フリーランスのキャリアにおける課題と強化策 ~StockSunのケーススタディ~

1. 新しいキャリアの1つとして注目されるフリーランス

働き方改革に伴う副業・兼業規制の緩和、経団連の終身雇用廃止宣言といった環境下、
新しい働き方の1つとして、フリーランスが注目されている。

フリーランスと言っても、Webサイトから取って来る単純作業・労働集約的な作業を行うフリーランスではなく、専門職・プロフェッショナルとして、青天井の報酬体系が可能なフリーランスが注目されるようになってきている。

例えば、昨年以降、NewsPicksとかAbemaTVあたりでも取り上げられ、そこに属するフリーランスの平均年収が1500万円を越える、勝ち組フリーランス集団、StockSunはその典型である。

<スーパーフリーランス集団、StockSunのビジネスモデルについて>
https://career21.jp/2018-11-27-091057

2. しかし、フリーランスのキャリア形成はサラリーマンのそれとは異なる点に注意

サラリーマンの場合、たとえ人から羨ましがられるような一流企業に勤めていたとしても、年功序列、転勤、気に食わない上司、身に付かないスキル、アップサイドが限定的な年収等、悩みや不満はいくらでもあるので、勝ち組のフリーランスに憧れる人もいるだろう。

しかし、フリーランスにはフリーランスの弱みや悩みも存在する。
そこで、フリーランスにおけるキャリア形成の課題と強化策について、実際のケースを題材に考察してみたい。

①StockSunの若手のホープ、山本紘希さんのキャリアについて

そこで、上記のスーパーフリーランス集団であるStockSunの若手のホープである、
山本紘希(やまもと ひろき)さんを例に、フリーランスのキャリアを考えたい。
なお、山本さんのキャリア・インタビュー等については、こちらのStockSunチャンネルで紹介されている。
https://www.youtube.com/watch?v=byRRsQwKcc4

<山本紘希さんのプロフィール>
・1994年?生まれの25歳?
⇒1991年生まれの植本涼太郎さんの3つ後輩ということで推定。
浪人・留年していたらもう少し上になります。
・大阪出身
・神戸大学工学部卒業
・新卒でニッセイ情報テクノロジーに入社
・学生時代から独学でプログラミングを学んだり、HP製作関連のビジネスを手掛ける
・2018年夏頃に、神戸大学の3学年先輩だった植本涼太郎さんに影響されて
 StockSunに参画。
・年収は1,000万円程度?
・現在、家賃15.6万円の代々木公園の2DKに猫と一緒に生活中

②山本さんの現在のキャリア形成における課題等

山本さんは、StockSunに参画してまだ1年程度であるが、StockSunが順調に成長をしているのと、良好なパフォーマンスが評価され、現在20代半ばにして月収100万?、年収で1,000万円以上を既に達成しているために、傍から見ると順風満帆なキャリアに見える。

もっとも、現在の課題としては、PM(Project Manager)になるには時期尚早ということで、あと2~3年位の実務経験を積むことが必要だとされている。

要するに、プロジェクトチームの1員としては良好なパフォーマンスを実現する能力は持っているが、自らがPMとしてプロジェクト自体を引っ張り、PMメンバーを率いて結果を出すリーダーシップは今後の課題ということであろう。

まあ、外銀でいうと、アソシエイトとしては有能であるが、案件をリードするVPにはまだ不十分というところであろうか。

3. フリーランスとしての課題をキャリア形成的な観点から考察

①フリーランスとして成功するには何らかの核となるスキル・専門性が欲しい

山本さんはまだ若いので、あと数年かけてPMになることができれば、それで何ら問題は無いのであるが、もし彼が30歳位で今のポジションにあるのであれば、少々焦ってもいいかも知れない。

結果論であるし、「タラレバ」を言っても仕方が無いのかも知れないが、もし、山本さんが核となるキャリア、コアコンピタンスを身に着けてからStockSunに参画した方が、より早くより確実にPM的なポジションに就けたかも知れない。

山本さんは、ニッセイ情報テクノロジーをわずか数年で辞めて、StockSunに参画したので、企業におけるスキル形成が十分では無いかも知れない。

ニッセイ情報テクノロジーは日本生命のシステム子会社なので、もし、エンジニアとしてのスキルを磨けたり、或いは、フィンテック(InsurTechインシュアテック)に絡めたりしたら、エンジニアとしての専門性で勝負できたかも知れない。
StockSunの元NRIの板橋さんのようなスーパーエンジニアとまでは行かなくても、大手金融機関のITエンジニアとしての経験は貴重であるし、クライアントの幅を拡げることもできるので、一般論ではあるが、金融機関でのIT系のポジションにいるのであれば、そこで何らかの専門スキルを身に付けることができればベターである。

また、こちらも単なる「タラレバ」の話なのであるが、山本さん学生自体からHP製作のビジネスを展開していたので、広義のWebコンサルタント的な世界にいたわけである。
そうであれば、サイバーエージェント、セプテーニ、オプト、電通デジタルといった広告代理店寄りのキャリアを積むという選択肢もあったと思う。
もっとも、StockSunの場合には、この種のバックグラウンドを持っているシニア・メンバーがいるので、新規性はなかったのかも知れないが、フリーランスを目指す学生は、このような企業で研鑽を積むということも選択肢となり得るだろう。

