歳までどころか、
30歳までもなかなか務まらない厳しい職種でもある。
実際、新卒で外銀IBDに入社しても、3年後のアソシエイト昇格時には半分に、6年目以降のVPに到達できるのは2割を切っているのでは無いだろうか?
(もっとも、途中で外銀IBDを辞めた方が結果として成功したケースもあるだろうが)
そこで、外銀IBDを目指すに当たっては、漠然とでもいいので、外銀IBDを退職した後の、
ポストIBDの転職先とかキャリアプランについて考えておくべきであろう。
なお、ポスト外銀IBDと言っても、MDなどのシニアバンカーまで到達できた場合には、
国会議員、大学教授、事業会社の幹部といった華麗なる転身事例もあったりするのだが、
ここでは、ジュニアバンカー(VP未満のアナリスト、アソシエイト。年齢的には20代中心かせいぜい30歳ちょいくらいまで。)のポストIBDのキャリアに焦点を当てて考えて行くこととする。
2. 典型的なポスト外銀IBDの転職先について
ポスト外銀IBDについて、金融機関や外資系に強い転職エージェントのサイトで検索を掛けてみると、以下の様なポジションがよく見られる。
①国内系証券会社のIBD
職種が一緒で、経験をフルに活用できる、最も手堅い転職先である。
外資系が国内系になっただけで、仕事内容は基本的に同じである。国内系の方が、社員数が多いため、RMとExecutionが細分化されていて、守備範囲が外銀IBDよりも狭くなりがちという特徴はあるかも知れないが、入って行き易いだろう。
もちろん、問題点は年収の大幅ダウンであり、外資系IBDのアソシエイトだと20代後半で少なくとも年収2000万円位あるだろうから、国内系証券会社のIBDに行くと、年収は半減、下手すると三分の一というイメージである。
反対に、労働時間とか気苦労、プレッシャーを考慮した労働内容、ワークライフバランスの良さは倍増すると言えるだろう。
この場合でも、元外銀IBDとして国内系証券会社のIBDで実力を発揮し、エース級の社員になれると、30代後半以降でシニアバンカーになると、上のポジションで外銀IBDとかPEファンドに転職することもできるかも知れない。
留意点があるとしたら、国内系証券会社に転職する場合でも、転職し易いのはIBDである。
国内系への転職を機に、リサーチ、セールス、バックオフィスへの職種転換を図るということは難しい。
②国内系銀行のホールセール業務への転職
メガバンクとか、信託銀行のグローバルCFとかプロダクト系(ストラクチャード・ファイナンスとか)のポジションに転身するケースである。
証券会社同様に、国内系の銀行にもポスト外銀IBDとして転職することは可能だ。
この場合も、問題点は安定性・ワークライフバランスと引き換えに年俸が大幅ダウンすることであろう。
もっとも、どうせ同じ国内系に行くのであれば、証券会社に行った方が良いように思われる。その方が仕事内容の同一性が高いし、もし、将来外資系金融の世界にカムバックするのであれば、銀行よりも証券会社に行った方が良いからである。
③FASへの転職
ポスト外銀IBDの転職先として、国内系金融機関と同様に多いのが、FASへの転職である。
FASとはFinancial Advisory Serviceの略であり、Big4系会計事務所の企業金融的なサービス提供会社である。
具体的には、E&Y系のEYTAS、KPMG、PwC、Deloitte Tohmatsuである。
この場合も、大幅な年収ダウンは免れず、国内系証券会社のIBDと大して変わらない。
ただ、退職金とか企業年金の水準が、国内系証券会社の方が良好なので、FASに行く強いメリットというのは見出し難い。
国内系証券会社との違いは、比較的シニアなポジションからでも採用してもらえることである。
外銀IBDの30代後半以降で、Director(SVP)とかMDまで行ってしまうと、国内系証券会社への転職は難しくなる。他方、FASの場合はそのような制約は無い。
このため、リストラされたシニアバンカーの有力な転職先の1つとなっている。
FASについては、以下の過去記事をご参照下さい。
<FASの年収、転職、キャリアについて>
https://career21.jp/2019-03-08-110102
④PEファンドについて
リーマンショック以降、ポスト外銀IBDの有力な転職先としてじわじわと上昇してきたのがPEファンドである。
リーマンショック前は、4大PEとして、ブラックストーン、KKR、カーライル、ベインキャピタルが知られていたが、何といっても日本での規模が小さすぎ、外銀IBDを吸収できる程のポジションは無かった。
日本は思い切ったグループ会社の切り売りがなかなか出来ないカルチャーであるので、PEファンドもマイナービジネスのままかと思いきや、今ではそれなりにポジションの数はあるようだ。
年収的には、外銀IBDよりは落ちるものの、ワークライフバランスに優れ、運良く多額のキャリー(キャピタルゲインの成功報酬としての分配)のご相伴にあずかれた際には、管理職クラスだと1億円以上のボーナスもあり得る良好なポジションである。
今では、ポスト外銀IBDの転職先としては最高峰では無いだろうか?
