2020年6月26日に、「公立大学法人大阪」は、大阪市立大学と大阪府立大学を統合した大学の名称を「大阪公立大学」として2022年度に開学すると発表した。
https://news.yahoo.co.jp/byline/ishiwatarireiji/20200630-00185878/
東京では両大学の統合に対する認知度・関心度は低いが、関西受験界においてはかなりのビッグニュースとなっている。
1. 大阪市立大学と大阪府立大学が2022年に新大学への統合を発表
東京においては、第二東京大学構想というのがある。東大に対抗するため、一橋大、東京工業大、東京医科歯科大、東京外国語大の4大学が連合しようという話である。もっとも、最近では大きなニュースや進捗等は特に聞こえてこない。
<第二東京大学構想と影響>
https://career21.jp/2019-09-03-135216
ところが、大阪では東京とは事情が違う様で、大阪市立大学と大阪府立大学が2019年4月にアンブレラ方式(1法人複数大学制)によって、「公立大学法人大阪」が発足したのだ。
こちらは、連携とか提携といった緩い話ではなく、統合すると同時に、新キャンパスに移転するという極めて大掛かりな話で、受験・教育業界においては注目されている。
<新大学の実現に向けて:大阪市立大学公式HPより>
https://www.osaka-cu.ac.jp/ja/about/info_university/integration/index.html
2. この2つの大阪の公立大学の統合は何が凄いのか?
①まずは規模感…神戸大学と同規模に
公立大学というと比較的小規模で地味目な大学が多いが、もともと公立大学の中でも相対的に規模の大きい両校が統合するということで、日本最大規模の公立大学が誕生することになる。
その規模は、学生数で約1万6000人、教員数で約1400人ということで、神戸大学と同規模の大学になる。
規模という点からすると、公立大学という枠組みを超えて、トップの国立大学クラスの存在感を有することになる。
②医学部をも有する、フルラインの大学
この両校が統合した新大学が凄いのは規模だけではない。
内容的にも競争力を有するフルラインの大学になる。
新大学は、大阪市立大学の医学部を包含しているので、医学部を有することになる。
それどころか、獣医学部、農学部をも有しており、法学部、経済学部、商学部は旧大阪商科大学の流れを汲む大阪市立大学が強みを有するところであり、また、工学部や理学部は理科系に定評がある大阪府立大学の強みを継承することとなる。
このため、内容的にも大変充実した大学となることが期待されている。
③新キャンパスの立地が素晴らしい
現状、大阪市立大学も大阪府立大学もメインキャンパスは大阪の中心部から離れたところにあり、残念ながら、他校と比べてあまり魅力があるとは言えない立地である。
しかし、新大学は全く別のところに移転をすることが予定されているのだが、その立地が素晴らしい。大阪の象徴である大阪城の真向かいの広大な土地であり、最寄り駅からもすぐであり、また、大阪中心部からも電車で10分程度の便利な場所にある。
<大阪市立大学・大阪府立大学の統合大学の新キャンパス>
https://kansai-sanpo.com/osaka-new-univ11/
これは国立大学である大阪大学のキャンパスが豊中、吹田という環境は良いが郊外であることと比較すると、遥かにインパクトのある立地である。
東京でも郊外立地よりも都心立地の方が明確に好まれることからも、立地においては国立の大阪大学よりも上だと言えるだろう。
また、新大学がライバル視している、現状では「格上」の神戸大学のキャンパスも環境はいいが、神戸市の中心部や駅からの距離があることを踏まえると、神戸大学にもキャンパス立地では勝るものと思われる。
以上から、大阪市立大学と大阪府立大学統合してできる新大学は、関西地区の他の大学の序列を激変させるパワーがあるのではないかと言われているのである。
3. 神戸大学や関関同立にとって脅威となるか?就職力はどうか?
①神戸大学に勝てるのか?
新大学の期待は大きく、大学関係者やOB/OGは共通して、神戸大学をターゲット視している。それでは、新大学は本当に神戸大学に勝てるのであろうか?
そもそも何をもって「勝つ」というのかについては明確な定義は無いのだが、大学入試における難易度・偏差値、研究成果を通じた世界大学ランキング、就職能力、その他世間一般における評価を総合して、神戸大学に勝とうということであろう。
関西地区は、伝統的に私立大学よりも国立大学が評価されやすく、京阪神、要するに、京都大学、大阪大学、神戸大学が不動のトップ3の位置にある。そして、その次に現在の大阪市立大学と大阪府立大学が位置し、その次に、関関同立が来るというイメージである。
近年は、関関同立の難易度や評価が上昇していることもあり、一昔前であれば、大阪市立大学/大阪府立大学>関関同立というのは明瞭であったのであるが、関関同立の最難関の同志社大学については、同志社≧大阪市立大学/大阪府立大学だと言い張る人も生じている。
そして、とにかく、神戸大学>大阪市立大学/大阪府立大学という関係は誰もが否定できなかったので、今回の統合によって神戸大学を超えるということは関係者にとって大変重要な目標なのである。
それでは、新大学が神戸大学に勝てるとすればどういったところで勝てるのだろうか?
