2019年3月卒業生対象、慶應義塾大学の就職と課題について

1. 慶應義塾大学の就職状況について

①大学による就職状況の開示

慶應義塾大学は、学部別も含めて、かなり詳細な就職状況について開示をしている。

http://www.gakuji.keio.ac.jp/life/shinro/3946mc0000003d8t.html

②主な就職先の状況

詳細な情報は上記のリンク先にあるが、慶應義塾大学の就職状況の外観を把握するために、全学部(院卒除く)の上位就職先トップ20を紹介する。

このデータは2019/3卒業生(2018/9卒も含む)を対象とした最新のものである。
なお、慶應義塾大学全学部の就職者数は4,690人であり、こちらの上位20社への就職者数の合計は1,005名(21%)となっている。

全学部(就職者数:4,690人)
順位 会社名 人数
1 慶應義塾 87
2 東京海上日動火災保険 83
3 三菱UFJ銀行 71
4 三井住友銀行 70
5 みずほ銀行 59
6 アクセンチュア 56
7 三菱UFJ信託銀行 51
8 大和証券 48
9 野村證券 47
10 三井住友信託銀行 45
11 東京都 45
12 アビームコンサルティング 42
13 三井住友海上火災保険 41
14 三井物産 40
15 日本放送協会 39
16 日本航空 37
17 博報堂 37
18 楽天 36
19 住友商事 36
20 全日本空輸 35

(出所:慶応義塾大学HPより)

2. 慶應義塾大学の就職状況の評価

世間で言われている通り、また、上位就職先企業を見ても明らかであるが、就職状況は極めて良好である。

業種別の傾向としては、大手金融機関への就職者の多さが目立ち、上位10社のうち、8社が金融機関である。

また、採用人数が金融機関と比べて少なく、難易度が高い総合商社についても、三井物産(40名)、住友商事(36名)がトップ20に入っていることは大変注目される。

さらに、総合商社と同様に人気の高いコンサルティング・ファームについても、アクセンチュア(56名)、アビームコンサルティング(42名)がトップ20に入っているのが特徴である。

トップ20の中には、他にも、博報堂、日本放送協会、日本航空、全日本空輸といったところがランクインしており、就職状況の良さがうかがえる。

3. 東大、早稲田と比較するとどうか?

慶應義塾大学の就職が良好なことは誰でも知っている話なので、少し深堀するため、ライバル校と比較をしてみたい。

比較の対象となるのは、東大と早稲田である。

もっとも、就職については大学入試の様に単純に偏差値のような数値での比較はできない。他業界の企業同士を比較するのは難しいし、学部によっても学生の好みは異なるからである。

また、早稲田大学は就職状況について大学側が詳細な開示をしてくれているが、東大についてはオフィシャルな就職状況がほとんどない。

このため、就職力を表す代理変数的なものとして、総合商社(5大商社)への就職データを用いて比較してみたい。

東大、早慶といったトップ校の学生からすると、外銀、外コン、総合商社が3大人気企業であるので、ここで比較するといいのであるが、外銀、外コンについてはデータが不十分であるので、総合商社(5大商社)への就職者数を用いることとした。

<慶應義塾、早稲田、東大からの5大商社への就職者数(2019/3卒業生対象)>

慶應義塾 早稲田 東大
三菱商事 29 17 19
三井物産 41 30 13
住友商事 39 31 21
伊藤忠 25 20 12
丸紅 21 18 8
合計 155 116 73

(出所:AERA2019年8月5日号掲載データより抜粋・編集。元データは大学通信、各大学公式HP、東京大学新聞を基にAERA編集部が集計。)

これを見ると、早稲田の方が慶應義塾よりも就職者数は5割以上多いにも関わらず、慶應義塾の方が総合商社への就職者数は多い。特に、5大商社の中でもトップの三菱商事への就職者数の差が目立つ。

一般的には、早稲田よりも慶應義塾の方が就職は強いと言われているが、総合商社への就職者数はそれを裏付けるデータではないだろうか?

東大と比較すると、実数では慶應義塾が上回っているものの、就職者数を考慮すると東大の方が「率」では優位だろう。もっとも、各企業は特定の大学からの就職者をある程度分散させる必要があるので、慶應義塾としてはこれ以上は5大商社への就職者を増やせないので、この点はやむを得ないだろう。

4. 外銀、外コンへの就職状況

①外銀には極めて強い

総合商社については、上記の通りであるが、採用者数が少ないために、総合商社以上の難関とされるのが外銀である。特に最近では、ドイツ銀行のリストラが報道されているが、欧州系が全般的に不調であり、新卒採用者数全体が減ってきているのが難化に拍車をかけている。

慶應義塾大学の2019/3卒業生からの外銀への就職状況は以下の通りである。

ゴールドマン・サックス証券    11名
モルガンスタンレーMUFG証券   4名
JPモルガン証券          5名
BNPパリバ証券           4名
UBS証券              3名

各社新卒採用枠を減らしている中、かなりの健闘ぶりである。
特に、業界でもダントツトップの地位にあるゴールドマン・サックス証券の11名は素晴らしい。このあたりは、外資系金融業界においても、東大の次に多いのが慶應義塾であることを踏まえると納得の行くところである。

②外コン(戦略系)への就職が唯一の弱点か?

