証券会社のリテール営業職の転職を含めたキャリアプランについて

1. 早慶から多くの学生が大手証券会社に就職

大手の証券会社には、有名大学から数多くの学生が就職する。
例えば、慶應義塾大学の2019/3卒の場合、全学部生対象の就職先上位企業に大和証券(8位:48人)、野村證券(9位:47人)が入っている。

また、早稲田大学の2019/3卒の場合も、大和証券(12位:51人)、みずほ証券(30人)、野村證券(28人)等に数多くの学生が就職している。

MARCHや関関同立についても、野村證券、大和証券、SMBC日興証券、みずほ証券等の大手証券会社は就職先上位企業の一角を占めている。

<2019/3卒の慶應義塾大学の就職状況>
https://career21.jp/2019-08-20-125354

<2019/3卒の早稲田大学の就職状況>
https://career21.jp/2019-08-23-153551

2. 総合職採用だとほとんどがリテール営業に?

国内系証券会社の場合、総じて給与水準が高く、また、終身雇用が保証されてきたので就職先として悪くないとも考えられる。

しかし、近年では、多くの就活生が憧れるIBD、グローバル・マーケッツ系の専門職種については別採用になっているケースも多く、そういったところは、東大からでも内定を得ることが容易ではない。

<隠れた最難関、国内系証券会社のIBDについて>

https://career21.jp/2019-10-22-093310/

このため、投資銀行的なビジネスに就きたいと思っても、そういった専門職のポジションに就くのは難しく、ほとんどの学生は総合職採用になる。

そして、総合職採用になると、ほとんどのものがリテール営業に配属されることとなる。昔はIBDとかグローバル・マーケッツ職は新卒段階での別採用はやっていなかったので、総合職採用で最初からIBDとか債券部門に配属されるケースも一定数あったが、専門職コースが別採用になった今ではほぼ全員がリテール営業に配属されることになるのではないだろうか。

リテール営業は数字に追われ、雑居ビルを片っ端から訪問するような厳しい仕事であり、離職率も高い(といっても、30歳時点の退職率は3割程度であり、外銀よりは残存率は遥かに高いのであるが)。

最初から、リテール営業をやりたくて証券会社に入社したのであれば別だが、そうでない場合には、自分はずっとリテール営業を続けなければならないのか、また、法人部門に社内異動はできるのか、嫌になって転職するとしたらどういった選択肢があるのか等気になるところである。

3. 辛くても最後まで会社に残るのが無難?

①多くの者はリテール部門を中心に最後まで会社に残る?

最初に結論を言ってしまうのも申し訳ない気がするが、結論的には、証券会社のリテール営業職に配属されると、途中で、外銀、外コン、IT系ベンチャーといったカッコいい転職ができるのは極々僅かであり、多くの者がリテール部門を中心に最後まで会社で働くこととなる。

もちろん、リテール営業は非常に厳しい仕事なので、離職率は高いと考えられている。しかし、30歳時点での退職者の割合はせいぜい3割程度であるので、他の業界・企業と比較して特別高いというほどでもない。確かに、最初の数年での離職率は高いが、一旦それを乗り越えると、辞める人は少なくなる。

リテール営業職を中心に最後まで会社に残るというのは、必ずしも悪い話ではない。
リテール営業の場合、数年置きに異動になり、営業職を中心に50歳位まで営業現場で働くことが多い。そして、同期から役員が出始めると、本社の管理部門とか子会社(閑職)に回され、定年を迎えることになる。

経済的には、30歳位で年収1000万円に達し、60歳の定年まで年収1000万円以上をもらい続け、退職金(大手だと3000万円程度)と企業年金(確定拠出型が多い)を受け取ることができるのだ。