もちろん、それでもポジションの数は限られているし、コネ採用的なところもあるので、幅広く粘り強い転職技術が求められる。
<PEファンドの年収、転職等について>
https://career21.jp/2019-02-07-113544
⑤ベンチャー企業について
ポスト外銀IBDということで、ベンチャー系企業のポジションを検索してみたが、それ程多くは無い。
各種メディア等において、外銀IBD⇒ベンチャーCFO、というのが1つの典型的な成功キャリアのように取り上げられていたりすることはあるが、実はそれ程容易なキャリアではない。
ベンチャー企業の創業者というのは、必ずしもファイナンスに詳しい訳では無いし、当初はビジネスに直結するプログラミング要員や、人自体を引っ張るためのHR関連の要員が優先され、CFOポジションというのは後回しになりがちである。
このため、WantedlyあたりでCFOで検索を掛けても、なかなか良好なポジションは出てこない。
従って、ポスト外銀IBDの転職先として、ベンチャーCFOというのはあまり期待し過ぎない方が良いと思われる。
3. 意外と見つかりにくい、ポスト外銀IBDからの転職先の類型
上記では、比較的外銀IBDから探しやすいポジション、転職先についてまとめてみた。
(ベンチャー企業CFOは除く。)
ここでは、ありそうだけど、実は見つかりにくいポジション、職種についてまとめてみた。
①ヘッジファンド
結構、転職系メディアで多く見られる誤りが、ヘッジファンドとPEファンドを混同していることである。確かに、ヘッジファンドもPEファンドも業界では謎が多い、マイナーな存在であるので、外資系国内系を問わず、証券会社や運用会社の従業員でも意外に情報を持っていなかったりもする。このため、部外者が情報を拾って想像で記事を書いても、的外れになりがちだ。
ヘッジファンドとPEファンドで近接しているファンドもあるが、基本的にヘッジファンドは企業財務ではなく相場に着目して儲けることが主眼のビジネスなので、IBDではなく、バイサイドのPM(ポートフォリオ・マネージャー)或いは外銀グローバル・マーケッツのトレーダー向けの仕事である。
従って、ヘッジファンドに行きたいのであれば、IBDではなく、バイサイドとかトレーディングを当初より目指すべきである。
もちろん、外銀IBDは良く働くし頭も良いので、20代であればポテンシャル採用として、ヘッジファンドのPMがそのジュニアスタッフとして採用してくれる場合もあるかも知れないが、そうであれば、一旦、国内系のバイサイドにでも転職した方が堅いだろう。
<ヘッジファンドの年収、転職について>
https://career21.jp/2018-11-08-085053
②コンサルティング・ファーム
外コンは外銀と並ぶ、就活の世界における最高峰なので、外銀IBDが自分には馴染まなかったと思った場合には、外コンへの転身を考える場合もあるかも知れない。
しかし、当然であるが、職種的に両者は重なる部分が少なく、戦略系コンサル(MBBクラス)については、20代のポテンシャル採用で難関突破を図るか、一旦、海外MBAを経てから入社する他ない。
最近では、アクセンチュアとかPwCコンサルティングの様な総合系ファームが大量採用をしているので、そのクラスであれば中途採用も可能であろう。
しかし、それだと年収も国内系証券会社のIBDよりも少ない位なので、よく考えた方が良いだろう。
③事業会社
これも、各種の就活・転職系メディアで、ポスト外銀からの転職先として取り上げられることはあるが、あまり現実的なポジションだとは思えない。
もちろん、年俸格差が有り過ぎてマッチングしにくいということもあるが、それ以前にそもそもポジションがそれほど多くは無い。
事業会社、特にメーカーは金融機関以上に人事にコンサバなところがあるので、中途採用においては極めて消極的なところが多い。
メーカーの経理や税務の仕事であれば、わざわざ、外銀IBDから引っ張る必要は無く、同業他社或いは監査法人から引っ張れば済む話である。
あえてIBDのスキルが求められるとなると、M&AとかIRのポジションなのであるが、外銀IBDから行きたくなるようなポジションはかなり少ない。
もっとも、たとえアナリストクラスであっても、メーカーに行った場合には、今の年俸に追い付くのは50歳の部長クラスであったりするので、そこまでして事業会社に転職する理由はなかなか見出し難い。
まとめ
結局、いろいろあるようにも見えるポスト外銀IBDとしての転職先であるが、国内系金融機関、FAS、PEファンドと、現実的にはかなり近接性のある職種に限定されている。
事業会社とかコンサルといった全く畑違いのポジションに就くことはかなり難しい。
従って、外銀IBDから転職するにあたっては、やはりポジションの多い上記の職種を基本線で考えることが賢明であろう。