1. SBI証券、法人部門強化へ人員1.5倍、新興株を海外勢に
①近年、金融業界におけるプレゼンスを高めているSBIグループ
こちらは、2019年9月18日の日経新聞記事の見出しであるが、国内外資を問わず、証券会社の求人情報についてあまり明るい話題が無い中、珍しく景気のいい話である。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO49927710Y9A910C1EE9000
SBI証券は、継続的に規模(預かり資産、口座数)を拡大しつつあり、増収・増益基調にある。最近では、「地銀連合」「地銀再生」の活動を積極的に展開しており、金融業界における注目度が高まっていると思われる。
<SBIの島根銀行との提携や、地銀再生について>
https://career21.jp/2019-09-12-132104
②今回の人員増強の件
今回、SBI証券は法人部門の人員を現在の40人から60人へと1.5倍に増員する計画だという。
その内容は、国内の新興企業のリサーチを充実させて、新興企業株の海外投資家向け販売を強化することにより、(単なる「ネット証券」ではなく)「総合証券」として存在感を高めようという狙いだそうだ。
証券会社が取り扱うサービスのうち、特に、新興企業のリサーチ、海外向けセールス機能を増強し、それによって新興株式の新規公開(IPO)における主幹事案件を増やそうというシナリオである。
新興企業のリサーチは、対象とする銘柄数が多い割に、1社あたりの時価総額が小さいために、効率性の良くないビジネスである。このため、大手証券会社はあまり経営資源を割くことが難しい領域である。
このため、いちよし証券(いちよし経済研究所)のような準大手証券会社がニッチ戦略としてフォーカスしていたりする。SBI証券も同様の狙いなのであろう。
新興企業のリサーチ業務は、証券会社のビジネスとしては妙味はあまりないかも知れないが、個人のキャリアの視点で考えると、ヘッジファンドの関心度が高い領域であり、また、ベンチャー企業に関するスペシャリストになれるので、将来VCとかベンチャー企業への転職も視野に入るなど、面白みがある分野と思われる。
2. SBI証券の給与水準
SBI証券は新卒採用も行っているが、採用人数は10名程度と少なく、イメージが掴めない人は多いだろう。
給与水準は、新卒の場合、初任給は25万円であり、初年度は400万円に満たない程度である。この点は、国内系大手証券会社の総合職も似たり寄ったりであろう。
しかし、その後の伸びはあまり良くない。
入社5年目の主任時点で、年収はトータルで500~600万円程度である。
30歳時点では700~800万円位であり、30代の課長昇格時で年収1000万円に届くか届かない程度である。
他方、中途採用の場合には、前職の給与水準を引っ張るので、人によってかなりの差がある。全般的に言えることは、同じような年齢・役職でも、中途採用者の方が新卒採用者よりも年俸は高くなる傾向にある。
新卒採用組からは、とにかく昇給スピードが遅いとか、中途採用の方がもらっていて不公平だと言った声が聞かれる。
新卒で入った場合には、大手証券会社というより、楽天証券、マネックス証券というネット証券グループの給与体系に近いようだ。
中途採用の場合には、課長クラスで1000~1300万円、部長クラスで1500から1600万円というイメージである。
3. 帯に短し、たすきに長し。どういった人がSBI証券にマッチしているのだろうか?
①外資系証券、国内系証券のホールセール職の場合
前述した通り、SBI証券の給与体系は国内系証券会社よりも、ネット証券のそれに近い。
したがって、わざわざ年収を下げてまでSBI証券に行こうという人はまずいない。
あるとすれば、外資系証券でリストラされそうになったとか、そこそこ稼げたのでセミリタイアしようという人達である。
もっとも、外資系証券をリストラされる場合には、国内系大手証券会社やビッグ4系のFASあたりを最初に狙うので、ネット証券に来る人はあまり見られない。
ただ、40歳を過ぎると、国内系大手証券会社ではなかなか雇ってくれなくなるので、40代以上の外資系証券の人達が、ネット証券に流れるという可能性はある。
あるいは、国内系大手証券会社において、野村を除くと、課長クラスだと年俸は1200~1300万円クラスである人も多く、今の会社ではこれ以上の出世を望めないので、部長ポジション&年俸1500万円を求めて転職にチャレンジするケースもあるだろう。
私が聞いた話では、当時日興証券のIPO関連の課長職(年俸千数百万円)の人が、ネット証券から部長ポジションで年俸1500~1600万円のオファーが来たという件がある。
②国内系大手証券会社のリテール職
会社のステータスや年俸水準は下がるものの、職種がリテールからホールセールに転換できるという理由から、SBI証券の法人部門に移りたいというニーズはあるだろう。
しかし、難しいのは、SBI証券が欲しいのは法人業務(今回はリサーチ、機関投資家セールス、公開引受関連)の経験者であって、即戦力を求めている。
何年もかけて法人業務が未経験の他社のリテール出身者を育てるつもりはないのだ。
このため、ここに求人側と求職者側のミスマッチが生じ、国内系証券会社のリテール職の人が、今回のSBI証券のポジションに収まることは考えにくい。
もっとも、若手で優秀そうな者であれば、例外的にポテンシャル採用をしてもらえるかも知れないが、例外的なものであろう。
③国内系「準」大手証券会社の法人業務経験者
マッチするとすれば、現在、国内系「準」大手証券会社で法人業務に就いている人達であろう。準大手証券会社とは、野村、大和、SMBC日興、みずほ、三菱UFJの大手グループの次にランクされる、東海東京証券、岡三証券、東洋証券、いちよし証券、丸三証券といったところである。
このあたりになると、給与水準はネット証券と大きく変わらないし、SBI証券の方がグローバルな仕事に就きやすいことを考えると、転職ニーズは十分にある。
とは言え、準大手証券会社の場合も、退職金・企業年金等、終身雇用を前提に制度設計がなされているので、社員もそれほど簡単に転職をするわけではない。
このため、SBI証券等の大手ネット証券が法人業務経験を有する人材を採用するのはそれほど容易ではない。
最後に:外資系金融に行くのであれば、複数用意しておきたいリスクシナリオ
以上のように、SBI証券を始めとする大手ネット証券に外資系金融の者が転職するケースは通常考えられないが、いざという時には、そのような選択肢も念頭に置くべき場合もある。
リーマンショックの時は、大手証券会社、FAS、準大手証券会社の全ての採用がフリーズしてしまったので、これらから溢れてしまった者としては、大手ネット証券も十分魅力的な避難先であった。
リストラされてから次の仕事ができるまでの無職期間が長くなると、とにかく、次の転職が難しくなる。いわゆる浪人期間は1年位が限界で、2年を超えると絶望的と言われていた。
証券業界の場合、40歳を過ぎると国内系大手証券会社への中途採用が難しくなる。
もちろん、他の事業会社の場合も同様であるが、外資系証券会社で40歳を過ぎると、次の行き先の確保が容易ではない。
このため、ネット証券だけでなく、ベンチャー業界、FAS、事業会社等、多くの選択肢を視野にいれたキャリアにおける危機管理も必要となってくる。
これは、今まではバリバリの終身雇用の国内系証券会社の場合には関係ない話だったかも知れないが、将来、終身雇用制度が徐々に崩壊していくと、数十年後はこのような危機に直面するかも知れない。
いずれにせよ、キャリアプランにおいては明るい未来だけではなく、リスクシナリオも想定することが大切だ。