銀行や証券会社から事業会社、ベンチャー企業に転職する場合の年収変化と留意点

1. 銀行や証券会社からの、事業会社やベンチャー企業への転職が増えている?

週刊ダイヤモンドの2019年10月5日の特集記事は、「銀行・証券 断末魔」という金融業界の人間にとっては何ともショッキングなタイトルである。

この特集記事の中で、銀行や証券会社から、他業界への転職者が増えているということが取り上げられていた。

銀行や証券会社から、金融機関ではなく、コンサルティング業界、人材・教育業界、IT通信業界、さらにベンチャー企業への転職者が増えているようだ。

記事においては、銀行や証券会社から、事業会社やベンチャー企業に転職することを全体的にポジティブに捉えているようだが、果たしてそうだろうか?

金融機関から事業会社への転職には、いろいろとデメリットもあるので、その点について考えてみたい。
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/27662

2. そもそも、銀行や証券会社から事業会社やベンチャー企業に簡単に転職できるのか?

①転職の可能性は、年齢によって全く異なる

これは転職先が、国内系・外資系、金融・非金融を問わず、年齢が転職の可能性に極めて大きな影響を与えることは一般的に言えるだろう。

当然、若ければ若いほど、転職しやすいと考えられる。
最も転職しやすいのは、25歳位までの、いわゆる第二新卒としての転職であり、大手の銀行や証券会社の他業種からの評価は悪くない。
銀行や証券会社で現在従事している部門・職種に関係なく、ポテンシャル重視で第二新卒として採用してもらえる可能性は十分にある。

但し、第二新卒の場合には、中途採用と言ってもポテンシャル採用的な側面が強いので、
「学歴」もそれなりに重要なファクターになるので、これによって有利になる人と不利になる人とがいることには留意が必要である。

本誌で紹介されているケースにおいては、40代でフィンテック系のベンチャー企業に転職した銀行員が紹介されているが、一般的には、40歳を過ぎた銀行員の転職はかなり難しくなる。特に、ベンチャー企業の場合は、周りが20代から30前半が中心なので、なおさら、40代は敬遠されがちである。

フィンテック系のベンチャーの場合には、金融系の専門スキルが必須なので、40歳以上でも比較的寛容に受け入れられるようだが、それ以外の業種のベンチャーの場合にはかなり難しいと考えた方が良い。

もちろん、事業会社の場合も、中小企業を除くと、40代の銀行員や証券マンが転職するには年齢がネックとなることは多い。

②他業種でも通用する職務経験やスキルは持っているか?

20代であれば、リテール業務の経験しか無くても、銀行員や証券マンであれば最低限の財務知識を持っていると思われ、また、ポテンシャルを評価してくれるので、事業会社への転職も何とかなりそうである。

しかし、30歳を過ぎると、ある程度確固たる職務経験やスキルを問われるようになる。
本誌で紹介されているウエルスナビ(ロボアドバイザー最大手)に三菱UFJ信託銀行から転職した人は、クオンツの専門知識を持っている。

また、コインチェックに三井住友銀行から転職した人は、金利、為替、デリバティブのリスク管理という立派な金融プロフェッショナルとしての経験を持っている。

従って、銀行員や証券マンであれば誰でも簡単にフィンテック系ベンチャーに転職できるというわけではなく、30歳を過ぎれば、何らかの胸を張れる金融プロフェッショナルとしてのスキルを持ちたいところだ。

3. 銀行や証券会社から事業会社やベンチャー企業に転職する際の留意点

①年収ダウンでも本当に大丈夫か?

年齢が若い、或いは、30歳を過ぎていても何らかの金融スキルを持っている場合には、十分に事業会社やベンチャー企業に転職できるだろう。

しかし、その場合には、本当に金融機関から事業会社に転職していいかよく考える必要がある。

最大の問題点は、金融機関から事業会社に転職すると大幅に年収ダウンとなるケースが多いということだ。
メガバンクや大手証券会社であれば、30歳位で年収1000万円に到達し、30代半ばで1200万円位は見込むことができる。

しかし、事業会社の場合には、とにかく1000万円が遠い。
メーカーの場合には、業界最大手でも1000万円到達は40代であることが少なくなく、
年収1000万円は金融機関にとっては通過点に過ぎないが、メーカーの場合にはゴールというイメージである。
また、退職金とか企業年金についても大手金融機関の場合には十分手厚い。

従って、本誌で2018年度の銀行員の意業界への転職先トップ3とされている中では、コンサルとか通信業界ならまだ良いが、人材・教育業界の場合だと年収が著しく減ってしまうと思われる。

特に家族がいる人の場合は、この点は重要なので、事前に十分にファイナンシャル・プランニングをやるべきだろう。
(銀行員や証券マンにとって、ファイナンシャル・プランニングはお手の物に見えるかも知れないが、結構、「紺屋の白袴」であることも多い。特に、証券マンの場合は、倹約が苦手な人が多いので要注意である。)

②他業種に行ったからといって、本当に遣り甲斐があったり、楽しいという保証は無い

金融機関から、事業会社に転職すれば年収が下がることは、当然承知の上で転職をする。
何故、それでも他業種に転職をするかというと、それは現在の金融の仕事を辞めたいというネガティブなものであったり、或いは、事業会社の方がやりがいを見出せるというポジティブなものであったり様々であろう。

