1. サラリーマンの独立・起業というのは永遠のテーマ
IT技術の進歩や、ブログ・SNS等を通じた個人メディアの台頭などを背景に、個人として稼ぎ易い環境になってきたと考えられる。
また、働き方改革の流れで、兼業・副業、フリーランスといった多様な働き方が政府から奨励されている雰囲気もあり、サラリーマンの独立・起業というのが旬のテーマとなっているようだ。
このため、書店とかWebコンテンツを見ても、独立・起業、フリーランスに関する情報が溢れている。
もっとも、サラリーマンが独立・起業を目指したいというのは、今に始まった話ではない。
1960年代、1970年代から存在し続ける、サラリーマンにとっての永遠のテーマである。
(当時は、「起業」というよりも、「脱サラ」というような言い方をした。)
古くは1970年代に第1次ベンチャーブームが到来し、大手金融機関が子会社としてVCを創り出したのがこの頃である。
また、1980年代にはサービス経済化(製造業からサービス業へ)の流れや、店頭市場の上場審査基準緩和といった事情を背景に、第2次ベンチャーブームが到来した。
いずれも、オイルショックとか円高といったマクロ経済環境によってブームは収束してしまったが、ベンチャーとか独立・起業というのはサラリーマンの憧れであり続けているのだ。
2. 何故、サラリーマンが独立・起業できないか?
大昔から、独立・起業はサラリーマンにとっての憧れであり続けているのだが、なかなか上手く行かないし、それ以前に、独立・起業まで至らないことが多い。
それには、以下の様な理由があると考えられる。
①そもそも「売る」ものが見つからない
特に、大手のサラリーマンに該当するのであるが、独立・起業といっても、何をもって売上を作ればいいのかわからない人が多い。
サラリーマンでも専門スキルを有している人達はいるのであるが、独立・起業となると、そのスキルをどのように活用したらいいのか皆目見当もつかない人達が多い。
例えば、銀行に勤めていた場合、金貸し(貸金業)を始めることは考えにくい。
大手製造業だと尚更難しく、鉄鋼業界、化学業界、製薬業界、自動車業界、電機業界にいても、独立してそれらを取り扱うことは困難である。
人事・経理・法務・総務といったバックオフィスの場合は汎用性がありそうだが、いざ独立といっても、このあたりは、社会保険労務士、税理士、弁護士、司法書士といった士業に押さえられており、簡単ではない。
この点、コンサルの場合は普段会社でやっている業務を独立の際の売り物に転用しやすいので例外かも知れない。だから、独立しやすいという点でもコンサルは最近人気があるとも考えられる。
しかし、それ以外の業種においては本業をそのまま独立の際の売り物として転用することが難しいのである。
②サラリーマンは情報発信が苦手なことが多い?
サラリーマンの独立・起業の支援を売りとするオンラインサロンは数多く存在する。
上記①のような、「何をもって独立すればいいか?」という初歩的な質問に対しては、とりあえずブログ・SNSで情報発信をしろというアドバイスが、サロンオーナーやゲストからなされることが多い。
しかし、大手のサラリーマンの場合、まだまだ兼業・副業が制限されているところが多いし、ブログ・SNSについても規制されていることが多い。また、本業に時間的にも拘束されるので、なかなか情報発信をしたことが無い人が多い。
また、Face to Faceでのブログセミナーなどに参加するサラリーマンもいるのだが、別に無理をしなくても安定した給与所得があるからか、ブログが続かない人が多く、1か月、3か月で大半がドロップアウトしてしまう。
③人事、経理、法務、IT等、全部会社の誰かがやってくれる
ようやく、独立に際して収益が期待できるサービスが固まり、ブログ・SNSを通じてそれなりの集客が見込めるようになったとしよう。
しかし、大手企業に長く勤めているサラリーマンほど、いざ独立となると億劫に感じる。
まず、会社を作ろうと思っても、会社設立周りは法務部がやってくれていたので、自ら関わったことが無い。司法書士とはしゃべったこともないし、どうやって探せばいいのかもよくわからない。
税金についても、源泉徴収で完了するので、自らの確定申告すらしたことがない。
また、当然法人の会計・税務周りはさっぱりなのだが、税理士と接したこともないので、不安である。
社会保険についても人事部がやってくれていたので、よくわからない。
IT周りはひどいもので、大手の場合は、1から10までIT部門がやってくれる。
会社用のデスクトップPCを買っても、セットアップすら自分でやったことが無い。
大企業の場合は、分業化が進んでいるので、あれこれやることになれていないサラリーマンは多く、独立すると全部自分一人でやらないと行けないので、これが実に面倒に感じるのである。
④「経費」を使ってレバレッジを効かせることに抵抗感がある
実は、これがサラリーマンの独立がスケールできるか否かのポイントになることも多いのであるが、サラリーマンは「経費」を使うことに抵抗感がある人が多い。
サラリーマンがもらう給料というのは、完全なネット収益である。
交通費、文房具等の消耗品、更には書籍代まで会社が経費として負担してくれる。
このため、自らが手にする収益から自腹を切って「経費」を使うというのに抵抗感があるのである。
しかし、ビジネスの場合は、「経費」というのは将来の「収益」を産むために欠かせない手段なのである。事業が伸びてきたら、大胆に広告宣伝費を投入するとか、ITシステム強化のために外注委託費をつぎ込むといったことが必要なのである。
このあたりの積極的な経費投入をケチっているようでは、何時まで経ってもスモールビジネスのままになってしまう。
3. オンラインサロンは独立・起業にとって有用な場合もあるが…
①オンラインサロンには批判的な意見もあるが、基本的に問題は無いはず
独立・起業を謳うオンラインサロンとかの有料コンテンツは数多く存在している。
これらについては、「情報商材屋」だとか、独立・起業を餌にサラリーマンを食い物にするといった批判的な意見もあるようだが、基本的に問題は無いのではないか?