続いて、外コンである。なお、ここでの外コンは所謂戦略系に限定し、アクセンチュア、デロイト、PwCといった総合系ファームは含まないこととする。

したがって、対象は、マッキンゼー、BCG、ベイン、ATカーニー、アーサー.D.リトル、ローランドベルガーへの就職者となる。

マッキンゼー 6名

意外なことにこれだけである。
大学は3名以上の就職先についてのデータを開示しているので、2名以下の場合にはリストに載ってこないので把握できない。

BCG、ベイン、ATカーニー、アーサー.D.リトル、ローランドベルガーはそれぞれ2名以下ということである。

さらに、マッキンゼーは6名であるが、理工学研究科が2名、経営管理研究科が1名なので、学部からは、経済学部から2名、商学部から1名のみである。

従って、慶應義塾大学からでも、外コン(戦略系)への就職は極めて難しい。
これは、外コン(戦略系)は、理系の院卒と国立大学を好むという点があるので、文系の学部卒の存在感が高い慶應義塾については、唯一相性が悪いセクターかも知れない。

もっとも、総合系ファームには強いので、ここを経由して中途でMBBを狙う戦略を採ればいいのであろう。

5. 学部間の就職力の違いについて

①経済学部 vs. 商学部

さて、次に気になるのは就職力について学部間格差、優劣が存在するかである。
この点、わりとよく聞かれる点は、商学部は経済学部と比較すると、就職力が落ちるのではないかということだ。

確かに、伝統的に慶應義塾においては経済学部が看板学部であったし、偏差値的にも、経済学部の方が商学部よりも高い。

ところが、結論的にはあまり差は無いものと思われる。
冒頭で紹介した大学公式HPにおいては、学部別の就職状況も開示されているが、経済学部と商学部のそれぞれのトップ20就職先の顔ぶれを見てもほとんど変わらない。

それでも、更に厳密に比較してみたいというのであれば、東大や早稲田との比較で用いたように、総合商社(5大商社)への就職者数で比較する他ないだろう。
こちら、経済学部、法学部(法律学科と政治経済学科の合計)、商学部の5大商社への就職者数比較をしてみた。

<経済学部vs. 商学部:5大商社への就職状況>

(各学部の就職者数) 1,032 1,049 838
経済学部 法学部 商学部
三菱商事 9 12 2
三井物産 8 18 5
住友商事 14 8 6
伊藤忠 5 10 4
丸紅 6 9 3
合計 42 57 20

(出所:慶応義塾大学HPより編集)

確かに、こちらを見ると、経済学部の方が商学部よりも優位である。
特に、三菱商事の差が歴然である。

もっとも、総合商社だけではわからないということで、政府系金融機関、電通・博報堂、財閥系デベロッパー、野村総合研究所といった、超難関/高就職偏差値企業についても比べてみた。

<経済学部 vs. 商学部:商社以外の人気企業への就職状況の比較>

経済学部 法学部 商学部
日本銀行 5 6 1
日本政策投資銀行 5 3 0
電通 5 12 7
博報堂 5 13 4
三菱地所 1 3 0
三井不動産 2 2 5
野村総合研究所 6 7 1

(出所:慶応義塾大学HPより編集)

これを見ると、三井不動産と電通で商学部が健闘しているが、全体的にはやや経済学部が有利か?

以上より、経済学部と商学部の就職力の差はほぼ同じであるが、どうしても優劣をつけたいのであれば経済学部が若干有利という程度であろうか?

少なくとも、世間一般のイメージよりも、違いは無いであろう。

このあたりに関心があれば、2018/3卒業生対象のものですが、以下の過去記事をご参照下さい。

<慶應義塾大学経済学部と商学部の就職と課題について(2018/3卒業生対象)>
https://career21.jp/2019-02-08-145539

https://career21.jp/2019-02-14-064610

②経済学部 vs. 法学部

こちらも、現在40~50代以上の年配の人達には理解し難い点であるが、最近では法学部の方が経済学部よりも優位であるという。

確かに、経済学部と法学部とをW合格した場合、8割以上の者が法学部に進学するという。
就職力についてはどうかというと、上記の総合商社やその他の難関企業の就職者数を見ると、若干ではあるが、法学部の方が経済学部よりも良好のように見える。

経済学部と商学部の違いよりも、更に小さな差に過ぎないと思われるが、比較をすると新看板学部である法学部の方がほんのわずかながら、経済学部よりも良好と言えるのかも知れない。

<慶應義塾大学法学部の就職と課題>

https://career21.jp/2019-02-15-064747

③文学部の就職について

昔からよく言われるのは、文学部は就職力が弱いということである。
ところが、慶應義塾の場合においてはそれはあてはまらないと言えるだろう。

上位の就職先企業を見ると、メガバンク、大手損保、大手証券会社の他、全日空、日本航空、博報堂、サントリー、日本放送協会といった人気企業がランクインしている。

外銀、外コン、総合商社等について見ると、確かに、法学部や経済学部には敵わないかも知れない。しかし、文学部の場合には、女子の比率が7割強と高いため、皆が外銀、外コン、総合商社を志向するとは限らない点を考慮すべきである。

なお、文学部の就職状況に関心があれば、2018/3卒業生対象であるが、こちらの過去記事をご参照ください。

<慶應義塾大学文学部の就職と課題(2018/3卒業生対象)>
https://career21.jp/2019-02-18-065427

6. 慶應義塾大学の就職における課題について

①大学側の課題

このような人気企業・難関企業への就職状況を見ると、大学側としては今以上にサポートできることはほとんど無いのではないだろうか?