それには、2つのアイテムがある。
第1は、何といってもキャンパス立地である。環境は良好とは言え、神戸の都心部から若干離れた神戸大学よりも、大阪のど真ん中、大阪城の真ん前にあるという新大学のキャンパス立地の方がインパクトが強い。
また、街の大きさからしても、大阪>神戸ということも言える。
第2は、新鮮さと話題性である。
両大学の統合による新大学は、東京までは伝わってこないかもしれないが、関西においては教育に関する大きな話題であり、今後もメディアを通じてどんどん取り上げられるであろうから人気や注目度が高まることは間違いない。
また、新しいものに対する期待というのもある。人間は誰しも新しいものには関心を持つので、新学部が人気を集めやすいのと同様に、新大学も人気が出るだろう。
これらの2つの強みと、現状の神戸大学との偏差値の差は1~2ノッチ(2.5~5.0)であることを踏まえると、入試難易度・偏差値においては、新大学に並ばれる可能性は十分あるだろう。
②神戸大学に勝つためには就職力を上げたい…
しかし、目新しさで当初は神戸大学に追いつけたとしても、それを持続できるかどうかは課題がある。
即ち、就職力、伝統、国立>公立、という3点において、神戸大学に勝つことは容易でないからだ。このうち、頑張れば成果が出やすいのは就職力であろう。英語力やITプログラミング能力を鍛えることができれば良いが、何らかの対策を講じないと、就職力のある神戸大学に追い付くのは難しい。
本来、大阪市立大学は旧3商大(一橋大学、神戸大学、大阪市立大学)の流れを汲んでいるので、就職はそれなりに強い。しかし、存在感が薄いため、AERAの「主要50大学の人気企業への就職者数」という特集においても、「50大学」に入れてもらえなかった。やはり、国立>公立という認識があり、公立大学の場合はマイナー感が強い。
そこで、統合を機に就職においても存在感を打ち出したいところだ。大阪市立大学は商社や金融には強いので、さらに、外資系企業当たりで実績を積めば変わって来る可能性はあるだろう。そのためには、新大学やそれぞれのOB会のサポートが期待されるところだ。
<神戸大学の就職力>
https://career21.jp/2019-08-02-111307
③関関同立への影響はどうか?
現在でも、大阪市立大学/大阪府立大学と関関同立とのW合格者は、ほとんどが大阪市立大学/大阪府立大学を選択しているであろう。このため、両大学と関関同立の序列というものには変化が無いかも知れないが、その差が詰まってきているのが実情であろう。
3科目入試で受験しやすいということに加え、キャンパス立地、大学の規模感、公立大学特有の地味な雰囲気ということから、関関同立の方が両大学よりも優位な点はいくつもあった。
ところが、今回の統合によって、規模感の問題は払拭されるだろうし、何といっても、新大学のキャンパス立地の素晴らしさには、関関同立は敵わない。また、大学がメジャー化したり、マスコミが取り上げたりするので、地味目な雰囲気も変わって行くのではないだろうか?
そうなると、関関同立との差が縮まりつつあったのだが、今回の統合を機に一気に新大学に引き離されてしまう可能性が高い。
また、統合によって誕生する新大学については、神戸大学とか大阪大学ですらうかうかしていられないので、何らかの対抗策を打ち出さざるを得ないと思われる。
そうなると、良い意味での切磋琢磨が国公立大学の間で行われるのであろうから、新大学だけではなく、国立大学優位の風潮が関西地区で復活していくかも知れない。
この両校と比べると地味な話であるが、関西地区での国公立大学の統合という観点からは、奈良教育大学と奈良女子大学との統合という話もあり、将来的には、滋賀大学、京都府立大学、京都工芸繊維大学、神戸市外国語大学、兵庫県立大学あたりも統合を仕掛ける可能性もある。
そうなってくると、関関同立の地位がますます脅かされることになるので、国公立大学の統合ということに関して、新大学への動静が大いに注目されることであろう。
④国公立大学の再編は、全国に広がりつつある附属・推薦・AO入試に対抗できるか?
元々、国公立大学は試験科目が多く経営されがちであり、加えて、私立大学も少子化の流れを踏まえて優秀な学生を囲い込むべく、附属・推薦・AO入試の割合を高めている。
そうなると、有名私立大学の一般入試枠は狭まり、偏差値は上昇する。それによって大学のステータスが上がり、就職でも存在感を高めるようになる。また、東京の一極集中に伴う情報の集中の影響もあり、地方にある小規模な国公立大学の就活における存在感は小さくなっていった。
このような状況下、大阪市立大学と大阪府立大学との統合は、国公立人気に向かわせる大きな話題だ。関関同立も附属、推薦・AOを推薦しているので、この流れにどういったインパクトを与えられるかも注目されるところである。
最後に
国公立大学の統合という話は、地味ながら10数年前位からあちこちで出てきているのであるが、あまりインパクトのある話題では無かった。
ところが、今回の大阪の有力公立大学の統合は、神戸大学や大阪大学の地位まで脅かすような潜在力を有する話なので、関西地区における大学の序列に少なからず影響を与えるであろう。
これは受験生にとっても悪い話ではない。
地元に有力な公立大学が登場するので新大学を狙ってみるのもいいし、逆バリで神戸大学が若干入りやすくなるかもしれない。また、国公立大学の相対的評価が上がれば、逆に、高値の花となってきた関関同立が狙えるようになるかもしれない。
もっとも、大学選びは話題性とか人気だけではなく、就職力を中心とした将来の自分のキャリアにどこが適しているのかという観点も重視すべきであろう。