また、証券会社の場合はメガバンクと違って、リテール営業は社内的なステータスが高い。このため、頑張れば役員になることも可能である。

そういう訳で、例えば、野村證券の場合、定年まで働いた社員で会社のことを悪く言う者はいないとも言われている。

②しかし、終身雇用が廃止されると、40歳から先のキャリアプランも考える必要がある

しかし、これは終身雇用が保証されていることを前提としたキャリアプランである。
しばらくは大丈夫なのだろうが、20年後や30年後はどうなっているかはわからない。

大手証券会社の50代で、英語が話せず、特段のスキルが無い場合には、1000万円以上での転職はかなり厳しい。いや、50歳どころか40代でも厳しいだろう。

2020年6月時点において、大手証券会社が終身雇用を廃止するというような話は聞かない。しかし、2020年初頭に生じたコロナウイルスの問題が、現在の世界経済に極めて大きい影響を与えているように、何が起こるかわからない時代になってしまった。このため、現時点で学生或いは若手社員の場合は、20年後どうするかということも真剣に考えておくべきであろう。

4. リテール営業から外資系金融への転職はほぼ不可能?

①外資系金融への転職には留学か社内異動が必要

外資系金融の黎明期である1980年代、1990年代であれば、国内系リテール営業から直接外資系金融への転職という事例があったが、今ではほぼ不可能と考えた方が良いだろう。

外銀やバイサイドは経験者採用なので、リテール営業だけだと経験者扱いをしてもらえないからだ(そもそも英語ができないと話にならないが…)。

もっとも、留学や社内異動を挟めば話は別だ。
社費留学で海外のMBAを取得すればポテンシャル採用で外銀等に転職できる可能性はあるし、社内異動で、投資銀行部門やマーケット部門に行ければ、そこで経験を積んでから転職することは可能だ。

注意しなければならないのは、留学や社内異動というのは簡単では無いということだ。
バブル期と違って、社費留学の椅子の数は極めて少ないので、どうしても留学したければ頑張って貯金をして私費留学も念頭に置いた方が賢明だ。

また、出来そうで実現できないのが、社内異動だ。
リテール営業で成果を出せば出すほど、会社としてはリテール営業人材として期待をするし、反対に、リテール営業で成果を出せない者をわざわざエリート部門のIBDやマーケット部門に配属することはないからだ。

比較的可能性があるのは、早慶以上の高学歴でリテール営業で成果を出した場合には、投資銀行部門の中の法人営業部門(事業法人部、金融法人部等)に配属されるケースだ。

いずれにしても、就活プロセスで、証券会社の人事が「営業頑張れば、将来、IBDとかマーケット部門に行ける」というセールストークだ。これは鵜呑みにしない方が良い。

②20代のポテンシャル採用で国内系の運用会社を経由するという手もある

もっとも、20代のポテンシャル採用ということが前提となるが、国内系の運用会社に営業系のポジションで転職し、そこで経験を積んだ後、30歳以降で外資系運用会社に転職をするというキャリアプランはある。

但し、その場合も英語はマスターしておくということと、国内系運用会社に行くと給与水準は国内系証券会社の8掛け位になってしまうという点には留意が必要だ。

国内系の運用会社にポテンシャル採用してもらえる可能性は景気動向によって左右されるので、国内系に強い大手転職エージェントから密に情報収集する必要があるだろう。

5. 証券会社のリテール営業職から事業会社への転職について

①大手事業会社への転職

そもそも、日本のメーカーとかサービス業の大手企業は、金融機関と比べると、中途採用に消極的である。加えて、英語とかファイナンスのスキルが無いリテール営業職の場合だと、大手上場企業への転職は困難だ。

IBDの法人部門でそのオーナー系のクライアントから、引き抜かれるというパターン(現SBIの北尾さんのようなケース)はあるが、それはかなりのエリートであるし、そもそもIBDに配属されている必要がある。

25歳以下の第二新卒であれば、ポテンシャル採用の可能性も無くはないが、それ程容易な訳ではない。

②ネット系ベンチャー企業への転職

2000年前後の第1次インターネットバブルの時には、証券会社のリテール営業からネット系ベンチャー企業へ転職した人もいた。

もっとも、証券会社に限らず金融機関のリテール部門は、ITとかネット部門に弱い。
このため、売り込めるスキルに欠けるので、ベンチャー企業だからといって良いポジションに就けるとは限らない。