いずれにせよ、非金銭的なやりがいとか将来性といったことを理由に、他業種に転職をするのであろう。

この点、1997年に当時の大手証券会社の一角であった山一証券が自主廃業した時、当時の山一証券マンは不況にも関わらず引く手数多であった。そして、ソニー、パナソニック、日産等の大手事業会社にも結構多くの山一證券マンが転職することとなった。

その結果、事業会社の雰囲気が合っていてハッピーな人もいる反面、やはり、金融業が恋しいということで、金融機関にカムバックする人も少なからずいた。

私の知っている山一證券マンは、自主廃業を気にソニーに転職したが、「スピード感が遅すぎてストレスが溜まる。」ということで、外資系証券会社のバックオフィスに転職した。

やはり、市場や相場と向き合う金融業と、長期的なR&Dも重要な製造業とではカルチャーが見た目以上に違っていたようだ。

やりがいというのは、実際にやってみないとわからないし、周りの上司、同僚、部下がいい人達かどうかによっても大きく左右される。
また、どんな業種でも儲かっている時は雰囲気が良くて楽しいかも知れないが、景気が悪くなると急に雰囲気が悪くなったりするものである。

その点、年収というのは国内系大手金融機関の場合であれば、当然景気変動の影響を受けるものの、そこそこ安定的な年収は期待できるものである。

他方、遣り甲斐というのは結構不安定なものである。

そういったことを踏まえると、今の銀行の仕事がつまらないとか、事業会社の方が面白いという点ばかりを見ない方がいいだろう。

③中途採用と出世の問題

金融機関から事業会社に転職し、やりがいについては満足できたとしよう。
しかし、その場合でも考えないと行けないのが、出世の問題である。

日本の大企業の多くは生え抜き優先主義であるので、中途採用の場合だと、評価は高くても昇格については生え抜きよりも後回しにされがちである。
総合商社などはその典型である。

もちろん、出世には特にこだわらない人もいるかも知れないが、年を取って周りに抜かれ始めるとその時に後悔することもある。
従って、国内系の大手事業会社に転職する際には、中途採用者の昇格に関する扱いをよく調べた方が良いだろう。

④ベンチャー系企業に転職する際の留意点

週刊ダイヤモンドの2019年10月5日号では、全般的に、銀行や証券会社から(フィンテック系)ベンチャー企業への転職をポジティブに捉えているような雰囲気である。

しかし、ここで紹介されている、ウエルスナビ、コインチェック、メルペイ、LINEについては果たしてそれが成功であったとは現時点ではまだ評価できないであろう。

コインチェックについては会社が買収されてしまったし、LINEについては既上場なのでストック・オプションの期待はできない。メルペイもストック・オプションがもらえるかどうかはよくわからない。

ベンチャー企業の場合は、年収も期待できないし、安定性にも欠ける。
メルカリとかLINEのような大手ベンチャーであれば別だが、大抵の場合、安定性に欠けるし、失敗した場合には日本ではレジュメが汚れるだけで、「よくベンチャーで冒険した!」と褒められることは無い。

従って、リスクに見合ったストック・オプションをしっかりともらうべきなのであるが、結構これは難しい。フィンテック系の場合、資本規模が大きいことが多く、VCとか事業会社が多数の株式を所有しており、従業員に回ってくるストック・オプションが少ないケースが多い。

この点は、入社時において十分に交渉すべきであろう。

4. 結局、銀行や証券会社から事業会社やベンチャー系企業への転職はどうなのか?

①やりがいだけで判断するのは危険

上記の通り、何だかんだ言っても、大手金融機関の場合にはまだまだ高い年俸も安定性も見込まれる。

事業会社やベンチャー企業には別の大変さもあるので、今の銀行や証券会社の仕事が嫌だという理由で転職する場合は特に要注意である。

②転職先の事業会社で新たに得られるスキルはあるか?

転職先の事業会社やベンチャー企業でハッピーになるとは限らない。特に行き先がベンチャー企業の場合には、ストック・オプションで数億位もらえるのなら別だが、その先の転職先も考えておく必要がある。

その場合、転職先の企業で新たに見つけることができるスキルは何か、また、そのスキルを持って次の業界・会社に転職することは可能ということを考えるべきであろう。

その点、意業界への転職先1位であるコンサルティング業界は悪くないだろう。
2位の人材・教育業界については、リクルートとかパソナのような大手の人材系企業で人的資源管理のプロフェッショナルになれれば、汎用的なスキルを習得できるのであるが、教育業界というのはよくわからない。

もっとも注意しなければならないのはベンチャー業界で、単なる管理業務を行うだけであれば、わざわざベンチャーに行く意味は無いかも知れない。
仮想通貨、Webマーケティング、ネットビジネスにおけるプロダクト業務等、金融機関では身に付けられないスキルの習得を狙うべきであろう。

金融機関については、今、いろいろとネガティブなことを言われているが、大手金融機関の場合にはすぐにダメになるということはない。従って、他業種への転職については、周りの雰囲気や同僚の動きに惑わされることなく、独自に慎重な検討が求めらるだろう。

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