ベンチャー企業は、Wantedly頼みの採用だけで人材確保ができるのだろうか?

1. ベンチャー企業は「人が全て」と言うが、人材確保のために工夫をしているのだろうか?

21世紀において求められる経営資源は、20世紀的な土地、資本、労働者ではなく、知識創造企業を構成するに足る人材であると言われている。

日本においても、継続的な売り手市場が継続し、とりわけIT系のエンジニアの採用が大変難しくなっているという。

このため、経営資源に恵まれた名だたる大企業でさえも、人材確保には危機感を持って対応し、ソフトバンクなどは先進的かつユニークな戦略採用を導入し、成果を収めている。

<ソフトバンクの戦略採用について>
https://career21.jp/2019-09-17-121403

ところが、ベンチャー企業は経営資源において劣位にあるため、文字通り「人が全て」であるにもかかわらず、採用方法においては工夫が足りないのではないかというのが気がかりな点である。

2. ベンチャー企業経営者或いは採用担当者に考えて欲しいこと

日本は経済規模に比してユニコーンが少ないとか、上場ゴールが多いとか、将来を担う成長企業が十分に生まれないのではないかという不安がある。

これにはいろいろな要因があるのだろうが、優秀な人材の採用が上手く行かないというのも一つの理由ではないだろうか?

そう考える根拠としては、多くのベンチャー企業がWantedlyに依拠した採用活動をしており、採用における工夫が不十分なように思えることだ。

別に、Wantedlyを使用すること自体が問題なのではないが、これはコア人材を採用するに十分なツールと言えるのだろうか?

以下の点は、MECEになっていないかも知れないが、ベンチャー経営者や採用担当者はどのように考えているのか、気になるところである。

①「最高の人材」を採る!、と意気込むベンチャー企業はあるが、「最高の人材」の定義はあるのだろうか?

ベンチャー企業の中にはambitiousな企業も少なくなく、「最高の人材」を採るのだと意気込む経営者もいるだろう。

そういった場合、「最高の人材」について明確な定義があるのだろうか?そのレベル感、スペックによって、「最高の人材」を採用できる可能性は異なるからだ。

例えば、AIに詳しいエンジニアの採用を考える場合、本当に「最高の人材」を求めるのであれば、ディープ・マインド・テクノロジーのDemis Hassabisクラスを本気で採る気があるのだろうか?

或いは、そこまで行かなくても、トロント大学やスタンフォード大学でコンピューター・サイエンスを専攻したエンジニアをターゲットとするのだろうか?

或いは、日本の大手ネット系企業、Sier、電機メーカーあたりから、業務経験のあるエンジニアを採用できればOKなのだろうか?

或いは、応募してきた者の中から、最も優秀だと考える人材を採用できれば、それが「最高の人材」ということに事後的になるのだろうか?

このあたりのレベル感によって、用意するべき予算や採用手段が異なってくるはずなので、本当はどのあたりを狙っているのか気になるところである。

②マッキンゼーとかゴールドマン・サックスは、何故Wantedlyを採用に使っていないのだろうか?

Wantedlyはエンジニアの募集が多いから、外銀や外コンには不向きだからであろうか?
しかし、ゴールドマン・サックスを始めとする外銀においては、IT担当者や、人事、ファイナンス、法務コンプライアンスといった人材も募集している。

ところが、そういったIT及びバックオフィス系の人材も、Wantedlyでは募集をしないということは、母集団としてのWantedly使用者が不十分と考えているからだろうか?

③エゴンゼンダーとかコーンフェリーを活用することは検討しただろうか?

そもそも、エゴンゼンダーとかコーンフェリーを知らない様では話にならないのであるが、両社ともグローバルでトップクラスのエグゼクティブ・サーチ・ファームである。

社長、取締役、最低でも部長クラスの幹部社員の採用にフォーカスした、ヘッドハンティング兼コンサルティング・ファームであるが、ピンポイントでハイスペックな経営人材を引っ張ってくる時に使用されることが多い。

もちろん、こういったエグゼクティブ・サーチ・ファームを使わないとハイスペック人材を使用できないというわけではない。

しかし、こういったベンダーを使うことによって、採用の幅が拡がることは間違いないだろう。実際、メルカリなどは、このあたりのエグゼクティブ・サーチ・ファームを使って幹部級の採用を行っている。

こういうところをケチっているようでは、「最高の人材」は単なるお題目になってしまうだろう。

3. ベンチャー企業も可能な採用活動における工夫

スタートアップ系のベンチャー企業の場合、現実的には、海外のトップ校でコンピューター・サイエンスを専攻したエンジニアの採用は、エゴンゼンダーを活用した採用活動は難しいかも知れない。

しかし、経営資源が不十分な場合においても、採用活動で工夫をすることは可能なはずだ。
この点、冒頭で紹介したソフトバンクは経営資源に恵まれた会社であるが、それでも工夫を凝らした戦略採用をも取り入れている。

ベンチャー企業の場合であれば、なおさら、ユニークな採用活動をいくつか試してみるべきではないだろうか?