金融、コンサル、商社、マスコミ、インフラ、メーカー、外資系企業に漏れなく、多くの学生を送り込んでいる。

また、就職を広く捉え、司法試験や公認会計士試験を含めて見ても、国家試験においても検討している。

どの人気企業も実数では日本一だし、就職者数が学部生だけで4,690人もいることを踏まえると、流石に「率」でも日本一を目指すというのは無理があるだろう。

むしろ、あえて課題があるとすれば、反対に過度に人気企業に集中している現状をどう考えるかと学生に注意喚起をすることではないだろうか?

というのは、全学部の上位20社を見ると、大手金融機関が9社、マスコミが2社、空運が2社、商社が2社、コンサルが2社となっている。商社を除くと、ほとんどが内需系企業であり、果たして20年後には今と同じ待遇を期待してもいいだろうか?

ネット系企業で唯一トップ20入りしているのは楽天のみであるが、日本でも将来有望なネット系IT系、或いは、国際系メーカーを見た方がいいのではないかということを問題提起してあげることができれば尚良いだろう。

ベンチャー起業関係については、SFCの方で実績を出しているので、こちらは問題無いだろう。もっとも、コンサバな三田キャンパス組にも、ベンチャー起業関係にもう少し興味を振り向けてあげることはできるかも知れない。

いずれにしても、就職に関して大学側の課題は特に無いであろう。

②生徒側の課題:「就活は団体戦ではなく、個人戦である」という認識が必要

慶應義塾の場合、大学全体の就職力ということについてはほとんど問題は無い。
慶應義塾より就職力で勝てる大学があるとすれば、東大ぐらいであろう。京大とか一橋とではそれほど変わらないであろう。

もっとも、視点を生徒に移すと、いろいろと課題はある。
それは、いくら慶応義塾が就職がいいと言っても、それは大学全体での話であって、各個人が希望した就職先に行けるとは限らないからである。

慶大生の場合、メガバンクとか大手生損保、大手証券会社、大手メーカー等であれば、基本的にほぼ内定をもらえるであろう。しかし、だからといって、それでハッピーな訳ではない。多くの学生(特に、法、経、商)は、メガバンクやメーカーは第一志望ではなく、外銀、外コン、総合商社、マスコミ、デベロッパー、その他外資系を第一志望とすることが多い。

また、国内系大手金融機関の場合でも、IBD、グローバル・マーケッツといった専門職コースが本命であって、単なる総合職では満足できないし、周りからもリスペクトされない。

ところが、上述したように、外銀、外コン、総合商社、マスコミ、政府系金融機関、デベロッパー、外資メーカー、GAFAといったところに行けるのはごくわずかである。従って、本命企業から内定をもらえる学生の方が少ない。

このため、学生からすると第一志望に行けるように対策を立てる必要があるし、残念ながら第一志望から内定をもらえなかった場合には、セカンドキャリア以降をどうするかについて考えて行かなければならない。

元号が令和になって、終身雇用が崩壊し、新卒採用も多様化して行く中で、就活で勝利を収めるには他の学生に競争で勝たなければならない。そのためにはどうすればいいかについてまで、大学は教えてくれないので、そこは各自が努力する他は無い。

また、現状では就職ランキング・就職難易度が高い企業に周りの人々が数多く就職しているが、果たして今後はそれが勝ちパターンになることは保証されていない。大手金融機関やマスコミ、インフラは内需型ビジネスであり、今後国内市場が縮小することが明らかであるので、現状のような好待遇のまま60歳まで働けるとはむしろ考えない方がいいだろう。

だからといって、ベンチャー起業に安易に走ったところで、失敗する確率の方が圧倒的に高いし、そこまで実行できる学生はまだまだ圧倒的に少ない。

以上のように、慶應義塾大学に入学できたからといって、学生個人レベルでは勝ち組になれるとは限らないし、何が勝ち組になるのかについても将来変容していく可能性が高い。

慶應義塾に限らず、東大でも早稲田でも、同じ大学内部における学生間格差が拡がっているという。外銀、外コン、総合商社の内定総取りがいるかと思えば、メガバンクの内定をもらえない学生もいる。

そこで、大学入学後に自らのキャリアの方向性を決めて、早い段階から戦略的に対策を立てていくべきなのであるが、そこは各自が考えて行くしかない。
これが学生にとっての課題であり、一義的な対応法というものが無いのが難しいところである。