1. 東京大学工学部からの外銀志望者はまだまだ少数派ではあるが…
東京大学工学部を始めとして、有名大学の理系学部の学生が外銀を第一志望にするというのは、まだまだ少数派である。
もっとも、東京大学工学部の場合、AI関連で起業を目指したり、外銀や外コンを目指す学生もちらほらとは出てきているようである。とは言え、今でも8割以上の者が大学院に進学しており、少数派であることには変わりはない。
<東京大学工学部生の年収に対するこだわりに変化の兆し?>
https://career21.jp/2018-11-20-124311
東京大学工学部から外銀に就職するケースにおいては、グローバル・マーケッツ(トレーディングとかデリバティブセールス等)が多く、それは数学的な能力を評価されるからである。
このため、外銀のIBD(投資銀行部門)を志望する東京大学工学部生は尚のこと、少数派であると言えるだろう。
2. 東京大学工学部の学生は外銀IBDでも評価されるのか?
トレーディングとかデリバティブ関連のポジションならば理系の学生は評価されるかも知れないが、数学的なスキルが要求されないIBDにおいては必ずしも理系のバックグラウンドは評価されないように見える。
しかし、最近ではIBDにおいても東京大学工学部のようなトップティアの理系学生は評価が高いという。
その理由は、AI/IT、デジタル・トランスフォーメーションである。
超エリートであるはずの外銀IBDのバンカー達も、ネットIT系のテクノロジー、プログラミング、ブログSNS系は苦手としている。
他方、外部環境的にはIT周りの領域に関する需要が高まっており、IT周りに強い人材はいなかっただけに、IBDでもプラス評価されるということである。
また、IBDで使用するファイナンス周りの知識については、差別化することも難しいし、今まで同質的な人材が多かったので、IT周りに強い理系学生には新鮮さを感じるところもあるのだろう。
実際、「外資就活」のこの記事を見ると、IT専攻の理系学生(東京大学工学部ではないが)が、ITを軸に次々と内定を勝ち取ったストーリーが紹介されている。スキル面において差別化するのが難しい、文系学生からするとうらやましい限りだ。
https://gaishishukatsu.com/archives/132690
(もっとも、何故かこの理系学生はゴールドマン・サックスIBDから内定をもらいながら、最終的には総合商社を選択したようだ。誤った選択のように見えるが、そのあたりの事情はよくわからない。)
3. 東京大学工学部生がグローバル・マーケッツではなく、あえてIBDを選択するメリットはあるか?
グローバル・マーケットとIBDを比較して、どちらがいいかとは一義的には言えない。
リーマンショック前は現在のようなトレーディング規制が無かったので、アップサイドはグローバル・マーケッツの方があったかも知れないが、今ではリスクも勘案するとどちらがいいとは言えない。
拘束時間的にはIBDの方が大変かも知れないが、業務的に、どちらが好きかということで決めるしかない。
もっとも、IBDで理系は珍しいので、稀少性という観点からはIBDが面白いという考え方はあるだろう。
4. 東京大学工学部のような理系学生には参入して欲しくない文系学生
IBD(投資銀行部門)とか総合商社というのは伝統的には、文系の世界であった。
しかし、東京大学法学部でも弁護士や官僚の人気が低下し続け、トップ学生は外銀や外コンを志望するようになってきているという。
制度、マクロ経済環境、テクノロジーの変化によって、トップ学生の志向・価値観も変化していくのである。
上述したように、理系学生が年収重視の価値観を持つようになると、従来の文系の領域に参入してくることは十分あり得る話である。
そうなると、悲しいことに文系学生は参入しようとする理系学生と競争して、勝てるスキルというのを持ち合わせていない。ファイナンスについては、CFAレベルなら大変であるが日本の証券アナリスト(CMA)位の世界であればすぐに優秀な理系学生に追いつかれてしまう。そして、ITとかプログラミングといった領域においては、理系学生に太刀打ちできない。
総合商社なんかも各社の中期経営計画を見ると明らかであるが、どこも強化したいが人材が不足しているのが、デジタル・トランスフォーメーション領域である。そうなると、文系学生はITに強い理系学生と競争しても勝てなくなってしまう。
以上のようなことを考えると、東京大学工学部のようなトップティアのような理系学生がどんどんIBDとか総合商社を志望すると、文系学生の枠は小さくなってしまう。
そういったことを踏まえると、文系も理系と戦えないにしても、ある程度IT周りは詳しくなっておいた方がいいだろう。プログラミング・スクールなんかの選択肢も増えているので、これからは英語やファイナンスだけでなく、そういったスキルも磨いておかなければならなくなるかも知れない。