1. 確かに、外資系金融で360度評価的な制度を導入している会社は多い
人事評価の方法の1つとして、360度評価というものがある。
通常の人事評価においては、直接の上司が評価者となるのであるが、360度評価においては、直属の部下、同僚をも評価者に加えて総合的な評価をすることになる。
例えば、外資系金融においてはゴールドマン・サックスの360度評価が有名である。
これは、1990年頃に不祥事をやらかしたため、対外的に改善策を示す意味で始めたのがきっかけであるとも言われている。
外資系金融機関においては、ゴールドマン・サックス以外の投資銀行や、バイサイド(運用会社)においても360度的な制度を導入している会社は多い。
2. 360度評価があるからといって、フラットでフェアな人事制度だと勘違いしてはならない
このため、国内系の企業に勤めるものからすると、外資系金融機関は国内系金融機関よりもフラットでフェアな人事評価制度が導入されていると勘違いするかも知れない。
しかし、360度評価というものは表面的・形式的な制度に過ぎず、実態としては、国内系金融機関の方が実質的に全方位的な評価がなされているのではないかと思われる。
3. 人事が弱く、直属の上司(レポーティングライン)が強い外資系金融
①結局は、直属の上司の評価がボーナスとか昇格を決定する
外資系企業、とりわけ外資系金融機関では、人事評価については直属の上司(レポーティングライン)が極めて強い決定権を持っている。
360度評価といっても、レポーティングライン以外の同僚たちは数値的な評価権限を持っておらず、単に、コメントや長所と短所を定性的に記載できるに過ぎない。
何らかの数値的な評価(A、B、C等)を出来る場合もあるが、それらはあくまでも書けるだけであって、ボーナスの金額、昇格等への影響力を有することはまず無いであろう。
結局、外資系金融の場合には、表面的・外形的には360度評価/全方位的評価を導入していても、結局、ボーナスの金額とか昇格については直属の上司の評価だけでほとんど決まってしまうことが多い。
②外資系金融では360度評価が機能しない理由
第1に、日本の会社と違って、人事部の権限が非常に弱い。
採用プロセスにおいても、人事部は最後に福利厚生の説明と入社書類の話をする位であるし、人事評価においても人事部の評価権限は基本的に無い。
これは良くも悪くも事業部制的であり、現場がいろいろな意味でパワーを持っているからに他ならない。
第2に、これはポジションにもよるが上級ポジションになればなるほど、海外(本社)の評価権限が重要になってくる。デュアル・レポーティングという言い方をする場合もあるが、国内における直接の上司と、海外における直接の上司とが評価権限を有するために、それ以外の者が割り込む余地はほとんど無いのである。
第3に、外資系金融の場合には概して、人の出入りが激しい。
今年、360度評価をお願いした隣の部署の人達は、来年にはいなくなっていることも多い。このため、他所の部署の人の評価というのは属人的に影響力が高くなれないところがある。
第4に、制度上の抜け穴として、360度評価をする人を自らが比較的自由に決定できる場合が多い。そうであると、誰でも自分に厳しい人に敢えて360度評価を依頼することは通常考えられず、基本的に良好な関係の人達に依頼することとなる。
そうなると、辛めの評価で鋭い評価をされることは無いので、全体的に馴れ合いのような形になる。
また、採用や評価権限を握るMDとしては、それらについてよそ者から横やりを入れられたくないのは共通しているので、制度設計や運営においてはなるべく形骸化させようという方向に働くことがあるのかも知れない。
4. 外資系企業の場合は逃げ場が無いので、直属の上司に嫌われた終わりというリスクに留意すべき
国内系の企業の場合には、人事部が相応の評価権限を握っていることが少なくないし、何といっても人事異動がある。このため、直属の上司から嫌われてひどい扱いをされた場合には、人事部とか過去の上司とかが救いの手を差し伸べてくれることがある。
しかし、外資系企業の場合は、金融機関に限らず事業会社でも、人事異動で他の部署に逃げるという選択肢はまず無い。また、国内系企業と比べると、クビとか降格的なことは比較的簡単に実行されるので、一旦、直属の上司から嫌われてしまうと、もう行き場が無くなり、転職によって逃げるしか手段が無くなってしまう。
何故か、外資系企業の方がフラットで、柔軟で360度的な人事評価をしてもらえそうなイメージを持っている国内系企業の人が結構少なくない様であるが、それは表面的なものであって、実態はその逆であることに留意すべきである。
したがって、転職活動をするにしても、自分の直属の上司となる人の評判とかを十分調べた上で意思決定をすべきなのである。