第1に、ほとんどのオンラインサロンは月額1000~3000円程度のものが多く、せいぜい本一冊、映画一本位の料金である。つまらない本を買ったり、映画がつまらなかったりすることがあるのと同様、オンラインサロンのサービス内容がイマイチだったとしても、大した金銭的な負担にはならない。
第2に、オンラインサロンの場合、月額課金制なので、途中でつまらないと思えば、脱会すればいいだけである。「情報商材」のように、入口で何十万円も支払わなければならないというサービスではない。
このように、オンラインサロンへの入会は特にリスクが無いので、興味があれば入ってみてもいいのではないだろうか?
微妙なケースがあるとすれば、少人数を対象とした2~5万円位のオンラインサロンであろう。これくらいであればカードローンを迫られるような金額ではないかも知れないが、複数手を出すと、そこそこの金額になる場合もあるので、その点は留意した方がいいだろう。
②オンラインサロンの効用
オンラインサロンにもいくつかの効用はあるだろう。
まず、いろいろな属性の人達がいるので、普段は入手できない情報や考え方に触れることができるからだ。大企業のサラリーマンをしていると、交流範囲が社内とか同業会の人達に限定されてしまうことが少なくないので、他業種の人との交流は刺激にもなる。
また、自ら情報発信をする機会が与えられるということもプラスである。
何らかの分野において成功実績のあるサロンオーナーやゲストが、回答してくれるとモチベーションが高まる場合もあるだろう。
とにかくサラリーマンを続けているだけでは何も変わらないので、とりあえずオンラインサロンへの入会をしてみるのは悪くないと思われる。
③オンラインサロンの限界
月々数千円のオンラインサロンに入会しただけで、独立・起業が簡単にできるとまでは誰も期待していないだろう。
何が足りないかというと、知識や情報はオンラインサロンで入手できたとしても、具体的な実行まではサポートしてもらえないということである。
独立・起業の実行面を後押ししてもらうためには、リアルな世界でのネットワークを構築するとかメンターを見つけるといったことが必要であろう。
また、オンラインサロンで語られるビジネスモデルが、有名人で集客に困らない人達には該当しても、一般人には当てはまらないことが多いということである。
一般人は、ブログ、ツィッター、YouTube、インスタグラム等において、いかにフォロワーやチャネル登録者数を増やすかが課題なのであって、既に名前の売れている芸人とか起業家とでは全く出発点が異なることを意識しなければならない。
4. サラリーマンが独立・起業の前に考えたい事
①より良い転職の可能性を考える
別に独立・起業は手段に過ぎず、目的ではない。
独立・起業、フリーランスの方がサラリーマンより偉い訳でも何でも無く、高収入が得られる訳でも何でもない。
ところが、独立・起業とか、ベンチャーが盛り上がる際には、それらが目的化してしまうこともある。
特に大企業での勤務経験が長い人ほど、独立・起業というのは大変なので、その前に良い転職の機会があるのであれば、そちらを検討するのが先決である。
②金融リテラシーの向上
サラリーマンの場合は、資金繰りについて気にする必要は無いし、別に資産運用はやらなくても、退職金とか企業年金で保護されている。
また、株のことは全くわからなくても何も困らない。
しかし、独立・起業となると、資金面において全て自分で管理しなければならない。運転資金の確保の明け暮れているようだと、そもそも、競争力のあるプロダクトを開発できるような状況にはない。
また、自らの会社を起ち上げた場合には、自社株というのが経営者にとっての最大の資産でもある。最近では、IPOまで行かなくとも途中でM&AによってEXITするケースは増えている。未公開株であってもキャッシュアウトできる可能性は十分にあるので、その場合、自社株というのは経営者にとって大きな財産となる。最初から、EXITすることが目的で会社を起ち上げるのもアリだろう。そうした場合、株価評価に関する基本的な知識があるのと無いのとでは大きな違いである。従って、ある程度の金融リテラシーを向上させておきたいところだ。