例えば、以下の様な施策であれば導入は可能だと考えられる。

①採用人材数の絞り込みと、本当に必要な人材に対する待遇の改善

今は、ベンチャー企業が資金調達を比較的し易い環境にあると思われるが、シリーズAで数億円規模の資金調達に成功すると、積極的な採用活動を進める企業が多いのではないだろうか?

ベンチャー企業の場合、とにかく利益よりも、売上の拡大が先決ということなので、エンジニアとか営業といったフロント部門の採用を強化するのであれば理解できる。

しかし、Wantedlyを見てみると、経理、人事、法務といったバックオフィス系の求人も数多くみられる。このようなバックオフィスの採用は本当に必要なのか、検討すべきだろう。
例えば、経理については税理士事務所、法務については法律事務所にアウトソースしてもらった方が安い場合が多い。

また、人事については、経営陣ができるだけ関与して自分たちの力で採用した方が良い人材を採れる可能性がある。経験が不十分な若手を採用担当者として内製化するのはまだまだ先の段階でも十分なことが多いと思われる。

さらに、エンジニアについても、アウトソースできる場合が多いはずだ。
本当に会社のコアとなる部分であれば別だが、それ以外の部分については、アウトソースを検討し、できるだけ固定費を抑えることも検討すべきであろう。

採用人数を絞り込むことによって、その分、これといったコア人材については分厚い待遇を用意することが可能になる。

年俸500万円・ストックオプション無し、という条件では到底光る人材の採用は難しい。採用を絞り込む反面、それなりの人材には相応の給与・ストックオプションを用意すべきであろう。

②ピンポイントでターゲットを絞った企画や施策を講じる

冒頭で紹介したソフトバンクの場合、採用が難しいエンジニアについては、ハッカソンとかテーマを絞ったインターンやイベントを利用し、採用することに成功したという。

イベント系の場合には、その会社に興味が無くてもイベントの内容に興味がある人材を集めることができ、そのイベントに満足してもらえると、会社にも興味をもってもらえることがある。

ベンチャー企業こそ、このような特定のテーマに絞った企画やイベントを用意し、特定のエンジニアを集めるべきであろう。

また、「現役コンサルタント対象」「現役外銀マン対象」と、対象者を特定の業界・職種に限定した企画や採用方法も面白いのではないだろうか?

Wantedlyにおいても、何らかのイベントに絡める案件も見られるが、競合をも意識した上で、shabbyな内容になっていないか留意すべきであろう。テーマが貧弱であれば、却って、評判を落とすことにもなりかねない。

③一定の規格から外れた人材に目を向ける

ベンチャー企業こそ、既成概念に縛られることなく、自由な発想で採用活動を展開すればいいにも関わらず、皮肉なことに似たり寄ったりの集団になっているのではないだろうか?

まず、年齢が非常に厳しい。若手中心で20代からせいぜい上は30代前半位まで。
そして、年俸レベルは500万~600万円。

外銀・外コンといったハイスペック系の人材は、ストックオプション狙いのCXO職に限定され、一般社員の多くは中スペックではないだろうか?

その中で、条件を外してみると選択肢が拡がる可能性があるのが、「年齢」ではないだろうか?もちろん、誰でも基本的には若い人達と一緒に働きたいものであるため、ベンチャーに限らず、転職市場においては高齢者の人気は無い。

特に、50歳を過ぎると、ほとんど全ての業界が採用したがらないだろう。
もちろん、ベンチャー企業もカルチャーフィットの問題があるので、無理して50歳以上を採用する必要は無いが、年齢を気にしないというのであれば、50歳以上のハイスペック或いはスペシャリストに目を向ければ選択肢は大いに拡がるだろう。

IPOを真剣に目指しているのであれば、内部管理部門・バックオフィスの充実化が必要となるので、こういった部門においては高齢者の中から使えそうな人を探してみるというのも面白い選択肢である。

最後に

法律面だけで考えると、雇用契約において労働者側が受け取ることができるのは給与(賞与や退職金といった付帯的な支給も含む)のみである。

やりがい、ステータスといったものは雇用契約における条件でも何でもなく、単なる労働者側の主観的な満足度に過ぎない。

従って、給与やストックオプションも無いのに、良い人材というのが簡単に取れると考えるべきではない。

しかし、ベンチャー企業の場合は経営資源に限りがあるので、十分な給与やストックオプションが用意できるとは限らない。

そこで、ベンチャー企業としては採用を工夫するしかない。
ソフトバンクとかメルカリのような大企業でも、他とは違った採用戦略を展開し、日々、新たな人材獲得法について検討をし続けている。

ベンチャー企業であれば、尚更、ユニークな採用方法を展開して行かないと、唯一・最大の武器であるはずの「人」の確保が遠のくばかりだ。

  • ブックマーク