1. まだまだ幕引きさせてもらえそうにないリクナビ問題
2019年8月に、「リクナビ」を運営するリクルートキャリアが、就活生のサイトの閲覧履歴等を基にAIで予測した「内定辞退率」予想を企業に販売していたことが発覚し、社会問題化している。
リクルートキャリアとしては、既にサービスの廃止を発表しているが、就活に係る個人情報管理ということが論点化し、まだまだ社会的な決着はさせてもらえない雰囲気である。
また、情報を提供したリクルートキャリアだけでなく、トヨタ、ホンダ、NTT系2社、YKK、東京エレクトロン、レオパレスといった情報の買い手までメディアに取り上げられ、この問題は複雑化・拡大化しそうである。
2. リクナビ問題の本質は企業の新卒採用偏重主義にあるのではないか?
①大企業としては、新卒採用者数が予定よりも少なくなったとしても、それ程困らないのではないか?
「内定辞退率」に関する情報を、大企業38社が購入したのであるが、それは大企業が内定者数に対して非常に神経質だからであろう。
本来、内定辞退率が想定していたよりも高くて、当初予定した新卒採用者数しか採用できなくなったとしても、その不足分については、第二新卒を含む中途採用で補充すればいいだけの話である。
しかも、日本の大企業は年功序列制度に立脚しているため、新入社員のうちから戦力化することは想定しておらず、新卒採用者数が若干少なくても、現場に与える影響は比較的軽微なはずである。
さらに、一生懸命、新卒採用をやったところで、新入社員の3割程度が入社後3年以内に退職してしまう現状を踏まえると、なおさら、新入社員の採用者数に拘泥する必要性は無い。(もっとも、リクルートキャリアから「内定辞退率」データを購入したような大企業の新入社員退職率はそこまで高くないと思われるが…)
②予定通りの新卒採用者数に拘り過ぎるのは、新卒採用偏重主義の弊害ではないか?
上記の通り、大企業からすると新卒採用者数が予定を下回ったところで、大した実害は出ないはずである。ところが、リクルートキャリアからお金を払ってまでも新卒採用者数にこだわるのは、日本の中途採用市場が小さく、新卒採用の機会を逃すと、もういい人材は採れないのではないかという強迫観念があるからであろう。
21世紀に入ると、日本の典型的な大企業も従来よりは積極的に中途採用を行うようになったものの、欧米等と比べると、まだまだ圧倒的に新卒採用に依存しているものと思料される。
③就活ルールの廃止による就職活動の更なる早期化にどう対応するのか?
新卒一括採用主義というのは終身雇用・年功序列と相俟って、長い長い間、日本の雇用システムを支えてきたものである。従って、終身雇用が廃止される方向だということになっても、一朝一夕にこの仕組みが変容するわけではない。
経団連の就活ルールは2020/3卒業生を以て廃止される。今でも既に就活ルールは形骸化しており、大学3年次のインターン等で採用活動が前倒しされていることは知られている。
しかし、その就活ルールという名目的なルールまでもが撤廃されると、更なる早期化の方向性は避けられず、大学2年生で内定を出すことも生じるだろう。
そうなると、長期間学生を囲い込んでおく必要が生じ、卒業するまでの間、何が起こるかわからないので、予定していた新卒採用者数の確保はますます難しくなる可能性がある。
リクルートキャリアから情報を買ったところで、思ったように内定者の引き留めと、新卒採用者の維持は簡単に達成できないのである。
3. 予定と実際の新卒採用者数のギャップは、第二新卒採用の積極活用で対応する方が合理的ではないか?
終身雇用の廃止と新卒一括平等採用が崩れていくと、中途採用・転職市場というものがこれまでよりも重要になっていく。
日本の大手の優良企業は、新卒至上主義で、中途採用者は外様のようなイメージであったが、これからはそうは言っておれない。
日本の大企業は、中途採用を通じた人材確保を実現する能力を高めるべきであった、新卒採用者が不足した場合には、第二新卒で補えば良いだけの話だ。実際、総合商社ですら、毎年、新卒採用を補完するような位置付けで第二新卒採用を実行している。
第二新卒は、結局中途採用なので、新卒採用の様に大学との絡みは無いし、採用時期・採用条件・採用人数・採用方法も全く自由である。新卒採用の様に、全く採用される見込みが無い者に対しても形式的に平等に応募をさせてあげないといけないということもない。
ES、GD、インターンといった面倒な仕組みも不要である。また、第二新卒の場合は職歴という社会人としての判断材料もあるし、基本的な社会人としての教育は今の会社がやってくれていて楽である。
リクルートキャリアのような人材エージェント系の企業としても、新卒時のように、うるさいことを言われなくて良いのではないだろか?
4. 就活生としても、第二新卒としての可能性も念頭に置いておくべきか?
新卒採用が早期化、多様化していくと、企業側は思ったような新卒採用が出来にくくなる場合があるし、終身雇用の廃止に伴い、中途採用の間口を拡げて行かざるを得なくなるのではないだろうか。
そうすると、就活生側からすると、就活における負担は増えるものの、就活で失敗した場合に第二新卒或いは中途採用によってリベンジできる可能性が高まるかも知れない。
「職歴」という判断要素がある中途採用(第二新卒含む)と、全然無い新卒採用とでは企業側の採用基準は質的にかなり異なる点がある。
「職歴」という点がマッチすれば、今在籍している企業名や学歴面が少々弱かったとしても、中途採用で就活時点で憧れていた企業に入社できる可能性があるわけである。
そう考えると、就活生は、入社したいと考える会社の名前だけでなく、その会社でどういった「職歴」を得ることができるかという観点も必要になって行く。
もちろん、現時点では日本の大企業の大半は「配属先」を確約しないで採用しているが、今後は徐々に部門別・職種別採用の動きが拡大していくのではないだろうか。
そうなってくると、「会社名」に加えて、その会社で得られる「職歴」の重要性が高まっていくと予想される。