1. 20代で年収1000万円が狙える企業は商社・金融だけではないと言うが…
2019年8月29日付のダイヤモンドオンラインの記事で、こういった見出しのものがあった。
https://diamond.jp/articles/-/213171
商社や金融以外にも、20代で年収1000万円が可能な企業として、住宅メーカーの営業職(大東建託、大和ハウス工業)とか、海外駐在の場合には海外勤務手当で年収1000万円に到達可能なプラント企業(日揮、千代田化工建設)とかが紹介されている。
しかし、こういったケースは厳しい歩合営業で結果を出したり、海外に赴任しているといった条件付きでの年収1000万円であり、商社や大手金融機関のように勤務地や個人成績の如何に関わらずもらえる年収1000万円とは全く異なるものだという気がする。
そこで、年収1000万円の「質」について考えて見たい。
2. サラリーマンの年収1000万円の「質」に関する3つの視点
年収1000万円の「質」を考えるにあたって、以下の3点について検討する。
①年収1000万円の安定性・継続性について
年収1000万円に達したからといって、それが1年限りで終わってしまえばあまり意味はない。1回達成したら後は遊んで暮らせるというレベルの金額ではないからである。
従って、年収1000万円は長期間継続出来てこそ意味がある。
住宅メーカーの営業職とか不動産会社の営業職のような、歩合の比率が高い職種の場合には、営業成績が好調な年には収入が増えるが、それを維持していくのは大変難しいものがある。ある年に多くの住宅を販売できたとしても、その営業実績が翌年以降持ち越されるとは限らない。住宅というと人生に1回あるか無いかの頻度なので、既得意客が繰り返し購入してくれることは期待できないからだ。
このため、過去の営業実績が蓄積されて行き、翌年以降にポジティブな影響を与えられるのなら良いが、そうでなければ継続していくことは難しい。
また、海外勤務に伴う手当の場合も、ほとんど一生海外の駐在員生活を送るというのなら別だが、そうでないと、日本に戻ってきた場合には急激に年収が下がることとなる。
そうすると、年収1000万円に達したとしても、それは期間限定ということなので、安定性・継続性は劣ることとなる。
以上のように、同じ年収1000万円といっても、良好な営業成績や海外勤務という条件付きで、かつ、その継続が難しいのであれば、商社や金融機関の年収1000万円とは単純に比較すべきではないだろう。
②アップサイドがどの程度期待できるか?
歩合や海外手当とは無関係な年収1000万円であっても、将来のアップサイドの期待度合いによってその評価は違って来るだろう。
例えば、監査法人勤務の公認会計士の場合、入所6年目位で年収1000万円には余裕で到達するが、マネージャーになると残業代が付かなくなるし、その1ランク上のシニア・マネージャーに昇格するのは結構大変で、昇格できたとしても1200~1300万円位である。
また、大手メーカーのキリンとか味の素も30代後半位には年収1000万円には到達できるが、年収1500万円というと副本部長レベルになるので、そこから先の伸びはそれ程期待できない。
それと比べると、商社とか大手金融機関の場合には、年収2000万円こそ難しいが、年収1500~1600万円位であれば課長とか担当部長クラスで十分達成可能である。
また、GAFAを始め外資系企業の場合には、タイトル1ランクの格差が日本企業よりも格段に大きい。このため、managerクラスであれば年収1000万円台前半であっても、directorクラスになるとRSU(株式ボーナス)も含めて年収2000万円位には跳ね上がるので、アップサイドはかなり大きいと言える。
以上のように、同じ年収1000万円といっても、そこから先、どれくらいアップサイドが見込めるかによって当然評価が異なってくる。
③退職金や年金があるか無いか?
日本の大企業の場合には、大抵の場合、退職金や年金制度が充実しているので余り問題にならない。
しかし、外資系企業やベンチャー企業の場合には、そもそも退職金や企業年金制度が無い場合もある。
そうすると、同じ年収であっても、退職金や企業年金の有無によってその実質的な年収は異なることになる。
外資系金融の場合には、退職金は1年当たり基本給(「年収」ではない!)の1割位が積立られ、確定拠出型年金制度(401k)が用意されているケースが結構多い。
例えば、年収1000万円(基本給800万円、ボーナス200万円)の場合であれば、退職金80万円(基本給800万円の1割)と確定拠出年金(最大年間60万円程度)がこれに実質的に加わることになるので、実質的な年収は1000+80+60=1140万円にもなる。
退職金や年金が全くない場合と比べると1割以上も差があることとなる。
転職に際しては、退職金や企業年金に無頓着な人も結構いるので、ここは要チェックである。
<外資系金融志望者が年収以外に留意すべきこと:退職金、年金他>
https://career21.jp/2019-03-24-143719
3. フリーランスの年収1000万円とサラリーマンの年収1000万円の意味は異なる
①フリーランスは「月収」と言っている時点で要注意
働き方改革の一流れや、ネットIT系技術の進展に伴い、最近ではフリーランスという働き方が注目されてきている。中には、大手のサラリーマンの年収を遥かに凌ぐ者も出てきているようだ。
しかし、上述の通り、年収水準が同程度であれば、サラリーマンの方がフリーランスよりも恵まれている場合が多いのではないだろうか?
例えば、安定性・継続性の観点からすると、通常は大手のサラリーマンの方が少々羽振りの良いフリーランスよりも優位なのではないだろうか?
そもそも、サラリーマンの場合は「年収」について語るのであるが、フリーランスの場合は「月収」という言い方をすることが多い。「月収」というのはそれを単に12倍して「年収」に換算していいものかよくわからない。わずか数か月先の収入が読めないから「月収」という言い方をしているのかも知れない。
また、穿った見方をすれば、収入にアップダウンがあるのは仕方が無いが、もっとも多い月間を捉えて「月収」としているのであればフェアではない。
サラリーマンの場合だと、ボーナス月の「月収」を持ち出すと通常月の2倍以上になるだろう。
従って、フリーランスの場合も「年収」で表現してもらわないとサラリーマンとは比較できないわけである。
②フリーランスには、当然、退職金や企業年金は無い。
このため、同じ年収1000万円であれば、サラリーマンに軍配ということになる。
退職金とか企業年金は税制においてもかなりの優遇措置を受けているので、これがあるのと無いのとでは大きな違いとなる。
以上を踏まえると、サラリーマンからフリーランスへの転身を検討するに当たっては、目先の年収だけではなく、安定性や退職金・年金も踏まえた、生涯賃金の観点から広く考えるべきである。
現状年収1000万円あるサラリーマンからすると、少なくとも年収ベースで現状の倍の2000万円位の年収が見込めるようでないと安易にフリーランスとなるべきではないだろう。
最後に ~結局、商社や大手金融機関は恵まれている~
以上まとめると、商社や大手金融機関は経済的に恵まれているということがわかる。
同じ年収1000万円といっても、歩合や海外勤務が無くてもいいし、年収は安定しているし、アップサイドもまだまだある。それに、退職金とか企業年金も充実している。
それを認識しているかどうかはわからないが、感覚的のそのあたりを感じているからこそ、東大、早慶の学生の多くが商社や大手金融機関に行きたがるのではないだろうか?
もっとも、ほとんど国内でしか稼げない金融機関については、これからどう変わるかはわからない。給与水準が維持できるかはわからないし、退職金・年金も削られる可能性がある。このあたりの危機感と対応策をも踏まえた上で、就活或いは転職における企業選択をしていくことが必要であろう。