1. 海外勤務で「箔」が付くという時代ではない?
2019年9月24日付のニュースで、三菱UFJ証券HDが、アジア拠点で人員半減にという話が取り上げられている。
https://jp.reuters.com/article/mitsubish-ufj-securities-idJPKBN1W90WE
もちろん、アジア拠点で人員半減と言っても、三菱UFJ証券の国内採用組の社員はリストラされるわけでは無いので、慌てて職探しをしなければということにはならないだろう。
とは言え、せっかく国内系証券会社の海外拠点での業務経験が、名実ともにあまりポジティブなものにはならなそうである。
証券会社の国内市場は少子高齢化によって縮小が予想されるので、海外に進出して、外で稼ごうという思惑はある。
そこで、今後、国内系の証券会社で海外勤務することが、果たしてキャリア形成上有効と言えるかどうかについて検討したい。
2. そもそも、国内では大手であっても、海外では大手の立場で無くなってしまう…
野村、大和、SMBC日興、みずほ、三菱UFJというと、日本国内においては列記とした大手証券会社であり、知らない人はいないし、大手法人ともそれぞれ強固なネットワークを有している。
しかし、海外に出てしまうと全くそのような状況にはない。
今回、三菱UFJ証券HDがリストラの対象としているアジアの拠点である香港、シンガポール、オーストラリアについては、欧米系、ローカル系がとっくに進出している訳なので、国内系証券会社の現地拠点は、当該国・地域においては大手ではない。
従って、国内系大手証券会社の社員が、海外の拠点に行ったところで、現地では知名度も低いし、強固な顧客基盤があるわけではない。
このため、有用な案件を勝ち取ったり、大型案件に参画できるということは通常期待できない。
もちろん、海外勤務をすることによって、語学力は鍛えられるであろうし、現地採用の人達と一緒に働くことによってグローバル・リーダーシップは磨かれるだろう。
しかし、それだけでは、例えば将来外銀に転職するに足る業務経験にはならないだろう。
3. 勤務地よりも「職種」とその内容が重要
20世紀の時代は、経理畑、企画畑、営業畑、海外畑というような言い方がされ、あたかも「海外」が専門職で存在するようであった。
しかし、今となっては、海外でどういう仕事をやっていたかが重要になるのである。
海外で、経理とか人事とかの仕事をしていても、外資系金融で求められるのは、日本のローカルな専門家としての知識と経験であるので、海外勤務経験があったところでそれほどプラスになるわけではない。
また、海外でIBDの場合も、メインのコンタクトは現地採用のローカルスタッフがメインであるし、日本の金融機関は国内では大手であっても、海外では競争力が無いので大した案件は取れないはずである。
したがって、IBDとか機関投資家のようなフロント職であっても、中途半端な海外での勤務経験はそれほどの箔付けとか経験になるわけではない。
むしろ、日本国内で大きなディールを経験したり、国内顧客との強固なネットワークを構築する方が、外資系金融への転職を考えると有用であると思われる。
このように、将来外資系金融機関への転身を考える場合においては、下手に海外勤務を希望するよりも、むしろ、国内で実績を積むことに注力した方が良いだろう。
もちろん、海外に行けば、英語力とかグローバル・リーダーシップに係る経験をすることができるのは有用であるが、外資系金融機関に転身を考えるのであれば、国内勤務の場合でも語学力は国内で十分磨いていることが前提なので、それほどのプラスにはならないだろう。
4. もちろん、リテール営業よりは海外勤務の方がベターである
結局、海外勤務というとカッコいい響きがあるものの、外資系金融機関への転職ということを考えると、それほど大きなメリットにはならない。
他方、国内系リテールの仕事と比べると、当然海外勤務の方が将来の転職価値という観点からは魅力があると言えるだろう。
この点、三井住友銀行あたりも、事実上のグローバル採用を前提とした採用を行ったりしているようであるが、そのポジションから内定を取れるのであれば、それに越したことはない。
就活生に話を聞くと、外銀のフロントオフィスの難易度は極めて高く、国内系証券会社のIBDとかグローバル・マーケッツの専門職ポジションも同様に内定を取るのがトップ校の学生でも厳しいようだ。
それらと比べると、メガバンクのグローバル・ポジションの方がまだ内定をもらいやすいという。外銀と国内系証券会社の専門職から内定を取れなかった場合には、金融機関でキャリアを積みたい場合には、それもありだろう。
もっとも、メガバンクで海外関係の仕事をしていたというだけでは、外銀フロント職への転身は厳しいので、マーケット関連やコーポレート・ファイナンスの業務経験や知識を如何に積むことができるかがカギとなるだろう。