証券会社のIPOとか引受審査の業務経験があれば、IPOを目指すベンチャー企業への転職の可能性は十分あるが、リテール営業だけだとIPO関連のスキルが無いので難しい。

また、ネット系ベンチャー企業に転職できたとしても、IPOまで辿り着いて億単位のキャッシュを手にすることができるのはほんの一握りに過ぎない。ほとんどの場合は、レジュメを汚すだけの転職になる結果となる。まだ若ければ、元の会社に出戻ったり、証券業界に復帰する可能性もある。しかし、30代後半以降になるとそれさえも難しくなるので、ネット系ベンチャー企業への転職は慎重に考えるべきであろう。

③プルデンシャル生命やソニー生命のような歩合系生保の営業職

これは時々ある話である。
結局、保険のリテール営業をやるのであればわざわざ転職をする必要があるのかというツッコミはあるが、アップサイドの大きさ、気分転換、社内での居心地等の理由から、転職する人はいる。

こういった職業はアップサイドは確かにあるが、成功できる人はほんの一握りなので、生涯賃金的には証券会社に残っていた方が高い場合が多いので、慎重にやった方がいいだろう。

④M&A仲介会社の歩合制営業職

証券会社のリテール営業職の場合、ネット系ベンチャーよりも、M&A仲介会社の歩合制営業職の方が向いているかも知れない。ターゲットとなる顧客層が、中小企業経営者達であり、証券会社のリテール営業職と親和性があるからだ。また、非上場ではあるが、取り扱うプロダクトは「株式」であるので、この点もマッチしているだろう。

例えば、日本M&Aセンターとかストライク当たりの大手M&A仲介は常時営業職を募集しているので、転職すること自体はそれほど難しく無いだろう。もっとも、日本M&Aセンターの大手の場合、年収数千万円を稼ぐのは容易ではなく優良なアカウントを持つことが必要となる。大手証券会社の場合にそのままいても年収1000万円は固いので、それより上を狙うのは、かなりの実績を積み上げる必要がある。

<日本M&Aセンターへの転職等>

https://career21.jp/2019-05-27-142835/

⑤中堅企業への転職

実は、これは結構よく聞く話である。
大手証券会社のリテール営業職に疲れた場合には、地元に帰ったり、お客さんのツテとかで中堅企業に転職するケースが散見される。

職種は多岐に亘り、不動産、アパレル、外食、商社(総合商社ではない)、塾、光通信系の営業職等々である。

もちろん、給与等の条件は大手証券会社よりも劣ることとなる。
また、その後も職を転々とすることになりがちである。

もちろん、中には経営者となって成功を収める人達もいる。

最後に

一旦、リテール部門に配属されてしまうと、そこからIBDとかマーケット部門に異動させてもらうのは容易ではない。

また、リテール営業のスキルだけだと、いきなり外資系金融や勝ち組ネット系ベンチャー企業への転職も難しい。

もっとも、留学、国内系運用会社とワンクッション挟めば、転職できる可能性は大きく拡がる。また、高学歴の場合には、リテール営業を外れるとバックオフィス(経理、審査、コンプライアンス、内部監査)に回されることがあるが、その場合だと英語ができれば外資系のバックオフィスのポジションに就くことができる。

結局、不満はありながらも最後まで会社に残るというのが1つの勝ちパターンであったのだが、終身雇用が廃止されるとその旨味は無くなってしまう。現状、証券会社を取り巻く外部環境は厳しい。長期的には、少子高齢化伴う顧客基盤の縮小化が今以上に厳しくなる。また、グローバルな低金利の状況はまだしばらく継続しそうだし、株式売買手数料ゼロ化の動きなど、逆風の状況にある。このため、終身雇用がこの先もずっと保証されると考えるのは楽観的である。

そこで、大変ではあるが、大手証券会社の総合職として働くことになる場合には、いろいろなキャリアの選択肢を考えたり、転職エージェントからマメに情報取得するといった対応が必要になろう。

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