さらに、山本さんのキャリアであれば戦略コンサルという選択肢もあったと思われる。
アクセンチュア、PwCコンサルティング、デロイトトーマツコンサルティングあたりの総合系ファームであれば十分就職はできたであろう。
もちろん、これらの総合系ファームは近年大量採用を継続しているので、稀少性は無いかも知れないが、将来の独立を考えるのであれば、ネットワークも含めてプラスになるところはまだまだ多いだろう。

それから、これは穴場なキャリア形成法だと思われるが、エンジニアとかWebマーケティング、経営コンサルという一般的なスキルではなく、特定の「業種」に精通するというキャリアも考えられる。

具体的には、塾、飲食店チェーン、美容クリニック・エステ系といったところだ。
特定の業界に強いと、メディア・コンテンツの方で活躍することが可能だし、その業界関連のプロジェクトがあると「業界通」ということでお声が掛かる可能性が高まる。
上記のような業界は、どちらかというブラック系で高学歴の学生には全く人気がないのだが、くら寿司の初任給1000万円のような話があると狙って面白いと思われる。

上記のように、サラリーマンからフリーランスを目指すのであれば、せっかくならサラリーマン時代の経験を十分な強みにしたいところである。
得るものが無ければそんな会社にいても仕方が無いが、そうであれば、転職して、攻めて誇れる専門スキルや業界知識を身に着けてから、フリーランスを目指した方が成功確率は上がるのではないだろうか?

③フリーランスとビジネス基礎体力の問題

日本の大企業は、研修システムが充実している。
StockSunの代表である株本さんも、年収チャンネル等において、「英語、プログラミング、会計」を勉強しておけということを言われるが、大きく飛躍するためには、基本的なビジネス体力が充実していることが不可欠である。

上記の、英語、プログラミング、会計については、小手先の勉強だけではなかなか身に付かず、本格的な実務経験を通じて鍛えられる側面が強い。

この点、大企業の場合には、英語研修とか海外勤務の機会は十分にあるので、英語力、あるいは中国語力を習得できる機会は多い。

また、プログラミングについても、大企業は研修体制が充実しているので基礎から教えてもらえるし、案件数も多いので、様々な形でOJTによって実力を少しずつ磨いて行ける環境にある。

他方、ベンチャー企業とかフリーランスの場合だと、語学研修としてお金を出してくれないし、当然海外勤務などあるはずがない。

プログラミングにしても、人繰りがタイトだし、長年培われてきた教育システムができあがってないので、1から優しく指導してもらえることなど期待できない。

そして、こういった基本的なビジネススキルは30歳を過ぎて来ると、知的体力や思考力の問題もあり、なかなかゼロから勉強を始めることが億劫になり、結局できないまま年をとって行くことになってしまう。

そこで、将来フリーランスで成功をしたいと考える学生や若手ビジネスマンは、この点、留意した上で、将来大きくジャンプするためには今のうちにビジネス基礎力を磨いておく、あるいは、ビジネス基礎力を強化するために一旦は大企業に就職するということも考えた方がいいだろう。

4. 安全性、継続性を補えるよう、フリーランスでは大きく稼ぐ必要がある?

上記では、フリーランスにおけるスキル習得面における留意点について検討したが、金銭面、経済面においても十分に留意が必要である。

終身雇用の廃止とか、年金不足と2000万円貯金問題等、サラリーマンに対するネガティブな見解が増えては来ているが、それらは一気に起こることではない。

10年後、20年後には終身雇用は崩れているかも知れないが、それでも大手企業のサラリーマンであれば、リストラされるにしても数千万円規模の退職金が支払われる。

年金がヤバイと言われているが、国民年金しか無いフリーランスと比べると、遥かに厚生年金とか企業年金のあるサラリーマンの方が恵まれていることは確かである。

そして、何といっても、サラリーマンの場合は年収の安全性と継続性が高い。
大企業の場合であれば、少なくとも10年位のスパンであれば、ほぼ現在と同水準の年俸を確保できるのではないだろうか?

他方、フリーランスの場合にはそういうわけには行かない。
確固たるスキルと人脈があれば別だが、単なるコネクションに恵まれているとか、時流に合ったセクターを担当しているだけであれば、将来継続して今と同水準の年収を得られる保証は無い。

このように、退職金、年金、継続性等を考慮すると、フリーランスになるからには、サラリーマンよりも年収が高くなければならない。

例えば、山本さんの場合には、現在の20代半ばで1000万円だと十分かも知れないが、30歳でも1000万円程度であれば十分とは言えない。
自分がかつて在籍していた企業の同期の2倍位を目指さないと、フリーランスになったことが成功だと評価できないだろう。

従って、大手のサラリーマンの場合だと、30代で2000万円以上稼げる目途が立たないと、安易に独立すべきではないだろう。

フリーランスで1000万円台だとザラにいるかも知れないが、2000万、3000万となると、急激に該当者は減るはずだ。(この点は、サラリーマンも同様であるが…)

そうなると、1部の優れたフリーランスに限定されてしまうので、このあたり、自分はどうやれば勝てるのかについて吟味すべきであろう。

令和の時代、フリーランスというのは面白いキャリアの1つであるが、大手のサラリーマンはまだまだ恵まれているところが多い。従って、大手の一流企業に入れる能力がある学生、或いは、転職が可能な若手ビジネスマンは、十分にキャリアプランを練った上でフリーランスに転身することが望ましい。

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