1. 何故、外資系金融マンにワイン好きが多いのか?
①ビジネスマンの趣味や教養にとってお勧めの良著
渡辺順子著「教養としてのワイン」は、フランスワイン、イタリアワインから新興国ワイン、さらに、ワインに係る投資ビジネスまでを簡潔にわかりやすく解説した良著である。
https://www.diamond.co.jp/book/9784478106617.html
マニアックというよりも、ビジネスマンの趣味・教養のために大変参考になる。
出版社もビジネス書のダイヤモンド社ということであるが、外資系金融への就活・転職を目論む就活生や若手ビジネスマンにもお勧めである。
②外資系金融マンにワイン好きが多いのは何故か?
全員というわけではないが、外資系金融マンには、ワインを好む人達が多い。
その理由としては、単純に金満アピールが好きな人達が多いということがあげられる。
外資系金融は、良くも悪くも「カネが全て」的な世界であり、わかりやすい高級品やサービスを成功の証としてアピールすることが好きな人達は多い。
港区のタワマン、軽井沢の豪華別荘、高級車(ベンツではなくフェラーリやアストンマーチン等)、高級レストランといった、わかりやすい贅沢で、周りの人達にアピールすることが大好きで、ワインはその嗜好に打ってつけなのである。
この点は、同じ超エリートである外コンの人達との違いであろう。
ただ、外資系金融マンがワインを好きなのは、それだけではない。
それは職業柄、「投資商品」としての妙味にも惹かれるのだと思う。
この点、本書においては、冒頭で「ゴールドマン・サックスが『ワイン』を学ぶ理由」というエピソードが紹介されるなど、ワインと投資やビジネスにまつわる興味深い話が多い。
それらを抽出すると、以下の様なイメージとなる。
2. ワインは「付加価値」と「稀少価値」によって価格が決まる。
①ワインの価格を左右する、ワイン固有の事情の面白み
モノの価格というのは、「需要」と「供給」で決まる。
ワインについても、もちろん、需要と供給で価格が決定されるのであるが、ワインの固有の特性によってユニークな値動きがされることになる。
それは、まず、ワインは一般的に古ければ古いほど価格が上がる特性があるということだ。
もちろん、天候等によって良好な収穫年とそうでない収穫年とがあるが、ある程度古くなればなるほど価格が高くなるという傾向があるとは言えるそうだ。
普通、食料品というと古くなると新鮮味が落ち、一定の年限が経過すると無価値になるのだが、ワインの場合は何十年も経っても価値があり続けるという特徴がある。
そして、ワインは金やダイヤのような宝飾品では無いので、途中で一定数は消費されてしまう。そうなると、供給が減り、ますます価値が上がる傾向にある。
このため、資金的に余裕のある外資系金融マンは、自宅や別荘に立派なワインセラーを構えて、自分が目を付けた複数のワインをケースごと買って大量に保存して、ワイン投資を楽しむのである。
②いろいろな付加価値によって急騰することがある
もちろん、ワインは長期間保存すれば、同じように高騰するというものではない。
世界で著名な批評家が高い点数をつけたり、ワイナリーが巨大資本に買収されることによって、一気に評価が高まる場合がある。
また、当然、グローバルのマクロ経済環境の変化にも左右される。
リーマンショック前の好況期においては高騰していた高級ワインも、リーマンショックによって急激に市況が下落したのは他の投資商品と同様である。
他方、グローバルな富裕層の裾野が拡大すればするほど、市場参加者が増えるわけなので、高級ワインの市況は漸増していくことになる。
このように、ワインの市場については、多くの要因が絡んでくるので、投資ゲームとしての妙味が十分にあるのだ。
外資系金融マンの場合、株式や債券といった有価証券投資については、業界ルールや社内ルールで厳しく管理されるので、投資をやらない人は結構多い。
他方、不動産とかワインの場合は、そういった本業に係る拘束・規制が無いので、気楽に楽しめるという事情もあるのかも知れない。
3. ワイン投資は、ワインという商品そのものの投資だけには収まらない
ワイン投資というのは、商品としてのワインそのものだけが投資対象になるわけではなく、もっとスケールの大きいビジネスになっている。
ワイナリー自体のM&Aとか、設備投資といったものも投資対象になっているのである。
例えば、2013年頃から中国人によるボルドーの銘柄ワイナリーの買収が見られた。
また、カリフォルニアでも大企業によるワイナリーのM&Aが見られ、カリフォルニア・
ナパのカルトワインと称されるシュレーダー・セラーズは、大手飲料メーカーであるコンステレーション・ブランズによって6000万ドルで買収されたという。
(本書、第3部「知られざる新興国ワインの世界」より)
このようなことが起こると、それまで無名であったワインというよりも、ワイナリーが突然脚光を浴びるようになることがある。
当然、そこのワインを所有していたら、価格は高騰することになる。
今後、グローバルでワインビジネスが大きくなればなるほど、あちこちに投資のチャンスが拡がり、新興国やそのワイナリーのワインへの投資はまるで少額から可能はベンチャー投資のような側面も生じ、面白みが増していくのである。
4. エリート達も注目する、様々なワインビジネス
本書によると、大規模なM&A以外に、ワイン関連の小物などにも投資が集まっているという。
例えば、コルクを抜かずにワインが注げる画期的なツール「コラヴァン」には6430万ドルの投資が集まり、今や世界各国で販売されているという。
今では、現役の投資銀行マンとか大手IT企業勤務のエリートや、ハーバード、MIT等の一流大学の学生もワイン関連のビジネスを始めている。
当然、ITやネット関連のビジネスも盛んであり、ワインアプリの開発や、ワイン取引に関するECサイト、ワインの投資情報を集めたメディア事業など、ワインビジネスの裾野は極めて広くなっている。
ワインを本格的に知るにはお金がかかるので、成功前の起業家には難しいかも知れないが、日本ではワインに係るメディアビジネスとかでは目立ったものがないと思われるので、成功した起業家等が資金面でバックアップすると、趣味と実益を兼ねた面白いビジネスが生まれるかも知れない。
外資系金融マンにワイン好きが多い理由として、投資商品としての面白さを掲げたが、もちろん、それで本格的に儲けようとまでは考えていないだろう。
あくまで、趣味と実益を兼ねた面白さの追求であろう。
それ以外に、ワインに詳しいと、社交的なつながりが生まれるというメリットも当然あるだろう。ゴールドマン・サックスの社員がワインを勉強するのは、富裕層ビジネスの一環でもあり、ワインの話で盛り上がると、ビジネスにとってプラスである。
また、ワインは、政治、宗教といった要素が絡まないので、安全で盛り上げやすいネタでもある。
学生や若手の社会人はワインを本格的に始めるには資金不足かも知れないが、チリとかニュージーランド等の新興国ワインを攻める手もある。このあたりは、成功している外資系金融マンとか起業家は逆に手薄だったりするので、面白いかも知れない。
従って、ワインに興味のある学生や若手ビジネスマンにも、ワインを勉強してみる価値は十分あるのではないだろうか?